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14話 空からの訪問者 9

9


 目を覚ますと、アーネスの顔が目の前にあった。

「おはよう、可愛いモリィ」

 キスをされ、聖良はじたばたともがく。

「口はやめて下さいって言ってるじゃないですかっ」

「モリィの方が顔色がよく変わりますね。赤くなって可愛い」

「人の話を聞け」

「聞いてますよ。唇のキスは恥ずかしいんですよね。でもその方が楽しいじゃないですか」

「私は楽しくないです」

「ではもっと楽しい楽しい大人のキスでもしてみますか?」

 聖良はアーネスの顔を睨み付ける。彼の口は心なしか酒臭かった。

「お酒飲んだんですか?」

「まだ残ってますか? 子供でも飲める、ジュースのような果実酒だったんですけれど、さすがにたくさん飲み過ぎましたか」

「何を考えてるんですか」

「商談には、やっぱりお酒がいるんですよ」

 へらへら笑う、秘密結社のボス。格好いいはずの顔が崩れて台無しだ。

 彼は聖良を口説くような台詞を口にする時、真面目な顔をして言ったためしがない。いつもへらへらと口説いてくるが、中でも今日のは最悪だった。

「とにかく、なんで私の上に乗るんですか」

「可愛いからですよ。もう、可愛い」

「素なのか酔っぱらってるのかどっちなんですかっ」

 逃れようとする聖良の頬を捕らえてキスをしてくる馬鹿に、力の入らない拳をぶつけて抵抗する。

 本当に力がない。殴っていても自分の弱さに驚くほど力がない。

 本気になる事のないアディス相手だからまだいいが、力のなさにはうんざりする。

 そんなとき、ドアが開いた。

「モリィ……ってこら、アーネス様。朝っぱらからモリィに何してるんですかっ! 嫌がってるじゃないですかっ!」

 部屋にシファが入ってきて、二人を見て怒鳴った。

「シファも混じりますか」

「先に顔を洗ってお着替えです。モリィに合うと思うけど、好きなのを選んで」

 シファは可愛い少女趣味の服をテーブルに並べた。

 アディスがベッドから降りて、セーラの身体に宛がって見繕う。

 可愛いモリィに似合う、可愛い赤ずきんのようなワンピースを選んだ。彼は赤い服の女の子が好みのようだ。

「今日はレンファと出かけてきますから、待っていて下さいね」

「出かけるんですか?」

「午前中だけ、犯人捜しとか色々。お昼には戻ってきますから、一緒に何か食べましょう。それまではシファ達と一緒にいなさい。

 シファ、モリィが可愛いからと、元の姿に戻れと頼んだりはしないこと」

 釘を刺されたシファは、ぎくりと身体を強張らせる。

「やっぱり考えていましたね。この子は恥ずかしがり屋だから、嫌がる事をお願いするのはやめなさい」

「はぁい」

 アディスはシファを連れて部屋を出る。

 聖良は一人になるとため息をつきながら着替えた。

 酒癖が悪いのか、酔ったふりをしてからかっていたのか。

「…………いつもと一緒か」

 よく考えると、変わらない。

 アディスはどこまでもアディス。

 良いのか悪いのか、聖良がすっかり慣れてしまったいつものアディスである。

「でも、レンファさんと何するんだろう? 犯人捜しの協力?」

 呟いて、どうせろくでもないから知らない方が良いと切り捨てた。






「カンナが欲しいの? カンナって、木を削るカンナ? 一体何に使うの? 危ないよ?」

 朝食を食べ終えると、聖良に欲しいものはないかと聞くので、今欲しいものを口にしたら驚かれた。ロゼは心配して何に使うのかとしつこく聞いてきた。

 何に使うのかと言われても、説明がしにくい。

「うーん。削るんです。食べ物を」

「削るならナイフじゃだめなの?」

「木みたいに堅いんです。堅くなる予定なんです」

 削り節のために、削る道具を探していたのだ。

「カンナをひっくり返した感じで、下の箱にくずがたまるようなの」

「…………」

