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解除者のお仕事  作者: たろ
解除者のお仕事
22/78

4-7

割と直接的なホモ(?)しかないです。読み飛ばしてもなんとなく話繋がります。

 

 ライアスの言った通り、落ちた先は一本道だったので迷うことなく歩き進めることは出来たが、レオルドの体力も考えて軽く仮眠をとることにした。最初は反対していたレオルドだったが、珍しく頑なにトーマが譲らない上に何かと理由をつけてくるので、結局レオルドが折れたのだ。少し窪みが出来ているところへ防御壁を張ってから腰を下ろすと、あまり広くはない為に肩を寄せ合うような形になった。隣を盗み見ると肩で息をしているレオルドは、とても辛そうだった。


「大丈夫?熱出てきた?」


 顔を覗き混むようにすると、熱っぽい瞳と目が合う。彼の容態は確実に悪化してきているのが分かる。そっと額に滲む汗を拭ってやると、気持ち良さそうに目を閉じた。


「冷てぇ…」

「熱冷ましの薬草持ってたかな…ちょっと待ってて」


 額から手を離し鞄を漁ろうとしたトーマだったが、レオルドに腕を掴まれると強く引かれた。体調が悪いはずだが強い力に驚いたトーマはそのままレオルドの腕の中へと収まると、ぎゅっと背中に腕を回され抱き寄せられる。熱い体と早い鼓動が伝わってきて、一瞬このまま流されてしまいそうになったが、薬を煎じる事を思い出すと慌てて胸を軽く押すもびくともしない。


「レオルド…!」

「黙ってろ」

「薬、作るから」

「トーマ」


 強く名前を呼ばれ思わず口を閉ざすと、レオルドがトーマの肩口に顔を埋めてきた。甘えるような行動に驚いたが、熱を出しているときは不安になるものだろうと思い直し、金色の髪の毛を優しくすいてやる。見た目よりもサラサラとしている髪はとても質が良い。普段全く手入れなどしていないし、野宿が多いこの生活なのに羨ましい限りである。そんなことを考えながらしばらく大人しいレオルドの髪の毛で遊んでいると、突然レオルドが動く。


「なんか」

「ん?」

「いい匂いするな…お前」

「…は?」


 すんすんと首元の匂いを嗅ぎ始めるレオルドにドン引きしてしまったが、固まっていてはいけない気がしてレオルドの胸を押し返した。だが先程同様動かない。めげずに押し続けると、急に声を殺すようにしてレオルドが笑いだしたので、不満げに顔をあげれば見張りを交代するときに目が離せなかったあの瞳が目の前にあった。


「抵抗されると燃えるって、本当だったんだな」


 あの時は何もなかった紫の瞳だったが、今目の前にある瞳には確実に熱が籠っていた。逸らせない視線に思わず息が止まる。そんなトーマを知ってか、目元を優しげに緩ませると近い距離を更に縮ませるよう顔を寄せてきた。静止の言葉をかけることも忘れ思わず目を瞑ると、突然肩口に強い衝撃と共に体重をかけられる。


「っ?!」


 かけられた体重を支えきれず後ろへと倒れていく体は、防御壁へと背を打ち付け完全に横になる前に止まった。驚いて目を開けると、目の前に力なく自分の上へと覆い被さっているレオルドの姿を見つけ、トーマは止めていた息をため息として吐き出した。


「レオルド」


 声をかけてもピクリともしない彼は服越しでも体が熱い。先程よりも熱が上がり、ダウンしたのだろう。必死の思いで全く動かなくなったレオルドの下から抜け出し、彼を二人分の窪みへ横にさせると、少し前方へ防御壁を展開させる。トーマは通路に少し体を出すような形で場所を確保すると、自分の鞄を開けた。




「レオルド、薬飲める?」


 偶然にも素材があったので手早く解熱剤を調合したトーマは、ぐったりしているレオルドへ声をかけた。だが、彼は荒く呼吸を繰り返すのみで声も届いていないようだった。額の汗を拭ってやりながら顔を覗き込むと、眠っているのか苦しげに寄せられた眉間には皺が寄っていた。


「レオルド」


 ダメ元でもう一回声をかけるが、反応がない。ただの屍のようではないが、屍のように眠って動かない。無理に起こすのもかわいそうだが、このまま放っておいてもますます悪化していくだけだろう。しばらく腕を組み考えたトーマは、無理にでもレオルドを起こす選択をした。自分よりも体格が良い相手で、しかも意識がない状態だと骨が折れるだろうと思い、頬をパンと叩いて気合いを入れると、トーマはレオルドの状態を起こすところから取りかかった。背中へ腕をいれて持ち上げると、以外と簡単に起き上がる。驚いてレオルドを見上げれば、彼は虚ろな瞳でこちらを見ていた。


