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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
畿内三好家飛翔編 永禄六年(1563年) 秋 大規模加筆修正予定

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四国嫁取り物語(戦国編)

「ここが四国なの?」


 有明が船から見える四国の大地を見て俺に尋ねる。

 三好に深く関わり過ぎた為に少し畿内から離れることにした俺達だが、松永久秀の説得もあって四国に行くことにした。

 畿内から離したいが三好勢力圏から外したくもないという三好家の好意と打算が見え隠れする。

 一万田鑑実が乗ってきた船と吉弘鎮理が乗ってきた船に、俺が雇った船一隻に残った連中を載せての船旅。

 大阪湾は波が穏やか。

 航海は一日かけてその目的地を朝日に照らしている。


「阿波国だったかしら」


 明月が思い出す仕草をしながらその地名を呟く。

 この時代の人は、そもそも正確な地図を持っていない。

 それを二人を見てつくづく思い知らされる。


「阿波国。

 三好家の本拠地さ」


 俺の後見役になっている三好義賢に会いに行くという名目での畿内離脱。

 三好家の好意と打算の結果がこれである。

 実質的な遊撃部隊である俺達が阿波に行くことになるが、連れてゆくのは馬廻りと豊後衆のみ。

 残りは置いてゆくことにする。

 馬廻も畿内からはなれたくない連中を離しての四国行きで島清興も連れて行きたかったが、へたに戦力を持って行って警戒されるよりはましかという事で放すことに。

 彼も生家のある大和帰還を諦めていないというのもある訳で。

 なお、俺達が出てゆく事で減る兵は阿波より赤沢宗伝が兵を率いて出ることになっている。


「まあ、好きに過ごしてくれという言質はもらっているんだ。

 のんびりと暮らそうじゃないか」


 阿波国勝瑞城。

 三好家四国領の拠点であるここでの生活は波乱なく過ごせたらと思う。

 まあ、やってきて厄介事はすぐやってきたのだが。


「ようこそ参られた。

 堺にて過ごしてもらおうと思っておったのだが」


「これも戦国の習い。

 お世話になります。

 義賢殿」


 なお、珠光茶椀はまだ俺の手の中にあったりする。

 その理由を松永久秀の言葉にて語ってもらおう。


「義賢殿の元に行くのに、珠光茶椀を取り上げたら義賢殿に恨まれるでしょうに」


 それもそうだという訳で、こちらからは九州から持ってきた芦屋釜を松永久秀にさしあげる事になった。

 彼にとっての価値から見れば、名物ではあるがこれ以上のものを持っているので使うのもというものだったりするが、三好からの脱出ではないのでお互い様という事だろう。

 なお、俺の訪問も三好家にとっては悪いことではない。


「で、畿内はどのように?」


 こうやって当事者から情報が聞けるからだ。

 海を挟む四国の場合、どうしても何かあった時のアクションにラグが出る為にこの手の情報には貪欲だったりする。


「公方様は相変わらず。

 美濃国をめぐって、朝倉と織田が鞘当てを」


 織田信長は俺達がこうしている間にも美濃制圧を進めていた。

 まずは、尾張犬山城の織田信清が開城し降伏。

 織田信清自身は甲斐武田家を頼って逃げたという。

 足元の尾張を固めた織田信長は、稲葉山城を『岐阜』と改めて美濃調略を進めているらしい。

 一方、斎藤龍興は郡上八幡城に逃れ、朝倉家からの支援を得て岐阜奪還を虎視眈々と狙っていた。


「美濃を巡る織田と朝倉の争いは、公方様の執着する若狭武田家と絡んで、厄介なことになるやもしれませぬ。

 六角家が力を失った今、我らは下手すれば越前出兵なんて事も」


 そうなった時、使い勝手の良い俺に出兵要請が来るのは目に見えている。

 その辺りを避けるための畿内脱出でもあったが、三好義賢は渋い顔をしたままだ。


「大友殿。

 これを読んで頂きたい」


 三好義賢は一枚の書状を俺に見せる。

 読むと、そこには領内の通行許可を求めるもので、差出人の名前は長宗我部元親と言った。

 うわぁ。

 そう来るのか。

 土佐国の大名長宗我部元親は姫若子と呼ばれるほどの容姿だが、その武勇は土佐国では鬼若子として鳴り響いている。

 そんな彼が土佐統一に向けて嫁を取るのだが、それは土佐の国人衆からではなく京から将軍家の家臣である石谷家の娘をもらう事だった。

 俺は将軍家と繋がりがあるんだぞという、わかりやすい権威付けである。

 さて、この石谷家だが当主石谷頼辰は養子で、彼の実家は美濃にあったりする。

 そう。

 斎藤利三と石谷頼辰は兄弟の関係にある。

 本能寺フラグの遠因がこんな所にもあったりするのだ。

 この要請を三好家は断れない。

 足利義輝を傀儡とはいえ擁しているのは三好家なのだから。

 そして、この嫁入りを織田信長も見逃さないだろう。

 斎藤利三が今仕えているのは、西美濃三人衆の一人でまだ織田家に寝返っていない稲葉良通なのだから。

 今も京には、明智光秀が居て幕府や朝廷と交渉しているだろうから。

 歴史が織田信長を、明智光秀を天下という舞台に押し上げようとしている。

 では、彼らの舞台の為に天下から下りることになった三好はどうなる?

 いや。

 覇者織田信長と王者三好長慶という対決が発生した時に、俺はどちらにつけばいい?


「大友殿?

