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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
47/78

6-4

とっても下ネタです。ごめんなさい…

 部屋の扉を開けると、アルコールの匂いが漂っていた。自然と室内で寛いでいるレオルドへ目を向ければ、ベッドに腰掛けていた彼は片手に収まる程度の小瓶をサイドテーブルへ置いた。もう片方にはどこから用意したのかグラスが握られており、その中には琥珀色の液体が三分の一程度注がれている。


「遅かったな」


 ほろ酔い気味なのか、すでにうっすら頬を染めているレオルドに、トーマはため息を付ながら近づくと、向かい合うように自分のベッドへと腰かけた。泣いていた事をバレないように、落ち込んでいた気分を悟られないように、気合を入れて部屋へと戻ってきたのに…目の前で上機嫌に飲んでいるレオルドを前に徒労で終わってしまったようだ。呆れたようなため息と視線に気づいたのか、レオルドは不機嫌そうに唇を尖らした。


「レオルドがしても可愛くないよ」

「んだよ、お前が遅ぇーから先に飲んじまったんだろ」

「は…?」

「何かあった時はよ、酒が一番だろ」

「え、俺に…?」


 酒瓶を持ちこちらへ腕を伸ばしてくるレオルドに驚いて問えば、彼は当然だと頷く。早くしろと怒られてしまい、トーマは小さく笑いながらサイドテーブルに置かれているグラスへと手を伸ばす。持ち上げたグラスへ、待ってましたと言わんばかりに酒を注いでくる。自分では止めようとしない彼に、レオルドと同じ程度まででストップをかければ、大人しく酒瓶を元に戻してくれた。カツンとグラスをぶつけ合い、高い音を部屋に響かせてからグラスの縁へと口付けると、食事の時に飲んだものよりも濃厚なアルコールが広がる。相当度数が強いそれに、思わずトーマは顔を顰めた。


「このまま飲んじゃ潰れちゃうよ」

「加減すりゃ問題ねーだろ」

「そうだけど…」

「んだ?それとも、記憶飛ばすほど飲みてーの?」


 スっと紫の目が細められたと思えば、久しぶりに見る光が宿っていた。初めて認められた時の、洞窟で二人で過ごした時の、それと似ている光に気づくとトーマは慌てて首を振った。なにもこんな時にそんな男の色気を漂わせるような視線を向けなくても良いのに、と心の中で愚痴りながらも表面上では呆れたような笑顔を浮かべる。


「違うよ、明日の護衛に響くでしょって話。俺達じゃなくて、アメリアが困るんだよ」

「ぐ…」


 アメリアを引き合いに出されれば、彼は強く言えない。一緒に過ごす内に身についたレオルド捌きは、どうやら磨きがかかってきたらしい。ぶつぶつ文句を呟くレオルドに、トーマは小さく笑うと指を鳴らした。すると、音と同時に二人のグラスの中へ大きめの氷が現れる。何事かと驚きながらこちらへ視線を向けたレオルドにニヤっと笑い返し、もう一度指を鳴らせば、今度は八分目まで水が満たされる。


「でも、心配してくれたのはすごく嬉しいから、取り上げようとは思わないよ?」

「お前も大概だよなぁ…」

「褒め言葉として受け取っておくね」


 人が悪そうな笑みを浮かべグラスを傾けるレオルドに、トーマもくすくすと笑いながら再び口をつける。先ほどよりも大分薄くなった酒は口当たりがよくなり飲みやすい。どうでもいいような話をレオルドとしながら、少しずつ飲んでいたトーマだったが、何か物足りなさを感じていた。半分程飲み干した頃に、それがやっと思い出せたトーマは、思わず呟いた。


「…炭酸」

「は?」


 唐突なトーマの発言に、グラスを呷っていたレオルドが不思議そうな視線を向ける。レオルドの視線を気にする事無くぶつぶつ呟きながら考えた後に、再びトーマが指を鳴らせば、彼のグラスの液体がボコリと音を立てて泡立ち始めた。


