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エピローグ

『おらー! 飲めー!』


『シエラニアに万歳!』


 冒険者ギルドの中は、いつにも増して大騒ぎ。みんな酒を酌み交わし、歌って踊って、すっかりお祭りムードだ。


「さて、今回のDNAを決めましょう」


 いつもの席に座ったリサは、グラスに注がれたオレンジジュースをぐいっと飲み、満足そうに言った。遺伝子の話をしたいんじゃなくてMVPのことを言いたいんだと思うが、黙っておこう。


「と言っても、今回一番活躍したのは間違いなく私ね。ホバーボードに乗ってデカブツのエンジンルームを大爆発。あれだけの成果を出すなんてやっぱり私って超絶天才」


「えー、私もヤマトダイナをスパっと斬ったよ!」


「アンタのはいつものパワープレイでしょうが! 華麗さが加点されてないのよ!」


 楽しそうに言うアリシアさんをリサがどなりつける。完全にいつもの光景だ。


 ヤマトダイナを止めることに成功した僕たちは、ギルド内で打ち上げをやっている。僕が放った弓矢は防御結界を制御する装置に見事命中し、アリシアさんの『勇者ブレード』はヤマトダイナをバターのように真っ二つにした。僕たちは街を守り抜いたのだ。


「そう言えばダースとマツリさんがいないなあ。どうしたんだろう?」


「あのキモ男は借金の取り立てから逃げてたわ。まあこの作戦に冒険者たちが協力したのはあいつから借金を回収するためだったし、因果応報(いんがおうほう)ね」


「マツリさんは眠いから寝るって言ってたよ!」


 二人ともいつも通りだなあ……本当に自由すぎる。とはいっても作戦でみんなお疲れだろうし、仕方ないのかな。僕は苦笑いをする。


「ねえ、リサちゃん。リサちゃんはヤマトダイナから落っこちたんだよね。なんでピンピンしてるの?」


「あー、それはね……」


 リサが言うにはこういうことだった。


 エンジンルームの爆発で船の外に投げ出されたリサ。地面に真っ逆さまに落ちていく中、もう駄目だと思ったその時。


 地面に落ちた彼女は不思議な感覚を懐く。地面がフワフワしてやわらかい。どういうことかと思い、起き上がると、彼女が落下したのは『ジャイアントキャット』の背中だったのだ。


 体長10メートルを超えるそのネコ型モンスターは、危うく死ぬところだったリサを救うと、どこかへ走って行ってしまったらしい。


「……ということがあったのよ」


「へー、それはなんか不思議な話だね!」


 いやいやいや。ジャイアントキャットって森に生息するモンスターだよ。何もないところに、それもヤマトダイナの近くに都合よくいるはずがないだろう。何か見間違えてるんじゃないのかな?


 そういえば、森で猫と言えば、僕が少し前まで森の中で世話をしていた猫だが、ある日を境にいなくなってしまった。元々怪我をしていて、親とはぐれてしまっていたから仕方なく世話をしていただけなんだけど、親と会えたのかな。


 森の子猫……リサを助けたジャイアントキャット……。


猫の恩返し。


まさかね。


 あー、なんだか考えていたら疲れてきてしまった。思えば今日は片づけから始まって全力疾走して、疲れることばっかりだったな。もう打ち上げって気分でもないし、帰って寝てしまおう。


「疲れたのでお先に失礼しますね」


「もう帰っちゃうの?」


「はい。アリシアさんも早めに帰って休んでくださいね」


「うん。……あ! そうだ!」


 僕が去ろうとすると、アリシアさんが何かを思い出したように声を上げる。


「どうかしましたか?」


「ユート君、この街が守られたのは、ユート君が最後まで諦めなかったからだよ。みんながパニックになってギルドから逃げ出そうとしてた時、私一人でどうにかできるかすごく不安だった。でも、ユート君が声を上げてくれてすごく嬉しかったよ」


 そう言ってほほ笑むアリシアさんの笑顔はとても素敵だった。


 初めて出会った時も、そして今も。僕はこの人の輝く様な笑顔に惹かれていた。見ていると心がドキドキして、だけど同時にやすらぐような感覚もあって。そんな彼女を僕はサポートしたいんだ。


「……ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」


「うん!」


 僕は手を振るアリシアさんに頭をペコリと下げ、ギルドの外へ出た。


 思えば、アリシアさんと出会ってから色々なことが変化した。仲間が増えた。過去の後悔を断ち切れた。そしてなにより……毎日が楽しくなった。


「よし、次のスライム克服作戦、考えるか!」


 どこかうるさくて、めちゃくちゃで、だけどすごくほっこりして。僕はそんな日々が愛おしくてたまらないのだ。

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