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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
45/78

6-2


 他愛もない話をしながらロビーで待っていれば、しばらくしてライアスが戻り、続いてレオルドとアメリアが姿を現した。ぎこちなくだが確実に距離が縮まった二人をトーマはにこにこして見ていたようで、トーマの表情を見た瞬間にレオルドが小突いてくるのが初々しく、更に笑ってしまった。じゃれあう二人を見て、目元をほんのり赤く染めていたアメリアも楽しげに笑っているので、心配はなさそうだ。

 全員が揃った所で、夕食をとりに外へと出る。基本、食事をする店はレオルドが選ぶ為、彼を先頭にして歩き出せば、トーマの横へ並ぶようにアメリアが近付いてきた。


「トーマさん、有難うございました」

「ん?何が?」

「レオルドさんと、お話出来ました」

「ありゃ、バレてた?」


 苦笑を浮かべるトーマに、アメリアはくすりと笑う。


「いえ、レオルドさんが教えてくれました。気を利かせてくれたって」

「あいつ…」

「あ、怒らないであげてください。私がトーマさんについて聞いたんです」


 慌ててフォローをするアメリアに、浮かべたまま苦笑でトーマは頷く。


「アメリアが元気になってくれれば、それで良いよ」

「トーマさん…」


 ほんのりと頬を赤く染めるアメリアへにこりと微笑みかければ、彼女も嬉しそうに笑った。



 結局食事をとるために入った店は、以前と同じ所だった。今日こそはレオルドの隣は避けようと向かいに座りドヤ顔でレオルドを見れば、彼はんだよその顔と少しつまらなさそうに頬を膨らました。そんな彼へ、早く座れとライアスが促しながらトーマの向かいの椅子を引いて座ったのを見て、違和感に首を傾げる。不思議そうにするトーマの視線に気づいたのか、ライアスはどうした?と声をかけられれば、なんでもないと笑い返した。

 注文は、いつも通り適当にレオルドが始める。ぼーっとレオルドに見惚れていたが、きちんと注文は聞いていたのか、ウエイストレスは満面の笑顔を浮かべると下がって行く。すぐに飲み物を持ったウエイストレスが席へと近づいてきた。


「お待たせしましたぁ」


 間延びする聞き覚えのある声に視線を向ければ、数日前に偽聖女の情報をくれたウエイトレスだった。あ、と声を漏らしたトーマに、相手は嬉しそうに笑う。


「お兄さんこの間ぶり~、アタシの事、覚えててくれたのね」

「はい、もちろん覚えてますよ。先日はサービス、有難う御座いました」

「やだ~、本当覚えてる!ちょっとキュンとしちゃったわ」

「あはは…」

「そういえば、この前の聖女の話。お兄さんたちは会えたの?」

「ああ…それが会えませんでした」

「あら、そうなの~残念ね」


 手際よくテーブルへ飲み物を並べながら器用に話しかけてくる彼女に、トーマは曖昧な笑みを浮かべ頷き返す。トーマの返答には誰も修正をしなかった。それぞれ飲み物を手にし、軽くグラスをあわせてから口に含めば、アルコール特有の苦みが広がる。助けたいなどと口にした割には、後味の悪い終わり方をしてしまった。

 あの後、夜アメリアを部屋へ送るレオルドと別れた後に、ロッテがどうなるか問うた。トーマに、知らない方が良いと言うウィルだったが、トーマには知る権利があるだろうとライアスが静かな声で教えてくれたのは、現実だった。偽の聖女を語るというのは、重罪だ。そこに本人の意図が無いとしても。処刑を言い渡されるのは間違いないと告げるライアスに、トーマは悔しそうに唇を噛む。続けてウィルから、ロッテが口添えの提案を断り、全ての罪を受け入れると口にしたことを告げられる。どうしようもない現実に、声を上げて泣き出さなかったのは意地だったのかもしれない。そっか、とだけ口にして笑ってはみたものの、きちんと笑顔が作れているかは微妙だった。ライアスも、ウィルも、トーマの顔を見てひどく悲しそうな表情を浮かべていたのだから。偽聖女の話をされれば、嫌でも昨夜のことを思い出してしまう。無意識のうちにグラス半分程まで一気に飲み干したトーマを見て、隣に居たウィルが大丈夫かと声をかけてくる。それに大丈夫と笑みを浮かべ返せば、彼は少し困ったように笑うとそうですかと頷いた。その表情にハっとしたトーマが口を開く前に、ライアスが酔う前にと切り出した。


