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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
三好包囲網編

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時間の壁距離の壁

 城を落とす場合、攻め手は三倍の兵力が必要とよく言われている。

 岸和田城に篭っているのは三千に対して、囲んだ謀反勢の兵力もおよそ三千程度。

 落城についてはひとまず心配はなくなったのだが、今度は相手の意図を考える。


「舐めているとしか思えんな」


 俺の考えている事を小野鎮幸が口に出す。

 城壁近くの物見櫓から敵を眺めるが、その士気は低い。

 城を遠巻きに囲んで、こっちを伺っている。

 防備が間に合わずに住民を避難させた城下町への乱取りなどもしない。


「御曹司が貝塚に足を運んだのも効いたのでしょうな。

 兵の殆どが根来衆と雑賀衆。

 同じ門徒に手を出して争うほど彼らも阿呆ではございませぬ」


 隣りにいた島清興が敵の事情を説明する。

 向こうからすればあくまで銭稼ぎの仕事であり、命を賭けるほどでもないという訳だ。

 そのあたりのやる気の無さもここから見て取れる。


「で、こんなふざけた事を考えた知恵者は誰だと思う?」


 建前上とはいえ俺も三好一族扱いになっている以上、三好一族が相打つなんて事は避けたい。

 それが分かっているからこそのこの籠城と対陣である。

 こっちの事が分かっているやつでないとこの策は出てこない。

 俺の質問に答えたのは荒木村重である。


「考えられるならば、遊佐殿かと」


 遊佐信教。

 畠山家の重臣の一人で、先代は畿内の梟雄の一人である遊佐長教。

 先代と同じく野心家で、畠山家の知恵袋として活躍している。

 

「ならば、彼が黒幕としてこのような手を何故考える?」


 俺の疑問はそこに行き着くのだが、それに答えを提示したのは雄城長房だった。


「足止めでも功績があると考えたのかも。

 御曹司を和泉に足止めして三好本軍に加わらせなかったというのは、公方様が勝った時に評価されるでしょうし」


 なるほど。

 公方様が三好と敵対した場合、管領は畠山高政に行く可能性が高い。

 そのあたりの利益が確定しているから、無理にこちらを叩く必要はなく、かといって功績はアピールしないといけない訳で。


「もしかしてですが、畠山は軍そのものを出していないのでは?」


 そんな事を言い出したのは一万田鑑実。

 今までの情報では河内にも大和にも畠山軍は出ていない。

 海路という事も考えたが、それだったら堺経由で佐伯惟教が何か教えてくれるだろう。


「公方様に恩を売りつつ、謀反勢と傭兵で俺を足止めか。

 悪くない手だな」


「畠山勢にとっても、先の戦の痛手は大きいでしょうからな」


 一万田鑑実は言葉を続ける。

 教興寺合戦の損害は三好家でもまだ回復しきれてはいないのだが、それは負けた畠山家にとっては致命的なダメージを受けた事を意味している。

 人というのは生まれて戦える歳になるまで十数年はかかるのだ。

 更に、そこから足軽として訓練しないと、逃げたり裏切ったりとろくな事にならない。

 人の多い畿内とて、失った戦力の回復、特に質の回復には時間がかかる。


「んで、こちらが打って出たら、雑賀と根来の門徒を敵に回す。

 えげつないことこの上ないな。

 これが畿内の戦か」


 俺は呟きながら感心するしかない。

 だからこそ、戦力が回復しきれていない畠山家は弱者の戦を選択した。

 夜間に行われた忍者同士の激しい戦いもそれを表している。


「はっ。

 奴らが次に狙うのは御曹司の命そのものかと」


 柳生宗厳が厳しい顔で俺に警告する。

 それを無視できるほど俺は肝が座っては居ない。


「心得ておくよ。

 果心や井筒女之助と共に俺を守ってくれ」


 そんなやり取りをしていると、敵陣より数騎の武者がこっちにやってくる。

 使者か口合戦か知らぬが、これも戦の作法である。

 乗ってやることにする。


「岸和田城内の者に告ぐ!

 我は寺田又右衛門!

 和泉国の正当な守護代である松浦様の臣である!!

 何故、岸和田城の兵は正当な守護代の下で働かないのか!!!」


 寺田又右衛門。

 寺田正家と言って、来ていた寺田宗清の兄にあたる人物である。

 となれば、寺田宗清は本陣なのだろう。


「撃つなよ。

 戦の華だ。

 返事は俺がする」


 控えている将が持ち場に戻る中、俺は物見櫓から大声で返事をする。


「岸和田城代、大友主計助だ!

