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短編作品

雨宿りしたら持ち主が現れました

「小説家になろうラジオ大賞」参加作品。応募条件により、1,000文字以下の短編です。テーマワード:「雨宿り」

 日が暮れた城下街。街灯が点々と(とも)る大通り。馬車の(わだち)が見える石畳をしとしとと降る雨が濡らす。


 寒空の中、ジェナはすでに明かりの消えた店舗の軒先に身を寄せ、途方に暮れながら止まない雨をぼんやりと眺めていた。


 彼女を愛してくれた両親はとうにこの世にはいない。今朝、追い出された生家の屋敷から持ち出せたのは鞄ひとつと、本に挟む青色の小さなリボンがついたこのしおりだけ。


 しおりは幼い頃、旅先の異国で出会った名前も知らない少年から預かったもの。


 いつからかジェナにとっては大事なお守りになっていた。


「これからどうしたらいいのかしら……」


 頼れる人もいない。濡れないようにそっと手で包みながら、しおりに目を落とす。


 綺麗な絵が描かれている。


 犬とも猫とも違う、滑らかな毛並みの大きな耳を持つ四足獣。


 狐のようにも見えるが、尻尾は細く胴体よりも長い。獣の額には紋様のようなものも見える。


 空想上の生き物だろう。絵師の腕が素晴らしく、まるで生きているかのよう。


 何かあるたび、ジェナはこのしおりに、いや、描かれている獣に話しかけてきた。両親の死後、虐げられて育った彼女にとって唯一の友達だ。


「──ごめんね、待った?」


 そのとき、ふいに声がした。まるで待ち合わせでもしていたみたいな言葉。


 しおりから発せられたように感じ息を呑むが、すぐにあり得ないと言い聞かせる。


 顔を上げると、見知らぬ若い男性が立っていた。


 ジャケットとタイを身に纏った貴族らしきその男性は、差している傘を傾け、雨から守るようにジェナの頭上を覆ってくれている。


 彼は確認するようにジェナの手元を覗き込む。


「見つけるのに時間がかかってすまない」


「──え?」


 彼は驚くジェナの手を取ると、優しく引き寄せる。そして再会を喜ぶかのように笑う。おかえり、と聞こえたのは気のせいだろうか。


 そのとき、ジェナの手にあるしおりが光った。と同時に、しおりの中から飛び出すように、大きな耳を持った四足獣が目の前に現れる。


 あり得ない光景に、ジェナは大きく目を見開く。


「大事に持っていてくれて、ありがとう」


 彼はジェナの手をぎゅっと握り締めて言った。


 幼い頃、ジェナにこのしおりを預けた少年は彼だった。


 しおりの中にいたのは、彼の契約精霊。かつて命を狙われ追われていた彼は、怪我を負った精霊を奪われないようしおりに隠し、ジェナに預けたのだった。


 これからジェナが彼の花嫁として迎えられるのは、まだ少し先のこと──。



初参加!「小説家になろうラジオ大賞」参加作品として書いたものです。

応募規定により1,000文字以下のかなり少ない文字数ですが、さくっと楽しんでいただけると嬉しいです(*ˊᵕˋ*)


「面白かった」「ほかの作品も読んでみたい」「応援しようかな」など思っていただけましたら、ブックマークや下の★★★★★評価で応援いただけると、次回作の励みになります!リアクションも喜びます。頑張りますので、よろしくお願いいたします(*´▽`*)



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ほかにも短編・連載作品投稿しています。こちらも楽しんでいただけると嬉しいです!

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泉投げ捨て書影
レーベル:リブラノベル
イラスト:アオイ冬子先生
大幅加筆で電子書籍化!「短編+その後のエピソード」の構成になっています(*ˊᵕˋ*)
どうぞよろしくお願いいたします!


↓ ↓ 短編 ↓ ↓

▶︎ 雨宿りしたら持ち主が現れました

▶︎ 旦那さま、溺愛はまだでしょうか?〜「愛することはない」から始まる、天然伯爵令嬢と不器用公爵のちぐはぐな結婚生活〜

▶︎ 婚約白紙のあとは義弟の重い愛だなんて聞いてません

▶︎ 【電子書籍化】婚約破棄された腹いせに、婚約指輪を泉に投げ捨てたら

▶︎ 訳あり転生令嬢は期限付き契約結婚のはずですが、なぜか執着されています


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▶︎ 二度目の人生、恋に無自覚な元大聖女は筆頭聖騎士の執愛に気づかない

▶︎ 悪役令嬢の取り巻きのひとり……、でもなかったわたしが成り行きでヒロイン役(王太子妃)になりそうなんですが、冗談ですよね?

▶︎ 死に戻りの仮初め伯爵令嬢は、自分の立場をわきまえている



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