7-4
最近、どこからホモ注意が分からなくなってきました…ホモ注意です()
「こうやってトーマが相談してきてくれるのは役得だな」
帰りがけ、のんびりと歩いている中思いがけないライアスの言葉に、トーマはそうかな?と首を傾げる。自分ではどうしようもないと判断をすれば、頼ってきたつもりではあったが…よくよく考えたら、確かに心配したライアスが声をかけてきてくれて、と言う事も多々あった。むしろ、解除者としての話をこうやって自分から振るのは初めてだったかもしれない。
「…ごめん」
なんだか申し訳なくなって口にした謝罪の言葉だったが、彼は表情を緩めたまま首を振った。
「正直に嬉しいんだ。謝る必要なんかない」
薄い茶色の瞳を細めこちらを見つめてくる彼を見て、トーマは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。好意をストレートに伝えられるのはどうにも慣れない。照れを隠すようにぷいっ顔を背け、帰ろ!と促した声は裏返ってしまった。
後ろからくすくすと笑う声など聞こえない振りをして早足で歩き出すが、数歩進んだところで強い風が吹き付けた。立ち止まり目を瞑ってしのぎ、再び目を開けたトーマは息を飲んだ。目の前に広がっていたのは、突風によって巻き上げられた雪が、月明かりに反射をしキラキラと輝きながら降り注いでいたのだ。
「きれい…」
「結晶光か…見事だな…」
静かに頷いたライアスも、トーマの隣へと立つとその光景を見つめる。目を輝かせながら見つめるトーマ越しで眺める結晶光と呼ばれる自然現象は、とても綺麗で…中性的な彼の魅力を更に際ださせている。彼を綺麗だと自然に感じてしまう辺り、最早重症だなと心の中で苦笑する。この感情が何かがまだ分かってはいないが、はっきりと分かっている物もある。それを、今伝えなければいけないと思い、ライアスは口を開いた。
「…トーマ…俺も一つ、話したいことがあったんだ」
静かにかけられた声に、空を見上げていたトーマがライアスへと視線を向けた。
「ヴァリスで…お前が伯爵に連れて行かれた時。本当はウィルなんかじゃなくて、俺が助けに行きたかった」
「え…」
「トーマを守るのは、俺の役目だって何故だか決め付けていたんだ…あれだけウィルに宣戦布告されてたのに、なんでだろうな…」
正直、ウィルが本気ならばそれで良いと思っていた。関係の無い自分をなぜ牽制してくるのか、意味が分からなかったが…いざ、目の前でトーマが攫われたらどれだけ彼を大切にしていたのか思い知らされたのだ。大切なものは無くなってから気づくとは、よく言ったものだ。そんな、突然のライアスの告白を目の前にして、状況についていけなくなり、ただただ呆然としているトーマとの距離を縮めた。
「…無事に戻ってきたのを見て、安心と怒りが湧いた。俺の役割をウィルに奪われて、悔しかったんだ…だから、もう、後悔はしたくない」
片目にかかっていたトーマの前髪を指でよけるライアスは、柔らかく微笑んでいた。間近で目が合ったトーマは、やっと思考が追いついてきたのか、口元を片手で抑えて見上げてきている。その瞳が潤んでいるんは、彼の感情が昂っている証だろう。
「ラ、イ…」
なんて答えて良いのか分からず、ただとても恥ずかしい事だけは自覚があるトーマが縋るように見つめると、ライアスは表情をそのままにして頭を撫でるように髪を梳く。
「次が最後になる。だから…」
頭を撫でていた手は下へと移動し、行き場を無くしていたトーマの片手を掴んだ。そのまま腕を上へと上げると、手の甲にライアスは唇を寄せる。暖かくて柔らかい感触と共に、視界に入ってきたのは、静かに手の甲へとキスを落とすライアスの姿で。ちゅ、と小さいリップ音を鳴らすと、彼は手を握りながらトーマの足元へと片膝を付き跪いた。
「ちょ、ライ…!」
顔を赤くして慌てるトーマだったが、真剣な表情で見上げられ思わず口を閉ざす。それに小さく笑うと、ライアスはトーマの手を離すと、今度は腰に差してある剣を引き抜き柄の方をトーマへと向けた。不思議そうにそれを見つめる彼へ、更に差し出す。
「握って」
囁くような声に自然と体は動き、恐る恐る柄を握った。刃の部分を掴んでいたライアスの手が離れると、ずしりと重い感触が伝わってくる。
「そのまま剣の刃を、俺の両肩へ置いてくれ」
頷いてから、トーマは指示された通り剣を持ち上げると平たい面を表にして、跪いているライアスの両肩へと乗せる。よく画面越しに目にする騎士の誓いのような動きだが、実際にやるとなるとぎこちなさが目立ってしまう。流れるような動きで出来れば良いのに、と心の中で思っていれば、表情に出ていたのか、ライアスは小さく微笑み返してくれた。それから、肩に置かれた刃を掴むと、自分の胸へと切っ先を宛てる。
