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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
32/78

5-9


 頭が痛い。

 朝、目がさめたトーマは、強烈な喉の乾きと共に頭痛に襲われ顔を歪めた。確実に思い当たるのは昨夜の酒だろう。


「ったー…」


 額を押さえながらもぞもぞと毛布から起き上がり部屋を見渡すと、隣のベッドは使った形跡がなく綺麗なシーツが広がっている。そして、その先の壁へ背を預けるようにしてライアスが座っていた。俯いていたライアスは、トーマの気配に気付いたのか、顔を上げる。そこにはひどい隈があり、全く寝ていなそうな様子だった。


「え、どうしたの…?」


 声をかけるとピクリと肩を揺らしトーマへと視線を向けるが、目があった瞬間に逸らされてしまう。明らかにおかしいライアスの反応に、トーマは不審に思いベッドから抜けだす。だが、そんな動きにも頭痛が襲いかかってきて、頭を抱えながら膝をついてしまう。


「大丈夫か、トーマ…?」


 控えめにライアスに声をかけられ、涙目になりながらも大丈夫と見上げれば、彼はハッとした顔をして再び目を逸らされてしまった。あからさまな態度をトーマが指摘をする前に、ライアスは立ち上がると部屋の扉を開ける。


「それじゃあ辛いだろ、アメリアを呼んでくる」


 そう告げると、彼は逃げるように部屋を出ていった。ライアスが出ていった扉を見つめながら、彼がなぜこんな態度をとっているのかトーマは考えるが、残念なことに部屋に戻ってきてからの記憶が無い。部屋へ帰ってくる途中までのライアスは、レオルドと自分に呆れながらも、レオルドに肩を貸すなどいつものように振る舞っていたはずだ。であれば、彼と何かあったのはその後だろう。


(ライに避けられるとか、何やらかしたんだ…)


 まさか、女だとバレたのかと考え付くが、バレたら死ぬとミラージュに言われていたし、現状、二日酔いを起こしている程度で命に別状はないのでそれは考えにくい。全く思い当たる節がなく、悩むことに疲れたトーマはベッドへと顔を埋めた。そのまま寝入りそうな所で扉が開く音に意識を引き戻されゆるゆると頭をあげれば、入口にはアメリアとライアスの姿があった。酷く驚いてこちらを見つめているアメリアに、トーマは無理やり笑顔を作ってみせる。


「…朝早くにごめんね…」


 そう声をかければ、彼女はみるみる頬を赤くして目を逸らした。


「っ、トーマさん、あの、できれば…上着を…」

「え…?」


 そう言われて改めて下を見下ろせば、ミラージュお手製の幻覚魔法で再現された薄い胸板が目に飛び込んでくる。初めて自分が半裸状態だということに気づいたトーマは頭痛など感じさせないスピードで、シャツを引っ手繰った。



「この度は、誠に申し訳ございませんでした!」


 アメリアの治癒によってすっかり回復したトーマは、日本独特の最上級の謝罪方法・土下座を披露し、床へ額を擦り付けた。初めてみた謝罪方法に驚きながらも、アメリアは慌てて床に膝をつけるとトーマを起き上がらせようと必死だった。お互いが譲らず二人で床に頭を擦り始めた頃に、ライアスがやんわりとアメリアに部屋に戻るように促すと、彼女は戸惑いながらも部屋を出て行ってくれた。アメリアによって扉が閉められたのを確認してから、恥ずかしいやら情けないやらで頭を上げらなかったトーマもやっと体勢を崩す。


「ありがと、ライ…」


 ため息交じりにお礼をいれば、彼は苦笑を浮かべながら首を振った。


「それじゃあ、トーマも支度をしておいてくれ。俺はレオルド達の所に」

「ちょっと待った」


 いそいそと部屋を出て行こうとしたライアスを、トーマは慌てて立ち上がり腕を掴むと引き止める。トーマに触れられた瞬間にピクリと肩を揺らしたライアスは笑顔を浮かべ振り返ってみせるが、無理に取り繕ったのか笑顔が若干引きつり気味だった。


