表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第一章 帰って来た花嫁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/17

ブライアン様の訪問1

 朝食室から出て、私はしばらく庭を散歩した。

 たっぷり食べたので、腹ごなしが必要だったのだ。


 庭の花や、瑞々しい緑の葉を見ながらゆっくりと庭を歩く。

 疲れてテラスで立ち止り、大きく息を吸う。そうしたら、さっきの家族の様子を思い出して笑いが込み上げて来た。


 私は空を見上げて微笑んだ。

 兄が、あの兄が私に向かって口をパクパクさせていた。お魚みたい。

 そして、庭の池で飼っている魚に、餌をあげに行こうと思いついた。


 我が家の庭には小さな池があり、そこで鯉を飼っている。地味な魚だけど、口がパクパクするのがおもしろい。


 鯉に餌をあげたいとベルに言うと、パン屑を小さいバスケットに入れて持って来てくれた。

 日傘をくるくる回しながら、池に向かう。


 こんなにのびのびと過ごしたことは、今までなかった。なんていうか、解き放たれたような気分だ。

 これまでずっと、数か月後の死を見詰めて生活して来たからだろうか。でも、ジェイソン様と婚約する前も、今ほど自由ではなかったように思う。


「ねえ、ベル。私、今のこの状態は凄く気に入っているの。とても自由になったわ」


「お嬢様が幸せそうで、私も嬉しいです」


 ベルはにこにこしている。


「この先どうなるかは、全くわからないのにね。それでも、今の自分の方が、今までよりずっと気持ちいいの。おかしな話ね」


 池のほとりでパン屑を少し落とすと、すぐに鯉が集まり始める。

 口が丸く浮き上がっていて、おもしろい。

 しばらくそうやっていると、鯉が集まりすぎて塊になり、鯉の上に鯉が乗り上げ、ぴちぴちしている。


「まあ、お兄様。お行儀が悪いわ。人の上に乗っかっておねだりするなんて」


 笑いながらパン屑を投げたら、少し離れた所から低い笑い声が聞こえた。

 振り向くと、ブライアン様がロイドと一緒に立っていた。


「こんにちは。お散歩に出たと伺い、こちらへ案内してもらいました。この鯉はエリックですか?」


「こんにちは、ブライアン様。お越しになるのは夕方かと思っておりました。もうディール侯爵家には行って来られたのですか?」


 ブライアン様は、ゆっくりと近付いて来た。

 そして私の前で立ち止まり、少し不思議そうに私を見てから、愛想よく微笑んだ。


「マリア嬢、今日は昨日より更にお美しいです。素敵な髪形とドレスのせいだけでなく、とても生き生きとした印象で、先程お見掛けした時は、一瞬目を疑ってしまいました」


 まあ、社交辞令がするっと出るあたり、さすが公爵家令息。

 今日は貴族令息としての訪問なのかしら。昨夜と様子が違い過ぎて面食らってしまう。


 でも昨日の正装と違い、今日は近衛の制服姿なので、職務上の訪問だと思ったほうがいいだろう。

 お洒落なことで有名な近衛の制服が、とてもよく似合っていて素敵だ。兄や、ジェイソン様の制服姿を何回も見ているのに、全然違って見えるのはなぜろう。

 この方もてるだろうな、と何となく考える。


「ありがとうございます。お褒めいただき嬉しいですわ」


 当たり障りなく返した後、こんなやり取りをするのは初めてだと、少し興奮した。

 十八歳の今まで、男性から社交辞令的な声を掛けられても、「はい」、とか「いえ」くらしか返せなかった。しかも、かなり力が入って挙動不審だったり、声が小さすぎて無視されたと相手に思われたり。

