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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
25/78

5-2


「お待たせしました」


 焼きたてのパンをサラがテーブルへと乗せれば、これですべて揃った夕食に椅子に座っていたシアンは嬉しそうに浮いた足をパタパタさせる。


「わーい!ご飯!とっても豪華!」

「こんなものしか出せなくて申し訳ありませんが、召し上がってください」

「いえ、寝る場所まで貸して頂いたのにここまでしてくださって、有難うございます」


 にこりと微笑むウィルに、サラはほんのりと頬を赤く染めながら首を振った。久しぶりの温かい料理だと言うことを差し引いても、サラの料理はとても美味しかった。シアンの言っていた通り腕前はたいしたもので、トーマが今まで食べてきた料理の中でも一番と言っても過言ではない。


「すごく美味しいです、これどうやって作るんですか?」

「まずお肉に火を通す前に一工夫が必要なんです」


 いつの間にか料理トークで盛り上がり始めるサラとトーマに、シアンが頬を膨らませる。どちらも好きなだけに、自分だけが仲間はずれのようで寂しいのだろう。


「シアン、お前の姉ちゃんトーマに盗られんぞ」


 人の悪い笑みを浮かべながら肉に齧り付くレオルドが茶化すと、今にも泣きそうな表情でシアンがレオルドを睨み付けた。


「レオルド嫌い!」

「あぁ?!」

「良いですよ、シアン。もっと言っておやりなさい」


 くすくすと笑いながらシアンを煽るウィルに、アメリアがあわあわしライアスが苦笑をもらす。久しぶりのテーブルを囲んだ暖かい食事は、トーマ達にとっても、サラ達にとってもとても楽しいものになった。


 食後、騒ぎ疲れたのかシアンがリビングのソファーの上で眠ってしまうと、サラが寝室へ連れて行こうとしたが、珍しくライアスが止めた。みんなが傍にいるから安心して寝ていられる、一人だけ寝室へ連れて行くのは可哀想だからもう少しここで寝かせてやって欲しいと告げる彼にサラは驚いたが、直ぐに頷くと隣の部屋から毛布を持ってきてシアンへとかけてやった。幸せそうな顔をして眠っているシアンの頭を撫でやってから、サラは全員分の紅茶を用意してくれた。


「あの…宜しければ、あの子の話を伺っても宜しいですか?」


控えめの声とは裏腹に、しっかりとした目で尋ねてきたサラ。彼女の質問に、ライアスが今までの経緯を簡単に説明してやった。大型魔物との戦闘に迷い込み、体を張って助けたトーマに懐き洞窟の道案内をしてくれたこと。道案内はとても優秀で、助けられたこと。姉のためにと思い魔石を掘りに着たこと。最後に、トーマから反省はしているので、あまり怒らないであげて欲しいと告げれば、サラは目を潤ませながら有難う御座いますと頭を下げた。



「この子が、私以外に懐くのが初めてで…とても人見知りで、怖がりな子なんです」

「そうなんですか…?」


 確かに最初トーマとアメリア以外には懐かなかったが、次第に心を開いてくれた姿を見ているととてもそうとは思えず、トーマは驚いた。その様子に、サラは苦笑を浮かべながらお恥ずかしい話なのですが…と続ける。


「私達は、幼い頃に両親を事故で亡くしています。そのせいか幼い頃から私にべったりになってしまって…大人には怯えてしまうし、村の子供とさえ話さなかったんです」

「そんな…」


 活発なシアンの姿しか知らなかったのでショックを受けたのか、口を押さえたアメリアは悲しそうに顔歪ませた。


「それを分かっていながらも、私は生きるために女でも出来るような仕事を譲って貰いひたすら働きました。その結果、あの子との時間はどんどん減っていきました。次第に、私と引き離す仕事をくれる村の皆さんを憎むようになってしまって…」

