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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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禍根の魔塔

 ズミーレをリーダーとするイザ達は、外壁に居るドルケス配下のイゼルと交信すると、彼女達が陣取る方角に向けて街門を辿って移動した。

 情報を統合した結果、街を覆う魔法陣には中核地点が点在しており、ズミーレのメイジダガーで感知した中でも、特に大きな魔力を放つ場所が外壁部、街中、上空の魔法陣にそれぞれ五箇所づつある事が判明している。

その内の一箇所がイゼル達の近くにあり、街中の中核地点も近かった為、内外で協力して中核地点、ひいては魔法陣の攻略を目指す事になった。


「なんで真っ直ぐ城に向かわないんですか?」


 イザの問いに、


「ドルケス様は出口が無いと仰っただろう? 特定の条件を満たさないと中から出られないのが迷宮の特徴ならば、侵入にもそれが言えるんだ。だから攻略のヒントが無いか中核地点を調べる価値がある。それに城の周囲は今やアサルト・ローチの群れで隙間が無くなっている筈だ。私達は武装しているが、純粋な武闘派組織では無いからね、魔法陣を攻略する方が得意なんだよ」


 確かにイザの感知魔法でも異常な数のアサルト・ローチの群れを感じる。そしてその群れが満遍なくシュビエの街中に配置され、段々行き場が限られてくるプレッシャーも受けていた。


 スイはイザの感知魔法をサポートしながらも、大量のアサルト・ローチ達と対峙した時のシミュレーションを用意しては自らダメ出し作業を繰り返している。そのイメージトレーニングの片鱗を認識するイザは、群れをなすアサルト・ローチ達との戦闘場面に身震いを禁じ得なかった。


 これが黒子峡谷と同一種のアサルト・ローチならば、特殊な鳴き声や触覚による探知によって一匹がやられた時に他が殺到して来る可能性が高い。

 数が疎らだった初期段階ならばいざ知らず、現段階においては触らぬ神に祟りなし、アサルト・ローチ達との接触を避けて、なるべく早く目的地に到達する必要があった。そう考えると、警戒しながらも目指す中核地点に向かう足は自然と速度が上げる。


 迷宮化により新しく作り出された背丈を超える袋小路に、何度も行く手を遮られながらも、瓦礫を乗り越えて急角度の通路を曲がった時、唐突にそれは現れた。


魔法陣に照らされた真っ赤な世界に屹立する闇の塊の様な溶岩石の塔。頂からは強い赤光を発して、迷宮都市という異形の地にあっても馴染まないほどの圧倒的な存在感を誇っている。


 人間の苦悶する表情の様な模様で埋め尽くされた黒い岩肌。その先端からは頭上の魔法陣との魔力循環が発生しており、あまりの魔力濃度に鍛えられた遺跡ハンターたる〝ゴールドサージ〟の面々も、ある者は嗚咽し、ある者は頭を抱えこんで距離を取った。


禍恨かこんの魔塔……」


 それまで存在感を消していた女教授のヴェルが呟く。


「あんた何か知ってるのかい?」


 その言葉に反応した副リーダーのバラシが大声を出すと、サッとファストフの陰に隠れながらも頷いた。


「沢山の魂を集めて造られた闇魔法の塔、その力は一つ有れば上級悪魔を召喚できる言われています。ですが、こんな巨大な代物は見聞した事が無いですね〜。ククッ、実に興味深い」


 塔を見上げるヴェルの薄気味悪い笑みに、嫌な物でも見る様な視線を送ったバラシは、禍根の魔塔と呼ばれる物に視線をずらす。少し前まで人間の顔〝らしい〟と思っていた模様が、今では本物の苦悶の表情にしか見えなくなっていた。


 強過ぎる魔力によって痛みを感じ始めていたイザの頭に、肌に直接着込んだ草盾の服がスルスルと伸びてヘルメットの様に覆う。そこには浮島で進化した回復水が少量循環していた。スイのサポートを受けて強魔力循環に順応すると、そのまま近づいて入念に周囲を探っていく。だがスイの観察眼とイザの水魔法感知を駆使しても、中核地点からは魔力以外の発見をなし得なかった。


 一方で頭部に刻まれた抗魔の刺青の力で平然と中核地点を調査するズミーレは、メイジダガーの感応刃を差し込んで、地魔法使いの副リーダーであるバラシと共に地面の下を調査していた。

