115話
あれから、翌日になった。
俺は太陽剣を腰に佩き、衣服の袖や裾の内側には短剣も忍び込ませる。念のため、魔法用の杖も懐に入れていた。傍らにはクォンやエル、オリバー、オズワルドにラウル、トーマス兄貴、ウィリアムズ師や副神官長も控えている。前衛に俺とクォン、エル、ラウルの4人が。後衛にはオリバー、オズワルド、トーマス兄貴、ウィリアムズ師、副神官長と言う組み合わせだ。
今回、バンパイアは1体だけでなく、少なくとも3体はいるらしい。しかも、上級ランクの奴らばかりときた。仕方ないから、聖魔術を扱える副神官長も討伐に参加してもらっている。
「殿下、バンパイアは本当に危険な魔物です。心して掛かりましょう」
「分かった、よろしくお願いします。副神官長」
「私の事はシュルツと呼んでください、さすがに副神官長だとバレたら。色々と厄介です」
「……はあ、では。シュルツ、改めてよろしく」
「はい、こちらこそ。エリック様」
副神官長もとい、シュルツは爽やかに笑う。実は彼は神官長よりはかなり若い。たぶん、30歳を少し越したぐらいか。この若さで今の地位にいるのだから、かなり高い魔力を有した実力者と言える。ちなみに、濃いグレーの髪に淡いエメラルドの瞳が目を引く美丈夫だ。性格も穏やかで温厚だしな。秘かに王宮や貴族の令嬢達から、熱い視線を向けられているとクォンが内緒で教えてくれたが。
「どうかしたか?エリック」
「何でもない」
「……ふうん?なら、いいがな」
俺の異変にラウルが気づいた。クォンもちらっとこちらを見る。
「2人共、ちゃんと集中しなさい。今は討伐の最中ですよ」
『……はい、師匠』
ウィリアムズ師に注意され、ラウルと2人で謝った。けれど、ピリッと全身に鳥肌が立つ感覚がする。あ、これは邪気だ!
俺はとっさに腰に佩いた剣を抜き、構える。すぐにギィンと金属が高らかに鳴る音が辺りに響く。
「くっ、皆!敵が出たぞ!!」
「……大丈夫か?!エリック!」
「ラウル、すぐに防御壁を頼む!」
「分かった!土よ、目覚めろ!我らを守れ!!」
短い詠唱でラウルは素早く、辺りの土で防御壁を作り上げた。2メートル近いのを広い範囲に巡らせる。
『甘いよ、人間!』
「ちっ、飛べるのかよ!」
頭上から現れたのは口元に牙を生やし、青白い肌や長い黒髪、黒装束のバンパイアだ。しかも、人型だが。なかなかのナイスバディな美女の姿をしていた。けれど、クォンや兄貴以外は興味無しときた。何せ、俺とオズワルドは子供だし。エルは門外漢、ラウルも好みじゃないらしいしな。オリバーやウィリアムズ師、シュルツも既婚者だ。
奥さん一筋だから、余計にときた。そのためか、しらっとした雰囲気だ。
『……この姿でも駄目かい、とんだ朴念仁の集まりだね』
『お前の詰めが甘かったという事だ、ミア』
『だな、兄さん』
ミアと言うらしいバンパイアと後から揃った2体はどうやら、兄弟らしい。ふむと唸りながら、俺は剣を鞘に仕舞う。
『おや、坊や。アタシを攻撃しないのかい?』
「……するに決まってんだろ、バンパイア」
『何だい、やっぱりな。堅物は嫌いだよ!』
ミアは防御壁の縁から、こちらに翼を使って降りてきた。ヤバい、中に入られたら。逃げ場が無くなるじゃねえかよ!
「仕方ない、太陽神に請い願わむ!かの者を祓う力を!!」
キィンと太陽剣が共鳴する。俺は素早く、懐にある杖を取り出す。そして短く詠唱した。
「……邪なりし者を祓わむ、清め給ふ。光の奔流!!」
『げっ!コイツ、神官?!』
他のバンパイアの内、1体が叫ぶ。その間にも聖魔術の上級術が放つ眩い光で辺りが埋め尽くされる。皆、あまりの眩しさに目を閉じた。
『『『ギャアー!!』』』
3体の断末魔の叫びが響き渡る。それが無くなり、静まった後も。なかなかに光は消えなかった。
しばらくして、俺は目を開ける。防御壁は消え、いたはずのバンパイアも綺麗に消滅していた。
「……上手くいきましたね」
「ちょっと、惜しかったな。トーマス」
「同感だ、クォン」
最初がウィリアムズ師、次がクォン、最後はトーマスだ。2人は何と言うか、スケベだな。呆れながら、ラウルやオリバー、エルに視線をやる。
「お見事だったな、エリック」
「ああ、上手くいってホッとしたよ」
「ええ、だいぶ聖魔術の腕が上がりましたね」
「はい、殿下も立派になられました」
「……ありがとよ、エル、オリバー」
一斉に褒められて少し、照れくさい。ニカッとクォンや兄貴も笑う。シュルツ、ウィリアムズ師、オズワルドも穏やかにこちらを見ていた。
「殿下の腕を甘く見ていました、あんな上級ランクの魔物を1回で消し去るとは。驚きました」
「ははっ、私が幼い頃から鍛えましたからな」
「エリック様、凄かったですよ」
シュルツは率直に告げた。次にウィリアムズ師、オズワルドも言う。俺は笑いながら、シュルツに歩み寄る。
「シュルツ、また魔物が出たらさ。一緒に戦わないか?」
「そうですね、神官長に伺ってきます」
「分かった、その返事が聞けただけで十分だ。今日は本当にお疲れさん!」
「私は何もしていませんがね」
苦笑いしながら、シュルツは言った。皆で確かにと頷いたのだった。




