35話前半 リサは構ってほしい!
「私と遊べ」
いつものギルドの席。僕とアリシアさんの二人の他に今日はもう一人、ふくれっ面のリサが座っていた。
「どうしたんだよ唐突に。お前そんなキャラだったっけ?」
「ヒマなの。私はヒマしてるの。だから私と遊べ」
リサは頑なに『遊べ』と言い続けている。と言うのも、こいつは僕とアリシアさんがこの席にやって来る前から、ドリンク一杯で待ち伏せていたのだ。相当暇じゃないと出来ない芸当だろう。
「だいたいアンタたちさぁ、最近いつも一緒にいるわよね? なんなの? 毎日毎日トレーニングとか言っちゃってさあ。私のことを放っておいていいと思ってるの?」
「『いいと思ってるの?』の意味がわからないんだけど……第一、お前最近いろんな人と仲いいじゃん。ギルバートさんとか」
「ギルバートと仲いいわけないだろおおおお!! 私は誰とも仲良くないし!!」
本当になんなんだこいつは……沸点がどこかわかりづらい上にめちゃくちゃ低い。素直に仲いいって言えばいいのに。
「ということで、私と遊べ。遊ぶだろ?」
「遊ばないよ。僕とアリシアさんはこれからトレーニングだから。第一、リサが勝手にここに来ただけで、お前のことは誰も呼んでないからね?」
こう見えて、僕もアリシアさんも暇じゃない。早くテレサちゃんを倒して、説得しなければいけない。アリシアさんの弱体化が始まっている以上、無駄にしている時間はないのだ。今日だってトレーニングをしようと思っていたわけで。
「冗談でしょ……? ねえ、アリシアは私と遊んでくれるわよね?」
「ごめんね。私たちやることがあるから……」
しれっと断るアリシアさんの言葉を受けて、リサは白目を剥いて口がポカンと開く。雷を直撃で食らったみたいな顔だ。
「う、嘘……嘘よ……! こんなの認めない! 二人ともそんなことを言いつつも、私と遊びたくてたまらないはず!」
「ないない。じゃあ僕たちそろそろ行くから」
僕が席を立ち、ギルドの出口へ行こうとすると。
「……かまえよ」
「ん? リサ、今なんか言った?」
「かまえかまえかまえ!! かまってよーーー!!」
次の瞬間、リサは席から横にジャンプし、ギルドの床に倒れこむ。大の字に手足を広げ、バタバタとさせて、大声でわめき始めた。
「リ、リサ!?」
「かまってかまってかまってかまって!!」
なんとこいつ、16歳にもなって泣き喚き始めたのだ。スーパーでお菓子を買ってもらえなくて駄々をこねる子供のように、ギャーギャーとやかましい声で泣き叫ぶ。全力だ。
「リ、リサちゃん落ち着きなよ……」
これにはさすがのアリシアさんもドン引き。いくらポンコツと言っても、この人は常識が備わっているタイプだ。こんな凶行に走った奴は前例がいない。しかしリサは違う。やるときはやるのだ。
リサの声がデカいせいで、ギルドの冒険者たちがみんなして僕たちの方を見てくる。なんだアレ、という表情だ。どんどん注目が集まってきて、とにかく恥ずかしい。
泣き叫ぶリサ、慌てるアリシアさん、集まる観衆の視線……ギルドは地獄と化していた。部屋の温度が上がっているような気がしてくる。
「仕方ない……ユート君、行くよ!!」
アリシアさんは決心したように言い放つと。
「ごべんなさい……ごべんなざい……」
結局、アリシアさんがリサを担いでギルドの外に出したのだ。リサは泣きながら地べたで正座をしている。
「アリシアさん、リサが正座してるの面白いんで、このままギルドの前に放置して置物にしましょう。そうすれば反省すると思うんです」
「そうかもねー。招き猫みたいな感じで人気が出るかも?」
「ごめんなさいっ!! ギルドの中で駄々をこねたのは本当に悪かったと思っています! だから招き猫はやめてください!!」
そう言って、リサは全力で土下座をした。まったく、綺麗に土下座するくらいなら最初からやらないでくれよ。
「で、なんであんな騒ぎを起こしたの?」
「みんなの前で騒げば意見が通るかなって思ってえ……」
子供か。本当に何考えてるんだこいつ。よく恥ずかしげもなく言えたもんだな。
「だってえ! いつも二人だけで楽しそうなところに行ってズルいじゃん!! 私も遊びたいのに!! 私だけ仲間外れみたいで悲しくなるじゃん!!」
あー、確かに最近リサと行動することは少なかった気がする。スライム克服の手掛かりをつかんだように感じて、作戦を実行するのに必死になっていたし。そう言われてみると、彼女の言うことにも一理あるのかもしれない。
「リサちゃん。気持ちはわかるよ。でも駄々をこねるのはよくないから、次からはやめようね」
「アリシア……私、もう二度と駄々なんかこねないよ……! 立派な大人になる!」
そういう会話は5歳くらいで済ませておいてくれ、と内心ツッコんでしまったが、反省していることに免じて、許してやるか。次やったら確実に招き猫だ。
「ねえユート君。確かに駄々をこねるのはよくないけどさ、リサちゃんの気持ち、わからなくもないんだ」
アリシアさんはリサの頭をよしよしと撫でながら言う。確かにリサがこうなったのは、僕たちが彼女のことを放置しすぎたのも原因の一つだ。
「仕方ない、今日はリサと遊んであげましょう」
「……いいのか!? 二人とも、私なんかのためにいいのか!?」
時々くらいなら息抜きが出来ていいんじゃないかな。毎日来られたら面倒だけど。
「それに、今日はトレーニングを諦めたわけじゃないですよ。ちゃんとやることはやります」
「リサちゃんと遊びつつ、トレーニングを行うってこと……?」
「どういう意味だ? ユート」
どうせなら、遊びとトレーニングの両方ともできる場所に行こう、ということだ。