「わっ、危ないよ…!」
流石にそれには驚き、剣を引こうとしたトーマだったが、剣はびくともしない。大丈夫だ、と落ちつた声が返ってきたかと思えば、ライアスは更にもう片方の手も剣へ添え両手で刃を掴む形になった。
「私、ライアス・ロットナーは、魔導師・トーマの為に 命ある限り剣となり盾となる事を、ここに誓う」
茶色の目を逸らすことなく、下からしっかりと見上げてくるライアスの言葉に息が止まった。キラキラと雪の結晶が降り注ぐ中、騎士の誓いを立てる彼の姿は、まるで何かの映画をワンシーンのようだ。はぐらかす時に使う、二次元みたいだと言う表現等ではチープすぎて足りない光景に、トーマはただ息を止めるしかない。感動すると呼吸が泊まると言うのは本当らしい。じんわりと目の奥が熱くなるのを感じながらも、ライアスから目を離せずにいると、そんなトーマの反応を是と受け取ったのか、彼は嬉しそうに目を細め剣を引き抜いた。慣れた手つきで鞘へと収めると立ち上がる。
「例え精霊との戦闘になったとしても、トーマは俺が守り抜く。これだけは、ウィルにも譲るつもりは無い」
「なに、それ…ライはずるいよ…」
一気に頬を紅潮させたトーマは、今にも泣きそうな顔でライアスを強く睨んだのは一瞬で…すぐに表現を隠すように俯いた。
「カッコ良すぎ…こんな事して、俺が本気で惚れたらどうするの…」
「そうだなぁ…その時は、」
くしゃりと髪を撫でると、手を顎へと回しトーマの顔を上げさせる。息がかかるほど近くへ顔を寄せたライアスは、悪戯っぽく微笑んだ。
「喜んで、責任をとるさ」
「っ、だったら、俺を守ってライも生きて無きゃ駄目だよ…!」
しどろもどろになりながらも言い返したトーマの言葉に、ライアスはぷっと吹き出すと、トーマの肩口へと顔を埋める。小刻みに震え笑うライアスに、何で笑うの?!と怒れば涙目になった彼が顔を上げてきた。
「いや、トーマのそう言う所が好きだと思ってな」
「~~~ッ!もう知らない!俺帰るよ…!」
恥ずかしさを隠すようぽこぽこと怒りながら歩き出すトーマの後ろ姿に、笑いを噛み殺すとライアスも後を追う。
「トーマ」
「な、何…!?」
「大丈夫、お前を一人残して死なないさ」
「なに、いいだして…」
「しっかりと言葉にしないと不安がるのはトーマだろ?」
満足気にしているライアスの姿に、処理しきれなくなったトーマは顔を両手で覆うと、その場へとしゃがみ込んだ。
宿へ戻れば、すでに食事処ではアメリア達がテーブルを囲んでいた。揃い始めている料理を見れば戻ってきたのは大分遅くってしまったようだ。空いていたウィルの隣へと腰を下ろすと、向かいのアメリアがすみませんと声をかけてくる。遅れてきたのはこちらなのだから、と謝り返すと、レオルドがニヤニヤとした視線をトーマと並んで座ったライアスへと向けた。
「随分遅かったじゃねぇか、お前ら町中にも居なかっただろ?ナニやってたんだよ」
ライアスルートのイベント発生してましたなどは言えず。思い出すと恥ずかしすぎて鼻血すらでそうな出来事を悟られないよう、わざとトーマはムッと顔をしかめる。
「レオルドに言われたくないんですけど。アメリア、大丈夫だった?」
「へっ?!あ、その…!」
突然話を振られたアメリアは、びくりと肩を揺らすと顔を赤く染め俯きながらごにょごにょと何かを言っている。明らかに何かありましたな雰囲気を醸し出す彼女を見て、ウィルがケダモノ、とだけ呟いた。感心したようなライアスと、睨み付けるトーマにたじろぐレオルドだったが、彼が弁解するよりも早く、アメリアが顔を上げた。
「あ、あの…!とても優しかったので、大丈夫です!」
声を裏返しながらの彼女の言葉に、耳まで赤く染めたレオルドは頭を抑えるようにしてテーブルへと突っ伏す。墓穴を掘った彼への哀れみと、自分も下手をしたら同じ状況に追い込まれていたと思うと、身代わりになってくれた感謝を込め、トーマは合掌した。そんな賑やかな中、追加の飲み物も届き食事が始まった。暫くの間はレオルドがネタにされ続け、質問に対して真面目に答えようとするアメリアの口をひたすら塞ぎ続けた。そのやり取りにも飽きてきた頃、頬杖をついていたウィルが、所でと口を開いた。
「トーマ。ここへ戻ってくる前に、何かあったのですか?」
「え…?」
