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俺が死んでも世界は回る  作者: もちもち物質
第三章:流星を追う者~Nostalgism~
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20話

 4人揃っての夕食となってしまったことはオーガスにとって不本意であったが、ひとまず、監視されているかのような違和感は消えた。

 またしてもカウンターではなく卓に案内され、不本意極まりない食事を摂りつつ、考える。

 あの気配は一体、何だったのか、と。そもそも、本当に気配など在ったのだろうか、と。

「……疲れ、か?」

 そう呟いて、オーガスは眉間に皺を寄せた。

 実際、疲労は着実に溜まってきている。だが、その程度でどうこうするような軟な精神は持ち合わせていない、という自負もあるのだ。

 精神攻撃の後遺症なのか、それとも……。

「ん?なにか言ったかい?」

「いや。何も」

 オーガスの呟きを耳聡く聞きつけたらしいリリアナが覗き込んできたが、オーガスは何も言わず、食事を再開することにした。

 共に食事を摂る面子が面子とはいえ、出される食事自体はそれなりに真っ当なものであったので。

 ……そんなオーガスを、ジェットはちら、と見て、それからまた、食事に集中し始めた。




 食事を終えて部屋に戻ると、もう先程の違和感は無かった。安堵しながら簡単に身繕いし、さっさと寝てしまうことにする。

 荷物の確認をし、剣をいつでも抜ける位置に置き、湯を沸かして簡単に体を拭いてから寝床に潜りこみ。

 ……丁度その時、部屋の戸が叩かれた。

「……何だ」

 間の悪い来客に苛立ちつつ戸を開けると、そこに立っていたのはジェットであった。

「いや……」

 更にジェットは、要件をすぐに言わない。言えないような要件があるとも思い難いが、ジェットの方から特に用も無く訪ねてくるというのも珍しい。

 オーガスが不審に思っていると、ジェットはやがて、切り出した。

「妙な視線を感じる」

「……は」

「もしかしたら俺の頭がおかしくなってるのかもしれないが。部屋に一人で居ると、誰かに監視されているような気がする」

 弁明するようにそう言うジェットは、成程、『自分の頭がおかしくなった』可能性を十分に見ているらしい。だとすれば、オーガスに笑い飛ばされるか呆れられるか、はたまた嫌悪されるかするのを望んで来たのか。

「そうか。食事前、私もそれを感じた」

 だが、オーガスが素直にそう返してやれば、ジェットは少々目を見開いた。

「あんたも、か」

「下手に口に出せば邪道聖女と老人とが煩いか、とも思ったが。お前も同じことを感じているなら、多少の時間と労力とを割く価値はあるだろう。……我々が2人とも狂っている可能性もあるがな」

