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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
畿内三好家飛翔編 永禄六年(1563年) 秋 大規模加筆修正予定

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こんな可愛い僕っ子がくノ一のはずがない

 観音寺城に滞在すること一週間。

 既に六角義定は従う国人衆とともに入城し、我々の役目はひとまず終わった。

 岩成隊も細川隊も退却し、浪人衆達も河内に帰している。

 だが、美濃情勢を知る為に俺はあえて残り、情報収集に務めていたのである。

 その結果、情報が集まってきたが、そのほとんどが支離滅裂であつまった情報はこんな感じである。


「稲葉山城は織田家が奪った」

「斎藤家は健在で、国衆に抵抗を呼びかけておる」

「浅井家は斎藤家を支援し、朝倉家も後詰を出す」

「浅井朝倉軍が兵を引いたのは、美濃斎藤家の件に絞るためらしい」


 観音寺城にてまとめるとこんな所である。

 それを整理してゆくと、おぼろげながら状況が見えてくる。

 我々が六角家に介入していた時、美濃では斎藤家と織田家の戦いが発生しようとしていた。

 新加納の戦いと呼ばれるそれは、織田軍が六千に斎藤軍が四千。

 兵力では織田軍が圧倒していたが浅井家の後詰が来れば、互角になると斎藤家は読んでいたらしい。

 だが、浅井久政が朝倉家の手勢を借りて六角家の方に出た事が事態を急変させる。

 朝倉家に借りを作りたくない浅井長政は軍を返し、それによって斎藤家が動揺。

 その隙を織田信長が逃す訳が無かった。

 戦いそのものは斎藤軍が押していたらしいが、兵の中に大量に配置されていた鉄砲隊がこの猛攻を押し返すと、斎藤軍はついに崩れる。

 合戦はこれで勝負がついた。

 織田信長が戦国きってのスーパーチートなのは分かるが、彼の恐ろしい所はこれで戦を終わりにしなかった事にある。

 この戦いで、斎藤龍興が兵を集めきれていない。

 つまり、国人衆が彼に心服していない事を見きって、一気に稲葉山城に押し寄せたのである。

 敗走から立ち直っていない斎藤軍はこの攻撃を支えきれるだけの兵力も意志も残っては居なかった。

 斎藤龍興は城を捨てて逃亡。

 織田信長は稲葉山城を手に入れたのだが、それは彼自身がまだ心服していない美濃国人衆のど真ん中に陣どった事を意味する。

 尾張犬山城の織田信清が斎藤家に寝返って抵抗している状況で、浅井朝倉軍の後詰を期待できる斉藤軍は抵抗を呼びかけているらしい。

 稲葉山城を得た事が最適手だったのか、彼みたいなチートでない俺には分かるはすがない。

 一方、京の方も若狭武田家問題を発端とした将軍家と朝倉家の確執が表面化していた。

 書状にての応酬だが双方とも引かず、かと言って公方足利義輝も朝倉家当主朝倉義景も決定的な対決を選択する勇気はない。

 ところが、この美濃情勢の急変が波紋を投げかける。

 美濃と越前は隣国同士。

 そこに敵性国家が生まれる事を朝倉家が看過できる訳がなかった。

 本城稲葉山城を奪われた斎藤家を傀儡化するというスケベ心も見え隠れするのだが。

 美濃斎藤家に関与する為に、若狭武田家問題は譲歩する?

