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35話後半 リサは構ってほしい!

「というわけで、やってきましたアスレチック!」


「おおおおおおおおお!!」


 僕たち三人がやってきたのは、シエラニアのアスレチック、『冒険の森』! 森の一部をアスレチックに利用した空間だ。いろいろなアスレチックが組み合わされた遊び場で、強いモンスターが入れないようにもなっているので、子供にも大人気スポットになっている!


 アリシアさんは冒険しなれているはずなのに、既にワクワクしているようだ。目を輝かせて、木で作られた建造物(モニュメント)たちを見ている。


「フッ……お前らさあ、こんなので楽しんでるの?」


「なんだよリサ。お前が遊びたいって言ったんだろ?」


「遊びたいとは言ったけどさ! これはどう考えても子供が遊ぶところだろうが!!」


 せっかく連れてきてやったっていうのに、リサは何故か不服なようだ。ツンとした表情でアスレチックたちを眺めている。


 一見すると興味がなさそうだ。でも僕たちは知っている。最後はこいつが一番楽しむということを。


「じゃあリサはそこで待ってればいいんじゃない? さ、アリシアさん。行きましょう!」


「待って! おいてかないで! お願いだから! 頼む!!」



「まずはターザンロープ! この縄に捕まって移動してもらいます!」


 ターザンロープとは! 滑車つきのロープにぶら下がり、岸から岸へ移動するアスレチックである。ここから向こう岸までは5メートルくらい離れている。ちなみに子供が途中で落ちても大丈夫なように、落ちた先は地面だし、高さもそんなにない。だから本当は歩いて渡ることもできるんだけど。


「なにこれ。つまらなそうなんですけどー?」


 リサはバカにしたような笑みを浮かべて言う。小さい女の子が『男子って本当に馬鹿』と言うときみたいな顔だ。


「いつまでそんな余裕なことを言ってられるかな……アリシアさん、先に行きましょう」


「よーし、私はここからジャンプしたほうが早そうだし、ジャンプで行きます! せーの……」


 僕はアリシアさんの肩をポンと掴み、できるだけ冷たい視線を送った。もうこれ以上僕の仕事を増やさないでくれ、という気持ちを込めて。


「ジョ、ジョーカーだよ! そんなことするわけないじゃん! アハハハ……」


「それを言うならジョークです。なんでいきなりトランプ始めたのかと思いましたよ。めちゃくちゃ動揺してるじゃないですか」


アリシアさんはよほどきまりが悪かったのか、照れ笑いをしながらロープに掴まる。


「行くよー! それっ!」


 その場で少しジャンプをし、地面から足を離した瞬間。滑車がカラカラと転がり、ターザンロープは向こう岸へと動き始める。


「ひゃっほー!」


 アリシアさんはロープに掴まり、風を切って向こう岸へ進んでいく。まるで宙を飛んでいるようで、彼女は嬉しそうな声を上げた。


「ふ、ふーん? まあまあ楽しそうじゃない? でも、私はこの前ホバーボードで空飛んだもんね。それと比べたらスリリングさが足りない、そう思わない?」


「甘いね。リサはまだターザンロープの楽しさを理解できてないよ」


「な、なんだとッ!?」


 確かに、空を飛ぶのと比べたらターザンロープなんてスリリングさが足りないかもしれない。そもそも子供が遊ぶ場所でスリルなんて求めるのが見当違いなのだが、そんな彼女でも満足できる方法がある。


「リサ、想像してごらん。僕たちが立っている土台と、ターザンロープが通過する地面との間には段差があるでしょ?」


「そうね。そんなの誰が見たってわかるわよ。だったら何よ?」


「ターザンロープが通過する地面にはマグマがあります」


「なん……だと!?」


 これは完全に想像の話だが……こちらの岸と向こう岸との間には、マグマの海が広がっている。真っ赤なマグマはドロドロに粘液で、白い煙を放ちながらポコポコとスープのように気泡を出している。


「もしマグマに落ちたらどうなるの!?」


「それはもちろん……3億度のマグマに身を投じるんだ、命はないものと思った方がいい」


「そんなっ! 嘘よ! 嘘だと言って!!」


 リサは迫真の表情で僕の服を掴んで叫んだ。だが、僕は黙ってリサの手をほどき、首を振る。


「ここから向こうに渡るには、このターザンロープを使うしかない。チャンスは一度きりだ、ここで失敗すれば……多くの人の命が犠牲になる」


 なんで犠牲になるかは知らんけど。


「私には……無理よ。怖すぎる。こんな命がけのミッションに挑むなんて、とてもじゃないけど……」


「リサッ!!」


 僕は、目を逸らそうとする彼女の目をしっかりと見て。


「な、なによ……!」


「それでも、僕たちは……やらなくてはいけないんだ」


 僕はそう言い残し、ターザンロープを掴む。土台を蹴り上げ、滑車の力でアリシアさんがいる向こう岸へ。


「ああっ! 待って! 私を置いていかないで!」


「リサ! もう時間がないんだ! 君の力でこっちに来るしかない!」


 なんで時間がないのかは知らんけど。


 向こう岸にいるリサは、膝から崩れ落ち、自分の立つ土台を拳で叩いた。


「私は……怖い。そっちに行きたいけど……マグマは怖すぎる!!」


 もうリサにはマグマが見えているらしく、苦しそうに叫んでいる。


「リサちゃん!!」


 その時、アリシアさんが声を上げた。リサが顔を上げる。


「な、なによアリシア!」


「リサちゃんなら、きっとできるよ!!」


 リサはその言葉を聞き、ハッとした表情になる。


「そうだ! リサなら絶対出来る! 自分を信じるんだ!」


「自分を……信じる」


 リサは言葉を繰り返すと、コクリと一つ頷く。


「私は……出来る子! この難関だって、乗り越えるっ!!」


 震える手でロープを掴む。リサは覚悟を決めてこちら側の向こう岸を見た。


「私は、ここで、自分を乗り越えるんだーーー!!」


 その時、リサは土台を蹴り、ターザンロープに掴まる。


「オラアアア!!! 私は、自分を乗り越えるッッッ!!」


 こちら側の岸にたどり着き、リサはロープから離れると。


「やったぞー! 私はマグマを乗り越えたんだー!!」


「おめでとうリサちゃん! やったね!」


「ありがとうアリシア! 私やったよ!」


 ……まあ、そもそもマグマなんてそこにないんだけどね。何をマジになっているんだと内心思っているが、それでもだいぶスリルは感じてくれたようなので、よしとしよう。


「リサ、これはまだ冒険の序の口だ! ついてこれるかな?」


「おう! マグマを乗り越えた私に怖いものはない!」


 結局、その日一番楽しんだのはリサだった。

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