思わぬ相手から話を蒸し返され、驚きながらも隣へと視線を向けると、柔らかく微笑んではいるが少し寂しそうな表現のウィルと視線があった。
「…少し、様子が違っていましたので。やはり、ライにしか言えない事なのでしょうか…?」
「ウィル…?」
いつもと様子の違う彼に、どうしたのかと心配気に顔を覗き込む。青い瞳を細め微笑む彼は、グラスに添えていた指をトーマの方へと差し出した。
「その件は、俺から話そう」
ウィルの指が頬へと触れる直前で、突然トーマの姿勢が正され指先から距離をとった。見れば、彼の肩には、その奥から伸ばされたライアスの手が乗っている。ごく自然にトーマの視線を自分へと戻したライアスの手並みに、ウィルは小さく笑ってしまった。急に雰囲気の悪くなった二人の間に挟まれたトーマは、気を取り直すように咳払いをする。目の前では、二人の様子を心配気に見つめていたアメリアと、驚いてジョッキを持ち固まっているレオルドが居るのだ。
「俺達が遅くなったのは、今後について話してたからだよ。気分の良い話じゃない…解除者の助言ってやつ」
自嘲気味のトーマの言葉に、皆の態度が変わった。痴話喧嘩のような雰囲気から一転、緊張で息を吸うのすら重く感じる。崩していた姿勢を正す一同を見回してから、ライアスは静かに口を開いた。
「解除者というのは、祭壇を解除する夢を最初に見るらしい。そこで眠っているはずの陽の精霊を、聖女の祈りを持って起こすのがこの旅の最終目的だが…解除者の見通す力によれば、精霊は既に起きていると」
「起きてる?しかし、冬は…」
最もな疑問を口にしたウィルに、そうだなとライアスが頷く。だが、教会で暴走の話を聞いていたレオルドとアメリアは、大抵の予想がついたのか顔が表情を固くした。
「起きては居るが、正気を失い暴走している。そして、訪れた我々に対し、攻撃を仕掛けてきた…まさかとは思ったが、そう言う事例があることを、この町の神父が裏付けてくれたそうだ」
「まさか…」
信じられないとウィルが隣へと視線を向けると、珍しく無表情のトーマは硬い動きで頷いた。
「俺も信じたくなかったけど…今日、神父から暴走の話を聞いて…それに、見覚えがあったんだ」
「見覚え、ですか…?」
「精霊の像が置いてあったでしょ…?表情は違うけど、俺達に槍を向けてきた夢の中の女性と、そっくりだった」
意外にも声を上げたのはアメリアで、トーマの回答に彼女は口元を抑えた。
「それと、今日興味深い話を聞いた…精霊特有の魔法で、物理を無効の矢を陽の精霊は使ってくるらしい」
「物理無効…?まさか、魔力透写とでも…?」
「そのまさかだ」
「そんな…衰退した物だ、有り得ない…!」
「もちろん、使ってこないのが一番良いし…俺だって、魔力が枯渇しても防御壁を展開し続ける覚悟だってあるけど…」
強く唇を噛みしめ俯くトーマの様子に、ウィルは言葉を続ける事も出来ず口を噤んだ。二人の様子に、ライアスは小さく息を吐くと、向かいのレオルドトアメリアへと顔を向ける。
「トーマだけに役割を偏らせるつもりはない。対策として、魔力付与の武器魔石を考えている。既に手配済みだ」
「なら大丈夫だろ、俺らの攻撃通るんだろ?だったら、俺たちはアメリアやトーマの為に、剣を振るうだけだろ」
何とも軽い口調のレオルドに驚き、トーマは思わず顔を上げた。いつものように人の悪そうな笑顔を浮かべた彼だったが、目だけは真剣だった。
「…全く、無謀すぎる」
「んだと、」
「魔法が絡めば、貴方が一番の不利でしょうに」
「うるせぇな…」
ウィルからのダメ出しは的確だったようで、威勢よく大丈夫だと言った割には、反論が出来ず悔し気に睨み付けてくる。その様子にウィルは小さくため息を吐くと、体ごとトーマの方へと向けた。
「見通す力の内容ですから、全滅みたいな物なのでしょう?」
見事言い当てられ息を飲んだトーマだったが、そんな反応など気にも留めずウィルは表情を緩めると顔を近づけた。
「圧倒的力に挑むなんて、無謀以外の何物でもありませんが…トーマが望むなら、仕方ありませんね」
ウィンクをしながら告げてきたウィルに、硬くなっていたトーマもやっと小さく笑い返した。
「重い話は以上だ。で、結局レオルドは王都へ戻ったらアメリアと一緒になるつもりなのか?」
「ララララライさん?!」
「っ、げほげほ…!」
突然話題を変える上に、とんでもない事を言い出したライアスに、アメリアが狼狽し、レオルドが咽る。慌てる二人に、何か変なことを言ったか?と本気で不思議そうな顔をしていた。
実は、ライの誓うシーンを書きたくて、解除者を書き始めたのです。ものすごい満足感…w




