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俺が死んでも世界は回る  作者: もちもち物質
第一章:怪物と騎士~A fate worse than DEATH~
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16話

 朝食後、宿を出て2人は歩き始める。

 だが、歩く道は街道ではなく、街道を逸れた森の中である。

 歩きづらいことも手伝って、自然とジェットの口数は減り、オーガスの口数は増えた。要は、2人とも、機嫌が悪くなっていった。

「徒歩にはそろそろうんざりだ。全く……金があれば馬を調達できるんだがな」

「金があればな」

 無いものはどうしようもない。それに、今回ばかりは徒歩の方が都合がいい。

「まあ、向こうから寄ってくるのを待つには徒歩の方がいい」

 盗賊と遭遇するかどうかで今晩の宿をどうするかが変わってくるのだから。


「おい、盗賊とやらは本当に出てくるんだろうな?」

「出てくるだろうな。貴族を含む2人旅だから、相手からすればカモに見えるだろう」

 ジェットの読みでは、まず間違いなく1度は盗賊と行き会う。

 治安がそれほど良くないソルティナ近辺で、かつ、街道を外れてたった2人。それもその内1人は身綺麗な人間とくれば、狙いやすい相手だろう。

「本当なら、あんたが女ならもっと狙われやすかったんだが」

「無茶を言うな」

 実際、ジェットは以前、貴族の令嬢の護衛の仕事を請け負った事もあった。その時は出るわ出るわ、こんなにどうして出てくるのかという程、盗賊に襲われたものだ。尤も、大抵はジェットが殺しても死なない化け物であることを知るや否や逃げていくので楽な仕事だったが。(更に言えば、目的地に着いた途端、貴族の令嬢にも逃げられた)