「次の目的地の港町だが、こことは違い大規模な町になる。そして、そこを治めているのが、ナルディーニ伯爵なんだが…この伯爵は、良くない噂が絶えない」

「良くない噂…ですか?」


 首を傾げるアメリアに、ライアスは小さく苦笑を浮かべると頷いた。


「仕事ぶりは実に真面目、物腰しは柔らかく紳士で人望も厚い、んだが…奴は、反聖女派と囁かれていてな…」

「反聖女派…?」

「ああ、隠してはいるが、その中でも伯爵は反聖女の過激派に属している。そんな伯爵へ、近いうちに聖女がやってくると言う情報が入ったらしい」

「その為、聖女を歓迎するための準備をしているそうですよ。一部の港を閉鎖してまで、ね」

「閉鎖?準備に閉鎖なんか必要なの?」

「歓迎では無い準備だったら…どうだろうな」


 ライアスの言葉に、トーマは眉をひそめた。反聖女派と言う伯爵が、数日に渡り港を閉鎖してまでの歓迎準備。怪しい以外に言いようがない。反聖女と言う単語も初めて聞いたので気になるが、護衛達には馴染みがあるようで面倒なことになりそうだ等と口にしている。見通す力は最近発揮されることも無く夜を明けているので、どうなるかトーマにも予想は出来なかった。重くなる気分を紛らわすように、アルコールを煽った。



 結局、話し合った結果は目的地は変更せず、明後日の船を使って予定通り向かうことになった。滞在は最低限に留め、伯爵との接触も避ける。現在トーマの見通す力では何も見ていないのであれば、危険が迫らないのかもしれないが、用心するに越したことはないだろう。何とも重い気分を引きずりながらアメリア達と別れたトーマは、部屋へ入るとため息と共にマントを脱ぎ捨てる。次に入ってきたレオルドは、珍しい姿に驚きながら扉を後ろ手に閉めた。


「何荒れてんだ」

「荒れてない」

「嘘つけよ、お前の本性アメリアに見せてやりてーわ」


 不機嫌に睨みつけてくるトーマに、レオルドはニヤリと笑いながらどんどんと自身の身に着けているものを脱ぎ捨てていく。いつもなら突っかかってくる所なのに、今日に限っては、軽口は叩くが決してトーマを非難はしなかった。普段なら隠し通せる苛立ちを簡単に露呈してしまった事に、今更ながら後悔した。


「…ごめん」

「おう」


 あまつさえ、大人げなく年下のレオルドに八つ当たりをしてしまったのだ。トーマはベッドへ腰かけながら情けなさに俯いてしまう。どうにも、昨日から気分を切り替えられずにいるのは明白だ。しょんぼりしてしまったトーマに、レオルドは自分の頭を掻くとそのまま彼の前へ立った。自分を覆う影に気付き顔を上げたトーマは予想より参っていたようで、目の前に立つ男の形良い眉がしかめられる。


「ひでー顔」

「うっさい」

「湯でも浴びてこい」

「…そうする」


 少し頭を冷やした方が良い。湯浴みの準備を揃え、最後に備え付けのタオルを手にする。もうすでにトーマの様子など気にも留めていないレオルドは、自分のベッドへ座りこちらへ背を向けて剣の手入れを始めていた。


「トーマ」


 ぼんやりと風呂の場所を思い出しながら部屋を出て行こうとしていたトーマは、掛けられた声へ振り返る。視線の先には顔だけこちらに向けているレオルドがいる。


「あの女は、納得して受け入れたんだ」

「…知ってる」

「こっから先、何があるか分かってねーのも、お前の力不足じゃねーよ」

「…なにそれ」

「とっとと整理してこい。思い詰めてるお前なんて、調子狂う」

「…ばーか」


 そう答えた声は、震えてしまったかもしれない。泣きそうな顔で笑いながら、トーマは扉の向こうへ消えて行った。


「るせ」


 もう聞こえてはいない相手に向けてレオルドは言い返すと、剣の手入れを再開した。


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