114話
陛下やウィリアムズ師匠に詳しく聞いてから、3日が過ぎた。
俺は神官長に説明するため、神殿を訪れている。傍らにはオズワルドやクォンもいた。
「ふむ、人型の魔物ですか。たぶん、バンパイアでしょうね」
「神官長はご存知なんですか?」
「ええ、だいぶ昔になりますが。私めが若い頃に遭遇した事があります。先代の国王陛下と2人で倒したのですよ」
神官長は懐かしそうに目を細める。オズワルドやクォンも意外そうにしていた。
「へえ、神官長もお若い頃は血気盛んだったんですね」
「……先代様には負けますぞ、あの方は腕っぷしもなかなかでした」
「はあ」
最初にクォン、次は神官長、最後がオズワルドだ。先代、俺の祖父は喧嘩っ早い所があったのか。ちょっと、意外だ。
「話が逸れましたな、バンパイアの事に戻しましょう。きやつらは大体、日の光や聖属性の魔法に弱い。ならば、エリック殿下の霊力が有利になると思います」
「言えています、バンパイアには聖水も効くとは聞いた事がありますね」
「ただ、中級までなら聖水でも倒せますが。上級になって来ると、聖属性の魔法を使った方が良いでしょうな」
「成程、色々とありがとうございます。大いに参考になりました」
「お役に立てたなら、ようございました」
神官長は笑顔で答える。俺達は改めて礼を述べ、神殿を後にした。
自室にて待っていたシェリアやラウル、トーマス兄貴、エルの7人で話し合う。
「やはり、王宮に出没したのはバンパイアだったんですね」
「ああ、神官長からは日の光や聖水、聖属性の魔法が有効だと教えてもらった。けどさ、シェリアは危険だから、室内で待機な」
「それには俺らも賛成、バンパイアは特に女子を好むからな。嫌だろうが、堪えてくれ」
「……分かりました、わたくしは中で待ちます」
「そうしてくれ、兄貴の言う通りだ」
渋々、シェリアは頷く。クォンやオズワルドも安堵の表情を浮かべた。何かあってからでは遅いしな。
「王子の言うように、お嬢は安全な部屋で待っていてくれたらいーよ。野郎ばかりだとやる気がいまひとつだけどな」
「一言多いですよ、クォンさん」
「同感だ、男ばかりになるのは仕方ないだろ。かえって、失礼だぞ」
クォンの言葉にオズワルドやラウルがツッコミを入れた。俺や兄貴、エルは苦笑いする。
「皆さん、私からも申し上げますが。バンパイアはかなり、危険ランク度が高い魔物です。心して掛かりましょう」
『はーい』
「殿下、ジュリアスはまだ療養中です。代わりにオリバーを同行させてもよろしいでしょうか?」
「構わないぞ、オリバーもかなり強いしな」
「分かりました、私の方から頼んでおきます」
エルが頷いたのでひとまずは話し合いは終了になった。こうして、バンパイア退治が俺達の急務になったのだった。
翌日、シェリアに頼み、聖水を作ってもらう。また、バンパイアに有効な魔道具作りを母君のシンディー様にも依頼した。もちろん、スズコ様にもだ。2人は二つ返事で了承してくれる。(スズコ様は手紙で頼んだが)
「エリック様、シェリア様から聖水が届きました」
「早いな、まだ3日と経っていないぞ」
「それだけ、エリック様の期待に応えたいのでしょうね。可愛らしい限りです」
そう言いながら、リアナは笑う。ちょっと、微笑ましげだ。
「とりあえず、確認するよ」
「分かりました、こちらがそうです」
布包みを受け取り、結び目を解く。中には10本もの小瓶がある。また、手紙も同封されていた。内容をこちらも確認した。
<エリック様へ
何とか、聖水を頑張って作りました。
今はこの量だけになりますけど。
明日も作って送りますね。
お役に立てたなら、嬉しいです。
敬愛する婚約者様へ
シェリア・フィーラ>
簡潔に書かれていたが。ちょっと、シェリアの体調が心配になる。仕方ないから、リアナに訊いた。
「リアナ、その。シェリアは今日、王宮に来ているのか?」
「……いえ、お姿を見かけていません」
「成程、分かった。今からフィーラ公爵に連絡をする。ちょっと、シェリアの様子を見に行くよ」
「エリック様、今すぐにですか?!」
「ああ、心配になってきたんでな」
「では、少々お待ちください」
リアナは慌てて、部屋を出て行く。しばらくは待ったのだった。
1時間としない内に馬車が用意され、エルやオリバー、オズワルド、御者と5人程で公爵邸に向かう。俺は窓の景色を何とはなしに眺めた。
「エリック様、シェリア様が心配ですね」
「ああ、霊力切れを起こしてないといいんだがな」
「……あり得そうです」
オズワルドと2人で小さくため息をついた。
「あまり、無理はしてほしくないんだよな」
「ええ、僕も同感です」
「だから、様子見に行くんだが」
オズワルドは苦笑いした。
「エリック様がお見舞いに行ったら、シェリア様は喜ぶでしょうね」
「……だといいけどな」
俺はぽつりと呟いた。オズワルドは口を噤む。馬車の中は静寂に包まれた。ただ、ガラガラと車輪が回ったり、馬の蹄、俺達の息遣いだけがするばかりので。しばらくは無言でいた。




