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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
29/78

5-6

 

「今晩も泊まっていって下されば良いのに…」


 寂しそうなサラの声に、アメリアは困ったような笑顔を浮かべるも静かに首を振った。


「2日もお邪魔する訳にはいきません」


 譲るつもりのないアメリアをサラは残念そうな表情で見つめた。治癒活動後、歓迎の宴を開くと言う村長の提案を丁重に辞退して、聖女一向はサラたちの家へ戻ってきた。荷物をまとめるとすぐに発つと告げてから冒頭の会話が交わされたのだ。荷物は纏めるにはそれほど時間もかからず、家へ戻ってから十数分で再び外へと出ると村の入り口を目指して歩き出す。せめて入り口までは見送るとサラとシアンもそれに続いた。すれ違った村人達から感謝の声をかけられ、アメリアは笑顔で会釈をして対応する。中には、サラ達へ気さくに声をかけている人もいて、良い切欠を与えられて良かったと誰もが思った。

 村の入り口にはすぐに到着してしまう。アメリアは送ってくれた二人へと向き直ると、シアンの前へと膝をついた。


「手を出してください」


 アメリアの言葉に素直に従い差し出された手をアメリアは軽く握ると、たちまち周りが光に溢れすぐに収まる。目を輝かせるシアンにくすりと笑いながら頭を軽く撫でると、立ち上がり今度はサラの方へと体を向けた。彼女にも同様に手を握り祈りを捧げると、治癒を受けたサラは驚いた。


「すごい…こんなに体が軽くなるものなんですね…!」

「あまり無理をなさらないでくださいね」

「大丈夫です、シアンもいますから」


 心配そうなアメリアに、サラは笑いながら頷いてみせると、お互いに笑い合う。ほんの少しの時間しかすごしていなかったが馬があったのか親しげな二人の隣で、レオルドがシアンの頭をぐしゃりと撫でた。なんだかんだで、レオルドなりにもシアンを可愛がっていたようでトーマは心の中で笑ってしまう。


「おまえ、もう一人で村の外出んなよ」

「わかってるもん!」

「そうですよ、村の外にはレオルドのような危険な男がたくさんいますからね?」

「うん、わかった!」

「は?!なんで俺とウィルとで態度ちげーんだよ?!」


 あからさまな態度の違いに食いつくレオルドに、シアンは笑いながらトーマの腰へと抱きつくと隠れるようにしてレオルドへ舌を出す。そんな子供らしい姿を見せたシアンにその場に居た皆が笑った。名残惜しくいつまでも話していたかったが、野宿をする場所を探すためにも明るいうちに村をでた方が良い。そうライアスが切り出すと、トーマに抱きついていたシアンへサラが声をかけた。


「シアン、トーマさんに迷惑かけちゃだめよ」

「…はい」


 ぎゅっと一回抱き締めてからシアンはゆっくりと腰から離れると、ここに来てトーマも寂しさを感じてしまう。目線を合わせるよう膝をつけると、シアンはしっかりとトーマを見つめてきた。


「元気でね、シアン」

「うん」

「それじゃあ…」


立ち上がろうとしたところで、シアンに腕を引っ張られる。驚いてシアンを見ると、彼女は真剣な表情を浮かべていた。


「どうしたの?」

「また、シアンたちの村に来てくれる?」

「…そうだね。春を迎えられたら、また」

「シアンそれまで待ってる!だから、次来たときにお願いがあるの」

「お願い?」


 首を傾げながら聞くと、彼女は俯いてまう。どうしたのかと顔を覗き込もうたした次の瞬間には、シアンは顔を上げた。ほんのりと頬を赤く染めているシアンは、トーマの目をしっかりと見つめる。


「次にシアンたちの村に来た時、シアンをトーマのお嫁さんにして下さい!」

「え…」

「ちょっと、シアン!なんて事を…!」


 緊張で最早泣き出しそうなシアンをサラは慌ててトーマから引き離そうとするが、それは動く前にアメリアに止められた。驚くサラに、大丈夫ですと微笑みながら伝えると、困ったようにシアンとアメリアを交互に視線を向けるだけで、口をつぐんだ。


