#4
その翌日――
来栖は部屋で身支度を整えていた。
髪を梳かそうと櫛を取った時、ドンドンと扉を叩く音が耳に入る。
「来栖さーん! く・る・すさーん!」
「どうした? やけに騒がしいな……」
「おはようございます!」
「……おはようございます……」
使用人がまたしても彼の部屋に駆けつけていた。
来栖は普段の口調で扉を開けてしまい、使用人と互いに驚いた表情を浮かべる。
今の彼は燕尾服は着用しているが、髪はボサボサだったので、手櫛でササッと梳かし、伊達メガネをかけていない少し目つきが悪い美男子の姿。
「……すみません……怒らせてしまいましたか……?」
「あっ! 失礼いたしました。私が寝ぼけていました!」
「お嬢様が「今日こそはウサギを使った料理が食べたい!」って仰っているんですが……」
「大丈夫ですよ。本日は突発で屋敷から外しませんし」
「ならよかった……って、来栖さん、お支度中でしたよね!? またいきなり押しかけてしまい、すみませんでした!」
「いいえ、とんでもございません。私も先ほどは素が出てしまったので、お詫びいたします」
「いえ。で、では失礼いたします!」
その使用人は「なんだ? さっき見たイケメン執事は!?」と思いながら元の持ち場に戻った。
使用人を見送ったあと、来栖は再び櫛を手に取り、髪を梳かし、伊達メガネをかける。
「予定時刻より時間が押してしまった……さて、行くとしよう」
彼は護身用として準備していた果物ナイフを内ポケットに忍ばせ、白手袋をはめ、ようやく部屋から出た。
†
その頃、有紗は使用人が戻ってくるのを待っている。
来栖は今日こそわたくしにウサギを使った料理を作ってくれると思いながら――
「お嬢様、お待たせいたしました!」
「来栖はなんて?」
「本日はウサギを使った料理を作ると仰っていました」
「本当!? 嘘ではないわよね!?」
「ええ。彼の口から今日は屋敷から外さないと」
「よかった! 楽しみだわ!」
「お嬢様、来栖さんはお支度中にも関わらず対応してくださったので、あとでお礼と――」
彼女は使用人が話していることを無視するかのように彼が姿を現した。
「みなさま、お待たせして大変申し訳ございません」
「来栖、遅かったわね。もう朝食を終えたところよ? 今日はあなたが朝食担当ではなかったから運がよかったわね」
「本当に助かりました。食事は当番制にしてよかったと思っております」
富永家は来栖や使用人の負担軽減のため、食事を作るのは当番制となっている。
この屋敷では流行りの「働き方改革」が行われているのだ。
しかし、晩餐は有紗の無茶振りで物騒な食事を求められることがしばしば。
その時は必然的に彼が作ることになるので、実際の「働き方改革」とはどうなっているのかは分からない。
「あ、来栖。支度中に無茶なお願いをして申し訳ございませんわ」
「とんでもございません。私こそ、昨日は突発で屋敷から外しておりましたので……」
有紗は来栖に謝罪する。
しかし、彼も昨晩は屋敷から一時的に外れたことを謝罪するが、彼女は「まあ、いいわ」と答え、こう続けた。
「わたくしは従者のプライベートまで干渉する権利はございませんし。来栖、今晩はお願いいたしますわ」
「はい、畏まりました。お嬢様がご満足する晩餐をご用意いたします」
有紗は来栖に指示を出し、彼は穏やかに答えた。
2025/11/02 本投稿
2025/11/09 改訂(改稿)




