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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
28/78

5-5


「俺とウィルは入り口の警備へ当たるから、二人はアメリアの護衛に回ってくれ」


 ライアスに指示を出されたトーマとレオルドは、それぞれ頷くと椅子へと座るアメリアの両後ろへと立った。ライアスとウィルも教会の入り口の扉の両隣へ立つと、成り行きを見守っていたサラは不安げにアメリアへと視線を向ける。それに気づいたアメリアは大丈夫です、と笑ってみせた。


「お二人は、申し訳ないのですが、トーマさんとレオルドさんのお隣へお願いしても良いですか?」


 所在無さげなサラとシアンへさりげなく下がるように伝えると、シアンは走るようにしてトーマの腰へと抱き付いた。緊張してるの?とシアンを撫でるトーマの姿を確認してから、サラもレオルドの斜め後ろ当たりへと下がる。それを見計らったように、教会の入り口が開くと眩しい光と共に神父の姿が現れた。


「よろしいでしょうか?」


 入り口のライアスとウィルへ確認を取り、神父は村人を教会内へと招き入れた。村人達は皆列を作り入ってくると、静かだった教会内も次第に騒がしくなっていく。皆が口々に聖女様だと囁く中、村人の先頭に立っていた老人が、アメリアの前まで来ると深く頭を下げた。


「この度は、わが村にお越しくださり大変感謝しております。ありがとうございます。」


 この村の村長だと告げる老人に、アメリアは座っていた椅子から立ち上がると同じように頭を下げた。彼女の行動ひとつひとつにどよめきが走り、トーマの後ろへ隠れるように抱きついていたシアンは思わずぴくりと肩を揺らす。正直同じぐらい驚いているトーマだったが、シアンに頼られている手前慣れていますと言う表情を作ると、腰に回されているシアンの腕を優しく撫でてやった。

 軽い挨拶を交わした後にアメリアは再び椅子へ座ると、本格的に治癒活動が始まった。最初は村長からであり、彼女は村長の手を両手でそっと握ると目を閉じ祈りを捧げる。光に包まれる見慣れた光景だが、やはり神聖なものは変わりない。まして教会と言う場所で行えば、それは尚の事だった。ゆっくりと光が収まれば、アメリアは村長の手を離し微笑みかける。


「随分とご無理をなさっているみたいですね。足の具合はいかがでしょうか?」


 そう問われ、村長は驚きながら立ち上がると、更に驚いたような表情を浮かべた。


「おお、痛くない!流石は聖女様だ…本当に、ありがとうございます」


 深く頭を下げて感謝をする村長にアメリアはいいえと首を振って見せる。二人のやり取りを後ろから見ていた村人達からアメリアを称える声が大きくなり、先ほどよりも教会内は騒がしくなった。そんな中、次の人へ順番を回そうと村長が動こうとしたのを、慌ててアメリアが小声でとめる。


「すみません、この後皆さんへお話したいことがあります。よろしければ残っていただけますか?」

「おお、聖女様の願いであれば断ることができましょうか。皆にも伝えておきましょう」

「ご協力に感謝します」


 微笑みながら村長へ頭を下げたアメリアは、後ろに控えているサラの方へと目をやった。約束を取り付けましたといわんばかりのアメリアと二人のやり取りを見守っていたサラとが目が合えば、二人はほっとしたように微笑み合った。


 その後、次々とアメリアの前へと村人が座り彼女は誰にも平等に丁寧に祈りを捧げ、気さくに声をかけていく。老人、若者、子供、中には妊娠しているのに気づいていない女性等もいた。その女性へ、もう一人にも元気に産まれてくるようにと祈りを捧げましたと声をかければ、彼女はとても驚いた後にその場で感謝しながら泣き出した。初めて見る治癒活動に、トーマは心が温かくなるのを感じる。自然と緩んでしまう顔でアメリアの様子を見ていると、後ろに隠れるようにしていたシアンもいつの間にかトーマの隣へ立っていた。


「アメリア、すごいね」


 目を輝かせて見上げてくるシアンに、トーマも頷き返す。


「そうだね」


 自分の聖女を褒められれば、誰だって嬉しい。最初こそ不安だったが、聖女らしい彼女の対応になんだか誇らしい気持ちになった。



 最後の一人の治癒が終わった所で、アメリアは息を吐く。治癒をできるのは彼女だけなので誰も経験はないが、相当精神力は必要なのだろう。疲れた顔をしているアメリアにレオルドが心配そうに声をかけるが、彼女は大丈夫ですと微笑み返すと椅子から立ち上がり教会内を見回した。村長が約束してくれた通り、教会内には村人全員が残っており、雑談を交わしているようだ。立ち上がったアメリアに気づいた村長は、村人達の前に出るとアメリアへと頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」