 この言上承ったので返事をしよう!!

 既にこの事は三好修理大夫様に報告しており、いずれ釈明の機会が与えられるだろう!

 こちらからも問いたい!

 目下、京にて風雲急を告げる情勢の中で、何故この時期に兵を動かしてこのような異議を唱えたのか!

 その理由が納得できるものならば、我らはこの城を明け渡す用意がある!!!」


「御曹司!」


 残っていた小野鎮幸を手で制して俺は口合戦を続ける。

 こういうはったりだけは気づいたらうまくなってしまった。


「ただし!

 事がこのようになった以上、その釈明は三好修理大夫様の前で松浦殿本人がする必要がある!

 この城を明け渡すのは、松浦殿本人が来てからだ!!

 これが条件だ!!!」


 松浦信輝が病と称して城から出ていない事は既に掴んでいる。

 彼が寺田兄弟によって討たれたか監禁されたか知らないが、表に出てこれない事は容易に想像がつく。

 こちらが最大限の譲歩をしているように見えて、俺は相手に王手を突き付けていたのだった。


「相分かった。

 今日はこれにて」


 寺田正家は馬首を返して敵陣に戻ってゆく。

 吉弘鎮理がやって来る。


「御曹司。

 今ならば、敵勢を蹴散らすことは可能かと」


 その進言に俺は首を横に振る。

 無理をする必要がないのだ。


「三好殿の裁定を仰がねばならぬ一件だ。

 兵を蹴散らして門徒の恨みを買う必要もない。

 向こうはこっちを攻める兵も意志もないのは先の口合戦で分かった。

 ならば、奴らが帰るまで籠城しておくさ」


 俺は、この選択を死ぬほど後悔する事になる。

 そんな未来を知らずに、そのまま一週間何も起こらずにその日を迎えることになった。




 その日は強い雨風が降る嵐の日だった。

 城内の兵は交代で守備についているが、それでも目を開けるのはきつく、包囲している敵陣の兵に同情したくなる。

 そんな嵐の中の夜影に紛れて、堺より間者が到着する。

 やる気のない対陣ではあったが、それゆえに情報封鎖だけは敵も力を入れていて、既に雇っていた数人の忍者が命を落としていた。


「堺の……守護様より…………急ぎの文……にございま……す……」


 一同集まった評定の席で俺にその文を差し出した間者はそのまま倒れて息を引き取った。

 間者の死体を片付けて、それだけの重大な情報がこの文には書かれているのだろうと思って文を開く。


「え!?」


 来た文を握りしめて、落とすのをこらえる。

 その意味を受け入れるのに少しの時間を要した。


「御曹司。

 守護様の文には何と?」


 大鶴宗秋の言葉に、返事をするのさえ間が空いてしまう。

 予想外の展開に口が回らない。


「公方様の朝倉征伐の件だ。

 公方様の軍勢は近江国境の刀根坂にて朝倉軍を破ったそうだ。

 朝倉勢は敗走したが……」


 言葉が出てこない。

 この展開を誰が予想できただろうか。

 それでも、気合を入れて言葉をひねり出す。


「公方様は落ち武者追撃の際に朝倉勢の逆襲にあって討たれた。

 その為に軍は追撃を止めたそうだ」


 諸将がざわつくのが分かる。

 幕府将軍足利義輝の死亡。

 幕府再興の才能も野心もあった男は、その理解者だった織田信長と共に戦い、そしてその命はあっけないほどに散った。

 彼は無念だったのだろうが、三好三人衆や松永久秀に討たれた史実とどちらがましだっただろうか?


「何を呆けておられるか!

 御曹司!!!」


 大喝で俺だけでなく諸将すら見た声の主は一万田鑑実だった。

 彼の顔には焦りの色すら見える。


「公方様がお亡くなりになられた!

 次期公方はどなたがなられるのですか!!」


 流石修羅の国出身武将。

 当主死亡後の混乱にいち早く気づいたのだろう。

 ため息をゆっくりと吐いて、一万田鑑実に諭す。


「三好家は平島公方を擁している。

 阿波より連れて来て、軍勢と共に京に上るだろうよ」




「こ の 天 候 で で す か ?」




 ゆっくりと言葉を区切って吐き出した一万田鑑実の言葉の後、雷が落ちる。

 外は嵐だ。

 船が出せるような状況では無い。

 という事は、平島公方は阿波に留まらざるを得ない。

 違う!そこじゃない!!

 それによって何が発生する!?

