63話
俺や親父達がイェルクの森に入ってから2日目になった。
シェリアちゃんに治癒魔法をシンディー様がかけてくれる。そのおかげで彼女も朝食を食べられる程には回復していた。俺も回復魔法をかけてみた。するとシェリアちゃんの体調が良くなったのだが。
「……エリック様。迷惑をかけてすみません」
「別に俺は気にしてねえよ。それより、シェリアちゃんの体調の方が大事だ」
俺が言うとシェリアちゃんは顔を薄っすらと赤らめた。どうしたのだろう。
「……シェリアちゃん。どうした。顔が赤いけど」
「……無自覚なのですね」
「シェリアちゃん?」
シェリアちゃんはそっぽを向いてしまった。耳まで赤い。もしや、照れているのか。やっと理由がわかって俺はなる程となった。けどからかう気はない。
「……エリック様。あの。皆様が心配していると思いますわ。もう行ってくださっても構いません」
「……わかった。行ってくるよ」
頷くと俺は皆がいる方へと向かう。この時、シェリアちゃんが切なげに見つめていたのには気づかなかったのだった。
朝になり、俺はまたシェリアちゃんの様子を見に行く。シェリアちゃんは俺に気づくとにこやかに笑った。
「おはようございます。エリック様」
「おはよう。もう体調は良いみたいだな」
「ええ。母様とエリック様の回復魔法のおかげです。もうすっかり元気ですわ」
そう言うとシェリアちゃんはそっと近づいてきた。顔がぐっと距離が縮まったと思ったら。唇に温かくて柔らかなものが軽く触れた。チュッと音が鳴った。シェリアちゃんの綺麗な琥珀の瞳が間近に見える。すぐに柔らかなものは離れたが。すぐにキスをされたと気づく。
「……シ、シェリアちゃん?!」
「……うふふ。昨日のお礼です」
俺は顔に血が集まるのがわかった。熱い。たぶん、茹でだこのように真っ赤だろう。なんつー、積極的な子だ。お兄ちゃんは困っちゃうよ。……て。意味不明だな。
けど、それくらい動揺している。もし、ラウルやトーマス兄貴にバレたらまずい。速攻ではっ倒されるな。もしくは締め上げられるか。ううむ。弱った。
「エリック様。ちょっとはわたくしの事も意識すればいいのです。このまま、お別れというのは寂しすぎます」
「シェリアちゃん……」
「わたくしはエリック様の事が好きですわ。それこそ初恋なのです。簡単に諦められる訳がないんです」
意気込んで言うシェリアちゃんはキラキラと表情が輝いて見えた。恋する乙女は強いとはよく言ったものだ。
「……シェリア。こんな朝っぱらから何してるんだ」
地獄の底から響くような声が背後から聞こえた。振り向くとトーマス兄貴と父君のフィーラ公爵がそこにいる。二人ともにこにこと笑っているが。目が冷ややかで笑っていない。
「……殿下。うちの娘が何か失礼な事をしたようで」
「……公爵。べ、別に失礼だとは思っていませんよ。むしろ僕の方が失礼を致しました。すみません」
「まあ、それならいいんじゃねえの。父上」
「そうだな。けど。殿下、今後は気をつけて下さい」
「はい。わかりました」
そう言って二人は持ち場に戻っていった。シェリアちゃんは不意に俺の手をぎゅっと握る。小さな柔らかな手だ。俺は握り返したのだった。
日が高くなってから森のさらに奥へ進んだ。またゴブリンが出てくる。けど、数が今までと違う。
「……殿下。奴ら、斧を持っています。気をつけて下さい!」
ジュリアスがそう忠告してくる。俺は太陽剣を使って襲い掛かってくるゴブリンを袈裟斬りにした。ザンッと音が鳴って腹の辺りを斬りつけているが。大したダメージを受けていないようだ。不意にラウルが大声で忠告をしてきた。
「エリック。ゴブリンは土属性の魔物だ。植物属性の魔法を使え!」
「……わかった!」
俺は無詠唱で中級の植物魔法であるゴールドラッシュを繰り出した。いわゆるポ○モンのソーラービームだ。黄金色のビームがゴブリンに命中した。奴はガラガラと砂礫になって崩れ去る。なる程。その後もゴールドラッシュを連発した。魔力切れを起こすまで放っていたらいつの間にか、ゴブリンはいなくなっていた。
「エリック。お前、やり過ぎだ」
「……すまん。叔父上」
流石にラウルに呆れられた。すると一本の小瓶をさしてくる。
「……叔父上?」
「それは上級ポーションだ。一本だけでもいいから飲んどけ」
「ありがとう」
素直にお礼を言うとラウルは苦笑した。くしゃくしゃと頭を撫でられる。
「……あんまり無理はするなよ。シェリア殿も心配していた」
「うん。後で謝っとくよ」
「そうしたらいい。じゃあ、俺は向こうに行くな」
俺が頷くとラウルは親父の元に行った。もらった上級ポーションの蓋を開ける。ちょっと漢方薬みたいな匂いがするが。ぐいっと一気に呷った。意外にも甘みがあって驚いたのだった。




