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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
畿内三好家飛翔編 永禄六年(1563年) 秋 大規模加筆修正予定

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足利呪縛迷宮 京都 その2 2019/4/21 追加

 勝竜寺城から出て上京の三好邸に向かう。

 京の街は応仁の乱以降急速に城郭化が進んだ城塞都市である。

 武家の屋敷は堀と塀に囲まれ、その周囲の町家も武家屋敷間にあるので塀や柵で出入りを監視するという感じだ。

 ここの三好邸は京における三好家の政治拠点であり、今は三好義興が主として詰めていた。


「よく来た。義弟よ。

 公方様も困ったものよ。

 既にこちらで片付けた事なのに、義弟を呼ぶとは」


 その設定ずっと使うのですね。わかりました。

 果心の方をちらりと見たが、目をそらしやがった。


「お気になさらず。

 これも役目でございますゆえ」


「まぁ、しばらくはこの邸にゆるりと滞在するがいい。

 その間に、話を通しておく」


「その申し出、ありがたくお受けいたします」


 京について公方様に即会談という訳でもなく、有力者にアポイントをとって会見の日取りを決めて、それを書状という公的文書にしてという手間暇がかかる。

 その間この地にて滞在しなければならないわけで、有力者相手の嘆願や裁判となると数日どころか数ヶ月や年の滞在となる訳で。

 このあたりの時間が面倒で『戦で決めようじゃないか!』というのが戦国時代の地方あるあるである。

 かくして、俺たちと馬廻りは三好邸の一角に滞在することに。

 残りは、少し離れた今村城に滞在することになる。

 なお、今村城の主である今村慶満は、三好家と細川家の有力家臣の一人で三好家の京支配に欠かすことのできない人物である。


「さてと、せっかく着いたのだから何をするかな」


 与えられた部屋に寝転んで、庭を眺める。

 真新しい木材の香りがこの邸が新築であることを物語っている。

 先の教興寺の戦いの前、三好家は京を捨てていたので占領した六角軍の略奪と焼き討ちに合ったのだ。

 そのため、新しく建てられたこの三好邸は、覇者である三好家の権威を示すために豪勢なものになっている。

 たとえば、この邸の造りは守護大名に認められた屋形をわざと模している。

 三好家は屋形号を持っていないが、それをわざと模す事で権勢をアピールしている訳だ。


「何かするの?」


 俺の隣で寝っ転がった有明が起き上がる。

 せっかく京に来たのだから、見物はという気持ちが無いわけではないのだ。

 俺は寝たまま適当に思いついたことを言ってみた。


「せっかくこっちに来たのだから、北野天満宮でも参拝するかな?

