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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第一章 帰って来た花嫁

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周囲の反応

「変なこと、言わないで。そんなこと、あるはずないじゃない」


「昨日は、そっとしておこうとロイド様と話しましたけど、これはもう本決まりです。ブライアン様は、マリア様に好意を持っておられます」


 私は手紙に顔を近付けてみた。薄らとムスクの香りがする。

 そういえば、ブライアン様の匂いだ。

 パッと彼の笑顔が目に浮かぶ。


 頬に血が昇っていくのがわかった。


「こんなに薄らとだもの、移り香よ、きっと」


「お返事を書いてください。ささっと。私が、ぜひ私が届けに行きます」


 私はもう一度手紙を読んだ。

 女性が書く手紙と違って、とてもあっさりしている。

 ということは、いつものその他諸々のお飾り文は、書かなくていいのかしら。


「ベル。内容は体調伺いと、花の好みについてだけで、美辞麗句とかがないんだけど、私も同じように書いたほうがいいのかしら」


「そうですね。ゴテゴテしていない方が男性は好ましく思うかも。これは、男性に確認したほうが⋯⋯ロイド様に伺ってきます」


 ベルが走って部屋を出た。そんなに急がなくてもいいのに。


 手持ち無沙汰になったので、刺繍の続きに取り掛かった。

 青い花の横に、薄い緑の小鳥を刺した。その周囲にクリーム色の小花。我ながら良い出来栄えだ。


 ベルがロイドを連れて戻ってきた。


「お嬢様、ロイド様が届けに行ってくださるそうです。あちらも執事が届けに来たそうですよ」


 まあ、執事に届けさせるにしては、軽い内容よね。それなら他にも手紙が来たということだわ。 


「お父様の返信と一緒に届けてちょうだい。それと今回の調査のお礼に、これをお贈りしたいのだけど、どうかしら」


 二人はハンカチをのぞき込むや、のけぞった。


「お嬢様、大胆ですね。これはいいわ」


 べルが大興奮し始め、ロイドは唸っている。


「これは何をイメージした刺繍かお伺いしてもよろしいですか?」


「ブライアン様の瞳よ。初めから考えて刺したのじゃないの。なんとなく刺繍で気を紛らせていたら、あの瞳を再現してみたくなって。いつの間にか、こういう風に仕上がったのだけど、我ながらいい出来だと思うの」