「な…?!」


 細かく泡立っているそれを、レオルドが止めるよりも早くトーマは口に含む。コクリと喉を鳴らしたトーマは、珍しく狼狽えているレオルドへ輝いた視線を向けた。


「成功!!ハイボール!!!」

「はい、ぼーる…?」


 なんだそれ、とレオルドは首を傾げた。



 炭酸で割ったため、比べ物にならい程口当たりが良く飲みやすくなった蒸留酒に、ペースは留まる所を知らなかった。

 トーマ自身は、以前この宿で犯した過ちを教訓にしストップをかけたのだが(それでも久しぶりの味に3杯目まで注いでしまったが)、初めての味にテンションが上がったレオルドはハイペースでグラスを空にしていっている。その度に、トーマに魔法を要求して氷やら炭酸水やらを出させていたが、彼の据わった目にとうとうトーマは指を鳴らすことをやめた。注ごうとする小瓶を奪い取ると、レオルドがこちらを睨み付けてくる。戦闘時を思わせるような鋭い目つきだが、酔っ払ってやられても怖くも何ともない。そんな目しても駄目なものは駄目と告げ、まずは小瓶を片付けようとトーマはベッドの上へ上げていた足を床へと降ろし、ブーツを履こうと頭を下げる。そこで、急に体へ衝撃が走った。ぐらりと世界が揺らいだと思ったら、何故だか目の前には天井があった。頭の上に?を三つほど浮かべた後、身体に掛かる重みにハっと我に返れば、時すでに遅し。目の前には金色の髪に紫の瞳を持つ男の顔が迫っていた。


「ちょ、レオルド!」

「酒!」

「ダメです!」

「んでだよぉ」

「その言葉、こんな状態でまだ飲むって言う君にそのまま返すよ!」


 両肘を支えにするようにして上半身を起き上がらせレオルドへ言い返すと、勢いに負けたの彼は怯んだように状態を後ろへと移動させる。が、トーマの右手に掴んである小瓶に目を止めると奪い取ろうと手を伸ばした。トーマが慌て小瓶を自分の背中へと隠すようにすれば、レオルドの手は空を切り、そのままトーマの上でバランスを崩す。普段は身体能力の高い彼はであれば、バランスを崩した所でどうということはないが、それこそ素面の時の話で…完全に酒が回ったレオルドは、思い切りトーマの上へと覆いかぶさるようにして倒れてきた。


「うわ?!」


 突然かかる重みに耐えきれず、潰されるようにしてトーマの体もベッドへと沈む。すぐに顔にかかるレオルドの髪を頭を振りながら払うトーマだったが、対するレオルドは、トーマの頭の真横に顔を埋めたまま動かなくなった。体の力が抜けているのか、全体重が乗りかかってくるので重く息がしにくい。


「っは、レオルド…!」


 軽くレオルドを揺らしてみると、すんと耳元で息を吸う音が聞こえる。酒が回った為か全く動かない彼に、大丈夫?と声をかけながら空いていた片手で背中を摩ってやれば、再びすんと言う音が耳元でしてから、のろのろと腕が動き出す。かかる重さが減り、やっと普通に呼吸ができる事にほっと息を吐き出したのも束の間で、ゆっくりと動いたレオルドの腕は、さらりとトーマの髪を撫でる。更に、何事かと驚くトーマの頭を抱え込むように腕で固定され、髪を軽く梳かれた。


「ちょ…」


 呆然と目の前に迫っているイケメンを見つめれば、見つめられた本人は小さく笑いを漏らしながら鼻先をトーマの耳元へと当て、なぞる様にそのまま下へと下がっていく。風呂上がりのため緩めていた首元まで達すれば、再びすんと言う音がした。くすぐったさに逃げようとしたが、頭を固定している腕が許してはくれなかった。ああ、あの音は匂いを嗅いでいたのか、なんて暢気に考えていた所で、突然首元に柔らかい何かが当たる。ちゅっと言う音に、柔らかい感触がレオルドの唇だと言うのにやっと気づいた。


