50話後半 魔王城に行こう!
「よっしゃああああああああああああ!!! いいぞいいぞ!! 全員倒しちまえ!!!」
ダースは甲板から下界を見下ろし、心の底から愉快そうな声で笑う。彼の視線の先では、ヤマトダイナにビームを放つモンスターたちが無慈悲にも蹂躙されていく。
「お前らアアアアアア!! ちょっとは良心が痛まないのか!? こんなバカでかい乗り物で弱者を痛めつけるなんて!!」
「ああ? 馬車の前に人が飛び出して来たら轢くに決まってんだろ? 頭おかしいのか?」
「そんなことするわけないだろ!? お前本当に人間か!? 魔王軍より倫理観が欠如してるぞ!?」
フランツ。ダースに何を言っても無駄だ。あいつは人間ではあるが人間のクズだから。
彼の言葉も虚しく、ヤマトダイナは敵をぶっ飛ばしながらすいすい前に進んでいく。
「フランツ、ちなみに気配から察するにどれくらいの幹部が倒されたの?」
「5魔将38芒星と言ったところか……みな魔王軍に忠誠を誓ったよい部下だったのだ……ミーの頭は噛んでくるけど……」
残り2魔将4芒星か。もうほぼ壊滅したみたいなもんじゃん。全滅するのも時間の問題だろう。
っていうか4ではもはや芒星じゃなくて四角じゃないか……?
「みなさーん! そろそろ魔王城につきますよー!」
ロゼさんに言われて見てみると、禍々しい雰囲気をまとった魔王城はもうすぐ目の前だった。ロゼさんはリモコンを操作し、ヤマトダイナの速度を緩めて停車する。
「あっさりついたわね。持ってきたお菓子、なくならなかったじゃない」
リサはポテチをポリポリとかじりながら言う。
「で、これからどうするの? お菓子のゴミでも捨てていく?」
「ロリお前、スケールが小さい悪いことすんなよ……普段からポイ捨てとかするタイプだろ絶対……」
「はい、ゴミを一人追加しまーす」
リサとダースがじゃれあいだしたのは置いておいて、確かに魔王城に来て、これから何をするのか僕は知らない。
「ふっふっふ、まかせてください! こんなこともあろうかと、オリジナルのヤマトダイナにさらに機能を加えておいたんです!」
ロゼさんは胸を張って、リモコンについている『危険!』と書いてあるボタンをポチっと押す。
途端、ヤマトダイナの船体部分が開き、中から大きな大砲が出てくる!
「ヤマトダイナに主砲を装備しました! ここから放たれる『魔王絶対許すまじ砲』は、魔王城の一帯を焦土と化すでしょう!」
そんなテンションで紹介する機能ではないと思うんですけど……この人、実は一番敵に回しちゃいけないタイプだったんじゃないのか。
「いいぞーロゼ! やっちまえやっちまえ!」
「はい! それではぽちっとな!」
ダースにたきつけられ、ロゼさんが危険ボタンを押す。主砲の先端に白い光が集まり、激しい轟音がなって――
『魔王絶対許すまじ砲』なるビームが発射された!!
光の速さのビームは魔王城に一直線。真っ黒な城に直撃した瞬間、激しい音を立てて爆発を起こす! 建物の1階、2階、3階と窓が順番に割れていき、城は唸るような音とともに崩れていく!
魔王城は何度も爆発を起こし、とうとう完全に崩れてしまった! さっきまで敢然と立ちはだかっていた城は、ちょっと黒い廃墟になったのだ!
「なんだろう……やりすぎじゃない?」
ちょっと勢力を減らそうみたいな話だったのに、とうとう城までぶっ壊しちゃったぞ。これってもう取り返しがつかないところまで来てない?
「なんか……確かにやりすぎた気がしますね」
ロゼさんは少し申し訳なさそうに言って。
「ここから魔王軍に復讐されると面倒なので、もう一発撃ちこんじゃいましょう!」
「おいっ!?」
もう面倒になってしまったのか、やけくそだ。ロゼさんは『魔王絶対許すまじ砲』を再起動する。さっきと同じように光が主砲に集まり、ビームが放たれる!!
十秒ほど経って、魔王城はただのガレキの山になった。
もはやさっきまでそこに城があったことすら言われなければわからない。……いや、言われても信じないと思う。ガレキの山となった魔王城は、二発目のビームで跡形もなくなってしまった。
「……やっちゃいましたね」
「ですね」
やけくそでビームを放ったロゼさんも、ようやく自分がとんでもないことをやらかしたことに気付いて青ざめている。
「これ、ボクを恨んだ世界中の魔物が襲ってくるとかないですよね?」
「わからないですけど。まあなんとかなると思うので頑張ってください」
「そんなーーーー!?」
とにかく、人類と魔王との戦いはこれにて決着――ということになるらしい。なんともあっけない幕切れだ。
「なんだかあっさり終わっちゃったね」
事の顛末を見ていたアリシアさんがこっちへやってきた。
こんなビームで倒れる魔王なんだったら、勇者は必要なかったのでは。
「フランツ、魔王、倒しちゃったよ?」
床に転がされているフランツに言うと。
「……なに言ってるのだ? 魔王様は聖剣以外での物理攻撃では死なないはずなのだが?」
え?
でも魔王城は焦土と化したし、魔王もいなくなったはず……。
「貴様らか!! 我が城を崩したのは!!」
その時、城の方から低く威圧感がある声が聞こえてくる。
「見てください! あそこのガレキがちょっと動いてます!」
ロゼさんに言われて見てみると、確かにガレキが少しもぞもぞと動いている。まさか……。
魔王はまだ生きている!?
「アリシアさん! あそこのガレキに聖剣エクヌカリバーで斬撃を! そうすればとどめを刺せます!」
「わかった!」
アリシアさんはエクヌカリバーを腰から抜き、切っ先をガレキの方へ向ける――
が。次の瞬間、彼女は剣を甲板に落とした。
「え……?」
アリシアさんの表情を確認すると、彼女の目には涙がたまり、顔は青ざめていた。まるで、天敵を目の前にした時のように。
「こうなれば、我が命に代えてでも貴様らをここで滅ぼす!!」
そうしてガレキから姿を現した魔王の正体は。
石油のような真っ黒い色をした、体長3メートルはある最強のスライム。
カタストロフィスライムだった――。




