表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/133

4話前半 アリシアさんにはライバルがいる?

「ユート君、アイスクリームとジェラートの違いってなんだろうね」


 ギルド内、いつもの席にて。アリシアさんはコーンに入ったバニラ味のアイスクリームを舐め、僕に聞く。


「乳成分の量の違いです。ジェラートの方が乳成分は少ないんです」


「え~! ジェラートの方がクリーミーだから乳成分が多いと思ったのに!」


「それは、ジェラートは空気を入れないように作ってるからですね」


「知らなかった~!」


 さて、本題に入ろう。


「今日はですね……」


 僕が今日のスライム克服のための作戦を話そうとしたその時だった。


「アリシア・ブレイバー! 見つけたわよ!」


 誰かがアリシアさんの名前を呼ぶ。声がした方を見ると、そこにいたのは一人の少女だった。


「あのー、どちら様ですか?」


「私はリサ・フィエルテ。あなたのライバルよ!」


「……すみません、どこかでお会いしました?」


 アリシアさんのライバルを自称する少女、リサ。緋色(ひいろ)の髪の上に黒いとんがり帽子を被って、白いブラウスの上から黒いマントを羽織っている。


 その格好は例えるなら『魔女』だ。


「アリシア・ブレイバー! 今日こそあなたに決着をつけるわ! さあ表に出なさい!」


「な、何の話ですか?」


 リサは席に座っているアリシアさんの腕を引っ張る。なにやらアリシアさんのことをライバル視しているようだが、当のアリシアさんは身に覚えがないみたいだ。


「ちょっと落ち着いてください。アリシアさんはあなたのことを知らなそうですよ?」


「それが腹立つって言ってるのよ! 私の手柄を持っていったくせに!」


 リサはかなり興奮して、アリシアさんに詰め寄っている。


「……とりあえず、何か飲みながら話しましょうか」



 僕たち三人は席に座り、一度落ち着くことにした。


「……で、君はアリシアさんとどういう関係なの?」


「私はそこにいるアリシア・ブレイバーのライバルよ」


 リサは不服そうにそう言うと、バーカウンターで購入したオレンジジュースをごくりと飲んだ。


「で、アリシアさんはこの子のことを知ってるんですか?」


「ううん。全然」


 アリシアさんはリサのことは全く知らないらしい。とぼけている様子もない。


「じゃあ君は勝手にアリシアさんのことをライバル視してるってこと?」


「違うわよ! アリシアに出会ったのは忘れもしないあの時……」


 リサが言うことにはこうだった。



 彼女がアリシアさんに初めて出会ったのは三か月前。


 モンスター討伐をするために森の中に入ったリサ。そんな彼女の前に現れたのは『冒険者殺し』の異名を持つモンスター、サベージタイガー。群れになればドラゴンを襲うことすらある、その名の通り冒険者に恐れられるモンスターだ。