「なに…」


 思ったよりも動揺で震えた声に、首元に顔を埋めているレオルドはクっと喉の奥で笑い、そのまま顔を上げれば見せつけるように首元にキスを落とされる。


「お前さ、なんか甘い匂いするんだよ…」


 上目使いにこちらを見上げてくる紫の瞳は、ひどく楽しげに細められていた。思考までも絡め取られそうな視線に負けないように、トーマは呆れたような表情浮かべ、自分から離すようにレオルドの肩を軽く押した。


「石鹸でしょ、さっき使ったから。それよりもいい加減退いてよ、重いってば」


 もう一度肩を押してみるが、やはり目の前の男はびくともしなかった。代わりトーマの頭を解放し無言のまま首元から顔を上げると、両腕をトーマの耳元へ付き、上から顔を覗き込んでくる。重くは無くなったが、押し倒されて馬乗りにされているので、以前の状態から改善されたとは言いにくい。


「何なの?」


 もう動揺してませんと涼しい表情を浮かべ、レオルドを睨み付けるように見上げる。本当はいつもと様子が違うワイルドイケメンに迫られて、何が起こっているのか混乱している状態だが、それを見せてはいけないとトーマの本能が告げていた。そんなトーマの努力を知ってか知らずか、機嫌良さそうにレオルドは顔を近づけてくる。


「俺、お前の顔、好きだぜ」

「…は?」

「お前は?」

「な、何…」

「俺の顔」

「レオルド、本当に何言って」

「なあ、トーマ」


 突然顔が好きだと告げられ、自分はどうかと問われ、何言ってんだコイツと思いながらも色気全開で更に距離を縮め迫ってくるレオルドに、トーマは耐え切れず目を逸らす。だが、答えを貰うまでは退くつもりはないのか、どうなんだよ、と楽しそうに声をかけてくる。思わず、ぐっと潰れたような声が漏れたトーマは、動揺を誤魔化すよう投げやりにため息を吐く。


「すごくカッコイイと思います」


 その答えはお気に召したのか、視界の端の方でとられていたレオルドの頬が緩んだように見える。


「じゃ、問題ねぇな。抱かせろ」

「…え?」


 今まで動揺したり、流されまいと必死になったりしていたトーマだったが、思わぬ一言で一気に冷静さを取り戻した。なぜ、顔の話から肉体関係まで飛ぶのか、理解に苦しむ。キスしようとしてきた相手の唇を間一髪手で押さえると、レオルドは手のひらに、自分は手の甲へと互いにキスをする。


「何すんだよ?!」

「こっちの台詞だ!」


 先ほどまでの色気はどこの行ったのか、いつも通りのテンションで文句を言ってくるレオルドに内心ほっとしつつも、トーマは冷ややかな目を向けた。


「なんでレオルドとヤんなきゃいけないわけ?」

「お前俺の顔好きなんだろ」

「好きとは言ってないでしょ…」

「どっちも変わんねぇだろ」

「大体、男相手になにしてるのさ」

「安心しろ、お前の顔なら余裕で勃つ。俺上手いから、お前も最中に考える暇なくなる。問題ねぇだろ」

「大有りだ、この変態!」


 一度離れた顔が再び近寄ってくるのを慌てて両手で押し返せば、イケメン台無しな顔になった。だが、本気で身の危険が迫っているのだ構っていられない。罵り合いながら暫くの間はそんな押し問答が続いたが、レオルドが舌打ちをすると、突然顔を離した。力任せに押していたトーマは、受け止めてくれていたレオルドの顔がなくなれば簡単にバランスを崩す。すかっと空を切った両腕をそれぞれ掴むと、力任せにベッドへと縫い付ける。両腕の自由を奪われ、怒りに満ちた瞳を向けてくるトーマに、レオルドはクっと喉の奥で笑った。ニヤリと口角だけをあげる姿を目の当たりにして、復活した上に倍増した色気に鳥肌が立つ。