 俺は血の気が引く音をはっきりと認識した。

 大友二階崩れの体験者だった一万田鑑実はそれを言いたかったのだろう。


「主の居ない京……」


「御曹司にはあまり良い話ではありませぬが、二階崩れの時に御曹司のお父君が肥後で乱を起こしました。

 その時、その手勢は豊後に入ろうとしていたのです。

 大友家当主の座を狙って」


 三好家とてそこまで無能ではない。

 だからこそ、防衛のしにくい京を放棄して、兵を摂津に集めるつもりだったのだ。

 尼崎に平島公方を迎えて、三万の兵で京を制圧し、平島公方を京に迎える。

 つまり、今の京は誰のものでもない空白地帯になっている。

 それに気づいていない織田信長ではない。

 足利義輝という旗頭を失った今、新しい旗を自ら立てねば公方討ち死の責任を取らされかねないのを分かっているからだ。

 そして、京近辺には、僧として暮らしている足利一門がいる。


「まずい……っ!」


 声に出てしまうと更に実感してしまい、汗が止まらない。

 まずい。まずい。まずい。

 この時代情報の入手にはタイムラグがある。

 芥川城の三好義興が動くにしても、飯盛山城の三好長慶が動くにしても、そこから動員をかけての出陣には数日かかる。

 彼らは三好家として動くのだから、大兵を率いて平島公方を擁して出陣すればいい。

 先の六角家相手の戦いでも分かる通り京を守るには不便で、取り返せる力があるならば京を放棄して奪還するほうが楽なのだ。

 それを三好家は学んでしまっていた。

 分かっているのだ。

 それが最善手だと。

 だが、それだと京という最高のカードを目の前にしながら、取らないという瞬間ができてしまう。

 京を抑えて、京周辺の足利一族を新公方に擁立するというクーデターの可能性が残ってしまう。




 それをあの織田信長が見逃すか?




 見逃すわけがない。

 何日ある?

 堺の守護様つきの忍が血路を開いて持ってきた情報だ。

 公方様が討たれてから数日は経過しているだろう。

 その数日で織田軍が京に迫ったら……


「八郎様!

 これを……」


 奥に居た明月が評定の場に入って来て、文を俺に手渡す。

 松永久秀の所に送った鷹が嵐の中戻ってきたのだ。

 その文には公方様討ち死にの他にもっと大事なことが書かれていた。

 俺の最悪の予想が的中した形で。


「伊勢貞孝が中沢満房、革嶋一宣らと共に船岡山で蜂起。

 政所の摂津晴門と淀城の岩成友通を攻撃。

 摂津殿は行方知れず、岩成殿は刺客によって命を落としたそうだ。

 京は戦の混乱でどうなっているか分からぬ」


 伊勢貞孝は幕府政所執事を長く務めた実力者だったが、教興寺合戦の時に六角家に協力したことを咎められて失脚。

 政所執事職は足利義輝の義従兄弟摂津晴門がついていたのである。

 その恨みが公方討死によって炸裂したのだろう。

 俺は天井を見上げてため息をつく。

 今だから分かってしまう。

 あの籠城初日がターニングポイントだった。

 吉弘鎮理の進言を受け入れて謀反勢を蹴散らしてしまえるならば、この城を荒木村重らに任せて俺達は芥川城に行くことができたのだ。

 向こうでこの急報を聞いていたならば、京への制圧を強く主張しただろう。

 今からでは遅いが、手を打たない訳にはいかない。


「明日、城を出て謀反勢を叩く。

 しかる後、堺の守護様の所に出向いて後を託して、芥川城に出陣する。

 準備をしておけ」


 翌日。

 晴れ渡った空の下、空になった敵陣の跡だけが残っていた。 





 勝負は織田と三好のどちらが京を抑えるかにかかり、全てを持っている三好長慶は全てを捨てて賭ける織田信長に負けるだろうなとなんとなく思った。

 それに俺が絡む事はできず、俺の予想は的中する。

 宇佐山城城主細川藤孝の助けと、大津に大量に用意されていた兵糧をはじめとした物資によって織田信長と浅井長政の数千の軍勢が京に入京。

 伊勢貞孝らを討ち取って、京を制圧してしまったのである。

 三好家は芥川城にて三万の兵を集めていたが、平島公方の到着が遅れて織田家に京を譲る羽目になった。

遊佐信教 ゆさ のぶのり

遊佐長教 ゆさ ながのり

寺田正家 てらだ まさいえ

中沢満房 なかざわ みつふさ

革嶋一宣 かわしま かずのり

摂津晴門 せっつ はるかど

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