 二人は顔を見合わせる。

「プロに任せよう」

「そうね。おじさんの所なら近いし」

 ということで、シファとロゼは聖良を連れて外に出た。

 バーのマスターは寝ているので、静かに物音を立てないように。

 二人が両側から手を握り、お姉ちゃんたちに面倒を見てもらっている子供のように仲良く歩く。

「どこに行くんですか?」

 二人を交互に見上げると、にっこりと微笑んで答えてくれた。

「道具屋さん。器用だから何でも作っちゃうの」

「何でも揃えてくれるし、何でもしてくれるわ。例えば、トイレが詰まったら直しに来てくれるの」

 万屋かと納得する。

 彼女達の言う通り、本当に近くで、ごちゃごちゃと何でも売っている店だった。骨董品らしい物も、真新しい家具も、ゴミに見える物体も色々ある。

「アンデおじさぁん、カンナちょうだい」

「はぁ?」

 奥から出てきたひょろりとした無精髭の生えたぼさぼさ頭の中年の男性は、寝ぼけた顔をしていた。店が開いていたのに寝起きとは意味が分からない。

「鉋。木を削る奴」

「はぁ? んなもの、何に使うつもりだ?」

「食材を削るから、綺麗な奴」

「はぁ?」

 聖良は荷物の中から、持ってきた謎の魚の節を見せる。

 煮て、骨を取って、燻製にして天日で乾かすという単純な物だ。一度触った事のある本物に比べると月とすっぽんの出来であるが、それでも懐かしくて美味しい。

「んだこりぁあ」

「魚を燻製にした物です。美味しいんですよ」

 彼は瓶の水で手を洗い、節を手にした。

「確かに硬いな」

「これをうすーく削りたいんです」

 初めてだから勝手が分からず微妙な出来だが、ダシをとるには十分だ。それに今回、醤油にかなり近い物が手に入った。本当はご飯が欲しいのだが、それは我慢して、うどんを作る予定なのだ。

 うどんは学校で作った事があるから、頑張れば出来るはずだ。分量は覚えていないが、何度かやれば出来るはず。

 久々の和食を早く食べたかった。

「ふぅん」

 勝手にナイフで削り、食べて頷く。

「ああ、なんかいいな。うん、美味い」

「お出汁にいいんです。削って、お料理にかけてもアクセントになって美味しいんです」

 手を差し出す二人に、アンデは削って分ける。

「鉋でなくても良いんですが、これを透けるほど薄く削って、下に溜められるような物が欲しいんです。鉋だと調節できたりするからいいかなって」

 この国は木造の建物が多いから、大工は鉋を使っている。もちろん聖良が知っている物とは少し意匠が異なるが、基本は同じだ。

「さすがにそんなもんはないなぁ。

 頭領に頼んでこしらえてもらってくっから、おめぇらはお家で待ってな」

「はーい」

 二人は元気に手をあげて、お店を出る。

 店を出ると両側からしっかりと手をつなぎ、まるで貴重品を輸送する警備員のような雰囲気で、いつものバーに戻る。

 信用がないにもほどがあった。白昼堂々、両手を掴まれて誘拐される事などないはずだ。いくら通りから外れているとはいえ、昼間だからそれなりに人も通る。

 ぺちっ

「あっ」

 頭に、何か……。

「あら、いやだ……」

「帰ったら、すぐに頭洗いましょう」

 両手を握る二人は、聖良の頭を見て気の毒そうな顔をした。

 おそらく、鳥の糞。

 浮かれていた聖良は、自分という存在を自覚して少し泣きそうになった。






 アディスがバーに戻ると最近慣れた匂いがした。

 セーラの好きな魚の匂いだ。

 ユイの用意した木材を使い、燻製器で煙を焚いては外に干しと繰り返して作ったあれの匂い。

「おいしぃ」

 キッチンの方からそんな声が聞こえた。

「いい香りだ。この国でこんな香りは珍しい」

 レンファが匂いを嗅いで呟く。ちょうど昼時。彼も腹が減ったのだろう。

 どうせセーラが何か作ったのだろう思っていたら、勝手にレンファがキッチンに向かったので、渋々アディスがそれを追い抜いて、キッチンを覗いた。知った顔が並んでいる。昼時とはいえ、珍しい。

