62話
この回は吐き気に関する描写があります。苦手な方はご注意ください。
俺が親父と手を繋いでイェルクの森を進んでいると先頭にいたジュリアスとエルが立ち止まった。
グオオと低い鳴き声が聞こえる。ジュリアスが剣を鞘から抜いて大声で叫んだ。
「……皆。武器を構えてくれ。魔獣だ!!」
「……何。あれはブリザードレックス?!」
親父が腰に佩いていた剣を鞘から抜いて構える。俺も太陽剣を鞘から抜いて同じように構えた。シェリアちゃんは月光剣を、シンディー様もレイピアを抜いて構えた。
「……シェリアちゃん、シンディー様。この敵は危険過ぎるから。魔術で二人は応戦してください」
「……確かにその方が良さそうですね。忠告をありがとうございます。殿下」
「はい。俺も太陽剣で戦ってみます」
シンディー様と互いに頷きあう。俺は親父とジュリアスの近くに駆け寄る。太陽剣に自分の魔力を纏わせた。キインと音が鳴って刀身が白く輝く。するとシェリアちゃんの月光剣も共鳴するようにキインと鳴って銀色に淡く輝いた。俺はふとある事を思いついてシェリアちゃんに目配せをする。彼女も気がついて小さく頷いてくれた。そろそろと俺がシェリアちゃんの側まで行く。ブリザードレックスが気がつく前にさっと彼女に手を差し伸べた。すぐに俺の手の上に小さな手が乗せられた。ぎゅっと握る。敵を二人で見据えながらあの呪文を唱えた。
「「……美しき炎よ。かのブリザードレックスを滅ぼし給え!!」」
俺とシェリアちゃんの身体から眩しい程の金と銀の光が迸る。それは青白い炎と変わりブリザードレックスを囲い込む。断末魔の悲鳴が辺りに響き渡った。
『……ギャオオー!!』
ジュウウと音がしてブリザードレックスは爪と牙だけを残して消滅していた。陽月華という魔術を使ってみたが。思いの外の威力に俺とシェリアちゃんはあ然とした。これで陽光剣だともっとなのだろうか。そう考えていたらシンディー様が夫君のダリエルス様もとい、公爵とこちらにやってくる。
「……これが伝説の技ですのね。予想以上の威力です」
「……そうですね。俺も思いました」
「殿下。陽光剣は本当に強い敵にのみお使いになられませよ。でないと霊力の消耗が激しい技だと聞きますから」
「……私もそれには同意ですね。殿下、陽光剣はシェリアもいてこそ成り立つ術です。よく考えて使ってください」
「忠告、痛み入ります。シンディー様、公爵」
俺が礼を言うとシンディー様と公爵は穏やかに笑った。シェリアちゃんは不意に俺に抱きついてくる。いきなりだったので驚いて立ち尽くす。
「……シェ、シェリアちゃん!?」
「……うう。上手く発動できましたわ。エリック様」
「大丈夫か?」
「……ウワアアン!!」
「……ああ。怖かったんだな」
俺はよしよしとシェリアちゃんの背中を撫でた。その間もわんわんとシェリアちゃんは大きな声で泣き続けた。よっぽど、緊張していたんだろうな。それにあのブリザードレックスは男である俺でもドン引きのルックスだし。女の子だったら怖がるのも当然だ。後、俺が氷漬けになってしまった時の事も思い出してしまったのかもしれない。それだったら大泣きするのも頷ける。辛抱強く背中を撫でつつ、抱きしめたのだった。
「……すみません。恥ずかしいです」
「……別に恥ずかしいって事はないよ。けどブリザードレックスは俺でも最初はビビったからなあ」
「そうだったんですね。確かにブリザードレックスは凄く怖かったですわ」
再び思い出したのかシェリアちゃんはぶるりと震え上がった。シンディー様が近づいてきてシェリアちゃんの頭を撫でる。
「……シェリア。これからもあんな感じの魔獣がわんさか出てくるのよ。ブリザードレックスくらいで怖がっていると身がもたないわ」
「それはそうなのですけど」
「まあ。お前はまだ小さいものね。けどもっとしっかりとしないといけないわ」
シンディー様はなかなかに厳しい事を言う。シェリアちゃんはちょっと不貞腐れている。まあ、それは仕方ないだろうな。
「……まあまあ。シンディー。シェリアも怪我がなかった事だし。これくらいにしておこう」
二人を取りなしたのは意外にもフィーラ公爵だった。シンディー様は仕方ないわねえとため息をついた。
「わかりましたわ。ダリーの言う通りではあるわね」
「ああ。さあ、イェルクの森はまだまだこれからだ。ちょっとでも先へ進まないと日が暮れてしまいます」
前者はシンディー様に後者は俺達に向けた言葉なのがわかる。その後、奥に進むのを再開したのだった。
夜になるまでに三回くらいは魔獣に遭遇した。ファイヤウルフやゴブリン、アンデッドまで出没したのだが。まあ、シェリアちゃんはファイヤウルフとゴブリンまでは我慢していた。けどアンデッドだけはダメだった。涙目になりながらも聖魔法のターンアンデッドを放ち、倒していたのだが。5体目を倒した後でシェリアちゃんはふらふらになっていたのだ。リバースしてしまったのは言うまでもない。まあ、アンデッドも臭いが酷いしグロテスクな見た目だし。
現在、シェリアちゃんはジュリアス達が手際よく準備したテントにて横になっていた。もう夜はとっぷりと暮れている。
「……大丈夫か?」
「……うう。大丈夫ではないです」
俺は仕方ないのでシェリアちゃんに水と吐き気止めを手渡す。シェリアちゃんはヨロヨロと起き上がる。吐き気止めを飲み下すと水をちびちびと飲む。コップを受け取るとシェリアちゃんは再び横になった。俺は空いた方の手で彼女の頭を撫でたのだった。