「とりあえず、歩くぞ。歩かないことには宿にも着かない」

「分かっているとも。ああ。宿に着いても宿を取れない可能性があることも、な!」

 オーガスはどちらかと言えば後者を心配していた。何せ彼は、金銭面で苦労したことの無い貴族だ。今まで出会ったことの無い不安を前に、戸惑いも大きい。

 ジェットはその点、金が無ければ無いなりに野営するなり狩りをするなりしてなんとか暮らせる、と割り切れるのだが。




 だが、結局のところ、そんな心配は必要無かったらしい。

「……まあ、こんなもんだ」

 宿を出てから歩き続けて数時間。日が空の頂点に達する頃、2人の目の前には数名、盗賊らしい人影が立ちはだかったのである。


「ほう。ようやくお出ましか。随分と待たせてくれたな」

 盗賊達は、2人を前にして怯んだ。何せ2人は、自分達に怯えるどころか、何故か表情を綻ばせて剣を抜いているのだから。

 だが、相手はたったの2人、と考えたのだろう。実際、盗賊達は全部で8名。2人を相手にするならば、十分勝てる戦いだ。

 盗賊達は互いに目を合わせ、そして、一斉にジェット達に襲い掛かっていった。

 ……8対2なら、普通は勝てる。

 そう。普通は。

 その2人が、魔法剣の使い手であったり、不死身の化け物であったりしなければ。




「何だ、他愛も無い」

 数分もすれば、盗賊達は致命傷に遠いながらも傷を負わされ、オーガスとジェットに見下ろされることになっていた。

「盗賊の本業は戦いじゃない。戦うにしろ、奇襲、不意打ちが得意分野だからな、面と向かって戦いに来た相手と戦えるかはまた別の話だ」

 盗賊の手ごたえの無さはともあれ、これで盗賊を捕らえることができた。

 あとは本拠地の場所を吐かせて制圧すればいい。

「さて、私達は貴様ら盗賊風情の命に興味はない。捨て置いてもいいが、別に殺してしまっても構わん。死にたくなければ根城の場所を吐け」

 そして相手は烏合の衆、元より寄せ集めの盗賊連中に忠誠心があるわけもなく、連帯感も薄く。

 ……それほど時間もかからずに、本拠地であるらしい場所を聞き出すことに成功したのだった。




「ここか」

「は、はい」

 そうして辿り着いたのは森の中、一軒佇む家屋であった。いっそ廃屋めいた外観ではあるが、一応は補修が施されている。住むのに支障は無い程度にはなっているのだろう。

 実際、人が住んでいる形跡も所々に見受けられる。ここが盗賊の本拠地ということで間違いないだろう。

「そうか、なら貴様は用済みだ。失せろ」

 案内の為に連れてきた盗賊をその場で逃がせば、盗賊は脱兎の勢いで消えていった。

「……さて。このまま突入するか?」

「そうだな。あんたは正面から入って、適当に口上でも述べておいてくれ。俺は頃合いを見て裏の窓から入る」

「つまり私に囮になれと?それは貴様の役目ではないのか」

「そんなに鎧を着込んでおいて、窓から入ったり身軽に動いたりできるとは思えないが。それにあんたの方が口数は多いだろう。巧く盗賊を引きつけておいてくれ」

 オーガスは何か言いたげに口を開いたが、ジェットが動き出したのを見て仕方なく、玄関へと向かったのだった。


「出てこい、盗賊共!」

 馬鹿らしい、と思いつつも、オーガスは玄関の扉を開くと、律儀に声を張り上げた。

 当然、反応はある。隠れようとする者もあり、逃げようとするものもあり。

「何だ何だ、いやに騒々しいじゃねえか」

 そして、やはり律儀に出てくる者もある。

 出てきた者は、格好こそ盗賊に相応しい粗末な服であったが、油断なくオーガスと相対する立ち居振る舞いは、手練の戦士のそれである。

 ……傭兵崩れか、はたまた、どこぞの騎士か何かが身を持ち崩して盗賊に落ちぶれたか。

 どちらにせよ、恐らく、強い。自信を持ってオーガスの前に出てこられるだけのことはある。

「で、何の用だ?俺達の仲間になりに来たってえなら、考えてやってもいいぜ。床にへばりつくように頭を下げるんなら、な」

 相手を侮辱するような物言いも、自信に裏付けられたものなのだろう。

「はっ。戯け。誰が貴様のように落ちぶれるものか。貴様こそ、今ここで跪いて命乞いするならば助けてやらんこともないが?」

 だが、戦えば勝てる。そうオーガスは判断した。少なくとも、魔法剣を使える分、こちらに利がある、と。

 ……だが、まだ戦わない。時間を稼げ、とジェットが言っていたからだ。オーガスとしては、ジェットの指示に従うのは癪だ。しかし指示を放り出すほど愚かでもない。

「へえ。俺達を殺そうってえのか」

「私は貴様らに正義の裁きを下しに来たのだ。貴様が裁かれるような事をしてきたのであれば、死ぬのもやむを得んだろうな」

 親玉の後ろで、下っ端達が何か、コソコソと動いているのがオーガスにも見えていた。どうやら時間を稼ぎたいのはお互い様らしい。

 なら、あとはジェット次第であるが……このまままんまと時間を稼がれるのもうまくない。下手をすればオーガスが劣勢になりかねない。

「さて。貴様らは今まで、悪行を重ねてきたのだろう?なら、いつかはこうなるということも分かっていたはずだな?」

 オーガスは牽制の意を込めて、剣を抜く。

「さて、ね。俺達よりあくどい事してる連中だって、ごまんと居るぜ。そいつらはどうなんだ?」

「時が来れば裁かれるだろうよ。そして貴様は命運が尽きた、というだけの話だ」

「へえ。そうかい」

 相手も、剣を抜いた。

 その剣が盗賊の粗末な服に似合わぬ業物であることに、オーガスは少しばかり、憐憫を覚えた。落ちぶれても尚、剣を手放せなかったのだろう。その気持ちはオーガスにも理解できる。剣士にとって、剣とはそういうものなのだから。

「じゃあ先にあんたの命が尽きればいいよなあ!」

 だが、遂に襲い掛かってきた盗賊達に憐憫など必要ないだろう。

 恐らく、盗賊にならない道も、選ぼうと思えば選べたはずなのだから。

「ほう。やれるものならやってみろ!」

 オーガスは遠慮なく、魔法剣の構えを取った。




 一方、ジェットは窓から室内に侵入した。

 窓の近くに居た見張りの盗賊にナイフで心臓を刺されて油断させたところで、相手の首を絞めて気絶させる。

 他の盗賊達はオーガスへの対応に追われているらしく、見張りを掻い潜って内部へ侵入した者が居るとは思っていないらしい。

 おかげでジェットは、悠々と室内を荒らすことができた。

 金品の類は放っておく。硬貨の類はそのまま適当な皮袋へ。食料には手を付けない。

 途中で盗賊に見つかれば、1人ずつ絞め落とす。大抵は一回刺されるなり斬られるなりして、油断させておいてから襲い掛かればなんとかなった。それで何ともならなければ、致命傷にならない程度に斬りつけて動きを止めてから首を絞めた。


 そうこうしている内に、表では剣戟の音が響き始める。戦い始めたらしい。となれば、これ以上あまり長くはかけられない。

 玄関へ向かおうとしたジェットは、しかし、部屋の片隅の壁に『それ』を見つけて、奇妙に思った。

 名は忘れたが、何処かの貴族の旗印だ。

 ただし、刃物で切ったのか、破れ目が見える。洗って手入れをした形跡は見られるが、落としきれなかったのだろう血の染みが、うっすらと残っていた。

 飾るようなものでもないはずだ。余程、この紋章に愛着でも無い限り。


 ……嫌な予感がして、ジェットは近くにあった机を退け、そこの床を調べた。ジェットはこういう時、何故か勘が冴える。

 そしてその勘は見事、的中した。

 妙に緩い床板を外せば、その下に地下室があったのである。

「……だ、れ?」

 ジェットが覗き込んだ先、狭い地下室の中には、どこか虚ろな瞳をした女が1人、座り込んでいた。


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