「何を食べているんですか」

「卵です。はいあーん」

 ロゼがフォークに刺さった卵焼きを差し出したので、口に含んだ。

 いつものよりも色んな味がする。森の中の家よりも調味料の数が多いのだから、当然だが。

 セーラは台に乗って卵を焼いている。

 ボールの中に卵の殻がある。どれだけ焼かされたんだと、彼女の腕が心配になった。木の棒を使って簡単に作っているのが、実に器用で目立つ。

「モリィちゃんは器用ですねぇ」

 セーラは突然声をかけたレンファを見てびくりと震えた。そのあからさまな反応にもめげず、彼はさらに声を掛ける。

 商売で、伴侶やその子供を取り込むのは定跡だ。

「私も一つ頂いてもいいですか?」

 セーラはこくと頷いた。

 皆もいかにも外国人といったレンファに、竜のモリィが警戒心を抱いている姿は違和感がないらしく、温かく見守っている。

「……なんですか、これは」

 舌の確かな彼は、初めて食べるそれに驚いていた。

 セーラは困ったように身を竦める。

 今焼いている卵焼きを仕上げると、アディスに目を向けたまま、木の箱を指さした。

 実物を食べさせて、あとは丸投げである。

 レンファは口に含んで不思議そうな顔をして、再び口に含む。

「魚の燻製でダシを取ったんですよ。

 この前港に行って魚を仕入れて、何かの本で読んだかしりませんが、燻製を作り始めて」

「一体何の魚です。魚の干物や燻製は扱っていますが、こんなものは見た事がありません」

「作り方でしょう。油が少ない赤身の青魚がいいそうです。それが削る前の固まりです。レンファ殿は魚はお好きで?」

「ええ、私は魚好きですよ。基本的に何でも食べてみないと気がすまないタチでして、こういったものは実に……」

 彼はそこで言葉を切り、

「って、ファシャ、何を一人で食べまくっている」

 レンファが無言で燻製を食べているファシャに母国語で突っ込んだ。

「いや、癖になる味で」

「確かに。これはどこに売ってるんですか? 一度も見た事がないのですが」

 よほど気に入ったらしい。

「売ってませんよ。モリィの手作りですから」

「ではどうやって作るのですか?」

「煮て燻して干すだけです」

 アディスがしたのは火の番だけで、実際にはよく分からない。

 魚を木のようになるまで燻し、苦労をして削る意味が理解できなかったのだが、彼らは気に入ったらしい。

「モリィちゃんは、やはりセーラさんに似ていますね」

 なぜ魚一つでそこまで行き着くのか、この男の頭の中身を取り出してみたかった。

 当のセーラは方向転換しようとして乗っていた台から足を踏み外し、倒れそうになって隣にあったテーブルに手をつこうとして空振りした。

 そしてテーブルに頭を打って倒れた。

 日常によくありがちな、一瞬の出来事だった。

「ちょっ」

 突然のドジっぷりに側にいたレンファが慌てて抱き起こし、

「顔に傷っ!」

 焦った様子でハンカチで顔をふく。

