表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
第一章 帰って来た花嫁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

ブライアン様の訪問2


 屋敷に戻ると、昨夜と同じ父の書斎に、家族が集まっていると従僕が告げた。

 私はブライアン様にエスコートされて、部屋に入った。二人が一緒なのを見て、皆が非常に驚いている。


 ブライアン様が挨拶し、先に私と話した理由を説明した。


「マリア嬢には、昨夜突然お邪魔し、話を伺った件について謝罪させていただきました。そして快くお許しいただきました」


 それからロイドに勧められた椅子の隣の椅子に私を座らせた。全員が落ち着くのを待って、ブライアン様が今朝のディール侯爵家での事を話し始めた。


「今朝早くに、我が家の執事を送り、訪問の申し入れをしました。公務ではなく、私的な訪問であること、昨日の件で混乱が起こるのを抑えたいので、事情を聞きたいと伝えてあります。ディール侯爵家では快く私を迎えてくれました」


「あちらの様子はどうでしたか?」


「そうですね。最初は侯爵夫妻もジェイソンも戸惑っている、という雰囲気でした」


「はあ、そうでしょうなあ」


 父が手を膝の上で組んで、背中を丸める。母がその腕を、扇子で軽く叩き、「しっかりなさって」と励ました。


「問題の侍女メリーですが、彼女はいませんでした。使用人によると、昨日の午前中までは屋敷にいたそうですが、今朝にはいなかったということです。それと、ジェイソンの乳母、キャリー・モード夫人が午後に突然屋敷を訪ねて来たそうです」


 その話で、急に緊張感が部屋に満ちた。

 父母も兄、妹も、ごくりとつばを飲んでブライアン様の言葉を待っている。


「ジェイソンに、侍女がどこの誰で、どういう伝手で雇ったのかを聞きましたが、知人の紹介だと言いました。知人の名は言えないそうです」


 皆、顔を見合わせている。

 これでは、愛人の件は、ほぼ確定だと思うしかない。


「私が黙って待ったら、しばらくして、侯爵が打ち明けてくれました。彼女はジェイソンが以前付き合っていた女性だったと。隠し立てしても何にもならないとジェイソンに言っていました」


 父がそわそわし始めた。


「元愛人を、妻の侍女に付けようとしたわけですか。それはまた、なんて悪趣味な」


 まあ、ベルと同じことを言っているわ、と私は呆れた。兄も、「趣味が悪すぎるし、ばれたら逃げようが無いな」と言っている。こちらはベルとロイドの合体版だ。男性の考え方って、こうなのかしら。


 私が首を傾げていたら、母と妹が目を吊り上げた。


「悪趣味で済む問題ですか! 人を馬鹿にしていますわ。失礼にも程がある。今回の破談は侯爵家有責ですわね」


「そうよ。いくら何でもひどすぎる。やっぱりジェイソン様は、頭がおかしいんだわ」


 そのノエルの言葉をブライアン様が捉え、聞き返した。


「頭がおかしいと思ったのは、どんな所ですか?」


「今朝、姉から聞かされた話なのですが、誉め言葉がまるで、別人の事を言っているようだそうです。それで、目か頭がおかしいと話していたんです」


 妹は物おじせず、はっきりと話した。こういうところが凄く羨ましい。同じ姉妹なのに、どうしてこんなに違うのだろう。


「近衛は目が悪い人間は入れません。入隊後に視力が落ちたら、眼鏡を掛けさせられます。頭も同様ですね」


 ブライアン様はそう言って、エリック兄さまを見る。

 兄はびくっとして背筋を伸ばした。


「君が妹君をジェイソンに橋渡ししたそうだな。その時の経緯を聞かせてくれ」


 兄は、おずおずと顔をブライアン様に向けたが、彼の厳しい目を見て急にシャキシャキと話し始めた。


「妹が十六歳になっても男性と話をするのが苦手で、相手を見つけるのに苦労しそうだと、何かの折にジェイソンに話しました。そうしたら後日、会ってみたいと言い出したので、家に連れて来たのです。相変わらず、妹はろくに挨拶もできずにもじもじしていましたが、なぜかジェイソンはそんな妹を気に入ったと言ってくれたのです。そして正式な申し込みがあり、1年前に婚約が結ばれました」


