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伝説の老騎士、アイドルVtuberになる。  作者: 東出八附子
第2部 紅蓮

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79話 その女神に嵌める枷は無い


―― ルルーファ・ルーファ ――


「――簡素な報告になるが状況は以上だ。詳細はここから聞き出していく」

『ウチの無能がとんだご迷惑を』

「もう怒っていないよ。彼も責務を果たしたまでだ。それに、いい大人なのだから、余分に叱ったところで屈辱を覚えるだけだろうて」


 乱入してきたリンと公安の男へ説教を入れ、簡単に現状把握を済ませた俺は、仕入れた情報を通話で慧悟に共有していた。


『これから団長の元に向かいます。それまでは基本待機で』

了解(アイ・ヨゥ)。このまま繋げておく。何か指示があれば改めて連絡してくれ」

了解(アイ・ヨゥ)


 自前のスマホをキッチンのカウンターの上に置く。そして改めて室内の現状へと向き直った。

 テーブルの上にはリンが携行していたアイテムの数々が並んでいる。所持していた武器や連絡用の端末。そして任務の目的だったであろう二振りの小瓶と、カード型のデータ記憶装置である。

 この怪しげな小瓶とデータの中身なのだが……スーツの男いわく、小瓶はとある病の特効薬――その試作品。そしてデータは、その試作品の臨床試験の統計データや被験者のカルテが収められているとの話だ。

 リンはその目標物を奪取する任務を遂行していたが、見事に失敗。公安に追われて現状に至る。


「ルルーファ・ルーファ。彼女の所有物に関して、あんたには関係ない代物と分かっただろう。もう回収させてもらうぞ」

「断る。俺にとって本当に価値の無いことが証明されるまでは手を出さないでほしい。それに、ざっくりとした中身だけを聞けば、公安警察とやらの君にも関係ない話だと思うがね。とても彼女の命を奪う必要のある、国家存亡を脅かすような代物には見えない。()()()()()()、だが」


 彼はチッ、と不快そうに舌打ちをした。事が上手く進まないから苛つく気持ちは分かるが、こちとら一応は一般市民なのだから、まろやか態度で接してほしいところもんだ。

 一方のリンは、窓際の壁にもたれかかり、うずくまったまま動こうとしなかった。組織からの介入に怯えているようだ。主に視覚外からの狙撃から、だな。


「クッソ……何でこの女の家に逃げ込んだんだよ、このスパイさんはよぉ……こうなる結果が分かってただろうが」

「まあまあ。そいつは追い追い解明していくとしよう。公安の君。ええと……」

九頭竜(くずりゅう)(ひろし)

「ではヒロシと呼ばせてもらう。君がこの品々に固執する理由、聞かせてもらおうか」

「説明の義務はない」

「私生活を荒らされているのだぞ。俺は頭にきているんだ。国民を納得させる説明を行うのも責務のひとつだと思うのだが。あんまり強情だと、出るところまで出ちまうぞ」

「……大した国民サマだよ。あんたの場合、こういう我が儘を押し通せちまうから厄介だぜ……」


 彼は大げさにため息をついた。

 

「大物なのか、現実が分かってないのか……漫画を読んでいて思ったけど、あんた本当に変わりもんだよ。もういい、なるようになれだ。聞いて後悔するなよ」

 

 ヒロシは頭をばりばりと掻きむしった。腹を括ってくれたようだ。


「そのテーブルの上にあるブツの説明の前に、その女の素性を説明する必要がある」

「よろしく頼む」

「その女は非承認国家『天結(てんゆい)』の傭兵・諜報機関『(クォン)』の一員だ。非承認国家の意味は分かるか? 日本が認めていない国って意味だ。この国の場合は世界各国から認められていないがね」

「てんゆい? こーん? 後者はともかく、前者は国の名前なんだろう? 非承認国家を含め、国名は全部覚えたつもりだが。聞かない名前だ」

「当然だ。国から厳しい検閲がかけられている。一般市民には絶対に降りない情報だよ。

 本州から1800キロ離れた日本国の最東端『南鳥島』と、あの太平洋戦争で有名になった『ミッドウェー島』の中間あたりに位置する島を本国としている。地図にも載っていない。おまけに海上輸送ルートからも外れた位置にある、まさに秘匿された島だ」

「なるほど。()()()国家だな」

「建国はおよそ140年前、日清戦争の時代と聞かされている。国土は伊豆諸島などの島々とそう変わらんな。その中に人口およそ2000人が住んでいるらしい。

 基本的な情報はこんなところか。ここまではありきたりな国だ。問題は彼らの産業――収入源だな」

「悪いことをしとるのか」

「悪いも悪い。海上輸送船への海賊行為。武器・兵器・違法薬物の製造流通。各国への諜報活動・恐喝行為に人身売買……儲かるなら倫理抜きで何でもやりやがる悪人の聖地。よりどりみどりの悪行スーパーマーケットだ」

「2000程度の規模の悪党なら、軍で追い払ってしまえばよかろ? アメリカ(お隣さん)の軍なら楽勝だろうに」

「そんな簡単なら140年も長生きしてねえ。奴らはプロのテロリスト集団なんだよ。『(クォン)』が本気を出せば、アメリカの首都ワシントンDCやニューヨークのマンハッタン島は1週間も保たん」


