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修羅の国九州のブラック戦国大名一門にチート転生したけど、周りが詰み過ぎてて史実どおりに討ち死にすらできないかもしれない  作者: 二日市とふろう (旧名:北部九州在住)
筑前剣豪五番勝負

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猫城包囲 その2 4/9大規模加筆 【地図あり】

挿絵(By みてみん)

 現在の俺達の軍勢は帆柱山城に居るのだが、ここから猫城を攻略するためにいくつかの準備が必要になる。

 まずは前線基地として園田浦城に渡辺教忠・土居宗珊・入田義実の二千に入ってもらっている。

 次に一番近い畑城に島津忠康と矢野政秀の五百を入れて香月家と共に警戒する形になっている。


「いいか。

 絶対に猫城は攻めるな。

 無傷で開城させろ」


 俺は諸将にそう言いきる。

 猫城を燃やして建て替えるというか領地放棄も考えなかった訳ではないが、せっかくの城を無傷で奪還したいというスケベ心が出たことは否定しない。

 諸将の顔にあからさまな不満が見える。

 城攻めの功績が無くなるからだ。


「開城の交渉については誰にさせるので?」


 大鶴宗秋の確認に俺はその交渉人を指名する。


「宗像宗繁と河津隆家に。

 開城したら家名存続に手を貸してやると伝えてやれ」


 目で現加判衆の臼杵鑑速に確認を取ると、彼もこっちを見て頷く。

 ちゃんと言い逃れる余地はあるし、それでも俺を頼らないといけない宗像家からすれば垂らされた蜘蛛の糸だから必死に交渉するだろう。

 大鶴宗秋が今度は条件について詰めてゆく。


「城にいる敵将兵は?」


「帰してやれ。

 彼らにとって戦は終わったんだ。

 ここで腹を切ったり城を枕に討ち死にしても誰も喜ばんよ」


 史実になるが、立花合戦では何度か大友と毛利で立花山城を奪い合ったが、最後は降伏して城の将兵は安全に退去していた。

 既に逃がすべき毛利軍も残っていないのだから、こちらの降伏勧告に応じる可能性は十二分にあった。

 その上で、今回の評定で残った最後の爆弾の処理にかかる。


「佐々木種次は畑城まで出て、そこからは供回りのみでこの城にやってきてもらおう。

 彼らの真意を問い質さねば決められん」


 秋月種冬問題は実を言うとしくじるとかなり厄介な爆弾である。

 英彦山を背景に助命を申し出ているのと、それを拒否して英彦山と敵対した場合、連鎖して旧秋月領で一揆が起きかねないからだ。

 彦山川合戦の勝利にて勝ちは確定しているのだが、それゆえに一揆や蜂起が起きるとお屋形様出陣に泥を塗る結果になる。

 厄介なことこの上ないのが、お屋形様出陣の集結地点がその旧秋月領という事で、彼らはそこまで見据えてこちらを脅してきているという訳だ。


「厄介そうな話じゃないか」


 評定終了後に残ってもらった臼杵鑑速・田原親宏・大鶴宗秋の三人に俺は苦笑してぼやく。

 俺の腑抜けたぼやきを臼杵鑑速が即座にたしなめる。


「古今、戦は勝ってからが面倒なもの。

 真の敵は、敵ではなく味方におります故」


 その一言で気づく。

 残ってもらった臼杵鑑速・田原親宏・大鶴宗秋の三人とも顔が引き締まっているという事に。


「婿殿も大戦の後で気が抜けたのでしょう。

 そのあたりは我らが支え、お伝えすれば良かろう」


 田原親宏の言い方にやっと俺にも危機感が伝わってくる。

 だが、彼らの危機感の元が何なのかいまいち分からないので、首をひねったら大鶴宗秋がため息と共にその危機感を伝えてくれた。


「殿御自らおっしゃっていたではございませぬか。

 毛利の狙いは殿の首だと。

 この状況、殿の首を取りに来た仕掛けとしか考えられませぬぞ」


と。


「皆の危機感は分かるが、この状況で誰が俺の首を取りに来るんだ?」


 顔をしかめて皆に確認すると、そのロジックが見えてくる。

 欲というある意味人の本質が。


「八郎様に何を与えるかで悩んでいると言ったではございませぬか。

 その八郎様が居なくなれば、与えるのは家督継承のみで済みます」


 それを臼杵鑑速が言ったことで、ようやく体に悪寒が走る。

 改めて認識する。

 今の俺は大功をあげ過ぎた重臣になっているという事を。


「婿殿が数少ない大友一門衆である事からは逃れられませぬ。

 その為、たとえ仲が良くても外様の奈多家には気をお許しになりませぬように」


 田原親宏の言葉は仮想敵として大友義統や田原親賢・成親親子を見ろと言っているに等しい。

 とはいえ、情あれど殺し殺されをするのが戦国の侍というやつでもある。

 そんなものに俺はなりたくはないのだが。

 俺の考えを察したらしい元加判衆の田原親宏が続きを口にする。


「それがしが加判衆として婿殿の功績を評するならば、半国は堅いでしょうな。

 伊予半国と合わせて一国。

 警戒されるに決まっております」


 今回の戦でその処遇が取りざたされるのが、旧立花領に、宗像領、そして高橋領で、石高はおよそ三十万石近くにのぼる。

 宗像家の調略を俺が受け持っているからそのまま宗像領を俺が食べる計算で、更に立花領を加えてという所か。

 宇和島大友家の石高はおよそ十五万石。

 宗像領と立花領を合わせたら大体十五万石で合わせて三十万石。たしかに一国持ちの石高に達してしまう。

 そこまで来たら、必然的に俺が筑前国の旗頭と周囲は否応なく見てしまうだろう。

 史実では戸次鑑連に立花家の名跡を継がせていたから、そのポジに俺が入って筑前一国の旗頭……

 ここまで来てやっと事態の厄介さを理解する。

 完全に尼子新宮党ポジじゃねーか!これ!!!



「此度の戦、突き詰めると『俺がお屋形様に討たれるか?』が全てなんだよ。

 言ったろう?

