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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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迷宮城の生存兵団

「密集陣形で進め! 先頭の槍部隊で何としてもアサルト・ローチの群れを止めろ! 後ろ詰めの弓兵達は同士討ちに注意!」


 ドルケスの声が迷宮城の通路に響く。左前列の槍兵達に群がるアサルト・ローチに後衛の矢が集中すると、直ぐに右側面から新手がやって来る。

 そんな中、ドルケスは付き従う部下たちを即座に纏め上げていた。武器庫詰めの兵士の手引きで武装した戦士団が、ドルケスの言霊に鼓舞されて、津波の様に襲いくるアサルト・ローチの群れを退けて奮戦している。

 元領主の館であった迷宮城には、バイユ王軍シュビエ分隊の約半数、およそ百人程の正規兵が取り残されていた。


 各待機部屋に散った兵団を集めて導き出したドルケスは、側近のスカウト達を放って周囲を探索していたが、外への通路はことごとく消滅していて、今の所これと言った活路が見出せない。

 そこで魔力感知に秀でた者を先導に、なるべく魔力の薄い場所に移動する事にした。何故ならアサルト・ローチの湧き出る魔法陣は必ず膨大な魔力を伴って出現していたからである。


 それでも迷宮内に溢れかえる程数を増やしたアサルト・ローチ達の群れを回避する事は叶わなかった。

 自在に飛び回り、岩肌剥き出しの壁を走るアサルト・ローチは、厄介な事に迷宮通路という適度な閉鎖空間の中で、縦横無尽に駆け巡る。


 集団で戦う兵士達はその動きに対応しきれず、また不慣れな異国の魔獣に持てる力を発揮できずに、徐々にアサルト・ローチ達の餌食になっていった。


 不利な戦況に、変形する飛鞭の一部を振るって飛び回るアサルト・ローチを射殺したドルケスが、最大魔力の言霊で一喝すると、一瞬アサルト・ローチの群れがピタリと止まる。


「突撃!」


 瞬発的に大音声で味方を鼓舞すると、一斉に突き出した槍がアサルト・ローチ達を貫く。その後に放たれた無数の矢は、後ろで固まるアサルト・ローチに容赦無く降り注いだ。


 老将は魔力の枯渇に喘ぎながらも表面には全く出さずに、蓄積型の高価な魔石と魔力回復のポーションを駆使して、何とか言霊を操り皆を導いていく。だが、魔力の回復は回数を重ねる毎に効果を弱めて行き、更に出口の無い迷宮を、集団を導いて彷徨い歩くという行き場の無い状況が老いた男の双肩にのしかかり、歴戦の猛者の精神をもジワジワと蝕んで行った。


 そんな折、


「ビギイイィィィッ!」


 アサルト・ローチの群れの奥から一際甲高い鳴き声が上がると、それまで押し寄せて来た群れが、呆気なく引いて行った。


 呆然と見送る一同、その間隙を縫って前もって放たれていたスカウトの一人がドルケスの元に駆け寄り、


「報告します、この通路を直進した右手に元結界石の安置所があり、今だに一部が稼働している事を確認しました。外への脱出路が確認出来ない今、一旦その部屋に立て篭もるのが上策かと思われます」


 と言い終わるや頭を垂れて指示を待つ。それは八方塞がりの状況に一筋の光明をもたらす情報に思えた。


 結界石とは数個の黄魔石を循環させて、光精の力で邪な者を排除する仕組みであり、元領主の館には魔石加工で成り立つシュビエの粋を集めた、一際優れた黄魔石を組み合わせた巨大な装置が配備されていた。


「その部屋はこの人数でも入れる程の大きさがあるのか?」


 ドルケスの問いに、


「はい、 元々強すぎる結界石の力を封じる為に、かなりの空間を確保しています。それに特殊な金属を挟み込んだ壁など、部屋の造りも頑強で、迷宮化による影響も少ない様に見受けられます」


 理由は分からないが、幸いな事に通路に居たアサルト・ローチの群れは謎の鳴き声と共に引いている。その隙に全員速やかに結界石の安置所へと急いだ。


 分厚い扉を開くと部屋の中心部には煌々と光を放つ黄魔石が、下から突き上げた溶岩石に壊された台座の上に散らばっている。その天辺には一際大きな魔石が乗っており、目に見える程濃厚な魔力のオーラを周囲に放射し続けていた。


「気をつけろ! 余り濃度の強い魔力を浴びると、人体に悪影響を及ぼすぞ!」


 皆を先導して来た魔力感知に優れた兵士が、フラフラと光に寄って行こうとする兵士の肩を掴んで引き留める。それを聞いて魔石から距離を取ろうとした周囲の者には、しかし詰めかけた味方によって逃げ場が無かった。


