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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
91/128

アンダー・ハード・ソイル

 熱い息を吐く緑の怪物の周囲には、濃厚な〝死〟そのものが蒸気の様に纏わり付いていた。

 血に染まる巨体が、混迷を極める外壁上の戦いで、水を得た魚のように躍動する。その手に握られる蛮刀は、斬るというよりも叩き潰す様に振るわれ、後ろに控えた弟の風魔法と共に、人間の兵士達を易々と屠っていった。

 その血飛沫で姿が霞む程の濃密な空間に酔い、破壊衝動の限りに闘争を求める彼の後ろには、死屍累々の痕跡が続き、配下たるモンスター達が我が物顔で付き従う。


 アンジーは遠くに居ても聞こえてくる悲鳴や怒声の方向に走りながら、チラチラと見える緑の怪物に認識魔法を集中させた。それが物見櫓から遠視したモンスター達の先導者だと確認すると、側によって来たスナに、


「先頭のデカブツを殺るから、後ろの魔法使いを抑えてくれ!」


 荒い息の合間にぞんざいな声をかける。


「え〜、あんなデカイの相手にしたらしんどいな〜」


 心底嫌そうな声を発するスナに振り向きもせずに「頼んだ!」と大声をかけると、一直線にスンモゥの元へと走る。


 その途中で、へたり込んだ兵士の頭に蛮刀を振り下ろそうとしているスンモゥの体目掛けて、一本残った左手の筒状魔具を投擲した。

 回転しながら飛んでいく魔具は、しかしそれ程の勢いもなくスンモゥの蛮刀によって斬り払われた。だが次の瞬間には内包された毒が霧となって放出され、驚いたスンモゥの視界を奪う。


 その隙に接敵したアンジーは、自慢のブロードソードを抜き様にスンモゥの手首を斬りつける。蛮刀を持つ右手首を狙ったその一振りは、だが捉えたと思った瞬間に後方に引かれて防御を固められた。そして瞬きする間も無く、後方のスンドゥから風魔法によって発生させられた風刃が飛んでくる。

 認識魔法を全開にしていたアンジーは、なんとか身をよじって風刃を避けると、


「スナ!」


 大声で怒鳴りつける。


「はいは〜い、分かってま〜す」


 緊張感のない声をあげながらスナが近寄って来た。


「頼んだぞ!」


 強く念を押すと、周囲の弩兵に声を掛けながら毒霧を拭い落とそうと悪戦苦闘しているスンモゥに駆け寄った。スンドゥが更に風刃を飛ばそうと魔力を集中させるが、


「はいは〜い! あんたの相手はオレっす〜」


 スナが足元の土壁を突出させて邪魔をする。その不敵な態度に神経を逆撫でさせられたのか、スンドゥは丸太の様なクォーター・スタッフを構えつつスナの元へと鬼の様な形相で駆け寄った。


 その間にもスンモゥとアンジーは、周囲の弩兵を巻き込んで対峙していた。

 スンモゥの長大な蛮刀を認識魔法の見切りで皮一枚避けながら、隙を見て肉厚のブロードソードを叩き込んで行く。だが、分厚い皮膚とその下の固い筋肉によって、有効なダメージを与えられないまま、何事も無かったかの様に反撃の一振りを見舞われた。

 その隙に撃ち込まれる太矢が数本、有効なダメージとなって肉厚の腕や背中に突き立つが、戦時下にあってハイテンションなスンモゥは気にする様子もなく、平然と反撃の蛮刀を叩き込む。


 なんとか奮戦する隊長をサポートしようと焦って弩の弦を張る兵士達に、スンモゥ達を避けて、巨大な六肢熊むしぐまが突っ込んできた。超質量の衝突に前方の二名が巻き込まれてズタズタに引き裂かれると、慌てて体制を整えた長槍隊が前に出る。



