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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第一章 帰って来た花嫁

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14/17

裁き


 翌日、緊張して何も手につかず、ウロウロと部屋の中を歩き回って過ごした。

 家を出た父は、夕方になってやっと戻ってきたようだ。


 その夜、家族がまた集められた。

 夕食を揃ってとることになり、私はベルに着替えを頼んだ。

 決定を聞くことになるだろう。髪はキュッと結い上げ、きっちりまとめた。ドレスもカッチリした雰囲気のものを選んでおく。


 夕食室には、母とノエルが居て、二人は密かに話をしていた。喋り方で、ゴシップ系だなと感じる。もしかしたら、昨日のブライアン様からの、手紙のことかもしれない。


 二人は揃って、入ってきた私をジロッと見る。


 私はすまして、従僕が引いてくれた椅子に腰掛けた。

 視線が頬にバチバチと当たっている。


「ブライアン様から手紙が届いたそうね。何か調べに進展があったなら、私たちにも教えてちょうだい」


 母が話しかけてきた。やっぱり当たり。


「ただのご機嫌伺いでした。私の体調を気遣ってくださったようです。さすが公爵家の方の振る舞いは、スマートですね」

 

 母とノエルは口をとがらせて何か言いたそうにしたが、すぐに兄が、次に父が入ってきたので、結局何も言わなかった。

 二人が座ると、すぐに食事が運ばれ始める。


「今日の話し合いで、処分が決まった。詳しいことは食後に話す。まず食べよう」


 そう言われ、全員が無言のまま、そそくさと食事をした。ゆっくり味わう気になれないのは、皆一緒のようだ。

 デザートになったところで、やっと父が口を開いた。


「思っていたより重い処分が下された」


 そう言って私と目が合うと、スッと逸らし、「いや、それなりの処分だな」と言い換えた。

 それからなんとなくため息をつく。


「あなた、思わせぶりな話し方はおやめください。気になって食事が喉を通りませんわ」


 全員の目が母の皿に向く。大きなババロアの皿は既に空だ。

 ここで口を開くと、ろくな事にならないのは知っているので、誰も何も言わず、自分のババロアに取り組んだ。


 デザートが終わると、父はロイドに酒を頼んだ。


「ブランデーとリキュールを」 


 そう言ってから、「ウイスキーも一本持ってきてくれ」と追加した。


 父と兄はブランデー、母と妹と私は桃のリキュールをもらった。

 甘くてもったりしているけど、アルコールは結構強い。

 母がノエルに、水を勧めている。


 最初の一杯を飲み干し、父がやっと話し始めた。


「ジェイソン殿は、病気療養することになった。侯爵家を継ぐのは無理なので、血縁の者が侯爵家を継ぐ」


 兄がグラスを傾けたまま止まった。ブランデーが少しこぼれて、袖口にかかった。

 ロイドが素早くナプキンを差し出す。そしてグラスを受け取り、新しいグラスと交換した。


「本当ですか!?」


「ああ」


「なぜ、そんなきつい罰に?」

 

「やはりベルを追い払う算段をしていたのが決定的だな。何のためかと聞かれて、家風に馴染んでもらうためと言っていたが、他所から引っ張ってきた自分の愛人が、家のしきたりを熟知しているはずもない。言うだけ心象が悪くなるだけだ」


