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34話後半 アリシアさんは『運』が命!

 アリシアさんは5等を狙ってくじを引いた。その結果、1等のスラぼんのぬいぐるみが当たった……それも一発目で。これは完全に『物欲センサー』によるものだ!


「ううううう……ひどい、ひどすぎるよ……」


 ちなみに。僕が考察をしている傍ら、アリシアさんはペタンと床に座って涙目になっている。


 賭けに負けた僕に罰ゲームとしてしっぺをしようとした彼女だったわけだが……しっぺをした本人が逆にダメージを受けてしまうなんて、なかなか類を見ない光景だろう。


 というのも、なんとなく嫌な予感がしていたので、あらかじめ腕にスライムのベタベタを塗っておいてのだ! アリシアさんは本当に何をしでかすかわからないから、これからも準備しなくちゃね!


「アリシアさん、ここお店ですよ。そろそろ泣き止みましょうって。スライムを塗って対策していたのは謝りますから」


「だっでえ……そんなことになるなんて思わないじゃんか、危うく触るところだったじゃんかあ……ぐすっ」


 アリシアさんは鼻をすすり、目をうるうるとさせて、スライムに敗北した時のようなアホっぽい顔になる。まるで僕が暴力でも振るったみたいじゃないか。実際は逆なのに。


 親子で買い物をしているお客さんが『ママあれなにー!?』『見ちゃいけません』と噂するのが聞こえる。いいかげん立ちなおってもらわないと僕が恥ずかしい思いをすることになるだけだ。


「分かりましたから。5等のマグカップが当たるまで引いていいですよ。景品もあげますから、泣き止んでください」


「それだけぇ……?」


 このまま置いていこうかな、本当に。


「仕方ないなあ……帰りにアイスを一個買ってあげますよ」


「わーい! 私ボーゲンドッツのキャラメル味が好きー!!」


 アイスを条件に加えた瞬間に、アリシアさんはパッと表情を明るくする。最近この人に舐められているような気がするぞ。そうなったのも僕が彼女に甘いせいなんだけど。


 しかもボーゲンドッツのアイスなんて高級品じゃないか! 足元見てきやがって! 本当に、まったくもう……


「で、マグカップが当たるまで引いていいんだよね?」


「約束は約束ですからね。それに、気になることもありますし……」


 アリシアさんはなんのことかわからないと言った表情で小首を傾げる。なんにせよ次でわかることだ。僕は財布からお札を出した。


「よーし! 5等出すぞー!」


 アリシアさんは意気揚々とくじの箱に手を突っ込み、ある程度中を精査した後、さっきと同じように一つを取り出してめくった。


「『2等』……」


 2等はブランケット。この暑い夏にブランケットを出してくるとは。誰が欲しがるんだそんなもん。それでも当たりには変わりないので、もらっておく。


 そのあともアリシアさんはくじを引き続けた。3等、4等、また3等……当たりの部類の景品ばかり当たるのだが、一向に狙いの5等が当たらない。レジのカウンターには、くじの抜け殻たちが虚しく積みあがっていく。最初は余裕だった僕たちの表情も、次第に曇っていく。


「な、なんで……!? なんで5等が当たらないの!? もしかして5等が一番当たりなタイプのくじだったりする?」


「そんなわけないです。これはやっぱり……『物欲センサー』のしわざですよ!」


「物欲センサー……?」


 こんな経験はないだろうか?


 ガチャガチャで、欲しいキーホルダーだけが何回やっても当たらない。


 97パーセント成功する場面で、失敗を引き当ててしまう。


 このように、自分が欲しいと思ったものに限って当たらなくなる現象のことを物欲センサーと言う。このセンサーの恐ろしいところは、物に対する執着が高まれば高まるほど、物欲センサーが反応して当たりにくくなっていくということだ!!


「つまり、私が5等を引き当てられないのは、5等に対する物欲センサーが反応しているから……そう言いたいんだね?」


「突飛な話かもしれないけど、きっとそうです。そうでもなければ大して数が少ないわけでもない5等が当たらないわけがないんです!」


 現にもう7回も引いているのに、まったく5等が当たらない。普通では説明がつかないことだろう。


「でも、それなら対策は簡単だよ! 5等に対する物欲を失くせばいいんだよね!」


 アリシアさんは簡単に言って見せるが、物欲を消すってなかなか難しいことじゃないか。しかし彼女は自信満々な様子で。


「よーし、『5等なんていらない』、『5等なんていらない』……!!」


 目を瞑って何度か呪文の言葉を繰り返し……箱からくじを一枚引く。


「『6等』!? 嘘だあ! 物欲はなかったはず!」


 まあ物欲がないからといって、別に当たるとは言ってないからね。


「そんな……ならもう一回!」


「お客様ッ! くじを引きたいという他のお客様がいらっしゃいましたので、一度中断していただいてもよろしいでしょうかッ!」


 盛り上がってきたところで、店員さんが声をかけてくる。確かにもう8回も引いているわけで、しばらく僕たちがくじを独占してしまっている。


「すみません、今どきます」


 次にくじを引く人を見てみると。


「あれ、ユートさんにアリシアさんじゃないですか!」


 僕たちの後に並んでいた人というのは、ロゼさんのことだったらしい。今日は仕事が休みなのか、リボンがついた、ひらひらとしたワンピースに身を包んでいる。


「ロゼさん、私服も女物なんですね……」


「え!? これ女物なんですか!?」


 オフでもロゼさんはいつも通りのロゼさんのようだ。


「ロゼさんも『コンパクトモンスター』の500ギルくじですか?」


「はい! マツリさんの研究所においてあったのを休憩時間にやっていたらすっかりハマってしまって!」


 なるほど、開発側の研究所に住んでいるんだからやり放題ってわけだ。


「それじゃ、一回だけ引かせていただきますね! 失礼します!」


 どうぞどうぞ。ロゼさんはワクワクとした瞳で箱を見つめ、腕をグルグルと回し、くじの箱に手を突っ込む。


「あちゃー。5等でした……やっぱりなかなか当たらないものですね……」


 ロゼさんは開いたくじを僕たちに見せて、照れ笑いをする。


「「…………」」


「な、なんですかお二人とも!? なんで黙ってボクを見るんですか!? もしかして悪いことをしてしまったでしょうか!?」


「……ロゼさん、ちなみに何を狙ってくじを引いたんですか?」


「ブランケットです! 可愛かったので、欲しいなあと思って!」


 ブランケットの需要あるのかよ。それにしても、物欲センサーといい、本当に世の中って上手く出来てないものだよなあ、と思った。

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