 リサは果敢にサベージタイガーを倒そうと立ち向かったわけだが。


「大丈夫ですか!?」


 その一言と共に颯爽(さっそう)と現れたのは、アリシアさん。彼女はサベージタイガーを一瞬でやっつけてしまったらしい。


 それ以来、リサはアリシアさんをライバルだと言い張っているそうだ。



「……というわけよ」


「なるほど、リサはアリシアさんのことを一方的にライバル視してるんだね」


「違うわああ!! っていうかお前馴れ馴れしいな!? 私のこともリサ『さん』って呼べよ!?」


「だって……見た感じ僕より年下そうだし」


 リサの背丈は145センチメートルほどで、13、4歳くらいにしか見えない。


「失礼だな! こう見ても16歳だから! ……『こう見えても』とか言わせるな!?」


「あ、じゃあ僕と同い年なんだ」


「えっ、ユート君って一個下なの!?」


 ということは、アリシアさんは17歳か。スライムを前にしたとき以外は大人っぽいし、納得できる。


「あ、じゃあ皆今の呼び名のままで大丈夫そうですね!」


「『大丈夫そうですね!』じゃねーよ! 勝手に解決するなよ!!」


 リサは興奮気味に騒ぐ。目が血走っている。背丈のちっこさと声の高さが相まって子犬に吠えられている気分だ。


「うるさいなあ……僕たちにどうして欲しいの?」


「分かりやすく煙たがるな! 勝負よ! 私と勝負をしなさい!」


 リサはアリシアさんを真っすぐに指さす。身に纏っているマントが翻り、バサッと音が立った。


「「勝負?」」


「ええ! 私とアリシアで三本勝負をするの!」


 リサは自信満々に、企画みたいな勝負を持ち掛けてきた。


「リサちゃん、三本勝負って何?」


「ちゃん付けするな! これから三つ勝負を決めて、先に二勝したほうが勝ちっていう勝負よ!」


「おお! 楽しそうなゲームですね!」


「ゲームって言うんじゃねえ!! ぶちのめすぞ!!」


 だったら一本勝負にすればいいのに……とはいえ、アリシアさんは突き出された果たし状をノリノリで受け取ってしまっている。


「いいですよ! やりましょうリサちゃん! 三本勝負!」


「言ったわね! 絶対にその余裕を崩して吠え面かかせてやるんだから!」


 血眼(ちまなこ)になって対抗心(たいこうしん)を燃やすリサと、何故か楽しそうなアリシアさん。こうして両者の仁義なき(?)三本勝負が始まったのだった。



「最初の勝負は『組手』よ!」


 ギルドの外に出て。リサが三本勝負の一回戦に持ち掛けてきたのは、意外にも普通の組手。というか、普通に実力勝負ならますます普通にこの勝負は一本でよかったのではないだろうか。


「ルールは簡単! 相手に参ったと言わせた方が勝ちよ!」


「わかりました! 私も頑張っちゃうぞ!」


 アリシアさんは両手剣を引き抜き、上に掲げてポーズを決めた。


 思えばアリシアさんがスライム以外の相手と戦う姿を見るのは初めてだ。前にドラゴンを倒した話は聞いたけど、どれくらい強いんだろう?


「ふふふ、私の魔法の餌食(えじき)になりなさい!」


 勇者のアリシアさんを目の前にしても、リサはなんだか自信ありげだ。何やら懐から黒い本を取り出す。表紙には『†禁断の黒魔術†』と書かれている。


「私の最大級の魔法を喰らわせてやるわ!」


 コンビニの棚に置いてありそうな本を開くと、彼女の周りに真っ赤な魔法陣が無数に出現する。大小合わせて十は超えていて、素人の僕が見ても高い魔力を感じる。


「驚いたでしょ? 私はこの街で一番の魔法の使い手よ!」


 そう言ってリサは自信のある笑みを浮かべた。


「アリシアさん、なんかあいつ強そうですよ……」


「あいつって言うな!」


 僕がアリシアさんに耳打ちをすると、遠くからリサが怒りの声を上げる。


「うーん、たぶん大丈夫じゃないかな?」


 それでもアリシアさんは余裕そうだ。剣を構え、切っ先をリサに向ける。


「私の魔法は鉄をも溶かし、海を割り、闇を切り裂くわ! 余裕ぶっこいたのを後悔させてやるわ!」


 いったい何魔法の話をしてるんだろう。


「<アルティメット・ファイア・メテオ>!!」


 炎魔法っぽい。ネーミングはもうちょっとなんとかならなかったのかな。


 リサが魔法を発動すると、魔法陣から炎が噴き出し、彼女の前に一か所に集まっていく。徐々に炎は集まり、火球へと形を変え、大きく膨れあがる。


「食らいなさい!」


 リサの掛け声と同時に、火球は火山が噴火するように爆発し、真っすぐにアリシアさんの方へと向かっていく。


「勝った! 三本勝負完!」


 勝ち誇るリサ。しかし一方アリシアさんは、突っ込んでくる炎をじっと見つめて。


「えい」


 タイミングを見計らい、両手剣で炎を真っ二つに切り裂く。アリシアさんの剣に触れた炎は、包丁が入った豆腐のように綺麗に割れ、あらぬ方向に飛んで行ってしまった。


「あれ!?」


 予想外の事態に素っ頓狂な声を上げるリサ。アリシアさんの放った斬撃は炎を切り裂いただけにとどまらず、かまいたちのように風を切ってリサの方へ真っすぐに飛んでいく。


「ぶべらっ」


 風の斬撃が直撃したリサは、馬鹿っぽい声を上げて地面に吹っ飛ばされ、仰向けになって倒れた。


「ま、参りました……」


「よし! これで私の勝ち!」


 リサの降参によって、アリシアさんがまずは一勝。三本勝負の一回戦はあっけない形で幕を閉じた。


 ……もしかして、アリシアさんってめっちゃ強いっぽい?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