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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
23/78

4-8


 軽い仮眠を取ってから、トーマとレオルドは再び出口を目指して歩き出した。途中スライムのようなゼリー状の魔物とよく遭遇をしたが、怪我をしているレオルドを庇うように前に出たトーマの魔法により一撃で倒されていく。強いやつに懐くのか、倒す回数が増えるごとにレオルドのテンションも上がっていた。数時間前は熱でうなされていたというのに、トーマの薬が効いたのかケロっとしているのだから、彼の体力には恐れ入る。


「レオルド、あれ見て!」


 トーマが声を弾ませながら、レオルドの右腕を引っ張る。少し前の二人だったら触れることすらしなかったのだが、今では全く気にする様子もない。トーマが指差す先へレオルドは視線を向けると、その先には陽の光が見えた。


「出口か!」

「やったね、あと少しだよ!」


 お互い顔を見合わせると、レオルドが右手をあげて見せた。すぐに何をしたいのか分かったトーマは左手を上げると、どちらとも言わずにハイタッチをした。

 この洞窟での別行動で、二人の距離が縮まったのは明らかだった。先日の見張りの交代の時に、意地を張っていたことを詫びやっとスタートラインへ立ったので、他のメンバーと同じ距離まで縮めるのには時間がかかるとお互いが思っていたが、ある意味今回の別行動は良い結果になったかもしれない。仮眠の時の出来事も良い思い出…に、なると良い。

 自然と早まる歩調で進めば、出口まではすぐに辿り着いた。トーマは久しぶりに感じる太陽の光に目を細めてから、肺いっぱいへ空気を送り込み大きく伸びをする。固まっていた肩やら首やら腰やら、体全身がポキポキと骨の鳴る音がした。隣のレオルドへ目をやると、彼も同じように深呼吸をしているようだ。無事に洞窟を抜けることができたが、ライアスたちとはどうやって合流すればいいのか、そんな疑問が生まれた時だった。


「トーマぁあ」


 数時間ぶりに聞く泣き声と共に、腰へ衝撃が走る。一歩前へ足を踏み出し、後ろから衝撃に耐えてから振り返ると、自分の腰に抱きついているシアンの姿。そのすぐ後ろには、洞窟の出口付近のライアスたちが立っているのを見つけると、トーマはライアスたちへと笑いかけてからシアンの頭を撫でてやる。


「ごめんなさい、ごめんなさいトーマ…!」


 泣きじゃくりながら見上げてきたシアンに、トーマは首を傾げる。謝罪する必要など無いのに、なぜこんなにも必死に謝ってくるのかが分からなくて、トーマは一回シアンを腰から離すと視線を合わせるように片膝をつけてしゃがみこんだ。


「どうしたの、シアン」

「シアンが、近道、案内したから…!トーマも、レオルドも、落ちちゃった…!」


 しゃっくりをあげながらの言葉に隣にいたレオルドが思わず吹き出すと、シアンはその笑い声にビクリと肩を揺らし、怯えたようにレオルドを見上げる。


「ったく、保護者そっくりだな、コイツ。落ちたのはお前のせいじゃねぇよ」


 ぐしゃりとシアンの髪の毛を乱すように撫でてやれば、とても驚いた表情を浮かべ泣き止んだ。落ちたときに全く同じ台詞を言った覚えがあるトーマも、あははと照れ笑いを浮かべてからシアンの乱れてしまった髪の毛を直すようすいてやると頷いてみせる。


「シアンのせいじゃないよ。だから、もう泣かないで?」


 戸惑った顔をしていたシアンの目元を優しく指で拭ってやれば、彼女は頬を赤く染めて笑ってからトーマに抱きついた。



 数時間ぶりの再会にお互いの無事を確かめると、村を目指しすぐに出発することになった。だが、その間にレオルドが怪我の事を言い出さないので、トーマは慌てて静止の声をかける。


