おまけ
暗殺計画実施から数日後――
来栖は執務を終え、自室の浴室で入浴していた。
机の上に置いてあるスマートフォンから着信音が鳴っており、画面には『来栖 和』とフルネームで表示されている。
『もしもし、直?』
「なんだ、姉さんか」
『何回か電話したけど、なかなか繋がらなくて』
「ごめん。さっきまで風呂に入っていた」
『お風呂なら仕方ないね。ところで、今週末の夜だけど私のバーにこられそう?』
「今週末? ちょっと待っていてくれないか……」
彼はスケジュール帳をパラパラと開いた。
そこには主である有紗の予定はもちろんのこと、当番の日時などが記されているが、すでにここ数日の予定はたくさん入っている。
「うーん……今週末はキャンセルが出ない限り厳しそうだな。来週の半ば以降だったら少し落ち着くはずだが……」
『良家の執事は大変そうだね。その間にも暗殺の依頼も受けているんでしょ?』
「その通りだ」
『直、忙しすぎて自分の誕生日のこと忘れてない?』
来栖はスケジュール帳を机に置き、卓上カレンダーに視線を移した時、一つだけ引っかかることがあった。
「俺の誕生日ならもう過ぎているぞ」
『いつだっけ?』
何故、姉さんは今になって俺の誕生日を問うのかと――
「十月十三日だ。姉さんはついにボケたのか?」
彼は冗談交じりに答える。
『正解。……って、ボケてないよ! 私と直の年の差は三歳しか変わらないし、「十三日の金曜日」って聞いて怯えていたのも覚えてるんだからね!』
「それはすまなかった」
来栖は十月十三日生まれで幼い頃は「十三日の金曜日」にはよくないことが起こるのではないかと怯えていた時期があった。
彼は彼女が若年性認知症にでも罹ったのではないかと思っていたが、そうではなさそうなので、安堵している。
『どうでもいい茶番は止めにして……隼人くんと打ち上げはしないの?』
「ちょっと、茶番が長すぎて、肝心の用件は唐突すぎないか!? 姉さんは特に何もしていないのに……一応、隼人に電話してみる」
『私は隼人くんの連絡先、知らないからお願いね! あと、バーも貸し切りにしておくから、電話すること!』
「はいはい。また電話するから」
来栖は和の電話を切り、隼人に電話をかける。
『はい。荻野です』
「もしもし、隼人?」
『どうした?』
「さっき姉さんから打ち上げはしないのかって電話があって」
『打ち上げ? いいね! いつがいいんだ?』
「俺は来週の半ばだったら落ち着くだろうと思う。姉さんが隼人はいつなら予定が空いているか訊いてみてと」
『俺は来週末なら大丈夫だぞ』
「本当か。姉さんに伝えておく」
『あいよー。決まったら連絡して』
彼らは電話を切り、面倒くさいと思いながらも彼女に電話をかけた。
『隼人くんは来週末かぁ……それなら私も大丈夫だから貸し切りにしておくね!』と和。
隼人も『分かった!』と答えた。
†
あれから一週間後――
来栖と隼人は駅で待ち合わせをして彼女が経営するバーへ向かう。
バーの扉には『本日は貸し切りです』と札が下がっていた。
「二人とも、いらっしゃい」
彼らにとっては聞き慣れた扉の音と和の声。
「姉さん、お待たせ」
「どうも。和さん」
「さ、好きなところに座って座って!」
彼女は二人に座るよう促すが、いつものカウンター席に腰かける。
「君たちは好きだねぇ……カウンター席」
「いつも座りなれていますので!」
「なんか落ち着くから」
「そんな理由で!」
「「そうだ(そうです)!」」
和は「やっぱり二人は仲がいいねぇ」と呆れたように呟いた。
「早速だけど、二人は何を飲む?」
「じゃあ、白ワインで」
「俺は何にしようかなぁ……」
「隼人くん、いろいろあるから迷ってるねー」
「うーん……俺はワインよりカクテルの方が好きだからさ。和さん、このバーでオススメのカクテルで」
「分かった! 待っててね」
彼女はシェイカーやグラスを準備して、カクテルを作りはじめている。
視線の先には来栖と隼人が雑談をして待っている。
その光景はまるで二人が幼い頃のような穏やかな雰囲気だ。
「お待たせ! できあがったよー」
「待ってました!」
「全く隼人ったら!」
和がカウンター席にワインやカクテルを運んでくる。
「二人とも、暗殺計画実施お疲れさまでした」
彼女のかけ声で三人はグラスを傾けた。
2025/11/05 本投稿
2025/11/10 修正