 それで焦ったのはアディスも同じ。痛いぐらいならいつものことで、撫でてやればいいだけだが、血が出るのはまずい。

「医者に連れて行きます」

 気付かれる前に抱き上げようとしたが、レンファがそれを止める。

「待ってください。頭を打った時はすぐに動かしてはいけません。様子を見ます」

 彼は有無を言わせぬ強い口調で言い、手足を叩いて気絶しているセーラの様子を見る。

 正論だ。間違っていない判断だが、この場合は間違っている。

 さっさと抱き上げて隠すべきだが、人が多すぎて進めない。

「レンファ様、傷、治ってますが」

 ファシャが気付いてしまった。

「は?」

「すっ、と治りましたよ」

 レンファはハンカチで完全に血を拭い、傷跡がないのを確認した。


 ──終わった。


 頭を抱えるのを我慢して、どうすべきか考える。

 当の本人が目を回しているのが一番の問題だ。いや、今起きた。

 セーラはきょとんと可愛らしい仕草でレンファを見た。

「青の箱庭は竜を飼っていると噂を聞きましたが、まさかこの子が……」

 耳が早すぎる。そんな噂まで知っているなど、彼らはどこまで噂を収拾しているのかと、脅威を感じた。

 取引はしたいが、聡い者は厄介でもある。

 起き抜けに突然の言葉。セーラは顔を引きつらせ、半泣きになっている。可愛くて、抱きしめて慰めたい。

 セーラは起き上がり、泣きながらアディスの元へと走ってきた。

 こういう時は素直で可愛い。

「やっぱり何だかんだ言って、アーネス様に一番懐いてるのね」

 シファが肩を落として呟く。

 懐いているのではなく、混乱しただけである。

 それを自覚しながら、しがみついてくる彼女を抱き上げた。

「よしよし。私が付いているから大丈夫ですよ、モリィ。悪い人間は私がすべて排除しますから」

 ぎゅっとしがみついてくるセーラは、子供のようで可愛い。

 賢い彼女の事だから、わざと子供っぽく装っているのだ。セーラを知られている以上、大人びた仕草は絶対にまずい。

「ああ、怯えさせてしまいましたか。

 私達は食材は扱っても、生き物は扱っていないので安心して下さい」

 とても安心できる言葉ではない。

「レンファ様、それではまるで食料にするようですよ」

 ファシャの言葉で彼ははっとして首を振った。

「いやいやいや、我が国には、人語を解する生き物を食らってはならないという決まりがあります」

 なぜ食べることに直結しているのだろうか。確かに竜の子供の血を飲むのは人々の憧れだが、アーネスが保護している以上、その価値はないと予想できる竜である。

「なぜですか?」

「我が国には言葉を話す熊や狼がいまして、彼らは時に知恵を与えてくれる良き友人です」

 疑問とは違う事を答えてくれた。

「中には人の姿に化けるほどの力を持つ獣人もいて、彼らを決して傷つけてはいけないというのは我が国の常識です。必要以上に恨まれるような危険な物には手を出さない。商人の鉄則です」