 いかが致した?」


 三好義賢の言葉で我に返る。

 いかん。

 少し考えすぎたか。


「申し訳ござらぬ。

 公方様の影響力は地方に行けば行くほど絶大。

 これは仕方のないことかと」


 考え込んでいた理由を言えるわけもないから三好義賢に頭を下げる。

 頭を下げる理由はこんな感じだ。


「義賢殿申し訳ござらぬ。

 それがしが下手に畿内で暴れた為に、畿内にて名声を得て帰ることで権威づけをするみたいな流れを作ってしまい申した」


 正確には三好家の為だったのだが、将軍を傀儡にしていた為に地方では『九州から出て公方様の為に戦う仁将』なんてイメージがつけられている。

 それは、他の大名家も力があれば真似ることができる訳で、ある意味地方における権威の付与について俺が道を作ってしまった側面が有る。

 事実、大友家は将軍家を利用して九州探題や相伴衆なんて名を得て九州における権威付けを効率よく行っており、尼子攻めにて現在絶賛大苦戦中の毛利家との対比もあるから成功例としてうってつけに見えるのだ。

 同時に、ある程度の力がある大名家はその権威付け欲しさに公方様との所に郎党を送り込む事を意味しており、将軍家直轄戦力の形成になりかねない危険性をはらんでいた。

 松永久秀が警告したのはこれだったのだ。

 そして、その動きにいち早く乗り出したのが、若きチート武将である長宗我部元親という訳だ。


「頭をお上げくだされ。

 大友殿が助けてくれなかったら、それがしは久米田の地にて屍を晒しておったのかもしれぬのですぞ。

 感謝すれど、文句を言うなんてとてもとても」


 そうは言うが、三好義賢の困り顔が全てを物語っている。

 嫁入りというのは、このヒャッハー全盛な戦国時代において、鴨がネギを背負って行列をしているものだ。

 その為に当然のことながら護衛武力が必要になる。

 ましてや、京からの嫁取りである。

 頭が脳筋の国人衆が野盗と化して襲ってくるなんて事はとても良くあり、戦の原因にもなったりするのだ。


「義賢殿。

 よろしければ、それがしが土佐に参りましょうか?」


 要するに人質というか、脅迫というやつだ。

 どの大名家も本領地に他家の軍隊が駐屯するのを嫌う。

 嫁入りで大名本人が京に出張るのならば、その間本領を預かるというのを飲めるのならば通行を許可するという訳だ。

 都合が良いことに土佐は元々細川家が守護を務めていた国で、細川家の内紛で守護不在の国になったがその影響力はまだ薄れては居ない。


「よろしいか?」


「元々、そのつもりでそれがしにこれを見せたのでしょうに」


 これぐらいは戦国の作法というやつだ。

 俺も三好義賢も笑う。


「義賢殿にお尋ねするが、三好は土佐を取る気はあるので?」


 派遣前提の以上、このあたりは確認せざるを得ない。

 だが、三好義賢はただ首を左右に振った。


「大友殿の手前、港が確保できればそれで良し。

 土佐一国を得るには労が合わぬ故」


 阿波・淡路・讃岐を押さえている三好家の収入源は瀬戸内海の海洋交易にこそある。

 その為、そのラインから外れる土佐というのは攻めるに苦労して、得る物が少ない土地になっていた。

 大友殿云々は、瀬戸内海海洋交易の主要プレーヤーである毛利家に邪魔されないルート構築という意味で、尼子浪人衆の九州輸送等で九州と畿内をつなぐ程度だから土佐に1つ2つ港があれば事足りるのだ。

 純粋なお使いであり、人質兼監視。

 ここで無駄飯を食べるよりましだろうという事で、俺はこの仕事を受けることにしたのである。




「ん?

 何やってんだ?」


「御曹司。

 良い所にいらした」


 俺が与えられた屋敷に戻ると、大鶴宗秋が困った顔をして一人の侍と向かい合っていた。

 客人だろうかと思ったら、侍が俺を見て頭を下げる。


「大友鎮成殿でござるか。

 主君、松永久秀殿より大友殿の側につくようにと命じられ申した。

 柳生宗厳と申す。

 お見知り置きを」


 なるほど。

 俺が阿波で三好義賢の下で好き勝手しない為の、松永久秀が送り出した監視者という訳だ。

 行動といい気遣いといい、三好家第一に考えているのが俺にも分かる。


「構わんよ。

 全てを見聞きしてもらって松永殿に知らせるといい」


 声だけかけて奥に引っ込むと廊下先で井筒女之助が警戒した犬のような目で柳生宗厳を見ている。

 そして、ぽつりと一言。


「ご主人。

 あの人強いよ」


 それが分かるのか。

 けど井筒女之助よ。

 あれもっと強くなるぞと言うのも何なのでそのまま奥に引っ込む事にした。

 なお、奥にいた果心は一言。


「強いですけど、八郎様を守るのでしたらいくらでも手はありますとも」


 こいつも大概だよなと思ったが、ソレを口に出すほど俺も馬鹿でなかった。

最近出てきた石谷家文書は、本当に歴史系物書きにパラダイムシフトをもたらすものだったり。織田家と長宗我部家の関係がこうやって整理できるのもあの文書のおかげ。



赤沢宗伝   あかさわ そうでん

長宗我部元親 ちょうそかべ もとちか

石谷頼辰   いしがい よりとき

斎藤利三   さいとう としみつ

稲葉良通   いなば よしみち

柳生宗厳   やぎゅう むねよし

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