25話中盤 夏はバカンスが最高!
「早速だけど、何をしますか?」
「いっそこのまま水着の観賞会でもいいと思うんだ。ユートもそう思うだろ?」
心のそこから幸せそうな表情で言うダース。それはちょっと思う。けど僕はお前ほど正直なやつじゃないんだ。賛成はできない。
「はいはーい! ビーチバレーやろうよー!」
アリシアさんは両手でビーチボールを掲げる。なるほど、ド定番な提案だ。
「ここは男子チームと女子チームで別れて対決するのはどうかな?」
「女子チームの戦闘力が高すぎません?」
チート級の力を持つアリシアさん、魔法を使えるリサ、メカを駆使するマツリさん。どう考えても男子チームの一般人たちが太刀打ちできるレベルじゃない。
「その場合ボクは男子チームになるんでしょうか、女子チームになるんでしょうか……」
「100パーセント男子チームだから安心してください」
僕たちの空気に慣れてきたのか単に変なことを口走っているだけか、ロゼさんも男の娘ジョークをかましてくる。
「私はアリシアと一緒のチームなんて嫌よ。だって私はライバルだもん。同じチームにいたら勝てないじゃない」
男女で分かれるのはリサも不服らしい。だったらどうやってチームを組んだらいいんだろう?
「戦力が出来るだけ均等になるようにすればいいと思うわ」
「マツリさん! 戦力を均等に……? でもどうやってですか?」
そう言うと、マツリさんは懐から小さなモニターを取り出す。
「このタブレットに、メンバーの戦力をパラメータ化したデータを保存しておいたわ」
マツリさんにタブレットと呼ばれる機械を手渡される。そこには、メンバーの名前とその強さを表すランクが書かれている。
アリシアさんSS、僕がD、リサA、ダースD、マツリさんE、ロゼさんE。SSが一番上で、Eが一番下ということだろう。
「そして、これが理想のチーム分けね」
マツリさんがタブレットを操作すると、名簿が並び変わり、チーム分けが完了する。モニターには名前が表示された。
チーム1
アリシア・ブレイバー
ユート・カインディア
ワタナベ・マツリ
チーム2
リサ・フィエルテ
ダース・アミティエ
ロゼ・ミスティック
「おお! たしかにこれなら比較的パワーバランスの釣り合いが取れてる気がしますよ! さすがマツリさん!」
マツリさんの機械は本当になんでもありだな。毎回大活躍してくれる。
「チッ、ロリっ子と一緒か……まあいいや、横からじゃなくて正面からアリシアさんの水着姿を見るのも一興だな」
「本当に死んだほうがいいんじゃない? こいつこんな発言ばっかりして問題にならないの?」
「さすがにダメですよダースさん、今の時代にそんなことばっかり言ってたらいつか干されますよ!」
「だーっ!! チームメンバーと俺の相性が悪すぎる!」
ダースは頭を抱えて叫んだ。残念だが悪いのはお前だから反省してほしい。
「ユート君、同じチームだね! 頑張ろう!」
アリシアさんとハイタッチをする僕はと言うと、勝利を確信して会心の笑みを浮かべていた。
チームメイトはチートで名高いアリシアさんと天才発明家のマツリさん。これはもう勝ったも同然だろう。いくら魔法に長けたリサがいると言っても、さすがに相手が悪すぎる。
ネットをレンタルして砂浜に張り、ラインを引けば一気にコートの出来上がり。簡易的だけど、実際にコートを作るとそれっぽく見えるものだ。マツリさんのタブレットの指示通りのチームに分かれると。
「はーい! じゃあ私から行きまーす!」
アリシアさんはボールを掲げると、皆に声をかける。
「ロリっ子、盾になる準備はできてるか……?」
「なんで天才の私が盾にならなきゃいけないのよ! アンタがレシーブしなさいよ! 死体は拾ってやるから!」
「無理に決まってんだろ! アリシアさんの全力スパイクなんて食らったら生命なんて平等に無力だ! 軽く死ねるわ!」
リサとダースは相変わらず土壇場で喧嘩をしている。ロゼさんはそれを止めようとあたふたとしていて、チームとしてのまとまりは全く感じない。
「いっきまーす! えい!」
「おい来るぞ! お前ら伏せろ!」
アリシアさんがボールを上に投げ、思いきりスパイクすると。
パアン!
と、風船が破裂するような大きな音が立つ。アリシアさんのスパイク音で僕の鼓膜が破れたのかと勘違いしたが、そうではなかった。
ビーチボールが割れてしまったのだ。空気が入ってるだけで風船みたいなものだし、アリシアさんの怪力スパイクに耐えられなかったのだろう。ボールだったものは、食べ終わった後のミカンの皮のようになって、地面に力なく落ちていた。
「……割れちゃったね」
気まずい空気が流れる。どうリアクションしていいのかわからず、僕たちはボールの残骸を見つめることしかできなかった。
「今のはスパイクミスね。私たちのチームに点が入ってしかるべきだと思うの」
確かに。リサの言う通り、アリシアさんが打ったスパイクは自分の陣地に落ちてしまったと見ることもできる。
「よっしゃあああ! 命拾いしたどころか得点したぞ!」
ダースは思わずガッツポーズ。対する僕は頭を抱えた。
「アリシアさん、ボールを破壊するのはやめましょう。力はセーブできますか?」
「え、でも普通にやったつもりなんだけど……」
この人は箸を持つときや動物をだっこするときに力加減を間違えたりするんだろうか。普段どういう力加減で日常生活をしているのか気になる。
しかし、それについて責めていても仕方ない。今は試合に集中しなければいけないのだ。
「仕方ないです、スパイクはマツリさんと僕でやりましょう。アリシアさんはこれ以上ボールを破壊するとまずいのでレシーブ担当でお願いします」
「……眠くなってきた」
作戦を伝えたその時、マツリさんがぼそりと呟いた。僕は耳を疑う。
え、今この人なんて言った?
「想定外ね。まさか日光を浴びすぎて体力が低下していたなんて……」
「マジで言ってるんですか!? 残された僕たちはどうなるんですか!?」
「すまないわね……二時間もすれば戻れるはずだから……」
「二時間も経ったら試合が終わってしまいます!」
マツリさんは眠そうな目をしたままコートの外へ歩いて出て行ってしまう。僕とアリシアさんは彼女の後姿をぼうっと見つめることしかできなかった。
「おいおいおい! これはいけるんじゃねえか!? 向こうはスパイクができないアリシアさんと雑魚のユートだけだぞ!」
ダースは涙を流しながら爆笑する。僕は完全に意気消沈していた。何も否定できなかったからである。
アリシアさんはビーチボールを破壊しちゃうし。マツリさんは帰っちゃうし。さっきまでこのメンツでイキっていたのが恥ずかしい。
無理でしょこれ。勝ち目がないって。3対2だし。そのうち一人はスパイクできないし。さすがにお手上げだ。
お手上げ、なんだけども。
「だはははは!! おいユート! 悔しいか!? お前いつも美味しい思いしてたからな! 今日こそ泣かせてやるぜ! バーカ!!」
ダースは僕のことを指さし、顎が外れるくらいに笑っている。こいつ……黙っておけば好き勝手言いやがって。僕のどこが美味しい思いしてるって言うんだ。ポンコツたちの相手をさせられて、毎日苦労してるって言うのに。
「頭来た! スイッチ入ったぞ! ここからでも絶対に勝ってやる!」
僕はダースを指さし、そう宣言した。