 最後のが本音らしい。

 損得勘定で動く人間は、分かりやすく、力がある相手を裏切る事がないからやりやすい。

「申し訳ありません、この方は食べる事ばかりで。

 そうだお嬢さん、食べる物といえば珍しいお菓子などいかがですか。ここらでは売っていない美味くてとろけるようなお菓子ですよ」

 ファシァが差し出した美味しそうには見えない黒い物体を見て、セーラは好奇心を刺激されたのか受け取って囓る。

「やっぱりチョコレート!」

 セーラが満面の笑みを浮かべた。

 モリィの時にこれほどまで笑った姿を見た事がなかった。しかもこんなに至近距離で。

「食べた事があったんですか? 一体どちらで……」

「この子自身の体験ではないので、そこまでは分かりません。ただ、美味しい物に関しては記憶が強いようです」

 一人で食べてしまうかと思ったが、視線が気になるのか最後の一口を差し出した。

「甘くて美味しいです」

 セーラが差し出すので口を開くと、中に投げ込まれた。

 確かに甘くて美味しい。今まで食べた事のない美味しい菓子だ。

「クリーミーで美味しい。大好き」

 幸せそうなセーラは見ているだけで幸せだ。実に幸せな気分させてくれる菓子である。

「アーネス様だけずるぅい」

 甘い物が好きなロゼが唇を尖らせた。

「まだありますよ。お嬢さん方だけ、どうぞ。我が国でも高価なものですから、よく味わって下さいね」

「はーい」

 少女二人は菓子をもらってはしゃいだ。

「おいしーい! なにこれっ」

「口の中でとけるっ」

 幸せそうに頬に手を当てる二人。

 ファシャは満足そうだ。

「モリィちゃんがチョコレートを知っているとは思いませんでした。今度は加工した菓子をお持ちいたしましょう」

 セーラはこくこくと頷く。アディスはセーラのためならいつでも飛ぶつもりではあるが、彼女はいつどうやって受け取るつもりなのだろうかと疑問に思った。

「チョコレートはケーキに混ぜても美味しいです」

 セーラは食べ物のこととなると人が変わる時がある。

 とくに生まれた国で食べたことのあるものに近い物を口にすると、饒舌になる。

「やはり女の子は甘い物が好きなのですね。どこの国でも同じです。

 そのうちチョコレートと言わず、世界各国の甘味をごちそういたしましょう。私も甘い物は大好きです」

 レンファがセーラを誘惑しながら、してやったりと笑みを浮かべる。

 彼には余計な情報を与えすぎてしまった。

 構成員達を養うためには、新しい事をしていかなければならず、貿易に乗り遅れる事だけは避けたいため、彼らを切る事は出来ない。だからこそ、あの犯人を捜す手配をするついでに、彼らの望む人材と引き合わせてきたのだ。異様によくできた似顔絵を配ったので、すぐに捕まるだろう。それに関してはジェロンに任せていた。彼は今もその関係で動いているはずだ。

 ため息をついて今後どうするか考えていると、厨房に新しく人が入ってきた。

「あら、いい匂い。モリィが何か作ってるのね、何食べてるの?」

 派手な女装男、フレアだった。

 彼には何も言っていないが、ここに来る予想を立てるのは容易い。店番もいたはずだが、仲違いをやめてしまえば、魔術師としては優秀なのでここまで通してしまったらしい。

 かつて誘拐騒動を起こした本人だが、長であるアーネスが普通に話をしていたのだから警戒を緩めても仕方がない。

「あら……お客さま?」

「おや、セーラさんといっしょにいた少年?」

 レンファが首をかしげた。

 フレアはレンファの声に気づいて硬直する。

「いったいなぜこんな所に……そんな格好で」

 商人の目とは恐ろしい。騙されぬように人を見る目があるのは当然だが、ほとんど別人に化けた相手を、いつもうつむいて顔を隠している男と結びつけるなど、驚異の観察力だ。

 セーラと同じで、小柄だから顔がよく見えたという可能性もあるが。

 エリオットも幸運の持ち主というわけではない、むしろ実の兄がアレで、育ての兄がコレなのだから、あまり運が良い方ではない。

 運のない人間が集まると、こうも連鎖的に不都合が重なるのか。

 それは家に帰ったらセーラとロヴァンを抱えてアルテあたりに愚痴ることにする。小さな子と動物は実に癒し系だ。

「お、おじゃましました」

「待ちなさい」

 出て行こうとするのを引き留める。

 ここで帰ってはよけいにややこしくなってしまう。

「彼は半悪魔のフレア。趣味は変装と魔術。この国で一番魔力の強い魔術師です。兄はこの国でハーネスと並ぶ都市伝説的な魔術師、通称『人形師』。これからは見かけても胸に秘めておいた方が身のためです」

 フレアが頷いて、先ほどの狼狽を見事に隠し、微笑んだ。

「そうね。あなたは小さくて可愛らしいから気をつけた方がいいわ。お兄さまは私の言う事なんて聞かないの。彼の事は怪奇現象のような物だと思っていた方がいいわね。近寄らないのが一番」

 レンファの頬が引きつった。

 フレアを見ていると、人形師について誤解するのも当然だ。レンファはもっと幼い頃はアディス好みの可愛い少年だっただろうが、今は小柄でも大人なので、興味もない。人形師もそうだろう。もっと少女のように可憐な美少年ならともかく。

「ところでアーネス様、いつまで厨房に? 手伝ってくれるお嬢さんだけならともかく、こうも人が多くては準備も出来ず困るのですが」

 バーのマスターの言葉で、場所を移動しようということになった。



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