「あ、レオルド!大丈夫?水飲む?」

「…おう」


 掠れた声で返事をしてきたのにほっとしながら、薬を飲むように出していたカップを渡すが、なかなか力が入らずに取り落としそうだったのでトーマはそのまま口元へとカップを近付ける。


「わりぃ…」


 素直に謝るレオルドに内心驚きつつもカップを傾けるが、飲みきれずに端から水がこぼれ落ちた。トーマは口元からカップを離すと、濡れてしまった襟元を拭いてやった。


「ううん。それよりも、薬飲めそ?」

「お前が口移しするならな」

「冗談言えるなら大丈夫だね」


 小さく笑いながら薬が乗っている紙を手に取るとレオルドへと差し出す。熱で浮かされているというのに、いつも通りもの凄く嫌そうな顔してくる。


「そんなあんのかよ…」

「錠剤にするほどの技術はありません。ゆっくりでも良いから飲んで」


 おとなしく薬を受け取るとレオルドは少量を口に含んだので、トーマは持っていたカップを口元へ寄せる。すると、彼は先ほどとは比べ物にならないぐらいの元気さで水を飲んだ。しばらくもごもごさせていたが、喉を鳴らせて飲み込む。


「苦っ!」

「良薬口に苦しです。頑張って!」


 笑顔で応援すると殺意をこめられた視線を向けられたが、そこはあえてスルーをすると続きを促す。一瞬ためらった後に、レオルドは息を止めると残りの粉を一気に口へと放り込む。ぼふっと口から粉が舞わせながら必死な視線を向けられて、トーマは手にしていたカップをレオルドの口元へとあててやると、カップを両手で奪われ一気に流し込んでいく。その後、飲み終わったレオルドからカップを受け取ると、彼は口から零れた薬を親指で拭っていた。案外元気そうな姿に思わず笑ってしまったトーマを見て、レオルドの眉がピクリと動く。しばらくはカップを洗っていたトーマを眺めていたが、何か思いついたのかレオルドはニヤリと笑うと名前を呼ぶ。


「トーマ」

「なに、っんぐ」


 名前を呼ばれたトーマが顔を上げると、レオルドに今しがた薬を拭ったばかりの指を口の中へと突っ込まれた。舌を親指で撫で付けられて、背筋に鳥肌がたつ。慌てて逃げようとしたがしっかりと顎をホールドされてしまっており、レオルドの好きなように口の中を指で撫で付けられる。


「っふ」


 いやいやと目を瞑り頭を振るトーマの頭を、空いていたもう片方の手で押さえつけると歯列を指でなで上げる。すると、トーマは瞑っていた目を大きく開いた。目尻にはうっすら涙がたまっている。


「や、んっ」


 時折苦しそうに漏れる息と、逃げ回る舌を追い回す。そんなトーマの表情と口内をしっかりと堪能したレオルドは、満足そうに口から指を引き抜いた。


「んっ、ぁあああにっがぁああ!!」


 色っぽかったのは最初だけで、すぐに口を押さえ絶叫するトーマ。即座に手に持っていたカップへ魔法で水を注ぐと、一気に飲み始める。そこまでを見届けてから、レオルドはいつものように人の悪そうな顔をして笑った。


「ざまぁ」

「何すんのさ、レオルド?!」

「今度はもっと苦くないの作れよ」

「はぁ?!」

「ありがとな」

「…うん」


 それだけ言うと、レオルドはさっさとこちらに背を向け横になる。そんな態度に色々言いたいことはあったが、病人を責め立てるわけにもいかないので言葉を飲み込むと、背を向けトーマは広げていた荷物を片付け始める。チラリと肩越しにその姿を確認して、レオルドは気づかれないように息を吐いた。


(あぶねぇ…)


 いくら熱に浮かされていて正常な判断ができないからって、無意識に口に指を突っ込むなんて行動をした自分が信じられなかった。まして、涙目で嫌がるトーマに興奮したなんて。


(熱のせいだろ…!)


 自分へそう言い聞かせるようにして、強く目を瞑る。目が覚めたら、覚えていないことにしようと、そう心に決めた。


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