「そうね。それは、無理があるわね」


 母が考えながらゆっくりと言う。

 そう言い張っても、誰も納得しないのは目に見えていた。


「侯爵はあらかじめ腹を括っていたようだ。自分たちは後継者に引き継ぎをしたら、領地に引っ込むと言ったよ」


「そうするしか、ないものね。静かな余生を送ることになるわね」


 母はそれなりに貴族の世界で生きて来た人なだけあって、そういう部分の感覚はしっかりしている。この決着の諸々に納得しているようだ。

 エリック兄様はブランデーの入ったグラスを一息で空けると、ウイスキーに切り替えた。


「ジェイソンの身分はどうなるんですか? 爵位なしで両親とともに過ごすのですか?」


 兄はジェイソン様の友人でもあるので、ジェイソン様個人の処遇が気になるようだ。

 ちらっと兄に目をやり、父もウイスキーに切り替えた。


「男爵位を侯爵が譲るそうだ。田舎の領地を治めることになった。あらかじめ王家に打診していたようだな」


「まあ!!」


 ノエルがお酒で赤くなった顔で、素っ頓狂な声をあげる。よほど驚いたようだ。どの部分に驚いたのだろうかと、私は聞いてみたくなった。


 甘いリキュールが喉を落ちていく。とても甘いけど苦い。


「エリック兄様には、お咎めはなかったの?」


 ノエルは遠慮なく父に質問した。

 多分、家族全員がぎょっとしたと思う。


 この子、貴族の世界をちゃんと泳いでいけるのかしら、とちょっと心配になる。

 あまりにあけすけな質問だし、聞き方に配慮が全く感じられない。

 母も同じように考えたらしく、慌ててノエルをたしなめた。


「無しだ。ジェイソン殿が、エリックには一目ぼれした、としか言ってないと断言した。それに……」


 もう一口、ガブッとウイスキーを飲み込んだ。


「マリアが庭で鯉に餌をやりながら、エリックと話しかけていたそうだ。口をパクパクさせているのが、そっくりだとか、ブライアン殿に言ったそうだな」


 父が私の方を向いた。

 嫌だわ。ブライアン様ったら、そんなことを話したの? 

 私はあたふたしてしまった。


「それで王が笑ったそうだ。鯉に罰は与えられないな、だとさ。近衛団長が笑いながら教えてくれた」


「まあ、助かったわね。エリック」 

 

 母の嬉し気な声と、その正反対の兄の表情は見ものだった。兄はげっそりした表情で、また酒をあおった。


「よくわからないけど、マリアがでかしたってことよね。ありがとう、マリア」 


 母は浮かれている。甘くて飲みやすいお酒のせいもあるのだろう。


「そこで会議は終わりだ。この話はあくまでも、断罪ではない。侯爵家子息の療養についての相談だ。いいな?」


 全員が神妙に頷く。母は、心配げにノエルの顔を伺っていた。後で言い聞かせて欲しいものだ。


「そこから侯爵と二人で話した。今回の賠償について、向こうが結構な額を、伯爵家とマリア個人に払うことになった。それは、ジェイソン殿の病気療養で、結婚が破談になることへの慰謝料だ。別の意味は無いからな」 


 母は、すぐに納得したようで、興奮した口調で言った。


「まあ、そりゃあそうよ。病気療養で次期侯爵から男爵に変わるなんて、詐欺も同然よ。完全に侯爵家の有責だわ」


 ノエルは「お姉様ばっかり、ずるい」と口をとがらせている。

 二人の酔っ払いは、早めに部屋へ戻した方がよさそうだ。


 私はお父様に問いかけた。


「それで全部ですか?」


「後は乳母と愛人だな。乳母は侯爵家と同様だ。もう爵位を譲っているので、夫妻が領地に引っ込むことになったそうだ。それで愛人だが⋯⋯」


 父が言い淀んだ。


「どうかしました?」


「逃げた後、行方不明なんだ。どこに逃げたやら、ジェイソン殿も分からないらしい」


「なあに、それ。逃げたって行く場所があるの? 匿ってくれる親族がいるのかしら」


 ノエルが少し舌足らずな喋り方をし始めている。


「愛人は田舎の男爵家の婚外子らしい。侯爵は、ジェイソン殿と彼女の結婚を許すと言っていた。ルナという名だそうだ」


 彼女の名を初めて知って、感慨深く感じた。月という意味の名なのね。それから思ったまま、父に尋ねてみた。


「侯爵家がよく許しましたね」


「今後のジェイソンの爵位と立場なら、お似合いだろうと言っていたよ……同じようなことを言う立場には立ちたくない。なあ、エリック」


 父と兄は下を向いたまま、ロイドに酒のおかわりを頼んだ。



あくまで世間的には病気療養という名目で罰が下されました。

第一章は終了です。ここまでお読みいただきありがとうございました。


感想で上がっていますが、ここまでで、家族の認識はいまいち曖昧なところがあります。それはこれから。


第二章 マリアの夢、から死に戻りの謎に移行していきます。少しダーク寄りの話が出てきますが、マリアの周辺は明るくなっていきます。

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― 新着の感想 ―
いくら友達だからって、妹を殺そうと画策してた相手を心配する言葉を口にするなんて。この兄、状況も立場も全くわかってないな。 王に鯉とか言われて罰するにも価せずといわれたも同然なんだから、騎士としてはクビ…
くそ兄!何が「きついバツ」だ! お前の家族に対しての殺人未遂だぞ! 「軽すぎる!」と怒る場面でしょうがーっ! 父と兄のこの認識の甘さは何なのでしょう? 妹と母もあくまでもゴシップ扱いですし。 マリア…
お母さま、面白い人ですね。これで今まで伯爵夫人としてやっていけてたのかしら? 酔っぱらったせいにしておきましょうかw お母さまのキャラクターがあまり見ない感じがして興味がありますw
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