 逆である。

 美濃斎藤家に関与する為に、若狭武田家問題も強硬姿勢に変えたのだ。

 このあたり、朝倉家も戦国大名だなぁと聞いた時になんとなく思ったり。

 傀儡である足利将軍は本格的に介入に踏み切るのならば、実権を握っている三好家に頭を下げないといけないし、三好家は既に六角家で義理は果たしたと突き放している。

 何しろ観音寺騒動において、三好家は何も得ていないのだから。

 あげくに近江宇佐山城を幕臣である細川藤孝に与えるという優遇まで示しているので、若狭武田家に介入を要請するほど足利義輝も恥知らずではない。


「どっちにしろ、そろそろ引き上げだな」


 観音寺城の与えられた屋敷を出た俺と果心はぶらりと城下の市を眺める。

 六角家は楽市楽座を創始したりと戦国大名として進化しつつあったのだ。

 それに見事に失敗したが、この経済的恩恵はこうして市をぶら歩きできる程度の繁栄を俺の前に見せつけていた。


「私を美濃に送り込めばよろしかったのに」


「仮にも三好の娘を演じているんだから、武田の歩き巫女の事は忘れろ」


 美濃情報の収集と整理に役に立ったのが果心だったので、一応ご褒美としてのデートみたいなものだ。

 有明や明月も中には入ってしまえば文句はいうが適度に友好関係を作っているので俺としてもほっとしている。


「御曹司はお優しいですね。

 普通の武家ならば、私を遠慮無く美濃に送り込みますよ」


 このあたりが戦国の忍びの立場の低さを物語っている。

 逆に、情報の重要性と役割の大事さをよく分かっている俺は、現状で果心を出す事のデメリットを考慮しないといけない。

 彼女の京での遊泳術がないと、どれだけの陰謀の糸に絡めて蹴落とされていたか。

 まあ、その陰謀の糸を絡めてきたのが果心本人である事はひとまずおいておく事にしよう。


「あいにく、今の俺は一介の浪人なんだよ」


 こういう時には必ず一介の浪人菊池鎮成と名乗るようにしている。

 どこぞのちりめん問屋のご老公や貧乏旗本の三男坊の気持ちが最近よく分かるようになってきた。

 なお、ふつうの浪人にはさりげなく吉弘鎮理がつけた護衛がついていたりしない。


「ご主人!

 良かったら僕を買わないかい?」


 すっと果心が俺を庇う。

 目の前の傀儡女に対してだ。

 傀儡女。

 職業芸人であり、遊女の一種でもある。

 果心が俺を庇った事を俺は考える。

 つまり、吉弘鎮理がつけた護衛をすり抜けて俺に声をかける程度の技能を持つ間者なのだという事を。


「あいにく、女はこいつを含めて三人ほど囲っているんでな。

 体が持たんよ」


 そう言って適当に追い払おうとしたら中性的な声で、その傀儡女は笑った。


「あははっ。

 ご主人にそう言ってもらえるとうれしいなぁ。

 僕、男の子だよ」


 なに!?

 禿みたいなおかっぱ髪でぺたんこの胸に着物を来て楽しそうに笑っているが女にしか見えないのだが。

 なお、間者との戦いを想定した果心は言葉で傀儡女に斬りつける。


「傀儡師の間者。

 尼子の鉢屋衆ですか」


 謀聖と呼ばれた尼子経久。

 その尼子経久が月山富田城を奪還した時の立役者の一つで、舞などを踊る芸能集団でもあった。

 即座にその正体を見破るのだから、果心も大概チートである。


「ご明察。

 絶賛毛利に攻めこまれて大苦戦中の尼子家鉢屋衆の忍さ。

 ご主人へのお礼だって」


「お礼?」


 ここで俺が突っ込む。

 俺が尼子に何かした訳ではないが、僕っ子傀儡女はにこにこしながらそのお礼の理由を告げる。


「だって、ご主人が多胡殿を助けたり、公方様の使者を毛利に派遣してくれたおかげで尼子は一息つけたからね。

 ご主人が色狂いだからって僕が送られたのさ」


 それを言われると何もやっていないのだがという罪悪感がちくりと。

 毛利が石見銀山の利権を確定させたくて、本城常光を粛清して石見国人衆を尼子に走らせた自滅が原因である。

 幕府が尼子と毛利の和議履行の為に使者を送ったのも、三好家のお礼という側面が強い。

 いや。

 問題はそこではない。

 たしかに色狂いでは通すつもりではあるのだか、どうしてそういう風になる。

 害意がない事を悟った果心がぽんと手を叩く。


「そういえば御曹司、女相手ばかりでしたね」


「寺育ちだからな。

 そっちは、散々見て懲りた。

 まあ、襲う阿呆が居なかったのは助かったが」


 こういう時に己の名前のありがたさを切実に感じる。

 なお、己の性欲をどう発散していたかというと、高橋鑑種が当時囲っていた有明の所に行った訳で。

 今にして思うと、そのあたり高橋鑑種は察していたのかもしれない。

 とはいえ許す気はないのだが。


「駄目だよ!

 ご主人!!

 衆道は武士の作法だよ!