「ねぇ、どうして避けるの?」

「え?!い、いや、避けてないぞ…」

「嘘。なんで?昨日のせい?」

「っ!」


 一際大きく肩を揺らしたライアスをじっと見つめると、トーマの視線から逃げるよう目を泳がせていたが最終的に俯いてしまう。絶対に昨夜、気まずくなるようなことがあったと言っているライアスの反応に、トーマは心の中で頭を抱えた。覚えていないのならば仕方ない。腹をくくったトーマはふっと軽く息を吐いてライアスへ向かって勢い良く頭を下げた。


「ごめん!」

「え…?!」

「昨日は、本当にごめん!俺、部屋に戻ってきてからの記憶が飛んじゃってて、全く覚えてないんだ…なんかやらかしたんだよね、俺、本当ごめん…!」

「覚えて、ない…?」

「戻ってくる前までは覚えてたんだけど、そこから先が全く…起きたら朝だし、ライはベッドで寝てないし、俺半裸だし…ごめん、本当…ごめんなさい…」


 どんどんフェイドアウトするトーマの謝罪を、ライアスは珍しく微動だにせず聞いていた。暫く経ってもライアスの反応がないことにビクビクしながら伺うように顔を上げれば、彼は何かぶつぶつと呟いていた。


「そうか、覚えてないのか…」

「ラ、ライ…?」


 恐る恐る声をかければ、彼はにこりと微笑むとトーマの両肩を力強く掴む。


「ひっ?!」

「大丈夫だ!昨晩はトーマがベッドの上で戻しそうになって、それを俺がトイレまで担いで行ったぐらいしかなかったぞ!」


 胡散臭さ全開の爽やかな笑顔で力強く言い切られ、トーマはそっか…と頷くことしか出来なかった。


 朝食の席では、ライアスの隣に座ろうとしたトーマの腕をウィルが掴み遮った。そのまま引き寄せられると、一つ奥の席へと座らされ、トーマが座ろうとした席には彼が着席する。ライアスとトーマの間に入り込んだウィルの行動を不思議そうに見ていると、とても綺麗な笑顔を向けられた。


「トーマ、何かあったらすぐに私に言うんですよ」

「ん?うん??」


 よく分からないまま、ウィルの勢いに押されたトーマは言われるがまま頷くのだった。



 朝食後、昨夜のウエイトレスからの情報を元に、現在の港町より北にある町へと向かい一行は歩き出した。町までの距離は割りと近く、その日の夕方頃には遠くに明かりが見えてくる程度まで進めることができ、日が暮れて1時間程度たった頃には町まで辿り着くことが出来た。町の中は人が多く、予想以上に混雑している。人の種類は様々だったが、怪我人や体調が芳しく無さそうな者が多いのに目を引かれた。聖女の噂を聞き付けその奇跡の力にあやかろうとする者ばかりのように見え、とても治安が良いとは言えない様子だった。


「これは…宿がとれるでしょうか」


 全員が心配していた事を口にしたウィルに、まずは宿の確保から動こうと足早に町中を進む。道端には座り込む人が多く、目が合えばお恵みを、と声をかけられる。最初、アメリアが迷わず手を差し出そうとした所をレオルドが止めた。驚く彼女に、今は治癒活動をするべきではないと告げれば、泣きそうな表情で頷いたのが印象的だった。とても直視できない現状を避けるように俯きながら、トーマは足早で付いて行った。

 ライアスとレオルドがアメリアを挟むようにして進み、その後ろにウィルが続く。最後にトーマが追うようにして歩いていると、突然トーマは横から伸びてきた手に腕を掴まれたと思うと、強い力で引っ張られる。


「うわっ?!」


 路地裏から伸びてきた腕は、そのままトーマを暗がりへと引っ張り混むと、勢い良く地面へと投げ飛ばした。地面へ倒れこんだトーマはすぐに体勢を起こそうとするが、上から背中をきつく踏みつけられ再び地面へと逆戻りをする。顔だけでもと後ろへ向けると、大柄な男のシルエットが3人も飛び込んでくる。


(マジ怖ぇえ…!)


 確実な死亡フラグを感じつつ、こんな時は怯えてはいけないと、トーマは顔だけはきつく睨み付けるよな表情を作った。


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