「…だから、すれ違い様があんな態度だったのか」


 納得したように呟くライアスに、サラは苦笑を浮かべて頷いた。


「最初は皆さん寂しいのだろうって仰って下さいましたが…次第に、愛想を尽かされてしまって…仕方ないんです。私が、もっと上手く立ち回れたなら…」


 ごめんなさい、こんな話をしてしまって、とサラは笑う。無理に笑った顔は見ていられないほど痛々しくて、トーマは自然と目を伏せてしまった。


「お話ししましょう」


 自然と沈黙が生まれた室内で、ただ1人、アメリアだけが声をあげる。驚いて顔をあげれば、彼女は真剣な表情でサラを見つめていた。


「お話しなければ、伝わりません。サラさんがこんなに頑張っていること、シアンさんが本当は人懐っこくて、頑張り屋さんなこと。お話ししましょう」

「アメリアさん…」

「何もせずに、このまま終わってしまうのは嫌です。私は、幸せになって貰いたい。そのための治癒活動でもあると思うんです」

「貴女たちは…一体…」

「私も、明日教会でお話しします」


 慈悲深い笑みを浮かべたアメリアは、正に聖女そのものだった。



 その後、客間へと引き上げたトーマ達はすぐに寝る支度へと取り掛かる。着ていたものをその辺に投げ捨て、すぐにベッドへ横になったレオルドを、ウィルが叱りつけると半裸状態で上着を畳みだしたりしていた所で、ライアスが立ち上がった。


「念のために、教会へ声をかけてくる」

「んなもん良いだろ、聖女が治癒活動にきたってんのに明け渡さない教会あるか?」

「だが、突然邪魔するのも聖女の品格を疑われるだろう」

「…そうですね。突然伺うよりは、印象は良いでしょう」


 めんどくせーと声に出して嫌がるレオルドに、ライアスはお前が行くわけじゃないだろと溜息交じりに呟く。事の成り行きを見守っていたトーマはチラリと時計へ目をやると、そろそろ深夜と呼んでもいい時間帯に差し掛かっている。


「もう遅いし、明日の朝一で教会の人に聞いてみようよ」

「…そうだな、そうするか」


 しばらく考えた後にライアスは頷くとソファーへと戻った。話がまとまったのを見届けてから、トーマもマントとジャケットを脱ぐとベッドへと潜り込んだ。久しぶりのふかふかな感触を体全身で味わうと、溜息がもれてしまう。同じベッドへと上がったウィルが、そんなトーマを見てくすくすと笑った。


「幸せそうですね」

「うん。幸せ」


 枕へ顔を埋めながら答えるトーマを横目に、ウィルも髪を結わいていたリボンを外すとサイドテーブルへ置き、そのまま体を横たえる。その拍子にトーマの頭へ髪がかかり、彼は顔を上げた。


「わぁ、ウィルって髪綺麗だね~」

「そうですか?」

「うん。銀髪って俺初めて見たんだけど、本当綺麗…」


 肘を立てて上体を起こしたトーマは、目の前に広がるウィルの髪の毛へ指を差し込む。さらさらとすべり落ちる髪に枝毛などなくシャンプーのCMに出れそうなほどの指通りに感動さえ覚えた。なんとなく石鹸の香りまで漂ってくるような気がする。


「有難う御座います。私の解いた髪をすくなんて、一夜を共にした女性でもいませんよ?」

「やだー、俺ってばウィルの初めての人?」

「ええ、そうなりますね」


 普段とは違う、男の色気を交えながら青い目を細めるウィルにドキリとしてしまう。これだけの至近距離でその顔は反則だろう…乙女ゲーのスチルか、と思わず心の中でトーマは突っ込んだ。そんな心中を知ってか知らずか、ベッドへ再びダイブしたレオルドが鼻で笑った。


「つーか、お前女と一緒に寝ねーだろ」

「そう言えば、ウィルの朝帰りは見たことがないな」

「え、どういうこと?」

「女性の部屋にいつまでもいると迷惑になるでしょう」

「ヤることヤって、さっさと帰るとも言うな」

「慎みなさい」

「自分の部屋にも女連れ込まねーよな」

「レオルドのような、所構わずな人に言われたくないですね」

「所構わず?!」

「トーマ、食いつきすぎだろう」


 ガバリと体を起き上がらせてレオルドを見るトーマに、ライアスが思い切り噴出した。勝ち誇ったような笑顔を浮かべるウィルと、不機嫌そうな表情をするレオルドに、詳細を聞かないなどできる訳が無い。その後、ライアスが明かりを消すまでの間に聞いたレオルドの武勇伝を、トーマは忘れないと誓った。


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