 オーガスのさらなる言葉にジェットはいよいよ驚いたような顔をしたが、ひとまず促され、リリアナとワイルマンを訪ねることにした。




「はーい」

 ワイルマンの部屋の戸をノックすれば、のんびりとした声と共に、ワイルマンが出てくる。

「あれ。どしたの、ジェット君にオーガス君に、2人もそろって。あ、寂しい?一緒に寝る?」

「この戯けが」

 戸を開けて数秒でこのやりとりである。オーガスは苛立ちつつも一旦それを堪え、ワイルマンに事情を説明することにした。


「はー、成程。監視されてるみたいな気がする、と」

「俺1人なら、単に頭がおかしくなったんだろうと思うところだが……」

「私も同様の気配を感じているからな。ジェットの正気は少々不確かだが、私の正気は確かだ。なら、何者かが我々を狙っていると見てもよかろう」

 一通りの説明が終わると、ふんふん、とワイルマンは頷き……それから首を傾げて、尋ねた。

「お二人さんは、監視される覚え、ある?」

「無い」

「無いな」

「だよねえ。監視されるとしたら、多分、儂か、リリアナちゃんだと思うのよ」

 暗に、ジェットとオーガスには監視される理由および価値が無い、と言われているように感じ、オーガスは顔を顰めた。だが、ワイルマンの言う通りかもしれない。

 少なくとも、リリアナとワイルマンは、勇者が監視する理由がある。リリアナは邪道とはいえ聖女であり、ワイルマンは言わずもがなだ。

 そして同時に、魔王側が狙う理由としても、十分なように思える。特に、ここが『魔王の卵』の根城の近辺だというのであれば、尚更。

「でも、変な気配はそんなに感じないんだけどねえ……よっぽど、隠れるのが上手なのかしらねー」

 ワイルマンはきょろきょろ、と室内を見回し、それから、窓へと近寄った。

 窓を開け、外を眺めまわし、しかし大した成果が得られるはずもない。何せ、外は既に夜の帳に覆われている。こう暗くては、碌に何も見えないだろう。

 ……だが。

「特に魔力もおかしくな……あらららっ!」

 ワイルマンは驚きの声を上げた。

 その腕には、窓の外から伸びた触手が絡みついている。

 ジェットもオーガスもぎょっとしたが、反応が数瞬、遅かった。

「あらららら……あ、ちょ、あーん、助けてー」

 ワイルマンは触手にそのまま引きずられ、窓の外へと落下していったのである。




「ワイルマン!くそ、杖を持たずに落ちたか!」

「俺が行く。オーガスはリリアナの方を!」

 ジェットがワイルマンの杖を手に、ワイルマンを追って窓の外へと身を投げる。

 窓の外から、ぐしゃ、と、嫌な音が聞こえたが、オーガスはそれを聞かなかった事にして廊下へと引き返す。

 そして、一直線にリリアナの部屋を目指した。




 ジェットはワイルマンを追って勢いよく窓の外に飛び出し、そして、着地と同時に脚の骨を折った。打ちどころが悪かったらしい。つくづく、運が無い。

 だが、折れた脚を無理矢理動かして、ワイルマンを追う。痛み止めは昼間に飲んだ分が未だ、切れずに残っている。問題はないだろう。

 ずるずる、と何かが這うような音が聞こえるので、夜目がそれほど利かずとも追うのに支障はなかった。

 触手は宿から離れ、宿場町の外れへと向かっている。町を出ると厄介だな、と、ジェットは唇を噛んだ。残念ながら、不死であっても脚力は凡人のそれである。脚が再生したところで、超人的な走行ができるわけでもない。追うにしろ、いつまでこの速度で追えるか。

 ……なのでジェットは、賭けに出た。

「爺さん!居るか!?」

 声を張れば、魔物がジェットに気付く。すかさず触手らしきものの攻撃が飛んできた。ジェットは剣でなんとか触手を斬り払って、ワイルマンの返事を待つ。

「あ、ジェット君?儂はここよー」

 すると、存外にのんびりとした調子の返事があった。

 ワイルマンが返事をできない状態になっていることを覚悟していたジェットとしては、むしろ拍子抜けする程である。

「杖を持ってきた!杖さえあれば、あんた、なんとかできるか?」

「おおー、気が利くじゃないの、ジェット君。うんうん。何とでもできるよ、杖さえあれば」

 更に返ってきた明るい返事に、ジェットは安堵し……しかし。

「問題は、どうやって儂のとこまで杖、持ってきてもらうかなんだけどー……」

 その時、雲が途切れて月が顔を出した。明るい月の光に照らされ、ようやく、ジェットにも触手の魔物の姿が見える。


 それは、人間の手足だった。或いは臓物。或いは目玉。

 そういったものを寄せ集め、1つの巨大な塊にしたような異形の魔物が、頭上に高々とワイルマンを掲げていたのである。

 赤黒くてらてら光る、血管を膨れ上がらせたような触手が、ジェット目掛けて襲いかかった。


 ジェットは触手を斬り払って、魔物から距離を取る。片手がワイルマンの杖で塞がっている状態だ。あまり無茶はできない。

 だからといってこのまま何もしなければ、ワイルマンに杖を届けるどころか、ワイルマンをみすみす連れ去られることになりかねない。

 こういう時、オーガスのように魔法剣が使えたならば、距離を取りながら高所への攻撃もできただろうし、リリアナのように魔術が使えたなら、難しく考えずとも魔物を光線で射抜けただろう。

 ……だが、ジェットには決定打が1つも無い。不死であるだけがジェットの取り柄であり、それすら役に立たない場面は数多くある。

 今のように、単純な決定打1つ、有効な戦略の1つがあればいい場面で、どうにもならないもどかしさ。

 恐らく、勇者であるならば。迷いなどせず、特に何も考えず、ただ剣を一振りして全てを解決するのだろう。レターリルをあっさりと救っていった時のように。

 ……ジェットは、意を決した。

「爺さん!杖、ここに置くからな!」

「えっ」

 ワイルマンの杖を安全な場所に置くと、ジェットは愚かしいほど真っ直ぐに、魔物へと突進していった。




 オーガスは宿の廊下を駆け抜け、すぐさまリリアナの部屋の前へと到達した。

「おい、リリアナ!」

 部屋の前で声をかけるも、返事は無い。

 ワイルマンが連れ去られた後だ。何かあったのではないか、と焦燥感に駆られて戸を開けようとするも、鍵でもかかっているのか、開かない。

 平常時であるならば、リリアナは既に寝入っているのだろうと判断したかもしれない。だが、今はそのようには思えなかった。

 そうこうしている間に、嫌な予感だけがオーガスの内で膨れ上がっていく。

「くそ、斬るぞ!」

 オーガスは一声掛けると誰の返事も待たず、戸を魔法剣で斬り開いた。

 ……すると、そこには。

「……なっ」

 リリアナはその手足も胴も、縛り上げられていた。

 縄でも鎖でもなく、触手によって。


 触手はランプの光にてらてらと光りながら、リリアナの手首に絡みつき、細い腰を絞め上げ、しなやかな脚の膝裏から足裏までをねっとりと撫でていた。

 リリアナは口をも触手に塞がれて、苦しげに、視線だけでオーガスに助けを求める。

 オーガスはそんなリリアナの視線に、瞬間、動揺し……しかし、リリアナの服の裾に向かって触手の一本が伸びゆくのを見て……動揺以上に、激昂した。

「何をしているっ、魔物風情がっ!」

 碌に思考もしないまま、オーガスは魔法剣を放った。


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