「建物全体を覆う結界自体は崩されているが、黄魔石は変わらず働いている様だな。先ずは入り口を固めろ、材料はこの部屋の瓦礫が沢山ある。そして魔石の周囲の者は定時の合図と共に外側の者と入れ替わる事。長期戦になるぞ、手の空いた者から今の内に補食しておけ」


 ドルケスはそれだけを指示すると、結界石から離れた場所に側近を呼び寄せる。そして通信兵の背負子から、通信魔具の本体を取り出すと、外部との接触を試みた。最早脱出にかける一縷の望みは、アンジーの元に送った密偵やズミーレ達に託された。

 祈る思いで魔具を見つめるドルケスの耳は、しばらくするとジジジ……という次元魔法特有の反応音を捉えた。




 強烈な鳴き声を発したのはダーク・ローチの中でも一際大きい個体だった。眼前のロビーにはそれまで迷宮城に湧き出でたアサルト・ローチ達が何千何万と集合している。その足音や踏み足は、地響きの様な轟音となって巨大な部屋に充満していた。

 その時、再度鳴き声が響き渡ると、場を支配していた騒音がピタリと止む。

 その中心部である床に小さな穴がポツリと開くと、染みの様に広がって敷かれていた絨毯を飲み込んでしまった。

 5m大になった穴から長い触覚が現れると、神経質そうに周囲を伺いながら左右に振るわれる。そして安全を確認したのか、ズルリと巨大な体を引きずってローチ達の王、赤閻王が現れた。その後を追って紫閻王も同様に巨大な体を引きずり上げる。


 極度に緊迫した空気の中、先ほどの一番大きなダーク・ローチが二匹の王の前に進み出ると、尻を向けて地に伏せる。その尻から溢れ出る液体を舐めて平伏するダーク・ローチの感情を確認した紫閻王達は、満足気に踵を返すと用意されていた食料の元へと移動し出したーー


 ーー数万にも登るアサルト・ローチ達の集めた食料、館に居た人間達を囲い込んだ部屋へと向かって。







「全く、変形途中とは厄介な迷宮だね」


 目の前で形を変えていく通路を見て、溜息と共に呟きながら、先頭を行くハードキィが眉間に皺を寄せて周囲を伺う。変形する街並みには増え続けるアサルト・ローチ達が溢れかえり、その隙を突いて移動するのも骨が折れる作業だった。


「師匠、今だにセレミー達との連絡が付きません」


 何度か通信魔具を試したズカが報告する。かなり強力な魔具だったが、距離に強いタイプだったため、妨害を跳ね除ける様な機能は無く、迷宮化早々に通信障害を起こしていた。その後も懲りずに試し続けて来たが、何の音も拾うことが出来ていない。


「連絡つかないものはしょうがないねぇ、何あの娘の事だ、迷宮程度でまごつくもんでもあるまい」


「……そうか、師匠は知らないんですね。あいつは幼い頃に迷宮に取り残されて以来、全ての迷宮がトラウマになってるんです」


 人に弱味を見せたがらないセレミーは、極一部の人間にしかその事実を知らせていなかった。そして肝心の師匠に対してもその事を知らせない様にズカやズーパンチに頼み込んだ為、ハードキィすらその事実を知らずにいた。


「なんだって? そんな事初耳だね。お前達いつからそんなに水臭くなっちまったんだい?」


 ハードキィの一睨みに、ズカもズーパンチも肩身を狭くする。なんだかんだと歳の離れた妹弟子に甘い彼らは、頼み込まれてズルズルと報告を先延ばししてしまっていた。だがこんな状況で彼女の弱味が露呈するとは誰もが思いもよらず、申し訳ない気持ちでひたすら謝る他に無い。


「まあいいさ、所でそこの豚! 何だってそんな影に身を潜めているんだい? 何か用があるなら出て来な!」


 ハードキィの鋭い言葉に反応した者が、通路の影からノソリと姿を現す。鼻息荒いそれは、影にいながらもギラギラと熱い目でズカを睨み付けていた。


「師匠、どうやら俺に用が有るみたいです、ここは任せて先を急いで下さい」


 唯ならぬ魔力を感じ取ったズカが師匠を促した。姿は変われど名残を残したその者には身に覚えがある。


「狙いは俺だろ? どうやら色が変わる程修行して来たみたいじゃないか」


 影から姿を現した黒豚を観察しながら呟くズカは言い終わるかいなかで真横にダッシュする。それを無言で追う黒豚を見送りながら、


「大丈夫ですか? 師匠」


 伺いを立てるズーパンチの言葉に、


「あいつがああ言うんだ、任せる他無いじゃろう」


 目線を切ると、目的地である迷宮核の魔力を追って、眼前に聳え立つ城郭に足を向けた。

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