「いいえ、頭を上げてください」


 二人の会話に気づいた村人が徐々に雑談をやめると、口々に礼を述べ始める。それを微笑みながら受け止めると、アメリアは教会内を再び見回した。


「皆さんに、お願いがあります」


 声を張り、主張するアメリアを見るのはこれが初めてだ。これには、村人よりも一緒に旅をしているメンバーの方が驚き彼女を見つめる中、静まり返った教会内でアメリアは臆せず続ける。


「私が必ず冬を終え、春を迎えます。申し訳ないのですが、それまで待っていて貰えないでしょうか」


 聖女の投げかけに一人がいつまでもお待ちしますと答えると、それは感染し皆が同じように返し始める。その答えに、再び微笑んで頭を下げた。


「ありがとうございます。重ねてのお願いで申し訳ないのですが、私は、みなさんに幸せになってもらいたい。余所者である私が本来は口を挟むべきことではありませんが、どうか、皆さんで協力をして頂きたいのです」


 ここからが本題だ。不思議そうに見上げる村人に、アメリアは真剣な表情で語りかける。その様子を、トーマとレオルドは心配そうに、ライアスは無表情で、ウィルは微笑を浮かべながら見つめた。


「私たちは、この村の少女と村から大分離れた森で出会いました。彼女はたった一人で魔物に教われていてのです。家族は姉しか居らず、姉を楽にするために魔石を掘りへ行き、そこで魔物と出会ってしまった。今回は私達が近くを通りかかった為に救えましたが、次があるとは限りません。なぜこのような結果になってしまったかについて、言及するつもりはありません」


 今までアメリアを見上げていた村人達は、視線を逸らしたり俯いたりしていく。中には、アメリアの後ろに居るサラとシアンへと視線を向けている者も居たが、その全てに敵意は感じられなかった。


「私が申し上げたいのは、今までではなく、これから先の未来のお話です。協力と言うのは、お互いによく話し合い、助け合っていく必要があると思います」


 そこまで言うと、アメリアはサラへ顔を向けた。全員の視線がサラへと集まる。彼女は一瞬怯むように体を強張らせるも、すぐに両手を握り締めると一歩前へと出た。


「今日まで生活出来ているのは、皆さんのお陰です。とても感謝しています。可能であれば、これからも村の一員としてここに置いていただけないでしょうか」


 そう言って頭を下げるサラの姿に、シアンは思わずトーマの手を強く握ってきた。シアンへと顔を向ければ、不安げな顔をこちらを見上げてきている。


「大丈夫」


 ぎゅっと手を強く握り返すトーマの返答にシアンは頷き前へ顔を戻すと、二人の様子を見守っていたアメリアと目が合った。シアンはトーマの手もう一度ぎゅっと握ると離し一歩前へと踏み出した。


「我が儘を言ってしまって、ごめんなさい。シアンたちを助けてくれて、ありがとうございます」


 言い終わると頭を下げるシアンに、村人からすすり泣く声が聞こえる。しっかりと言い切ることができたシアンに、一安心をしたトーマだったが、村人の返答を聞くまでは力を抜くことはできない。少し緩んでしまった表情を戻し村人へと視線を向けると、ちょうど村長が頭を下げた瞬間だった。


「謝るのは私たちの方だ、すまなかった…村の一員であるにも関わらず、お前達を避けるような態度を知っていて、正さなかったのは私の責任だ。本当に、すまなかった」


 頭を下げ謝罪をする村長に、サラとシアンは驚いていたが、アメリアにそっと肩を叩かれたサラは我に返り、有難う御座いますと頭を下げる。それを切欠にして、村長のとなりに居た女性がシアンへと駆け寄ってくるとそのまま抱きしめ、ごめんなさいと謝ってきた。驚いていたシアンだったが、すぐに顔をゆがませると今まで我慢していた涙を零し始め、その女性へ縋るようにして抱きつく。サラの方へも、サラと同い年ぐらいの青年が駆け寄ってきており、彼女の両手を握り締めているのが見える。他の村人からも、謝罪の言葉や協力をしていこうと言う言葉が生まれ始めた教会内に、トーマはなんとか丸く収まったとほっと息を吐く。周りを見渡せば、アメリアは嬉しそうに微笑んでいたし、レオルドは貰い泣きしているし、ウィルとライアスも微笑んでいる。嬉しそうなみんなの姿に、トーマも嬉しくなって顔を緩ませた。


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