70話
俺がイェルクの森から帰還して半月が経った。
シェリアも体調が回復して聖女としての仕事や修行などに精を出していた。俺も王子としての勉強に武術の鍛錬、神子としての仕事など忙しくしているが。おかげで彼女とは会えない日々が続いている。まあ、仕方ないか。そう思いながらも今日も先生からの課題に取り組んだ。
「……殿下。今日は剣術の鍛錬はお休みなんですね」
「ああ。雨が降っているしな」
リアナが話しかけてきたので答える。課題は一旦やめて休憩中だが。
「ですね。雨の中で鍛錬をしていたら風邪をひいてしまいますし」
「ああ。だから代わりに座学で兵法を学んでいるんだけどな」
「……まあ。兵法ですか。勉強熱心ですね」
リアナが驚く。俺は肩を竦めた。机には教科書とノート、筆記用具がある。といっても教科書は分厚い。たぶん15センチくらいはあるだろうな。そんな事を思いながらリアナが淹れてくれたハーブティーを飲んだ。
「最近はシェリア様もお忙しいようですし。殿下もそうでしょう。私はお二人が体調を崩されないか心配です」
「大丈夫だよ。俺もシェリアも鍛えているから。ちょっとやそっとでは倒れねえよ」
「それはそうですけど」
俺が敢えて明るい口調で言うもリアナは納得いかない表情で反論しようとする。そんなに俺は信用がないのだろうか。
「……殿下。確かにお二人とも鍛えておられますけど。シェリア様はまだ7歳の女の子なのですよ。心配にもなります」
「あー。そういう事か。確かにそうだよなあ」
「だから無理をされないように忠告をしたいくらいでして。殿下からも忠告をしてくださると私としては有難いのですけど」
リアナの言わんとしている事は理解できた。なる程。シェリアの年齢を考えてみたらそうだよなあと思った。
「……とりあえずは俺からも言っておくよ。シェリアは無茶をすぐにしそうだし」
「ええ。お願いします」
俺は頷いてハーブティーを一口含んだ。少しの酸味と苦味があるが鼻から抜けるような爽やかな香りがする。前世の日本で言ったらミントティーといったところか。気分を落ち着かせてくれる。
「殿下。お替りはありますか?」
「ん。もう1杯頼む」
「わかりました」
リアナはカップを受け取るとお替りの分をポットから注いでくれた。俺は礼を言ってからテーブルに置かれたカップを手に取る。やはりうまい。そう思いながら飲んだ。雨は降り続けるのだった。
翌日はよく晴れていた。俺は身支度をしてジュリアスやエルと3人で鍛錬場へ向かった。今は春になろうとしている。外はまだ風はひんやりとしていた。
「……殿下。今日は父による鍛錬でしたね」
「そうだったな。1日休んだら元に戻すのに3日はかかるが」
「まあ、それはそうですが。私としては殿下の腕が上がってこられて驚いていますよ」
「……そうか?」
「ええ。最初はあんなに小さかった殿下が今はすっかり逞しくなられましたから」
「まあ、最初はそうだったよな」
はいと言ってジュリアスは感慨深げに頷いた。エルもだ。そんなに俺ってちっこく見えてたのか。
「……殿下が騎士団長の元に行かれた時は。本気で大丈夫かとヒヤヒヤしました」
「……あー。そんときは悪かったよ」
「いえ。私も言い過ぎました」
ジュリアスは苦笑しながら言う。エルもちょっと肩を竦めている。俺はなんだかなと思った。てくてくと歩き出すのだった。
鍛錬場に着くとウィリアムス師が待っていた。先にジュリアスが行って挨拶をする。エルも続いた。
「……殿下。一旦、失礼します」
「ああ。師匠に挨拶をしてくるんだよな」
「はい。殿下は準備体操をしていてください」
頷くとエルはウィリアムス師の元に同じように行ってしまった。俺は鍛錬場の隅に行って準備体操を始める。日本のラジオ体操を真似て一通りした。そうしている間に挨拶や話を終えて二人はウィリアムス師と共にこちらにやってきた。
「……殿下。準備体操をなさっていたのですね」
「はい。師匠。今日もよろしくお願いします」
「ええ。木刀を取ってきてください」
俺は頷く。歩いて鍛錬場の隅にある木刀を取りに行った。そうしてから師匠の元に戻る。
「では。始めましょうか」
「……はい」
師匠は同じように木刀を取りに行った。そうしてから剣術の鍛錬が始まる。まずは素振りからだ。
「殿下。今日は50回を目標にしましょう」
「……わかりました」
俺は横にいるジュリアスやエルと3人で素振りを黙々とやる。声には出さずに数えたが。やはり、身体がなまっている。30回目くらいで息が上がり始めた。それでも我慢して続ける。
「……49、50。終わりましたね。次は打ち合いをします」
「はい!」
素振りが終わると俺はジュリアスと打ち合いを始めた。ジュリアスは木刀を構え直す。俺も同じようにした。2人で向き合ったのだった。
「……殿下。行きますよ!」
「……おう!」
互いに走って間合いを詰める。カアン!
木刀がぶつかり合って高い音が辺りに響いた。ジュリアスが上段から斬り込むのを俺は横に構えて防いだのだった。その後も打ち合いは続いた。




