#2
来栖は自室に到着し、メガネを机の上に置く。
彼の場合はメガネと言っても伊達メガネを使用しているため、視力はいい方だ。
少し目つきが悪いが、この容姿だけでも十分な美男子だ。
燕尾服から私服に着替え、財布とスマートフォンをサコッシュに入れる。
屋敷の鍵をかけ、自転車で行きつけのバーへ向かった。
†
来栖は駐輪場に自転車を止め、チェーンをかける。
カランカランと扉が開くと「いらっしゃいませー」と反応があった。
彼と隼人の行きつけのバーは来栖の姉、和が昼間はランチ、夜はバーとして経営しているこじんまりした店舗――。
幸いにもこの場所には客の姿はない。
「どうも」
「あれ? 直がここにくるなんて珍しいじゃん?」
「ごめん。あとから隼人もくる」
「隼人くんも!」
「ああ」
「ちょっと、前もって電話してよー」
彼女は「今日は薄化粧だから恥ずかしい……」と彼に聞かれないくらい小さな声で呟く。
「突然、押しかけてすまない。ところで、姉さん。例のラーメン屋の情報はない?」
「何日か前に直と隼人くんが出向いたラーメン屋さんの事件のことだよね……確か……そのラーメン屋さんは数ヵ月くらい前から人手不足で衛生管理が行き届いていなかったらしい」
「それ以外は?」
「異物混入も同じくらいの時期からと聞いている――」
彼女も裏では情報屋をしているため、姉弟で情報のやり取りをすることは少なくない。
情報料は身内のため、他の情報屋よりかなり安価で提供してくれるのだ。
その逆もあり、和から弟の直に直接依頼したりすることもある。
「姉さん、ちょっと怖い……」
「そういうあんたも十分怖いよ。少し目つきが悪いせいもあるけど、今にも人を殺しそうな顔してるもん。流石、私の弟ね」
「俺、一応は暗殺者やっているんだが……隼人に至っては医師免許持っていないし」
「あはは……そうだね。今日のこの時間帯は裏の人間しかいないね」
「まあ、俺たち姉弟は両親が裏の人間だからそういう家系になってしまうのは仕方ないだろう」
「父親と弟が暗殺者で母親がスパイ、私は情報屋だからね……」
二人の会話の通り、来栖家は裏社会の家系であるため、表社会では両親まで正体は知られているものの、姉弟の正体はまだ周囲には知られていない。
「普通の生活が理解しづらかったな。特に子供の頃は」
「確かに! 周りの子や先生は怯えてたよね」
「あとは家庭訪問や授業参観がな……」
「それ、分かる! 懐かしい!」
それ故に家庭訪問の時は両親が不在ということが多く、両親の都合が合い、授業参観にきたら、担任やクラスメイトから怯えさせたりしてきたため、姉弟は散々な少女・少年時代を送ってきたのであった。
「そういえば、隼人くんは遅いね」
「電話してみるか……」
彼がスマートフォンをサコッシュから出そうとした瞬間――
カランカランと再び扉が開く音がすると、隼人がようやく姿を現した。
「あ、直と和さん。こんばんは」
「隼人。遅かったではないか?」
「やっと来たね、隼人くん」
「実は仕事が立て込んでて……」
「仕事って本業の探偵?」
「そうなんです。なおちゃん……遅くなってごめんな」
「俺のことなおちゃんって……気持ち悪いな」
隼人の本業である探偵は依頼人の話が長引くこともしばしばあるため、予定が合わないこともある。
彼はできるだけ来栖の誘いには答えようとしているのだ。
彼女はそんな彼らのことをいい関係だなぁと思いながらカウンター越しから眺めていた。
「あ、そうだ。何か飲む?」
「じゃあ、アルコール分が少ないカクテルを……」
「俺も同じものをお願いします」
「分かった。ちょっと待っててね」
和は二人に注文を取り、グラスを準備する。
彼らの会話を聞きながら彼女はカクテルを作り始めた。
2025/10/30 本投稿
2025/11/09 改訂(改稿)・次回更新日時削除