『毛利は勝ち過ぎた』って。

 適当に放置していたら、高橋鑑種謀叛の連座で俺の首は飛んでいた。

 だが、その前に毛利が大勝ちしたものだから、武将として俺を使わないといけなくなった」



 あれはどの酒の席だったか。

 たしか長宗我部元親相手に俺がしたり顔で語ったじゃないか。

 彦山川合戦で負けたからこそその条件が満たされてしまう。

 やられた。

 勝ったが故に内部粛清が避けられん。

 俺が理解した事で、最後のとどめを大鶴宗秋が言ってくれた。


「殿はお色様を奥に置いておりますからな。

 祟りで殿が倒れるという事も十分に考えられますぞ」


「府内では『八郎様がお屋形様をたぶらかして南蛮の異教にかぶらせた』と流言が流れておりますぞ。

 その噂もお耳に入れておきたく」


 ついでとばかりの田原親宏の言葉に苦笑しか出ない。

 この流言の元になっているのは、第三次姫島沖海戦における南蛮人の助力とそこから派生した奴隷貿易である。

 このせいで英彦山や宇佐八幡宮が反大友に回り、苦戦の一因になったのは記憶に新しい。

 それが未だに尾を引いていた。


「あー。

 やっと理解できた。

 奈多家が警戒しているのか」


「奈多家だけではございませぬ」


 おれの理解に臼杵鑑速が補足する。

 彦山川合戦と大友宗麟の博多出陣によって、大友家中の派閥内に劇的な変化が生じていたのである。


「志賀一族も肥後絡みで八郎様を警戒するでしょうし、田北家は加判衆の中では領地拡大に遅れて焦っているでしょう。

 そんな家々が手を組む可能性はお忘れにならぬようにした方が良いかと」


 そう告げた臼杵鑑速の顔を俺はじっと眺める。

 肥後がらみは菊池家の事だけに少し心が重い。


「あれだけ兄弟で殺し合ってまだ警戒するか?」


「殺し合ったからでございます。

 そして、八郎様が生き残った。

 名実ともに、菊池の名を継げるのは八郎様ただ一人。

 それをお忘れなきように」


 臼杵鑑速の言葉が重たい。

 捨ててしまえるならば捨ててしまいたいのだが、回りがそれを許さない。

 彦山川合戦で勝った為に島津家との軋轢が始まっている肥後政策は、大友家の緊急課題になろうとしていた。

 その上で、俺の立ち位置を再確認する。


「俺は有明を正室にしているから大神国人衆と、お蝶をもらったから立ち位置だと田原家の所に縁がある。

 色々世話になっているのはありがたいが、臼杵殿がここまで俺に入れ込む縁が分からんのだが?」


 兄臼杵鑑続や畿内の事もあるので縁はあるが、この手の繋がりで外せないのが閨閥である。

 失脚した臼杵鑑速を復権させて自らが身を退いた田原親宏がその縁をあっさりとばらす。


「実は我が娘の一人を臼杵殿の子である勝之太郎殿に娶らせる事になりましてな。

 戦が終わった後に祝言をと考えております」


 勝之太郎とは臼杵鑑速の息子である臼杵統景の事で、臼杵家復権への礼という事ならばこれ以上の礼は無いだろう。

 田原家は俺とお蝶の子である塩一丸が継ぎ、失脚から復権した臼杵家と繋がったことで臼杵閥に加わる事ができた。

 そういう事か。

 俺を軸にした田原=臼杵同盟に、他派が警戒を始めている訳だ。

 臼杵閥は吉弘家や戸次家、俺絡みだと佐伯家に勝手に絡んできた竜造寺家がそこに入る事になる。 

