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27話後半 銀髪幼女はヒーローが好き!

「テレサちゃん、楽しかった?」


「うん! キャンディーマンがカッコよかったのです!」


 キャンディーマンショーが終わり、ヒーローの活躍を見て握手まで出来たテレサちゃんはご機嫌だ。ニコニコと満面の笑みで僕の隣を歩く。ショーは終わったわけだが、僕はどんな内容だったのかを見ていない。何故かと言うと。


「テレサが楽しかったならよかったね!」


「アリシアさんはしっかり反省してください」


 テレサちゃんを挟んで向こう側で並んで歩くアリシアさんは、僕の一言にしょんぼりと肩を落とす。


 そう、彼女が怪人役の人を殴ったから二人でスタッフさんに誘導されて退場したのだ。おかげでこっぴどく叱られた。アリシアさんが極度のポンコツであることを説明したらわかってくれたけど、やはりこの人は事件しか起こさない。


「テレサちゃん、ヒーローショーのどこがおもしろかった?」


「キャンディーマンが『なめてんじゃねーぞ!』っていうところがカッコよかったのです!」


 柄が悪いヒーローだな。キャンディーマンだから『舐める』とかかってるのはわかるけど。子供が真似して言うようになったらどうするんだ。


 まあテレサちゃんは心の底から満足しているみたいだし、僕もアリシアさんのお守りをしたかいがあるってもんだ。二人の笑顔を見ているとなんだか達成感めいたものがこみあげてくる。まったく、アリシアさんはテレサちゃんを見習ってください。6歳の女の子の方がよっぽどお利口ですよ。


 この後は何がしたいのか、と尋ねようとすると、テレサちゃんは足を止めた。


「ありしー、テレサはいきたいところがあるのです!」


 快活に笑ったテレサちゃんが、次に指定した場所は。



 軽快な音楽が流れる店内。広々とした空間にカラフルなおもちゃがずらっと並べられている。自転車から小さなおもちゃまで、幅広く品ぞろえされている。


 おもちゃショップ『といキャラズ』。アルパカのキャラクターがイメージキャラクターのそのお店は、赤ちゃん向けの商品から大きなお友達向けのマニアックな商品までが集まっている、広い年齢層の客に愛されている。


「テレサちゃん、どうしてここに来たの?」


「キャンディーマンの変身アイテムがほしいのです!」


 ヒーローの変身アイテムと言うと……ベルトとかブレスレットかな。


 テレサちゃんはおもちゃの在りかを探してズンズンと進んでいく。低い背丈で頑張ってキョロキョロと辺りを見渡し、小さいなりにキャンディーマンのおもちゃコーナーを探す。転びそうで危なっかしいので、僕はその様子をよく見ておく。


「これこれ! これなのです!」


 テレサちゃんは目当てのおもちゃを見つけ、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。キャンディーマンの等身大パネルが置かれ、棚にはズラッとそれに関連したおもちゃが並べられている。まるで卵のパックのようだ。


「ありしー、あれがほしいのです! とってほしいのです!」


 テレサちゃんは手が届かないところに置かれた商品を指す。アリシアさんが取ってあげたおもちゃは。


『光って音が出る! キャンディーマンの最強ミックスキャンディー』


 なんだこれは? テレサちゃんが指定したのは、ベルトよりも一回り小さい箱だ。確かにテレサちゃんが好きなキャラクターのおもちゃみたいだけど、ベルトじゃないみたいだぞ?


「これはキャンディーマンのきょーかあいてむなのです!」


「強化アイテム?」


「これをベルトにつけると、キャンディーマンが強くなるのです!」


 なるほど、ベルトだけだと売り上げが偏っちゃうから、それを強化するおもちゃも販売しているのか。コレクターの大人はたくさん買って集められるし、子供はキャンディーマンが強くなって嬉しいと。


「これでキャンディーマンがぜんぶのあじのちからをつかうことができるのです!」


 話が見えてきたぞ。キャンディーマンは飴のヒーローだから、おもちゃによってイチゴ味とかブドウ味で能力が変わるんだろう。そして、今回テレサちゃんが買うおもちゃは今までの能力が全部使える――言わば最強アイテムというわけだ。


「テレサ、お小遣いはあるの?」


「うん! おかーさんのおてつだいをがんばってためたんだ!」


 テレサちゃんはポケットからがま口のお財布を取り出し、元気よく掲げた。おもちゃを買うためにお小遣いを貯めたなんて……なんて健気な子なんだ。肩たたきや掃除を頑張っている彼女の様子を想像して、僕は勝手にうるっときてしまった。




「これください!」


 テレサちゃんは背伸びして、レジにおもちゃを持っていく。店員さんがレジを通すと。


「1650ギルです」


 テレサちゃんは急いで財布を取り出し、中の小銭をじゃらじゃらと釣銭トレーに置く。店員さんは丁寧に小銭を数え、表情を曇らせた。


「ごめんね、1500ギルしかないみたい。あと150ギルはある?」


 店員さんはテレサちゃんに申し訳なさそうに言う。テレサちゃんは慌てて財布の中を探すが、さっきので全部らしい。


「あれ、なんで……? 1500ってかいてあったのに……」


 なるほど、テレサちゃんは税抜きの表示を見てしまったんだな。幼い彼女に税金のことなんかわかるはずないから、1500ギルで足りると思ってしまったんだろう。


 手持ちが足りないことに気付いたテレサちゃんの表情が、みるみるうちに顔が青白くなっていく。つぶらな瞳にもうっすらと涙がたまっていく。


 しょうがないなあ。僕は財布を開き、中から小銭を取り出した。


 テレサちゃんの表情がパッと明るくなるのが見えた。




「ふんふんふふふーん!」


 といキャラズを出てから、テレサちゃんは上機嫌に鼻歌まじりでスキップをしている。おもちゃを買えたのがよほどうれしかったらしい。


「ゆーくん!」


 テレサちゃんは後ろを振り返る。おそらくゆーくんというのは僕のことだろう。


「さっきはありがとうなのです」


 僕にはキャンディーマンの良さはわからないけど。さすがにここまで頑張ってお小遣いを貯めて、欲しかったおもちゃが買えないのは可哀想だろう。それにたかだか150ギル出してあげただけだし、むしろお金で子供を釣ったみたいで少し悪い気もしているくらいだ。


「ぜったいにだいじにするのです!」


 おもちゃの箱をぎゅっと抱きしめるテレサちゃん。彼女の嬉しそうな表情を見ていると僕までなんだか嬉しくなるし、まあいいとするか。


「ゆーくんはテレサのものなのです! ありしーにはわたさないのです!」


 なっ! 突然何を言い出すのかと思えば、テレサちゃんは僕の足を抱き枕のようにしてぎゅっと抱き着いてくる。


「ズルいよテレサ! 私にも半分くらい分けてくれないと、これから困るじゃん!」


 半分くらいってなんだ。アリシアさんも幼いテレサちゃんに本気になって僕の取りあいに参加する。いい年こいて子供とよくわからないことで争わないでください! 恥ずかしいから!


 結局そのあとも僕たちはシエラニアを遊びつくし、満足したテレサちゃんは親に連れられて家に帰ったのだった。

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