「お前、本当魔法以外はひ弱すぎ」

「うるさいよ、放せ変態!」

「ああ、良いな、その抵抗する感じ。普段されねぇからさ、燃えるわ」

「もう本当やめて、娼館とか行けば良いでしょ」

「商売女はもう飽きた」

「最低だな、アンタ!」

「良いから付き合えよ、お前も溜まってんだろ?」


 ふざけるなと怒鳴りつけようと見下ろしてくる紫の瞳を見つめて、失敗したと思った。2回も経験をしているのに、なぜ気づけなかったのか。野生的な光を宿して、今までにない程熱っぽく細められている瞳と目が合えば、その気にさせられてしまいそうだ。こうやって、何人も女を攻略して行ったのだろう。そして、今まさにトーマも落ちかけている。自分が終われば、また次へと移って行き…いつかその順番はアメリアにも回ってくる。目の前では身の危険が迫っているのに、なぜだか頭は先のことを考えていた。そのうち、アメリアもこんな状況に追い込まれてしまうのかと、この毒牙にかけられてしまうのかと。彼女は初心で、失礼だがトーマよりも経験が少ないはずだ。そんな可愛い妹分を、こんな節操無しに取られると思うと悔しいし悲しくなる。


「…アメリア」


 思わず漏れてしまった名前に、ぴくりと目の前の男の動きが止まる。諦め気味に体を力を抜いたトーマは、レオルドの胸元あたりへ視線を向ける。とても顔を直視できるような心境ではなかった。


「ねぇ…あの子には、こんな事、しないであげてね…」

「な…」

「正当方で攻略してね。通じ合っても、あの子のペースに合わせてあげてね。あの子の他は、抱かないで…きっと、我侭も言わずに我慢しちゃうから。約束してくれるなら付き合うよ。ただし、挿れるのなしね。俺の口でするので良い?」

「…いい」

「ん、わかった。約束だよ」

「いいって…」

「今更無しはダメだよ。大丈夫、俺以外と上手いよ?最後まで付き合うし、出されたのを吐き出したりしな」

「いらねぇよ」

「…え?」


 驚いて視線を上げれば、苦い表情を浮かべるレオルドがいた。彼も、トーマではなく、その下に広がるシーツを見ていたようで焦点が定まっていない。何か思うことがあったのであろう、そのまま黙っているレオルドに、トーマは小さく苦笑を浮かべる。押さえられていた腕はすっかり力が抜けており、簡単に抜け出すことができた。腕を上げて、レオルドの頭を乱暴に撫でてやる。驚き、やっとこちらへ視線を向けたレオルドに、トーマは笑った。


「そんな顔できるぐらい、アメリアに対して本気なら安心した」


 見下ろしてくるレオルドの頬がみるみる内に赤く染まると、彼はすばやくトーマの上から飛び退く。生意気な姿ばかりを見てきただけに、少年のような反応に一瞬何が起こっているのかわからずきょとんとしてしまう。ゆっくりと体を起こして視線を向ければ、彼はビクリと体を震わせた。


「わ、悪ぃ、ちょっと頭冷やしてくる」


 らしくない反応の数々に首を傾げたトーマよりも早く、レオルドはそう告げると扉を開けて部屋から出て行く。あまりの行動に呆気にとられ、呆然と扉を見つめればすぐ隣からくぐもった声が聞こえてきた。何か言い合いが始まり、すぐに扉が開く音が2回続けば、部屋の中へウィルが押し込まれてきた。


「ちょ、何なんですか、レオルド!!」

「俺はライに話あんだってば!お前今日はこっちで寝ろ!」


 そう言い切って、乱暴に扉を閉めるレオルドに、ウィルはため息を吐いてから部屋の中へと振り返る。すると、そこには服を乱して呆然とベッドに座っているトーマの姿と、部屋の中に漂うアルコールの匂い。なんとなく何が起きたのか予想ができて、額に手を当てながらもう一度ため息を吐いた。


「なんて据え膳…」


 呟いたウィルの声が小さくて聞こえなかったのか、トーマが何?と首を傾げた。夜は、まだ長い。


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