 加茂神社でもいいが」


「どうせ長く滞在するのだから、両方参りましょうよ♪」


 こういう時の有明の意見には逆らうつもりはないので、どちらか参拝するかと起き上がったら果心が口を挟む。


「でしたならば、北野天満宮の方に行かれたらいかがでしょう?」


「その心は?」


 尋ねたのは明月。

 彼女も行く気満々なのは言うまでもない。


「北野天満宮の門前には市が出ており、多くの遊女たちがたむろしているのですよ。

 せっかくの京ですから、それを眺めるのも一興かと」


 生活と娯楽に密接に関わっていた遊女という存在は、その時の流行を端的に現している存在である。

 また、彼女たちが夜に集める噂などは、有益なものが多い。

 有明が俺にしがみついて囁く。


「買ったら駄目だからね」

「お前ら相手にするだけで精一杯なのに買う余力があると思うか?」


 俺の呆れ声に有明は嬉しそうに笑った。



 北野天満宮は左遷されて太宰府で没した菅原道真を祀った神社であり、俺が居た太宰府と空気は似てなくもなかった。

 いかに祟り信仰が恐れられていたかを物語る。

 そして、そういう場所だからと参拝客が多くやってきており、人が集まるのだからと市が立ち、それに群がる女たちも集まる。

 門前町ができており、そこの男女が俺たちを見る。


「注目されているなぁ」

「そりゃあ、こんなナリですから」


 参拝ついでの花魁道中である。

 有明を中心に、果心と明月がその脇を固める。

 前は三好家の郎党の案内の後ろに旗持が掲げる『片鷹羽片杏葉』の大旗が掲げられ、女たちの左右に大鶴宗秋率いる馬廻が警護についている。

 道中までの露出ぶりとは打って変わっての華やかな衣装をまとって、有明はしゃなりしゃなりと京の道を歩く。

 その艶姿は、博多で多くの男達を魅了した太夫の再来であった。


「何だあの行列?」

「旗印は、知らん旗だな。

 三好様の郎党がついているから遠方からの客か?」

「知らんのか!?

 あの旗は先の久米田の戦と教興寺の大戦で三好側で戦い、三好を大勝利に導いた大友家の八郎様の行列よ!」

「ああ。

 女好きとは聞いておったが、本当に女好きだったんだなぁ……」

「あの中央の女を見ろよ。

 凛として艶やかに歩きやがる」

「じゃあ、あれがかの『国取り太夫』の有明太夫か?」

「羨ましい。

 俺も一国を切り取って一夜を共にしたいものよ」

「西国一を決めるために上洛したってのは本当だったんだな」


 ちらりと果心を眺めるが視線をそらしやがった。

 こいつ、先にそういう噂を流していたな。

 色々と言いたいことはあるが、それも悪いことではない。

 幕府の、足利義輝からの呼び出しをあくまでついでと言い切れるからだ。

 三好長慶と足利義輝の確執を、ましてや教興寺合戦後の暗殺未遂を防いでいるだけに、変に足利義輝と接触して畿内情勢に巻き込まれるのを防ぐ事ができるからだ。

 北野天満宮前に到着。

 最低限の供だけ連れて参拝する。

 不思議なもので、この地に来るとはるか先の未来を思い出す。

 それは、この街を彩る多くの寺社が先まで残っていたという事。

 何かを願うわけでもないその参拝も終わり、近くの煮売茶屋を覗く。


「これはお侍様。

 何か御用で?」


「ここに来て用と言ったら、なぁ。

 一杯貰おうか?」


 店先で煮立つ粥をもらう。

 木のお椀によそってもらって、一口。

 稗と粟の味噌粥で、歩いてきた事もあって美味く感じる。

 食べ終わると、銭を多く払い店主に頼む。


「奥、少し貸してくれ。

 あと、供の連中にも酒と粥を頼む」

「お侍様もお好きなようで」


 この手の茶屋には調理の家屋の他に店構えの茶屋もあり、中で客が休めるようになっていた。

 もちろん、茶屋女も居て、客をとったりもできる。

 俺が有明たちを連れて入ったのだから、きっと部屋で一合戦とでも思っているのだろう。


「え?

 しないの?」


 部屋に入って服を脱ぎだした有明を見て苦笑する。

 俺はどれだけ女好きかと思われているのか。


「しない。

 すると時間かかるだろうが。

 遅くなって帰ると、危ないからな」


 部屋の外から音が聞こえる。

 風流踊りと呼ばれる京で流行っていた踊りで、華やかな衣装で着飾り、または仮装を身につけて、鉦や太鼓、笛などで囃し、歌い、おもに集団で踊る姿は現世を忘れ一時の夢を見るような不思議な気持ちにさせてくれる。