 大内殿なんて多くの寵臣を侍らせて西国の主になったんだから。

 僕はちゃんと仕込まれたから、ご主人を満足させられるよ」


「結構だ。

 あとご主人はやめろ」


 僕っ子傀儡女が言っている大内殿というのは、大内義隆の事だ。

 その寵愛を受けたとされる者達もそうそうたる者で、小早川隆景や毛利隆元や陶晴賢等。

 そう考えると、大内家はホモの愛憎のもつれで滅びたというのもあながち間違いではない。


「結構真面目な話だよ。

 ご主人。

 観察していたけど、ご主人の回りって女と爺やぐらいしか『死ね』と言って死ぬ事できないじゃないか。

 そんなのだと合戦で負けた時に、ご主人討ち取られちゃうよ」


 常時合戦の戦国時代、本当に信じられる人間を探すためには肉体関係に踏み込むというのも結構あったから困る。

 愛は偉大なのだろう。

 同性だけど。

 俺は人質生活をしていたせいもあって、本当の譜代の家臣が居ない。

 大友家から派遣された一万田鑑実や吉弘鎮理は俺に『付けられた』家臣だ。

 だから大友家の意向に従わざるを得ない。

 また、浪人衆の荒木村重も三好家の意向で『付けられた』家臣扱いだ。

 島清興とは信頼関係を築く為にはもう少し時間がかかるだろう。

 多胡辰敬が去った穴は本当に大きい。


「とにかく、今の俺にはそっちは要らん。

 他所をあたってくれ」


「えー!

 それじゃあ僕、橋の下で客を取って生活するしかできないじゃないか!」


 あざとい。

 頬を膨らませて怒ったふりをする仕草が実にあざとい。

 どうしてくれようか。これ。


「それで生きていけるだろうが。

 その顔と体なら」


「まあね。

 都でも五条大橋のあたりで客を取っていたけど、『牛若丸』って評判だったんだから」


 えっへんと無い胸を張って自慢する僕っ子傀儡女を尻目に、当人の目の前で果心に囁く。

 なお、この僕っ子傀儡女はそれが自慢と思っている辺り業が深い。


「なあ。果心。

 この僕っ子といいお前といい、間者ってのは頭に花でも咲いているのか?」


「私はここまで色狂いではありませんよ。

 とはいえ、間者が情報を取るのに体を使うってのは有効なのです」


 なお、この体と魔性のテクで最後までやっているのがこの果心だったりするのだが、それを指摘する勇気も度胸も俺にはない。

 こっちが露骨に対処に困ったのを見て、この僕っ子傀儡女は切り札を出してくる。


「僕はそっちのお姫様とちがって、できる事が一つ有るよ。

 それだけでお買い得だよ♪」


「何ですって?」


 むっとした果心が口車に乗ってしまう。

 俺でも罠だと分かったそれに乗ってしまったのは、果心のミスなのか。

 それとも……


「僕ならば、戦場に送り出せるよ。

 ご主人が今、情報を欲しがっている美濃に派遣してくれてもいいんだよ!」


 ……こいつに価値を見出したからか。

 間者としての価値を。

 俺がため息をつく。

 この茶番を閉じる為に、果心に一つ質問をする。


「なあ。果心。

 美濃がこんな状況で、武田家は動かないと思うか?」


「まさか。

 もう間者を送っているでしょうね」


 今や、美濃情勢は周辺諸国を巻き込んだ争奪戦になりかねない。

 そして、美濃国の東隣は信濃国。

 甲斐の武田信玄の領国だ。

 ならば決まりだ。

 果心は送り出せないが情報は欲しい。


「いいだろう。

 お前を美濃に送ってやる」


「やったぁ!

 美濃でも閨でも僕頑張るからね♪」


「閨はいい。

 あと、僕っ子。名前を言え」


 俺の言葉に、この僕っ子傀儡女はにっこりと可愛く自己紹介をした。


「鉢屋衆が忍。

 井筒女之助だよっ」


 感慨深く俺は空を見上げる。

 その感慨は声に出すことはなかったけど、心のなかでただ一言だけ呟いた。



(お前だったのか……公式男の娘……)



 という訳で、送り出したのが昨日のことだ。

 で、その翌日、堺に帰るために準備をしていた俺達にあざとかわいい声が元気に聞こえてくる。


「ご主人!

 ただいまっ!!

 お客様を連れてきたよ♪」


 わんこよろしくほめてほめてあぴーるをする僕っ子傀儡女を放置して俺はその客人と向き合う。

 なんとなくだが、そんな運命を感じた。


「出世したな。

 明智殿」


「御曹司のお陰にて。

 織田家家臣明智十兵衛光秀。

 織田家の使者として参った。

 公方様への取次をお願いしたい」

公式男の娘+某ゲームのシャルルマーニュ十二勇士の一人=こうなった

なお、ゲームはやっていないが、一枚絵で惚れた結果がこれだよ!



尼子経久  あまこ つねひさ

大内義隆  おおうち よしたか

陶晴賢   すえ はるかた

井筒女之助 いつつ おんなのすけ

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