55話
俺はシェリアちゃんの筋トレを手伝った。
彼女は頑張り屋だ。最初、俺らと同じようなメニューをしようとしたから驚いた。見かねて師匠--ウィリアムス師が止めに入った程だ。「男と同じようにしなくていい」との言葉にシェリアちゃんは確かにと頷いていたが。
腹筋と腕立て伏せ、背筋にスクワットを各十五回ずつやってから体術を教えてもらっていた。ウィリアムス師は後日に副団長と話し合ってシェリアちゃん用のカリキュラムを組んでおくと言っていた。
その後、二時間はシェリアちゃんも体術を練習していた。俺とラウルは木刀で打合いをして他の連中も同じようにしていたのだった。
「……お疲れさん。師匠がもういいってさ」
俺は汗だくになったシェリアちゃんに声をかけた。手にはリアナが持たせてくれたレモン水がある。これは冷却魔法がかけられた水筒でスズコ様特製だ。こっそり修道院から贈られてきた品だった。蓋をコップ代わりにして注ぐ。それを彼女に手渡した。
「……ありがとうございます」
シェリアちゃんはお礼を言ってから蓋を受け取った。本当に喉が渇いていたらしくてこくりと飲んだ。
「……冷たくて美味しいわ」
「そう言ってもらえたら作った甲斐があったな。この水筒はラウル叔父上の母君特製の物なんだ」
「え。そうなんですか?」
シェリアちゃんは驚いたらしくて目を少し見開いた。俺はニヤッと笑った。
「……俺がスズコ様に依頼して作っていただいたんだ。底に小さな魔法陣が書いてあってな。これを考案したのは俺と神官長なんだぜ」
「へえ。スズコ様にそんな特技があるなんて。驚きましたわ」
そう言ってシェリアちゃんはもう一口飲んだ。こくこくと飲んで気がついたら無くなっていた。まあ、仕方ないかと思う。かなり汗をかいているからな。
「……シェリアちゃん。お替わりはいらないか?」
「……そうですね。もう一杯いただけますか?」
「わかった。んじゃ、貸してくれ」
受け取ってもう一杯、レモン水を蓋に注いだ。シェリアちゃんはこれも飲んでしまう。とりあえず、二杯飲んで喉の渇きはだいぶマシになったらしい。「もういいです」と言ってきた。俺は残った中身を捨ててから自分の分を注ぐ。そのまま、ごくごくと飲む。意外とひんやりしていて喉越しは最高だ。リアナお手製のレモン水はレモンの果汁と蜂蜜、精製水で作ってある。絶妙なさじ加減でけっこううまい。
「……ん。やっぱりうまいな」
「エリック様。レモン水を飲み終わったらお部屋に戻りましょう」
「そうだな。これを飲んだら戻ろう」
俺は急いで飲んでしまうと水筒に蓋を戻す。くるくると回して閉め直す。肩から吊り下げてシェリアちゃんと共に自室へ戻るのだった。
その後、俺達は自室に戻る。シェリアちゃんにいつものように先に浴室を使うように言った。これも日常となっている。シェリアちゃんが上がってくるのを待つ間にレモン水入りの水筒をメイドに返した。ソファに座る前に上着とズボンを脱いで下着姿になる。先にリアナに言ってぬるま湯に浸して絞ったタオルがテーブルの上に置いてあった。それで顔や首筋と汗を拭いていく。タンクトップを脱いで上半身も拭く。足も同じようにする。メイドが気を利かせて簡素なシャツとズボンを持ってきてくれた。それに着替えるとひと心地がついた。ソファに座るとふうと息をつく。
あれから、一時間ほど経ってシェリアちゃんが上がってきた。髪を温風魔法で乾かしてやると喜んでくれた。俺も浴室に行き、自分で髪や体を洗う。リアナが入れてくれたお湯に浸かりゆっくりと疲れを癒した。二十分ほど浸かり上がるとガシガシとタオルで水気を拭く。引き戸を開けると閉める。髪を新しいタオルで拭きながら使っていたのをカゴにポイと入れた。
(……ふう。あー、いいお湯だった)
俺はそう思いながらタオルを置いてあった椅子の背もたれに掛けて洗濯してある服に着替えた。簡素な白いシャツに黒い長ズボンだ。春の季節なので長袖だが。もう上旬にはなっているので暖かくはある。とりあえず、温風魔法で髪をざざっと乾かす。そうしてから、応接間に繋がるドアを開ける。予想外な事にシェリアちゃんがまだいた。リアナと仲良く紅茶を飲みながら談笑をしている。俺がドアを閉めて近づくと気がついたらしい。
「あ。エリック様。お風呂上がったのですね」
「ああ。シェリアちゃん、もうけっこう遅い時間だぞ。俺の部屋に居ていいのか?」
「……今日は王宮に泊まれと陛下のお言葉を頂きましたの。それでリアナさんとお話を……」
シェリアちゃんの言葉を聞いて俺は唖然とした。え。王宮に泊まっていけとあの親父が言ったのか?
うわー。翌朝のフィーラ公爵からのお小言を思うと胃がキリキリ痛みそうだ。顔が引き攣る。
「エリック様。どうかしましたか?」
「……いや。シェリアちゃん。夕食はこの部屋で一緒に食べよう。いいかな?」
「ええ。構いませんわ」
シェリアちゃんが頷いたので俺はリアナに言って夕食を持って来させた。ゆっくりと一緒に食べたのだった。




