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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第二章 マリアの夢

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夢の話ーその1

死に戻りのなぞが見えて来る章です。少しダークで過去のマリアの辛い経験が出てきますが、現実のマリアの状況はぐっと明るくなっていきます。


 その夜の夢で、私はメリーが誰かと話している場面を見た。

 メリーは私のブローチをその男に渡している。

 確か先日、クリーム色のドレスに合わせて着けた、エメラルドの嵌ったブローチだ。


 前回はアクセサリーをたくさん持って行ったけど、今回はあまり積み込まなかった。

 そんな物を着けても、誰も見てくれないなら面倒なだけだから。

 それで、ほとんどを家に残してあった。


 二人は何か言いながらブローチをひっくり返したり、陽に透かしたりしている。何かを確認しているようだ。


 男が首を傾げた。判断が付かなかったらしい。

 男は私のブローチを布でくるんで胸ポケットにしまい込んだ。そして、小瓶をメリーに渡す。


 メリーは小瓶を少し持ち上げて顔をしかめる。それには白い物が入っている。砂糖なのかもしれない。それが、私が飲まされていた、毒の混じった砂糖なのだろうか。


 メリーは男を見送りながら、不服そうにしている。


 そういえば、よくメリーにアクセサリーのことを聞かれたのだった、と思い出した。

 新しい物ではなく、お祖母様から譲られた物の事ばかり。

 なんでか聞いたら、由緒がありそうで、ロマンティックだからと答えた。


 メリーは親指の爪を噛みながら、クルッとこちらに振り向いた。なんだか悔しそうだ。


 

 そこで目が覚めた。


 このおかしな夢を見るのは、これで三回目になる。今回は私自身が全く出てこないので、さすがにおかしいと思った。それで、以前の事を思い返してみた。


 前世では、アクセサリーの管理はメリーに任せていた。

 よく磨いてくれて、陽にかざしたりはしていたけど、それは通常のお手入れで、特に気にしたことはなかった。でも何か意味があったのだろうか。


 いつのまにか、見当たらなくなった品がいくつかあったように思う。

 でも、着ける意味も気力も、どんどん薄れていき、気にもしなくなっていった。だから、どのアクセサリーが無くなったかなんて、まるで分からない。


 そしてふと思い出した。

 侯爵家に送ってある荷物を返してもらわないといけない。

 バタバタしていて忘れていたのだ。


 私のブラシ、私の手鏡、私のナイトキャップ。そう、それこそ大切なのだ。ちょうど良く収まる、使い勝手の良いナイトキャップ。


 そのことをベルに伝えると、ベルも、「あっそうだった」と声を上げた。


「忘れておりました。声をかけなくてはいけませんね。言われなくても送ってこい、と言いたいところですが、こちら以上にあちらはもう、大騒ぎでしょう。仕方ないですね」


 ベルはちょっと鼻息を荒くして言う。


「これは執事を通して言ってやったほうが良いでしょう。お伝えしておきます」


 そう言って部屋を出ていった。


 私は夢に出てきたブローチを取り出し、ゆっくりと眺めた。夢と同じように陽にかざし、エメラルドの石を透かしてみても、特に変わったものは見えない。


「あの夢は何? メリーは誰と会っていたのかしら」


 気になったので、お祖母様から譲られたアクセサリーを引っ張り出して、テーブルに並べた。

 結構たくさんある。お祖母様は私にほとんどのアクセサリーを残した。ノエルは古臭いと言って嫌がり、金のブレスレット一個しか貰わなかった。


「デザインが古臭いと思ったら、仕立て直しなさい。昔の石のほうが今のより大きくて、良い物が多いのよ」


 祖母はそう言っていた。

 伯爵家で代々受け継がれる宝石は、母が受け継いでいる。

 それはエリック兄様が結婚したら、その伴侶に渡る。そうやって家宝として、家のなかで受け継がれるのだ。


 だから私が貰ったものは、アクセサリーの類で、そんなに高級品ではない。もちろん、一つ一つがそれなりの金額にはなるけど、何ていうか、それなりの品だ。


 そういえば、侯爵家で受け継いだ宝飾品は、一度も着ける機会がなかった。

 大きなルビーの連なったネックレスとイヤリングのセットだったわね。驚くぐらい豪華で、貴重な品。

 でも、残念ながら、私には全く似合わなかった。


 メリーは何をしていたのだろう。あの男に私のアクセサリーを売っていたのだろうか。それにしてはお金を受け取っていなかった。それに換金するだけなら、もっと幾つも持って行きそうなものだ。


