エピローグ
「花火大会、楽しかったね!」
「ですね、やっぱり僕のハイライトはイカ焼きでしたね」
「私はベビーカステラが一番熱かったよ! はあ~、来年も行きたいな」
花火大会の次の日。僕とアリシアさんの二人は、街を歩いていた。
彼女は昨日の花火大会がよほど楽しかったみたいで、うっとりとしながら思い出を語っている。さっきから屋台の食べ物の名前はスラスラと出てくるが、花火についての話が一切出てこないのは、花より団子ってやつなんだろうか。
「昨日楽しんだぶん、今日はゴミ拾い頑張らなきゃね!」
そう、僕たちが向かっているのは昨日の河原だ。今日は、スライム克服は中止して花火大会で出たゴミを片付けることになった。ちょっとしたボランティアみたいなものだが、アリシアさんはやる気満々だ。
「アリシアさんっていつもこういうイベントに参加するんですか?」
「勇者だからね。ゴミ拾い、献血、落とし物探し、なんでもバッチコイだよ!」
勇者って何でも屋みたいな職業だったっけ。それでもボランティアや人助けはいいことなので、黙っておく。
「おう坊主に嬢ちゃん! よく来てくれたな!」
河原に到着すると、そこにはギルバートさん。白いTシャツと紺色のデニムを着て、手には白い軍手。手にはゴミを拾うための火ばさみとゴミ袋。首にタオルをかけているのがまさにゴミ拾いのおっちゃんだが、筋肉質だから何を着てもダンディに見える。
それにしても、まさかギルバートさんの副業が花火師だったなんて。ギルドで一番だった魔法使いが副業をやっているというだけでおかしな感じだが、それがさらに花火師なんだから、僕が驚いたのは言うまでもない。
「今日は暑いから充分に水分補給をするように! そこにアポカリと塩タブレットがあるからひとつずつ取って、適宜補給してくれ!」
「「はーい」」
ボランティアに行くと地味に嬉しい、アポカリと塩タブがもらえるやつ。まだ早朝とはいえ日が差してきて暑くなり始めているので、水分補給は大事だ。それが例え勇者であっても。
「ユート君、どっちがたくさんゴミを拾えるか勝負しようよ!」
「やめましょうよ子供じゃないんだから……昨日の一件で疲れたんで今日は普通にやりますよ」
「ええーー! 競争しないゴミ拾いはゴミ拾いじゃないよ!」
ゴミ拾いだよ。むしろ正統派の。アリシアさんはどうしてもゴミ拾い競争をしたいらしく、僕を説得しようと慌て始めた。
「あ~なるほど、ユート君は私に負けるのが怖いんだね? そうなんだね? まーそれならしょうがないかあ。負けるのが怖いんだもんね?」
「その手には乗りませんよ。僕のことを煽った程度で上手いこと行くわけないじゃないですか。ほら、手が止まってますよ」
「なにっ……! やだやだやだやだ! やろうよゴミ拾い競争!」
予想通り、駄々をこね始めた。本当にこの人は……僕の方が早生まれだから年齢的には同じ17歳とはいえ、一応アリシアさんの方が年上のはずなのに。
「ワガママ言っちゃ駄目ですよ、まったく。この前来たテレサちゃんの方がよっぽどお利口さんでしたよ」
「そ、それは禁句でしょー! テレサより私の方が強いんだよ!」
「六歳の子供と張り合わないでください」
えっへん、とドヤ顔のアリシアさん。僕は呆れながら、かき氷のカップのゴミや、焼きそばのパックたちを次々とゴミ袋に放り込んでいく。
「アリシア・ブレイバーだな?」
その時、他のゴミ拾い参加者だろうか、女の人の声がアリシアさんの名前を呼ぶ。
視線を上げて見ると、彼女を呼んだのは、銀髪ショートの女性だった。目は紅茶のような澄んだ紅に近い緋色。鋭い視線でアリシアさんを見て凛と立っている。歳は僕たちと同じくらいだろうか。
「アリシアさん、知り合いの人ですか?」
「ううん。全然知らない。どちら様ですか?」
アリシアさんはこの銀髪の少女と知り合いではないらしく、首を傾げている。勇者だから名は通っているし、一方的に知られているのはおかしなことではないが。
「あ、もしかして私のファンの人とか!? 初めてだ! 握手とかしますか!?」
今までファンいなかったのかよ……内心ツッコミたくなったが、この人がファン1号なら面目を立たせてあげなければならないので黙っておく。
「オレはお前のファンなんかじゃない」
しかし、銀髪の少女はキッとアリシアさんを睨みながら答えた。
「じゃああなたは……?」
不思議そうに聞くアリシアさん。銀髪の少女は表情を崩さずに言い放つ。
「オレはテレサ・カリーノ。――十年後の未来から、アリシアを止めるために来た」
「「ええええええええ!?」」
僕とアリシアさんの二人の叫び声が、広い河原に響いた。