 アンジー達の苦戦を横目に、迫り来るスンドゥに対して土壁を隆起させて高低差で距離を保つスナ、当たらない風刃に業を煮やしたスンドゥが、土壁ごと吹き飛ばそうと圧縮風刃魔法〝クレイジー・ミキサー〟の詠唱を始めると、


「させね〜っす、何処で戦ってると思ってるんすか〜?」


 スナがスンドゥの足元の土壁を柔らかく変質させて両足をメリ込ませると、隆起した自分の足場を一際高く上げてスンドゥに迫った。


 土壁の側面には何時の間にか鰐の様な鋭い牙状の突起が並び、変形に合わせてガチガチと擦り合わせながら、二重三重四重と牙の層を増やしていく。

 そのプレッシャーに詠唱を諦めたスンドゥがそれまで貯めた魔力を消費して大きな風刃をぶち当てるが、硬質化した壁は数枚の牙が砕けるだけで、その変形は止まらなかった。


 ここに来て土壁に捕まった足を抜こうと焦るスンドゥ、だが既に足場全体が泥状から硬い溶岩石状に変質しており、どんなに力を入れても抜けない。


「無理っす〜、足を切らなきゃ動けませ〜ん」


 眈々と宣言したスナの乗る牙壁が重々しい軋みを上げてスンドゥに倒れこむ。最後の足掻きに挟まれたスタッフが、つっかい棒状に少しの間耐えて〝ポキッ〟と折れた。



 〝ズンッ!〟


 戦いの喧騒にあって尚、耳目を集める程の轟音にアンジーが振り返ると、こんもりと盛り上がった土壁の上であぐらをかいたスナが小さく手を振っていた。


 目の端で全てを見ていたスンモゥが、土壁から染み出す大量の血液を信じられないといった面持ちで凝視する。


「ゴグURAああっ!」


 弟の死に理性を失ったスンモゥがスナを目掛けてダッシュする。その途上にいたアンジーは狙い澄ました一撃を無防備な腹にいれるが、分厚い筋肉に阻まれて内蔵までは到達しなかった。


 一切避ける動作をしなかったスンモゥは、邪魔だとばかりに駆ける勢いでアンジーを弾き飛ばす。


「スナ! 逃げろ!」


 転倒しながらも、今だに土壁に座っている彼女に叫ぶ。その願いも虚しく、立ち上がろうとする彼女にスンモゥの蛮刀が振り下ろされた。


 金属と岩塊のぶつかり合う耳障りな高音が上がる、粉塵が上がる中で蛮刀を取り込みながら変形した土壁が、スンモゥの四肢を捉えて、質量に任せてその身体を易々と引き伸ばした。

 反抗するスンモゥの緑の皮膚が内包する筋肉によって隆起するが、再び硬質化した土壁はその怪力を歯牙にも掛けない。


「いや〜なんべんも言ったっすけど、何処の上でやってると思うんすか?」


 スンモゥの目の前で座り続けるスナが、筋張った太ももをペシペシと叩きながら言う。

 捕縛の屈辱に顔を歪めたスンモゥが牙を剥いて威嚇すると、熱い涎が吹き出した。


「お〜汚なっ、死んじゃえ!」


 涎の飛沫を大袈裟に避けたスナが両手をペチッと合わせると、スンモゥの足元の地面が物凄い勢いで変形して、両側から振り子の様にせり上がった巨大な爪が突き刺さる。更に下半分の振り子の重みで地面に叩き付けられたスンモゥは、挽肉となって土壁に練り込まれた。


 掌をはたいて降り立つスナの横に、無言のアンジーが近づく。そして手を伸ばせば届く距離まで来た所で、


「何故だ」


 俯いたアンジーが上目遣いにスナを見る、その瞳には強い疑念の色が浮かんでいた。


「え? 何すか?」


 すっとぼけたスナが半笑いでアンジーを見下ろす。


「こんな力があるなら最初から奴らを全滅出来たんじゃないのか?」


 ある確信を胸に秘めたアンジーは、腰に戻したブロードソードに手を掛けながら問い詰める。


「アハハ 隊長は結論が早いな〜、でもその通り」


 軽く答えるスナが片手を上げると、轟音と共に土壁の中から無数の鍵爪が突如として現れ、外壁上の兵士やモンスターを無差別に掻き抱いて、次の瞬間には土壁の中に練りこんだ。