 警戒するのは当然で、対抗上彼らもという訳だ。


「なんとなく分かってきた。

 この内情だと刺客が送られてきても何も言えんな」


 タイムリミットは大友宗麟が博多に入城するまでの間。

 それが戦の終わりとなって、褒美等が確定するからそれまでに俺を討っておきたい。

 そして、そんな刺客に使える駒を毛利元就は間違いなくわざと残していった。




「岩石城城主佐々木種次と申します。

 この度は、参陣が遅れ大変申し訳なく……」


 翌日。

 少数の手勢のみでやってきた佐々木種次の弁明を聞きながら、彼の傍に控えていた侍の刀に目が行く。

 長い。

 おそらくは普通の刀の長さを軽く越えている。

 その刀の使い手に目をやる。

 俺よりも少し若いぐらいで、才覚に溢れている。

 目が合うと、彼は俺だけに向けて微笑む。

 その笑みには殺気が乗っていた。

 万一に備えて、俺の側には薄田七左衛門と柳生宗厳が控えていた。


「構わぬよ。

 とはいえ、働きがなければそちらの要求は満たすことができぬ。

 その働きについては期待しても?」


「もちろんでございます。

 猫城の毛利の残兵ごとき踏み潰してご覧に入れましょう!」


「頼もしいな。

 とりあえずは城を囲んで開城を促す。

 城攻めになったら、河津殿と共に先手として働いてもらおう」


「ありがたき幸せ!!!」


 佐々木種次が頭を下げた後、俺は付き添っていた若武者に声をかける。

 いや、かけざるを得なかった。


「其方が持っている刀、ずいぶんと長いな」


「備前長船の数打の野太刀でございまする。

 精々五尺三寸の物干し竿。

 主計頭様の目を引くような刀ではございませぬよ」


 備前長船とは備前の国長船の刀鍛冶が製作した刀剣でブランドの一つになっている。

 数打とは大量に製作した粗末な刀剣を指し、野太刀というのは長い刀で本来は馬乗にて用いるものだ。

 なお、この五尺三寸はおよそ175センチになる。

 こんなのを徒士で振り回すだけでも技量が分かるという訳で。

 というか、この時点で物干し竿と言わないで欲しい。

 聞きたくない名前と技が頭に浮かぶから。

 俺は馬鹿殿のふりをしてカマをかける。


「それだけの太刀だと馬を操るのもきついだろう」


「お恥ずかしい事ですが、それがしは徒士で戦う身。

 この戦で手柄をたてたら馬でももらおうかと」


「おお。

 その時は首を俺に持ってこい。

 馬を用意してやろう」


「ありがたき幸せ」


 言葉がとぎれ佐々木種次主従が立ち上がる。

 この瞬間が刺客にとっては格好の時。

 立ち上がってそのまま相手目がけてという襲撃は結構残っており、思ったよりも成功率は高い。

 もちろん、若武者は殺気を俺に当て、控えていた二人が刀の柄に手をかけようとして踏み留まる。

 今こいつを無礼討ちにすると必然的に佐々木種次も討たざるを得ず、騙し討ちになってしまい残してきた英彦山僧兵の蜂起が確定するからだ。

 だからこそ、俺は自制して佐々木種次主従が立ち上がるのを見送る。

 額に汗が浮き出ているのを手ぬぐいで拭いながら、俺は軽口を叩いた。


「そう言えば、名前を聞いていなかったな。

 手柄を立てそうだから覚えておこう」