「どうした?」

「レオルドが怪我」

「うおおお、トーマ!!!」


 トーマが言い切るよりも早く、レオルドが後ろからトーマの口を塞ぎようにして抱き込む。もごもごとするトーマだったが、そんな事を気にする事もなく、レオルドは引きつった笑いをライアスへ向けた。


「何でもねぇて!!」

「…俺には、怪我と聞こえたが?」


 納得いかないと言った表情でじっと見つめてくるライアスに、レオルドは冷や汗をかきながらも首を振る。落ちたときに大丈夫だと言った手前今更怪我をしているとは言いづらいのか、必死になって怪我を隠そうとするレオルドと、疑っているライアスの間に挟まれていたトーマは、レオルドの左腕を思い切り叩いてやった。


「っい?!」


 不意打ちを食らい思わず悲鳴を上げたレオルドからトーマは抜け出す。そんなトーマを涙目になりながらも睨み付けてくるレオルドは相当の迫力だが、それに怯むことなく腰に両手をあてるとレオルドを見上げた。


「あれは応急処置だって言ったでしょ!熱も出したんだから、早くアメリアに治してもらいなさい」

「うっせーな、もう元気だろ?!」

「なに意地張ってんの、また苦い薬飲みたいの?」

「う…っ」

「レオルド?」

「わあったよ!」


 不満げだが頷いたレオルドは、今まで心配そうにやり取りを見つめていたアメリアへと視線を向ける。すぐにその意図を感じ取った彼女は頷くと、レオルドの元へと駆け寄って祈りを捧げた。


「レオルド、痛い?」


 アメリアの近くにいたシアンが不安げにレオルドを見上げてきたので、レオルドは痛くねぇよとニヤリと笑いながら髪をぐしゃりと掻き乱してやった。


「トーマ…」


 大人しく治癒を受けるレオルドと心配しているシアンのやり取りを微笑ましく眺めていたトーマへ、ライアスが声をかける。顔を向けると、なんとも不思議そうな表情を浮かべているライアスと、くすくすと笑っているウィルがいた。


「その…なんだ。レオルドが迷惑をかけて、すまなかった」

「大方、落下した時に怪我をしていたのを黙っていたのでしょう?」


 まるで今までの行動を全て見ていたかのような二人の言葉に、トーマは内心驚きながらも曖昧な笑顔を浮かべて見せる。


「レオルドに助けてもらったのは、むしろ俺の方だよ。心配かけちゃってごめんね」

「いや、お前達が無事で良かった」

「そうですよ、無事ならば問題ありません。それよりも、二人きりの間にレオルドに変なことをされませんでした?」

「…え…」

「どうも、懐いた相手にはスキンシップ過剰なのです…って、トーマ?」


 変な事と言われ、すぐに仮眠の時の出来事が思い浮かぶ。あの時は何も感じなかったが、今思い返せばあれは友達同士でするような行為なのか…一気に恥ずかしくなったトーマは、耳まで赤くすると俯いてしまった。誰が見ても何かあったと言っているトーマの反応に、ウィルは顔を引きつらせると、腰に挿している剣を引き抜いた。


「レオルド!覚悟なさい!!」

「何すんだウィル?!」

「恥を知りなさい!」


 急に打ち合いを始めた二人に巻き込まれないよう、ライアスがさり気無くアメリアとシアンを非難させる。止めるつもりは無いライアスに、トーマは慌ててレオルドとウィルの元へと駆け寄った。


「ちょっと、待ってウィル!そこまで変なことされてないよ!」

「おい、トーマ!お前余計なこと言うな!」

「そこそこ変なことをされた自覚があるようですよ、レオルド」

「やめろ!男に手出すかよ馬鹿!大体、トーマが変な声出すから」

「ぎゃー!やめてレオルド、言わないで!!」


 更に赤くなって必死に止めようとするトーマの反応が、煽っている事を本人は知らないのだろう。


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