 言い終わって、兄はふっと肩を落とした。


 言った兄も、聞いている者たちにも、その流れが以前とは違って見えている。

 大人しくてはっきりものも言えない若い娘、そういう娘を彼は探していたのだ。しかも家族から軽んじられ、お荷物扱いされている娘。そう、私だ。

 思わず、ぞっとして身体が震えた。


 その時、大きな手がそっと私の腕に触れた。


「もう、大丈夫です」


 私は感謝を込めて、ブライアン様に向かって頷いて見せた。


「ジェイソンは、マリア嬢に恋をして結婚を申し込んだと言っていました。愛人は彼の子供を産んでいて、彼女を捨てることもできず、傍に置いたそうです。侯爵夫妻は、彼女との関係を清算して、今回の結婚に臨んだと思っていたようですね。げっそりした様子でした」


「よかった。侯爵夫妻にまで騙されていたのだったら、もっと深く傷ついていました。それが分かっただけでも救いになります」


 私は心の底からそう言った。あの結婚当初の頃の歓迎すら嘘だったなら、人間不信になってしまいそうだ。

 兄は私と目が合うと、すぐに視線を落とした。


 しばらく無言になった辺りで、ロイドが父に小声で話し掛けた。


「お茶とブランデーでも、お持ちしましょうか」


「ああ、頼む。少し喉を潤したい気分だ」


 ロイドが音も立てずに部屋を出て行った。

 全員が、それぞれ物思いに沈んでいて、部屋は静かだった。


 ロイドと侍女が、お茶とブランデー、チョコレートボンボンの皿を運び込み、それぞれの前にサーブする。私も少し、ブランデーをグラスに注いでもらった。

 お酒は普段飲まないけど、この話し合いでは必要な気がした。


 ブライアン様はお茶を一口飲んでから、先ほどの続きを話した。


「結局ジェイソンは、愛人と隠し子、それから愛人に変装をさせて、妻の侍女に据えようとしたことまでは認めました。乳母の子爵夫人には、ただ隠し子の養育を頼んだだけだそうです。そして最後のマリア嬢に危害を加える計画については、完全否定しました」


「ずうずうしい!」


 一言で言ってのけたのは母だ。あんなに、この結婚は、あなたにとって神の恵みのようなものよ、と言っていたのに。いつも意見が極端で、コロッと変わりやすいのが、母の癖なのだ。


「そうよ、よくもこの状況で、しらばっくれる事が出来るわ。やっぱり目じゃなくて頭がおかしいんだわ」


 妹のノエルは母似のようだ。

 父と兄は、ブランデーをぐっと飲み込んでいる。


「教会でマリア嬢が言っていた通りで、もし犯罪が計画されていたとしても未遂で、証拠もありません。事実として挙げられるのは、今まで述べたことだけです」


 そこで一度切ってから、「だが」と続けた。


「愛人を侍女として引き入れることが、百歩譲ってあったとして、妻の専属侍女にして身の回り全般の世話を任せ、実家から付き従って来た専属侍女を排除するのは、普通ではありません」


 この話を初めて聞く母と兄と妹は、かなり衝撃を受けたようだ。


「この事も、侯爵夫妻は二人で決めたことだと聞かされていたようです。昨夜お伺いした通り、マリア嬢の専属侍女、ベルの部屋は用意されていませんでした。ここまでの話で、侯爵夫人が気を失いました。それで早めに辞去したのです」


 今度は母も妹も声を上げなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初から部屋がないということは計画的に愛人を妻の侍女に付けるつもりだったことの証拠になるよなぁ…。それは本当だったのだ、と知った侯爵夫人が気絶するのはまだ当然…。 それにしても気の弱い妹に言い寄る男怖…
母がコロッと意見を変えるのは責任を取らないからでしょうかね。何度か責任を取らされる経験をしていれば、嫌でも慎重になりそうなもの。究極のところ、母にとっては娘の殺人未遂も世のゴシップと同じノリなのではな…
「男性が苦手で気弱な妹」に寄ってくる男怖すぎるて兄上…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