 明確な挑発に対する挑発返し。

 刺客相手に大名がする事ではないが、俺の知っている名前だろうからそのネームバリューで後世から見ればバランスがとれるなんて内心苦笑しつつ、俺は彼にその名前を求めた。


「佐々木種次が一族が一人。

 佐々木小次郎と申します」


 お約束だが言わせてくれ。

 やっぱりチートじゃねーか。




 佐々木種次主従が去った後で、俺は側に控えていた薄田七左衛門と柳生宗厳を呼び寄せる。

 案の定、あいつはこの二人にもしっかりと殺気を当ててきたらしい。


「あれが多分刺客の一人だろうな。

 勝てるか?」


「一対一なら負けないでしょうな。

 殿を庇えるかはまた別の話ですが」


「無理だ。

 相性が悪い…失礼。

 相性が悪うございます」


 柳生宗厳はあっさりと、薄田七左衛門は悔しそうに言った。

 この間からの一件で薄田七左衛門の口調が少し崩れているのが嬉しい。

 薄田七左衛門の剣は小太刀を使い、縦横無尽に動き回り相手の隙を突く剣なので、ああいう長い太刀を相手にする場合致命的なまでに相性が悪い。

 一方で相手を見て柔軟に対処する事を基本とする柳生宗厳は一対一なら勝てると言い切るが、それは佐々木小次郎の首が飛ぶと同時に俺の首が飛ぶと言っているに等しい。

 死合の剣と合戦の剣と暗殺の剣。

 それぞれ違う訳で、あの佐々木小次郎の剣は間違いなく暗殺の剣だった。

 

「おそらく刺客はあれだけでは無いはず。

 まだ少なくない間者が、佐々木殿が連れてきた手勢の中にいるかと」


 呼んでもなかったが当たり前のように居る果心がため息をついて目で俺を非難する。

 正直彼の参陣を断った方が楽でよかったのだが、断ったら面子が潰れた事を理由に英彦山蜂起と旧秋月領の一揆が同時に発生した上に、博多を受け取りにいっているお屋形様の本陣とかち合ってしまう。

 これは向こうの作戦勝ちであり、未だ間者戦でこちらが後手に回っている証拠だった。 


「こちらの間者は再建がまだだ。

 となれば、刺客を確実に討ち取る手練を用意しておかねば危ない。

 果心。

 伝林坊頼慶をこちらに連れてきてくれ」


 剣聖上泉信綱という切り札があるにはあるのだが、これを切ってしまって相手に別の手札が残っていた場合俺の首が落ちる。

 上泉信綱を使わない、もしくは彼を使った場合でも次がある状況に手札を構築する必要があった。


「かしこまりました」


 果心の了承を聞いて俺はため息をつくが、同時に少し楽しい自分も自覚していた。

 万一刺客に討たれるとしても佐々木小次郎の手ならば苦しまずに死ねるだろうと思ったからである。

 こうして、敵か味方か分からない英彦山僧兵を加えて、俺達の軍勢は懐かしき猫城を包囲する。


 合戦ではない闇に消えゆく戦いが静かに幕を開けた。

4/9大規模加筆

4/22 少し加筆


物干し竿をあえて五尺三寸に変更。


筆が乗って完全にドラゴンスレイヤーモード。

何故うちのカルデアには武蔵ちゃんが居ないのだろう……うちのアサシンは100のステンノー様です。

ぼちぼちと新宿を探索中。



5/12 タイトルを猫城開城から猫城包囲に変更

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