#8(最終話)
しばらくして来栖は正気に戻った。
「直、お前って奴は……」
「隼人、どうした?」
「やっと落ち着いたか。お前って人が変わるんだな……」
「今、なんて?」
「人格が変わるっていうか……」
「えっ!? 俺、そこまで意識していなかった」
「覚えてないのか?」
「ああ。女性だったら上品に殺めるせいか記憶に残っていることが多いが、男性はどうしても派手になってしまうし、何故か記憶に残っていない……毎回のように返り血を浴びすぎていることにようやく気がつくパターンだ……」
「さっきまで狂ったように殺ってたぞ。仕舞いには亡骸を踏みつけてたし。顔にも返り血がついてる。その様子は殺人現場で物語ってるぞ」
「う、嘘だ!?」
「嘘じゃないぞ? よく見てみろ」
来栖は隼人に指摘され、ようやく気がつく。
そこには先ほど彼が医療用メスで切りつけた亡骸と壁やテーブルなどについた血痕が視界に入ってきたからだ。
「……本当だ……やはり第三者から客観的に見られるとヤバイことになっている……これは自分でもとてつもなく恥ずかしい……」
来栖がその光景を見て恥ずかしがっている時に和がラーメン屋にやってくる。
彼女も彼らと同様に黒系の服を着用し、ショルダーバッグを提げていた。
「二人とも、お疲れ様」
「ね、姉さん!?」
「和さん、お疲れ様です」
「なんか面白そうだからきちゃったけど、終わったあとだったんだね」
「面白くも何もないが……」
「直、ほっぺに返り血がついてるよ?」
「それ、ついさっき隼人にも言われたところだ……」
「ちょっと待ってて。鏡、持ってるから。あと、ウエットティッシュだね。えーっと……どこにあるかな……」
和はそこから鏡を取り出し、彼に渡す。
彼女はウェットティッシュをガサゴソと探していると、隼人から「和さん、流石ですね……」と声をかけられた。
「私も一応は女性だよ。必要な持ち物はしっかり管理してるよ」
「これには脱帽です」
「隼人くんは知ってるでしょ? 直はお父さんの血をしっかり引き継いでるしね」
「ええ。確かにそうですね」
情報屋である彼女は女性らしくショルダーバッグには鏡やメイクポーチは当たり前のように入っており、救急絆創膏や鎮痛剤などの小物も持ち歩いている。
来栖家と繋がりがある隼人は彼女ら姉弟はもちろん、その両親の正体も知っているのだ。
「ところで、直は一人でハロウィーンしてる場合じゃないからね!」
「それは分かっている!」
和がショルダーバッグからウェットティッシュを見つけると来栖の顔についた返り血を乱暴に拭き取った。
暗殺者と闇医者の二人による暗殺計画実施終了――
†
あれから数日が経過した。
『次のニュースです。九月中旬に起きた賞味期限切れ食材の使用や異物混入騒動に進展がありました』
『現場には何者かによって殺害された男性の死体が今朝、通行人の目撃によって通報されました。今のところ、目立った情報はないとのことです。それでは現場に繋いでみましょう。現場の浜田さーん!』
『はい。こちらは――』
ニュースは賞味期限切れ食材の再利用、異物混入騒動の話題で朝から持ちきりになっている。
ただいまの時刻は十五時を少し回ったところ――
有紗はアフタヌーンティーとして準備されたマカロンを手に取り、その横で来栖は彼女の紅茶を注いでいた。
「ねぇ、来栖? そのラーメン屋さんの店主はどのようにして殺害されたのかしら?」
有紗は彼に問いかける。
来栖は自分で殺めたにも関わらず、冷静に「残念ながら私には分かりかねません」と答えた。
「その方の死体はわたくしが美味しくいただいてもよかったのではないのかしら?」
「いいえ、お嬢様。今回はこれでよいのです」
「それは何故?」
「私は出血多量の死体を屋敷に持ち込むのは少々気が引けますので……」
「そうよねぇ……あなたの頬に書いてあるわよ?」
「気づかれましたか。しかし、証拠隠滅はよろしくないですよ? 特に殺人事件の場合は、ね?」
「そう言われてみればそうね。わたくし、本日の晩餐はフレンチがいいわ」
「畏まりました」
彼はかつて、今回の暗殺計画で出た亡骸を使用して物騒な食事を作ろうと目論んでいたが、殺人事件の証拠隠滅になってしまうことやあまりにも亡骸の状態がよくなかったことから屋敷に持ち込まなかったのだ。
世間では殺人事件の犯人は誰なのか、どういう手段で実行されたのかなどと話題が尽きなそうだが、また穏やかで平和な日常がもどってくるのではないかと願ったり叶ったりではあるかもしれない。
何故ならば、この屋敷の執事は暗殺者であることを隠しているのだから――。
~ Fin ~
2025/11/05 本投稿
2025/11/10 次回更新日時削除