 きっと、休む間好きにしろと言ったので、京の男たちが風流踊りで女を誘おうとしているのだろう。

 そんな音と共に着物が床に落ちる音が。

 俺の言葉をまったく聞こうとしない有明だけでなく、明月も果心もさっさと服を脱いでしまう。

 ふと気になった事を聞いてみた。


「もしかして、服が邪魔だと思っていたりしていないか?」


「何をいまさら」

「散々裸同然の姿で連れ回しておいて」


 二人の言葉に自業自得の言葉しか浮かばない。

 ただ単に横になりたかっただけなのだ。

 決して、そういう目的が有った訳ではない俺は再度有明に告げた。


「しないぞ」

「うん。

 八郎がしないって言ったらしないわよ♪

 けど……」


 そんな事を準備万端で誘いながら、有明は楽しそうに言い放つ。

 西国一の太夫は、こういう時の殺し文句をきっちりと刺しに来るからその地位まで上り詰める。


「なんだか、八郎が寂しそうだなって思って。

 温めてあげようかなって思っただけ」


 図星を突かれた俺は有明にじゃれる事でごまかそうとして、そのままという流れに。


「安心して。

 私はここにいるから……」


 乱れながら、そんな声を聞いたような気がした。



 部屋から出たのは一刻後だった。

 帰り道、艶々の三人と疲れた俺の顔を京の連中に晒したが気にしないことにする。

 三好邸に着いたのは日も暮れるかというあたりで、出迎え用に門には篝火がつけられていた。


「ご無事にお帰りになされて何より」

「北野参りに行ってきただけだ。

 護衛もいたし、そんなに心配せずともいい」


 門番の足軽は完全武装。

 明らかな戦支度に俺の眉が上がる。


「何かあったのか?」


 俺の声に答えたのは武者姿の松永久秀だった。

 戦支度ではあるが口調は客人をもてなす体を崩していない。


「ご安心なされよ。

 義弟殿に加勢をお願いするほどのことではございませぬ」


 まず介入拒否を明確にした上で、松永久秀は何が起こったのか口にする。

 明らかに大事だった。


「幕府政所執事伊勢貞孝が政所代蜷川親世に告発されたのでございますが、蜷川親世が邸に帰る途中に何者かに襲われたとの事。

 蜷川親世は邸に逃れて郎党を集め、疑われた伊勢貞孝も郎党を集めだしているとか。

 公方様は事態を重く見られて仲裁に乗り出し、我らは万一に備えているまでの事」


 さっと血の気が引く俺。

 一応足利義輝の謁見は三好家に任せているがそれに甘えるという訳にもいかず、大鶴宗秋や一万田鑑実が京の有力者とのパイプ構築に動く手はずだったのである。

 その中で最も有力だったのが、大鶴宗秋が若かりし頃京で礼法を学んだ伊勢家であり、伊勢貞孝はその当主であった。


「まだ六角の残党も潜んでいることもあり、決して気を抜くこと無いように。

 お頼み申しますぞ」


 武者姿で笑顔で圧迫をかけてくる松永久秀。

 実に怖い。

 俺の顔に冷や汗でも出てたのだろう。

 松永久秀は笑って俺の肩を軽く叩く。


「ははは。

 脅しすぎましたな。

 失礼を。

 できればお早めに邸にお戻りになられる事をお勧めします。

 最近は辻斬りがよく出ているらしいので」


 そのまま三好家郎党を連れて邸から出てゆくのを俺は見守ることしかできなかった。

 焚き火の音でやっと我に返る。


「果心。

 あんな事を言われたが動けるか?」


「もちろん。

 あれは動いてくれと言ってるようなものです」


「頼む」


 俺の声の先に既に果心は居なかった。

 さすがくノ一。仕事が早い。


「御曹司。

 一万田殿に連絡をとるべきかと」


 大鶴宗秋の言葉に頷いて慌てて思い出す。

 俺たちは京に来ているという事を。


「待て。

 こちらの手の者のみ走らせると迷う。

 三好家の郎党を借りて共に走らせよ。

 向こうは一万田鑑実と吉弘鎮理だから抜かりはないと思うが、二人の書状をもらってこい」


「承知いたしました」


 日は既に山向こうに消え、京は夜の闇にその身を委ねていた。

 魔がはびこる京の歓迎を噛み締めながら、俺は震える有明の手をにぎる事でそれに耐えた。

今村慶満 いまむら よしみつ

蜷川親世 にながわ ちかよ

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