 そのバラシは符術師たる侍先生の防魔符をヘルメットに貼り付け、地面に手をつき土魔法感知を発動する。


「ズミーレ、こいつはど偉い代物だぞ」


 真冬にも関わらず吹き出す汗を拭いながら振り向いたバラシは、リーダーたるズミーレを仰ぎ見ながら呟く。


「ああ、こいつは……上空の魔法陣や外壁を含めて全てが一つの魔力塊と化しているな」


 メイジダガーを通じて感知される膨大な魔力、その源泉を辿ると、迷宮城を中心として門内に五ヶ所、外壁部に五ヶ所、上空の魔法陣に五ヶ所、それぞれが測った様に同方向に並び、五角形を重ねていた。そしてその魔力たるや、人間にどうこう出来る範囲を超越している。


「この魔力の流れが断ち切れれば城を覆う魔結界の一部を崩せるかも知れない。だが……」


 立ち上がったバラシは、アダマンチウム製の両手持ちスコップを振り上げると、全体重をかけて振り下ろした。ザクッと突き刺さるスコップ、だが粘性を保つ硬質の溶岩石は掘り返す事を許さない。


「問題はこの土壌だ、魔力の本流まで途方もない深さが有る、こいつを掘り返して魔力を遮断するとなると骨だぞ」


 元軍隊の特殊工兵だったバラシの概算だと、それ専門の工兵が百人掛りで取り組んだとしても一週間以上の日にち仕事になるらしい。


 その話を聞いて渋面を作り腕組みするズミーレの肩を叩いたイザは、


「私達の草魔法なら何とかなるかも知れません」


 強い眼で、刺青だらけの大男を見上げて言い放つ。その手の中には、聖獣マグニヒカから授かった精霊の種が握られていた。






「オラ〜ッ! ボーッとしてたら瓦礫の下敷きになるぞ〜っ!」


 外壁側の中核地点、禍根の塔の根元で作業をしていたズキが周囲に向かって怒鳴る。それを遠くから見守っているアンジーは、引き攣れる胸の傷から意識を離そうと、腰元に指した剣の柄頭を撫でた。


 皮肉な事に、愛用の片手剣を失ったその日に魔法の直剣を譲り受ける事が出来た。それまではどんなに憧れても手に入らなかった魔剣をタダで譲ると言う人物が現れたからだ。その剣身を抜いて立ち昇るオーラを眺めていると、


「アンジー殿、もう傷の方は大丈夫ですかな?」


 低音の美声をかけられて振り返る。見ると恰幅の良い壮年の男がにこやかに手を上げていた。腰元の魔剣を譲ってくれたその人である事を確認したアンジーは、


「ズク殿、お陰様で傷も塞がり、元通り動ける様になりました」


 悪夢の兄弟の一人、高級ポーションまで提供してくれた暗黒街の大物に、頭を下げてから胸をさする。少し引き攣れるが、傷は完全にくっついている。


「ならば良いですが。アンジー殿には無理ばかりさせますが迷宮攻略は始まったばかり、これから一働きも二働きもしていただかねばなりません」


 ハッハッハッと大笑するズクをよそに、


「炸裂するぞーっ!」


 塔から走って来たズキが叫ぶ、次の瞬間ーー


 ドンッ!


 と地響きをたてながら塔の根元が爆発すると、轟音を立てて倒れた。


「よう兄弟! やっぱり凄いな、お前さんの言う通りダグラスさんの指導のもと作られた炸裂の魔具はえらい威力だ! これで魔法陣にも隙間が出来ただろう」


 誇らし気に胸を張るズキを見て、青筋を立てるズクは、


「兄弟、先ずは様子見で少量の魔具を炸裂させるって手はずじゃなかったか?」


 笑顔を引き攣らせて呟く。それを聞いたズキは、


「ああ、それなんだが、どうせやるなら派手にパーッといかなきゃ男が廃るってもんよ、な〜兄ちゃん!」


 ガハハと笑いながらアンジーの肩をバンバンと張る。呆気に取られて塔を見たアンジーは、勘に触れる物を感じて認識魔法を発動させた。


「どうやらやり過ぎた様だ」


 そう言って背負子から毒筒の魔具を一本取り出すと、その先端部を捻り取ってヤスリ状になった部分でこする。途端に猛然と煙をたてる筒、その猛毒を吸い込まない様に走りながら、塔の根元に放り投げた。


 緑の尾を引いて回転する筒が塔にぶつかると、その根元の影から苦し気な呻き声が上がる。その精神を逆なでする様な金切り声が多数重なり、耐え切れなくなったアンジーが耳を抑えた時、突如として地面が沸き立ち、影が膨張していった。

 その影は実体を持つ人型へと姿を変えて、次々と崩れた塔の下から這い出てくる。


「こいつは……レッサーデーモンって奴か、どうやら仕込まれていたらしいな」


 すっかり真顔になったズキが腰の得物に手を掛けながら言う、


「兄弟、こうなったら仕方ない、私が部下を指揮するから、お前は責任を持って暴れて来い」


 ズクの言葉を受けたズキはニヤリと笑みを浮かべると、弾かれた様に駆け出した。

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