21話後半 ダースは男の娘が苦手!
俺たちがいるのは、建物と建物の間の細い道。高い壁が光を遮っているから昼なのに暗い。
「ごめんなさい! 道を一本間違えてしまったみたいです! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「あー、わかったわかった。そんなに謝るなって。俺も任せっきりにして悪かったな」
うるうるとした目で頭を下げるロゼ。幸い路地裏に入ってきてしまっただけなので、元来た道を戻っていけばまた大通りにたどり着くはずだ。
引き返そうと体の向きを変えると。
「よおそこのカップル! なんだか楽しそうだなあ?」
「ヒューヒュー! 熱いねえ!」
「こんな暗いところで何してんの?」
ああもう! 絶対こうなると思った!
大通りの方から歩いてきたのは、3人組のチンピラども。
「あー! お前この前の幼女の師匠じゃねえか!」
そしてその3人のチンピラに見覚えがあった。この前ロリシアさんと一緒に倒した豚男3人組じゃねえか!
「この前はあのガキのせいでお前に復讐できなかったからな! 今日こそ落とし前つけさせてやる!」
なんで俺はいっつもこのチンピラ3人組に絡まれるんだよ! せめて美少女3人組にしろ!!
文句が喉のあたりまで出かかっているが、グッと堪えた。
「ダ、ダースさん……」
ロゼは怯えたような声で、俺の服の袖をぎゅっと掴んだ。
……ああもう、やればいいんだろやれば!!
「おいお前ら。今すぐそこをどきやがれ。さもないと痛い目にあうぞ?」
できるだけクールに。
「どくわけねえだろ!」
「そんなに通りたきゃどかしてみろ!」
こいつら何の魅力もない悪役みたいなビジュアルのくせに、我を持つんじゃねえ! 黙ってどけよ!!
「……おいロゼ。お前が持ってる手提げを貸せ」
俺は後ろに立つロゼに耳打ちをした。
「え、これはただの買い物袋で、事務用品しか入ってないですよ?」
「いいから貸せって」
俺は半ば奪い取るようにロゼの買い物袋を借りると。
「お前ら、この袋の中には爆弾が入ってるぜ? すぐに立ち去ると言うなら見逃してやらんこともない!」
「はあ? バカじゃねーのか?」
「どう考えても今思いついた嘘だろ?」
「俺たちのことを魅力のない悪役だとでも思ってんのか?」
魅力のない悪役だとは思ってるけど。悪いが今回はハッタリじゃないぞ。俺の見立てが正しければ、だが。
「そうかよ! だったらこれでも食らっとけ!」
俺は手提げ袋を丸め、思い切り3人組のチンピラに投げつける。
袋が地面に触れた瞬間激しい音と風を立てて爆発したのだった!!
「「「ぐあああああああ!?」」」
「え、なんで!?」
「よっしゃ予想通りだ! 逃げるぞロゼ!」
驚くロゼの手を引いて、俺は男たちの反対方向へと走っていった。
*
「結局どこだかわからなくなっちゃいましたね……」
「だな。これは俺もどこだかわからねえぞ」
俺とロゼは河原で体育座りをして、並んで川を眺めていた。路地裏の奥へ進んで、開けた場所にたどり着いたのはいいけど、こんな河原見たことないぞ。どうやって帰ろうかな。
「ダースさん、なんでボクが持っていた袋が爆発するってわかったんですか? ボクは爆発するものなんて買ってきてないはず……」
「ああ、あれはほとんど賭けだったな。ドジっ子のロゼのことだから、頼まれたものと間違えて爆発する薬品でも買ってきてるんじゃないかと思ったんだよ。もし爆発しなかったらそのままダッシュだったな」
「ええーーーー!!」
俺もまさか本当に爆発なんてすると思ってなかったからビックリしたぞ。
驚いて声を上げたロゼは、しゅんとした表情になると、再び顔を落とした。
「ごめんなさい、何から何までダースさんに頼りっぱなしになってしまって……」
「おいおい、悲しそうな顔をするな。お前そんな美少女みたいな見た目してても一応男だろ? 男の娘なんだから根性見せてくれよ」
「励まされているのか馬鹿にされているのかわからないです……でも、悔しくもなりますよ。私はいつも欠点ばかりで、ミスが多くて、ドジで……マツリさんはボクのことをバイトとして雇ってくれましたけど、全然役になんて立ててないですし……」
こりゃまた随分ネガティブだな。よし、ここはダース様がガツンと教えてやろうじゃねえか。
「あのなあ。欠点しかなかったらなんなんだよ? それは駄目なことじゃないんだぞ」
「え、欠点しかないことは駄目じゃないんですか!?」
「そうだ。欠点しかないなら、欠点しかないなりに生きればいいんだよ。俺なんか生まれてこのかた才能があったことなんかないし、女にはモテないし、金遣いも荒いし、ギャンブルも大好きだぞ」
「ええええ!? それは反省したほうがよくないですか!?」
ロゼは俺の話に驚いて口を手で抑えて驚く。ドン引きじゃねえか。
「いいや、俺は絶対に反省なんてしないぞ。今を全力で生きるのがダース様だ。だからお前も今を全力で生きろ。欠点なんて今更悩んだところで、だろ」
「確かに……納得していいのかわかりませんが、凄くしっくりくる気がします」
そこは納得しとけ。よく考えたら反省しろって話なんだが、それを言われたら俺はもう何も言えなくなってしまう。
「でも、ダースさんが言うとなんだかそんな気がします。ダースさんは凄い人です。ボクみたいにクヨクヨしないで、優しくて、こんなボクにアドバイスもしてくれて……」
「そうだろうそうだろう。俺だけじゃない。ロゼだって、頑張れば凄い人間になれるかもしれんぞ?」
「……嬉しいです! そんなふうに言ってくれる人なんて、今までにいませんでしたから」
ロゼは頬を朱に染め、心底嬉しそうにニッコリとほほ笑む。ほんとこいつ可愛いな。これで女の子じゃないって嘘だろ。
「ダースさん、ご迷惑だとは思うんですが、ボクのお願いを聞いてくれないでしょうか?」
「お、おう。どうした。なんでも言っていいぞ」
俺は言うと、ロゼは大きく息を吸い、意を決したように目を見開いて、俺の目をまっすぐに見据えた。
「ボクをダースさんのお嫁さんにしてもらえないでしょうか!」
「は?」
こいつ今なんて言った? お嫁さん? さっき自分で男だって言ってたよね? 俺が首を傾ると。
「あ、そういう意味じゃなくて! いつかダースさんに見合うような人間になりたいってことで! 実際に結婚するわけじゃないです!」
「紛らわしい言い方すんなよ!」
そういうことだったか。なんかドキッとしてしまった自分が恥ずかしいじゃねえか。しかも男に。
「それに、なんだかボクはダースさんのことが……」
「あ? 聞こえなかった。今なんか言ったか?」
「いえ、なんでもないです! そんなことよりおつかいに行きましょう! なんだかやる気が出てきました!」
急に元気になったロゼはスッと立ち上がり、元気よく歩き始めた。
落ち込んでるのか元気なのかよくわからんやつだな。まあメソメソしてるよりはいいかもしれない。
まったく、前回は幼女で、今回は男の娘か。俺がハーレムを作ることができる日はいつになるのやら。