 結局、どう考えたらいいのかわからなかった。



 その後、荷物について、ロイドが了承を取りにやってきた。

 目録を作っているので、それを先に先方に送り、明日引き取りに誰かを行かせると言う。


「ディール侯爵家に任せておいたら、どうなるかわからないですから。しっかりした者を二人送ります。馬車1台に余る荷物でしたね。驚くほど少ない⋯⋯」


 そう言ったきり、ロイドが黙った。

 

「どうしたの?」


「荷物の量も内容も明らかにおかしかった。お嬢様の様子もです。それなのに、なぜ気づかなかったのでしょう。全く、こんなに長く生きてきて、私は何を見ていたんでしょう」


 ロイドが俯いている。

 私は、結婚に対して何の希望も喜びも無かったので、必要最低限の物しか持って行こうとしなかった。

 それ以外は全て、後日と言って断ったのだ。

 伯爵家の長女の嫁入りにしては、おかしなくらい荷が少なかっただろう。

 その様子を見て、私は努めて明るく言った。


「もう、終わったことよ。これからは良いことしかないわ。きっと」


「そうでございますね。そう言えば、ブライアン様から、伯爵様にご訪問の問い合わせがございました」


 ロイドが泣き笑いのような表情で告げる。


「まあ、嬉しい。久しぶりにお会いするような気分だけど、まだ二日会わなかっただけなのね。⋯⋯変だわね」


 ロイドの表情が、笑いだけになる。

 気を取りなおしたようで、私も嬉しくなった。


「いつ、いらっしゃるの?」


「伯爵様に伺っておきます。その前に、まずは荷物の件を済ませましょう」


 ロイドが出ていって、静かになった部屋で、私はうたた寝をしたようだ。

 その短い間に、また少しだけ夢を見た。


 私はベッドに寝ている。すでに体調を崩しているようで、痩せて顔色が悪い。


 軽い風邪を引いた時に、滋養になると言われて飲み始めたお茶と砂糖、それに薬が混ぜられていたそうだ。少しずつ体調が悪くなり、食欲が失せ、気分が沈んでいった。

 でも、私はそのお茶を毎日飲んだ。

 それを飲んでいれば、その内体調が戻ると信じて。


 その私を揺り起こし、メリーが何かを聞いている。

 目を覚ました私に、アクセサリーをいくつか見せているようだ。


 こんなことが何回もあったと思う。

 お祖母様のアクセサリーに、メリーは異様にこだわっていた。

 それを今はっきりと思い出した。


 私が一つを指さすと、それを手に握り込み、他をアクセサリーボックスに仕舞い、部屋を出ていった。

 私はそのまま寝てしまったようだ。


 私の身体は掛け布団の下に埋もれている。生気のない薄っぺらい身体は、まるで死んでいるかのように見えた。



 ハッとして体を椅子から起こし、周囲を見回した。

 ここは私の部屋で、まだ外は明るい。それに体調にも問題は無さそう。


 私はようやく、これは普通の夢ではないと思い至った。

 多分、前世であったことを、断片的に見ているのだ。


 だとしたら、自分が死ぬ様子を見ることになるのだろうか。その後は?

 その後もあるの?


 そこまで考えたとき、ドクンと大きく心臓が脈を打った。


 もしかしたら、今見ているこちらの世界の方が、夢なのだろうか。




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― 新着の感想 ―
夢ではマリアがいない時もあるし、亡くなられたおばあ様の幽霊がマリアのところにいて見てた記憶だったら悲しすぎるけど……(*T^T) 暴れ馬だったおばあ様。 愛人は何者なんだろう。 おばあ様の宝石狙いと…
祖母の遺品に『メリー』の知る『ナニカ』があったということだったのでしょうね~ メリーは婚外子とのことですが、母方の血筋に何か秘密がありそうですね♪
まさかお祖母様の装飾品のどれかに時戻り効果があった? それも最期まで盗られなかったなら地味で無価値に見える物なんでしょうね〜
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