 ロイドが何ごとかを決めたように、口を引き結んだ。


「これを包んで、手紙と一緒にお届けしましょう。話が早い」


「それならちょっと待って。もう少し色々加えて、もっと豪華にするから」


「「いいえ」」


 二人がハモった。


 コホンと咳払いをして、ロイドがニコッとした。


「これで完璧です。これ以上は邪魔といいますか。お嬢様は手紙をお書きください。余分な修辞は不要です。通常のご挨拶と、お返事だけでよろしいと思います」


 ベルは私から刺繍を取り上げ、さっさと刺繍枠から外してアイロンを当て始める。

 私が手紙を書いている間に、ハンカチは綺麗に畳まれていた。

 それからべルがロイドに聞いた。


「香水はどうしましょう」


 私そっちのけで話が進んでいく。私は慌てて口を挟んだ。


「もしかして、女性が手紙に香水を振るのにも意味があるの?」


「はい。最近の流行りで言いますと、女性の場合も好意を示す印になります。香りの種類で気持ちを推測するのも、皆様楽しんでおられるようです。お嬢様、どうされますか?」


「無理。駄目よ。勘違いかもしれないのに、そんな恥ずかしいこと」


「では、ハンカチの方にだけ、少し振っておきましょうか?」


「そうね。それだけにして」


 ベルは私が愛用している香水を手に、遠くからプシュッと一吹きをハンカチに向かってかけた。細かい霧がフワッと広がり、ハンカチを包みこむ。

 この香水は、爽やかで柔らかい花の香なので、変な意味に取られたりは、しないはず。


 それをベルは綺麗な紙で包み、リボンを色々と並べた。


「リボンの色はどれにしますか?」


「緑がいいわ」


 ベルは薄い緑のリボンをそれに結び、封をした手紙と一緒に布でくるんだ。


 あら? これだとハンカチの香りが、少し手紙にも移るのでは、と思ったが、すでにロイドがそれを手に部屋を出ようとしていた。


「あの、ロイド。ちょっと、その手紙……あの」


「マリアお嬢様。今の状況でのブライアン様の御心遣いは、非常にありがたい事だと存じます。私からもお礼を申し上げてまいります」


 一瞬振り返ったロイドはそう言うと、すぐに部屋を出て行った

 ベルが私を椅子に座らせ、目の前に手紙を置いてくれた。


「エミール様よりお預かりしてまいりました。お茶の用意をしますから、ゆっくりお読みください。他にも聞き込んできましたので、後でお話しします」


 ベルの持ってきてくれた手紙は女性仕様で、前後にいらない事がたくさん書いてある。

 で、本題は、と探して見つけた。


『あの日は驚いたの何のって。目を閉じる間もなかったわ。たぶん、皆そうよ。あなたが出て行った後の大騒ぎったらなかった。もう、誰が何を言っているやら! それで、その後を知りたいのね』


 そこで一枚目が終わっていた。


『ジェイソン様は怪しいって、私は思ったわ。でも未遂で計画段階なら、罪に問うのは無理よね。悔しいわね。何とかならないかしら。これが、大半の人の意見だと思う。私の友人たちや、家族が話した相手は皆そうよ。誰か調べているの? 分かったことがあれば教えてね』


 いつもの刺繍や本の話の時と違って勢いが凄い。そのせいで、手紙を読むだけで疲れてしまった。

 上を向いて、ふうっと息を吐く。

 ベルが入れてくれたお茶と、チョコレートをつまんで、やっと気分が落ち着いた。


「お嬢様、使用人たちの意見を聞いてきました。ジェイソン様が遊んでいた話は、結構出てきましたけど、愛人の件は情報がなかったです。侯爵家は愛人の身元を知っているのでしょうか」


「多分ね。彼女との結婚を反対されたのが、事の始まりですもの」


 私自身も実は彼女の身元を知らない。私にとって、彼女はずっと侍女のメリーだった。

 死に瀕した時に、ジェイソン様からそう聞いただけで、生きている内に、事情が分かっていたわけではなかった。

 本当に最後まで、何も知らないまま過ごしたのだ。

 そんな間抜けな自分が情けない。


 その日の夕方、父宛に手紙が届けられた。近衛騎士団長からのもので、ディール侯爵と父と近衛騎士団長、ジェイソン様、ブライアン様の五人だけで相談をしたい、という申し入れだった。


 夕方に、そのことをロイドが伝えに来てくれた。


「明日の午後に、王宮の近衛騎士団に出向いて、話をすることになったそうでございます」


 多分、決定が下される。

 処分があるなら、その場で言い渡されるのだろう。

 兄が呼ばれていないということは、処分を免れたと見てよい。


 その夜は重苦しい気分で眠りに就いた。また嫌な夢を見るかもしれないと思ったが、夢は見なかった。 



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― 新着の感想 ―
墓穴を掘る際に出た土で外堀を埋める……なんて効率的なんだ!(ぉ
刺繍の小鳥は薄い緑。包んだリボンも薄い緑。マリア嬢の目も薄い緑。 マリア嬢、かなり無自覚にすごい刺繍しましたね★ そりゃあ、もう他の色はいらないでしょう。 これに愛用の香水をかけて贈ったのですね。 ブ…
お嬢様が恋愛に疎いのをいいことに使用人が囲っていくスタイル笑笑。それにしても「これ以上は邪魔」って…どんな刺繍だったのかメチャ気になる。
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