 大げさな話ではないか? とリンへ視線を送ると、彼女はおどける様子もなく頷いた。ヒロシの過大評価では無さそうだな。

 さてさて。話が見えてきたぞ。


「その悪の組織が狙っとるということは……この小瓶とデータ、なかなかに()()代物か」

「御名答。お前がこの世界に来る前――すまん、正式名称を忘れちまった……とにかく、やたら長い名前で致死率の高い流行り病があってな。近年、その特効薬が日本で開発され、製法が世界各国へ流通したのを知っているか?」

「一般常識の問題集にあったな。その特効薬により、その病の治療期間と致死率は大幅に減少。特に日本での致死率は流通前と比較すると99%減になったと日本政府が発表している」

「おかげさまで日本は称賛の嵐だ。副作用皆無な夢の特効薬。同時に特許料だけでも遊んで暮らせる金のなる木だ。だが世の中そう上手い話は無い」

「データでも改ざんしたか」

「話が早くて助かるよ。大量の臨床試験のデータが隠蔽(いんぺい)されている。

 臨床段階では副作用による致死率が0.5%となっているが……実際にはもっと高い。海外から非難の集中砲火が免れない程度には被験者が死亡している。その副作用を消した完成品が、いま流通している特効薬の正体だ。

 隠蔽を指示したのは、開発を担当していた大学病院の院長。そして当時施策を推し進めていたとある国会議員だ。名前は伏せるぞ。警察も迂闊に手が出せない大物だ」

「それどころか協力関係だな?」


 俺の問いに対し、ヒロシは無言だった。


「まあ、君は職務を全うしているだけみたいだし。正義のあり方とか、そういう小難しい話は置いておこう。

 そのデータと小瓶をリンが狙った理由は想像がつく。金だな。隠蔽を行ったという証拠を手に入れ、院長と議員から金を強請(ゆす)ろうとしたな? どうなんだ、リン?」


 話を振られたリンは、力なく首を横に振った。

 

「私は任務に従っただけです。目的は聞かされていない」

「余計なことは知らなくていい――ニードトゥノウの原則というやつか。では一先ず仮定の理由付けとさせてもらおう」

「この作戦が成功すれば天結の奴らは議員を通じて国家予算の一部を手に入れられる。薬品のデータを解析すれば、特効薬の類似品や、毒物の開発にも期待ができる。奴らも諜報部隊を差し出すくらいには躍起(やっき)になった。で、失敗してこのザマってワケ。失敗した諜報員がどうなるか知らねえけど、ロクな目に合わないんじゃねえのかね。

 こいつらが天結に渡った先の行く末は想像つくよな? 金だけの問題じゃない。こいつらが公表されれば、安心と信頼のメイド・イン・ジャパンの価値は大きく低下し、日本の国際的地位は大きく下がる。そんでもって国内の政治にも、海外との経済にも大打撃。日本大混乱のはじまりだよ。

 そのブツの価値は理解できたか? 俺に預けてもらえるよな? 下手な考えは止めておいたほうがいいぞ。あんたの会社など、あの議員サマにかかれば無事では済まない」


 手を差し伸べるヒロシに対し、俺は手のひらを突き出して答えた。つまり、まだ渡せない、の意である。


「おいおい。あんた、こういう大人の話は得意なんだろ?」

「価値は理解した。だが友人の命がかかっている状況では、まだ届かんな」

「友人?」

「リンに決まっているだろうが」

「えっ!?」


 名前を呼ばれたリンは素っ頓狂な声を上げた。


「まだ私、貴女の友人なんですか!? 私の事情に巻き込んでしまったのに!?」

「そうやって君が俺に罪の意識を感じている以上、これ以上は君を邪険に扱えないよ。出来るだけのことはする」

「バカかよ!? もう友情ゴッコが通用する世界じゃねえ! あんた議員を――政府を敵に回す気か!? ろくに外も歩けなくなるぞ!?」

「死人に口無しという言葉を知らんのか」

「………………」


 このひと言で、ヒロシは自身の言葉を失った。俺の発言の意図を汲み取ってくれたようで何よりだ。

 要するに、ガタガタぬかしてると物理的にぶっ殺すぞ、という意味合いである。


「安心しろ。敵対しない限りは危害を加えんし、データとカルテを奴らへ譲渡する結末は絶対に選ばんと誓う。経済への打撃は俺の職務にもダメージを負うからな」

「しかし、そのスパイの無事を確保するってのは茨の道すぎんだろ……考えはあるのかよ」

「そりゃあ君。リンがいま一番懸念しているのは、組織からの介入だ。であれば、一番手っ取り早い方法を使う」


 と発言した直後、リンが所持していた携帯端末のバイブ音が響いた。ナイスタイミング。

 

「その組織への直訴だよ」


 おそらく定期連絡の類だろう。俺はこいつを待っていたのだ。

 

「リン。その通信、俺に取り次ぎ願えるかな?」


 リンは戸惑った表情で俺を見上げるばかりだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ルルから暴の香りがするとドキドキしますね! さて、ルルを警戒したって事は非承認国家は声の力を知っていそうだけどどうなる!?
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