 認識魔法の見切りで辛くも難を逃れたアンジーは、飛び避けた先で片膝を付くと、スナを睨み付ける。地面からは骨を砕く音が振動と共に伝わって来た。


「そうっす〜、最初から全滅の予定でしたよ〜、お陰で良い土壌が出来たっす〜」


 ヘラヘラと笑うスナが土壁を撫でながら呟く。厭う間も無く次の鍵爪が土壁の上面を薙ぐ。


「あんたも私も凡人っしょ? こんな力が物言う世界では、弱いものは悪なんっす。そりゃ〜悪魔でも何でもいい、魂を売っても強さを求めるっしょ」


 薄っぺらい信条を垂れながら赤石の杖を撫でるスナ。その先端に埋められた赤石から確かな熱感が沸き立つのを感じると、より一層のスピードで鍵爪を操作した。


 認識魔法で無数に振るわれる鍵爪を避けながら隙を伺うアンジーだが、鍵爪以外の場所が泥状に足を取りにくるので、如何な認識魔法使いと言えども逃げ場を無くしつつあった。


 足場を無くして仕方なく跳びあがったアンジーに向けて、炎を上げる赤石の杖を向ける。


 温度の違いを自動的に感知して射出される〝導きの火矢〟は、スナの土魔法と同期する事によって、より威力の高い炎岩弾となってアンジーを襲った。


 咄嗟に幅広のブロードソードを構えて直撃を避けようとするが、肉厚の刀身に触れた瞬間、炎岩弾が炸裂した。

 小爆発に傷を負いながら吹き飛ばされたアンジーは、狭い土壁の上から落ちそうになる。それを、


「たいちょ〜、危ないっすよ〜」


 薄ら笑いを上げながら振り子状に出現させた鍵爪でズボンの裾を引っ掛けて宙吊りに持ち上げる。格好の的と化したアンジーに向けて再度炎を上げる赤石の杖を向けた。


「たいちょ〜バイバイ!」


 アンジーは杖の先から炎岩弾が再度発射される前に、咄嗟にブロードソードを振るい、鍵爪に捉えられた裾を斬る。そして自由落下を始める身体を捻って、最後の抵抗とばかりにブロードソードを渾身の力で投擲した。と同時にアンジーの体に炎岩弾が着弾して、弾かれながら外壁の外に落下する。


「無駄っ!」


 素早く土壁を操作して余裕で盾を作製しようとしたスナは、しかし、魔力を練ることが出来ない事に愕然とする。


 アンジーの認識魔法と強肩で、針の穴を通す様な正確さで投擲されたブロードソードは、何の抵抗も無くスナの心臓を正確に捉えた。


 信じられない物の様に胸から生えた剣の柄を見たスナは、深々と突き立つ刃の下に、見覚えのない黒い斑点を見つけた。


「これグッ……は……なんっす……か?」


 大量の血反吐を吐いてよろめくスナ、次の瞬間自ら生み出した自動回転する鍵爪が頭部にサクッと突き立つと、圧倒的な質量で土壁の中に混ぜ込まれて行った。


 硬い土壌の血塗られた堆肥がスナの魔力を得て不気味に脈動する。漆黒の壁はその瞬間に膨大な魔力を放出しながら、スラム街の呪柱と繋がって巨大な魔法陣へと変化していく。

 その魔法陣が上空へと投射された時、内包する全ての生き物を逃さない、前代未聞の巨大な迷宮が産声をあげた。

スナは認識阻害のアイテムを身に付けているという描写を挟む余地が有りませんでした(^◇^;)

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