 現にベルとロイドが驚いている。


 ロイドは私と目が合うと、スッと表情を隠した。この人、こういう性格だったのね、と意外に思う。考えていたより楽しい人物なのかもしれない。


 ブライアン様は、普段の私を知らないので、ごく普通に話を進めていく。


「今朝早くにディール侯爵家に連絡を入れ、早目に訪問してきました。ジェイソンには、式の後、近衛隊の同僚を付けておいたので、まだ何も手を打っていないようでした」


 ロイドがスッと寄って来た。

「こちらにお茶の用意をいたしましょうか。それとも、室内でお話しになりますか?」


 私がブライアン様を見ると、ここで、というようなゼスチャーをされたので、ロイドにそう指示した。


「では、少しお待ちください。支度が整いましたら、お呼びいたします」


 私は手にしていたバスケットをベルに渡し、ブライアン様と並んで歩き始めた。

 なんとなく一緒に歩いて、花の名前を教えたり、さっきの鯉の話などをした。エリック兄さまの今朝の顔に似ていたと言ったら、声を出して笑ってくれた。


 ジェイソン様と一緒にいる時のような、居心地の悪さが全くない。不思議なくらいに。

 それにブライアン様の雰囲気が昨夜と全く違う。

 

「昨夜、お会いした時は、疑い深い視線を向けておられたのに、今はそれが無いように感じます。なぜでしょうか」


 気安い雰囲気に、ついするっと出てしまった質問だった。職務での訪問だった事をすっかり忘れてしまっていたのだ。

 慌ててすぐに打ち消す言葉を続けた。


「すみません。馴れ馴れしい質問を。職務でのご訪問ですのに」


「いえ、こちらこそ昨夜は勝手に押しかけて、失礼いたしました。ただ事ではない気がして、公務でもないのに公務での態度を出してしまい、申し訳なかったです」


 私は黙って首を振った。


「おかげで、気持ちが落ち着きました。私の言葉を、兄のエリックは茶番と言いました。ブライアン様が真面目に取り合ってくださったことが、どれほどありがたいか。お礼を申し上げるのは私のほうです」


 ブライアン様はしばらく考えてから、ぽつぽつと話してくれた。


「昨夜は、まだあなた側に何らかの問題があるのかもと疑っていたのです。例えば気鬱の病とか、ジェイソンに何らかの恨みを持っているとか。ですが直接話してみて、そんな様子はないし、話の内容は一貫していてブレが無い。ジェイソンに恨みがあると言うより、おっしゃっている通り、必死で結婚から逃げようとしているだけなのがわかりました」


 ちょっと立ち止まって、こちらを向いた。


「お怒りになりませんか?」


「いいえ、ちっとも」


 そう言ったら、ほっとしたようにブライアン様が微笑んだ。それを見たら、フワッと胸の辺りがくすぐったくなり、温かくなった。


「あら、ジェイソン様といる時と全く違うわ。いつも、とても疲れてしまって、大変だったのに」


 ブライアン様が驚いたように私を見つめた。ちょっと戸惑ったような、探るような目で私を見ている。


「あー、その、そのことをご両親には言わなかったのですか? 彼といると居心地が悪いと」


「言いましたが、取り合ってはもらえませんでした。それに私、今はこうやって普通にお話ししておりますけど、これまではずっと口下手で、うまく話せなかったのです。今回のことで色々と吹っ切れたと言うか、なんだか気持ちが軽くなって、言葉が口から出て来るようになりました」


「ああ、そういう事ですか。お言葉がとても率直で、ドキッとします」


 ブライアン様が柔らかく微笑む。

 ん? 何か間違えたかしら?

 そう思ってベルを見たら、薄ら頬を赤らめてこちらを見ている。そして私に向かって、大きく首を縦に振って見せる。何を伝えたいのかわからないので、後で聞いてみることにした。


 従僕が呼びに来たので、池のほとりに戻り、二人でゆっくりとお茶を飲んだ。

 ディール侯爵家での事は、家族全員で一緒に聞いてもらったほうがいいだろうと言って、その場では話に上らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
お兄さんにイラっとくるので、次回が楽しみでしかないです。 主人公が強くてカッコよくて好きです。
ワクワク、ワクワク 落ち着きながらもいい感じに自信を付けたというか自身を変えれていて素敵だし 変わった自分の状態で公平に見てくれる友人の人のような人と会話もできて恋の予感(鯉の話があっただけに)があっ…
公爵家令息の『報告』でエリック兄はどのような失態を見せてくれるのでしょうね~ 蟄居、謹慎で済むと良いのですがどうなりますか♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