「トーマ…」


 何時までたっても返事がない為不安げに掛けられたシアンの声に、トーマは我に返る。いつもは曖昧に笑って誤魔化すが、真剣な彼女にそれは失礼だろう。トーマもふっと息を吐き真剣にシアンを見つめると、更にシアンの頬が赤く染まった。


「次に会った時まで、俺の事を好きでいたら」

「好きだよ!」

「シアン、君はまだ若い。きっとこれから色んな恋をする。その中でシアンを幸せにしてくれる人が現れたら、迷わずその人の手を取ること」


 泣く事を必死に堪えるシアンは、決して目を反らさずトーマを見つめてくる。こんな年で意思の強い瞳を持つ少女は、後十年もすれば見違えるほど美しく成長するだろう。今まで優しく接してきたトーマは、わざとシアンを乱暴に引き寄せると、耳元へ口を寄せた。


「それでも俺が好きなら、覚悟しとけ」


 すぐに体を離し、いつものように笑って見せる。少し悪い顔をしてしまっているかもしれないと自覚はある。驚いたシアンは呆然とトーマを見上げていたが、言われたことを理解できた頃には今まで見た中で一番の赤面を披露してくれた。


「約束だよ」


 そう声をかけてやれば、シアンは嬉しそうに頷いた。



 また遊びに来るから、と約束を交わし村を出発する頃には、すでに空が赤く染まり始めていた。見送るサラとシアンが見えなくなってから、やっと息を吐いたトーマに、ライアスが笑った。


「シアンを嫁にするのか?」

「いや、俺なんかには勿体無いよ」

「大分好かれていたのにな」

「まあそうだね。初めてのプロポーズが、まさかあんな小さい女の子に言われるとは思わなかったけど」


 冗談っぽく笑いながら言うと、ライアスもニヤリと笑う。そんな二人の会話を聞いていたウィルがくすくす笑いながらトーマへ顔を寄せた。


「最後にシアンに何と言ったんですか?」

「え…」

「幼いながら女性ですからね。シアンにあんな表情をさせるなんて、トーマも隅には置けません」

「ああ、それは俺も思った!お前、割と枯れてたからな。幼女相手だったけど、トーマの男らしい所見れたのは珍しかったな」

「枯れてたってね…」


 加わってきたレオルドの言葉に同感と言わんばかりにウィルも頷いてみせる。それを見てライアスも微妙な笑い浮かべはするも、否定はしない所から枯れていると思われていたのだろう。がっついていると思われるのも嫌だが、枯れていると言われるのも癪だった。不満そうな表情を浮かべていたのか、アメリアがくすくすと笑う。


「トーマさん、素敵でした。あんなこと言われたら、私も落ちちゃうかもです」

「っ、ちょっとアメリア?!聞こえてたの?!」

「おい、マジかアメリア!あいつなんつったんだよ?」


 悪い笑顔を浮かべながらアメリアに近づくレオルドと、トーマの言った言葉を思い出したのか頬を赤くして照れたようにテンション高く笑うアメリア。彼女にバラされたらしばらくはネタとして引きずられるのは間違いないだろう。そう判断したら即行動とトーマは勢いよくアメリアの手を握ると引っ張るように前へと歩き出した。


「ひゃう?!」

「アメリア!早くしないと日が暮れちゃうよ!行こう!!」


 ずんずんと先を歩いていくトーマと引っ張られるように続くアメリアの後ろ姿を見て、つまらなさそうにレオルドは唇を尖らせ、ウィルが楽しそうに笑い、ライアスが苦笑を浮かべる。


「意外と行動派な面もあるようですね」

「良いのか、レオルド。トーマが本気出したら、アメリア奪い取られるかもしれないぞ」

「な、ダメに決まってんだろ!!待て、トーマ!」


 前を行く二人に向かって駆け出すレオルドの背中を見送りながらライアスが笑うのを横目で見て、こいつも意外に腹黒いとウィルはさらに楽しそうに笑った。


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