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閑話⑤ズミーレ探検隊③「壊し屋ジョニーと白衣の殺し屋」

「それでは黒飛蝗対策の可能性を秘めていると言う少年はもう直ぐバイユに到着する予定なのですね」


 バイユ王城の最上階で王座につくヤムセス王は、目の前に立つ文官に問う。

 小さめの城の最上階は間取りこそ広く取ってあるが、他の国に比べれば驚くほど狭く質素だ。従って両者の距離も数歩分と近い。


「はい〜、ダグラスさんからの情報によると既にタガル大陸を出て、直行便でバイユ王都に向かっているらしいですよ〜、ひと月中にはこちらに参上出来ると思います〜」


 文官は王に対してもへりくだる事なく淡々と語る、まるで友人に話しかける様な気軽さは却ってその人物の異彩さを浮き立たせた。


「そうですか、では例の件もソロソロ実行段階に移行ですね。貴方なら準備に抜かりは無いでしょう」


 ヤムセス王の信頼厚い文官は頷きながら、


「その件なのですが、どうしても今行きたい場所がありましてね〜。ですが、王様の要望通りの準備をするには行って帰る時間が有りません〜」


 チラリとヤムセス王の顔を伺う目は欲求を雄弁に物語っている。それを見て溜息をついた王は、


「ゲートの力を使って欲しいという訳ですね」


 文官の要望をズバリと言い当てた。


「王様は何でもご承知ですね、クックックッ是非お願いします〜」


 笑みを浮かべる文官から詳しい場所を聞くと、ヤムセス王は目をつぶり精神統一した。

 意識を集中すると、毛の一本も無いツルツル頭の額部に小さな魔法陣が浮かび上がり眩い光が放射される。

 光は空中のとある面に2m程の魔法陣を描き出すと、次の瞬間、見知らぬ場所の映像が浮かび上がった。


「オッホッホッでは帰りもよろしくお願いします〜」


 そのまま散歩でも行くかの様に気楽に飛び込んだ文官は、映像の世界に吸い込まれて消えた。


「フーッ」


 どちらが主でどちらが従だか分からない、かつての師である文官を送り込んだヤムセス王は、大きく息を吐くと、椅子に深々と腰掛ける。

 護衛の近衛兵達も不動の心はどこへやら、本能的に萎縮した体を緩めた。


 問題は山積している。傾き掛けた王国の立て直しに奮闘する王には休む間など無い。自由人なかつての師や兄弟子の事を半ば羨ましく思いながら、後から後から湧いてくる課題の対処を強いられる内にあっという間に時間は過ぎ去っていく。

 こうしてバイユ王城は一部の平穏を含み、王の苦悩と共に一日を終えるのであった。






 ズミーレは内心焦っていた。


 手間取っていた古代遺跡〝大聖堂〟の発掘も隠し扉を見つけてから少しづつ探索が進み始めていた。

 あの後、異常金塊の部屋は本格的に封印し、他の通路から探索する事で道は開けて、何とか収益も上がり投資に追いつく目処が立ってきた。


 中でも魔法書が壁面の棚ごと、そして魔法の触媒が5点も見つかったのは大きい。

 高度な知識を要する魔法書の価値は未知数だが、その筋に売ればかなりの金額になるだろう。

 そして古代の優れた触媒の中でも特に優れているのが何の変哲も無い一つの指輪。

 今はズミーレのポーチに収納されているが、かなりの魔力を保有した名のある魔具であると見ている。


 やはりズミーレ達の読み通り、この遺跡は当たりであるとの手応えを感じ始め、隠し扉の階から更に下へと続く道も先日やっと見つけたばかり、そんな所である人物が絡んで来た。


 〝壊し屋ジョニー〟


 大型の古代遺跡を専門に発掘する名うての遺跡ハンターである。


 その手口は単純明快、大規模なハンター組織を率いて、壁や床、天井などを片っ端から壊して行き、全てのお宝を手に入れると入口を埋めてしまうという、甚だ乱暴なものである。


 だが、綿密な内偵調査と組織力、強力なジョニーの使役魔獣の破壊力と、背後に付いた謎のパトロンの影響で、現役ハンターの中でもトップクラスの利益を上げていた。


 壊し屋は、その人脈を使ってシュビエの遺跡ハンター支部に圧力を掛けると、大聖堂の探索権利をいつの間にか手に入れて正式に介入してきた。

 これはダグラスの不在を突いた不意打ちとも言えるやり口で、ズミーレに連絡が行かない様に全ては極秘裏に進められていた。


 そして今日、両者は遺跡近くに設営された、遺跡ハンター支部の組んだ基地ベースキャンプの一室で睨み合っていた。


 人間のなかでは背も高く肉厚なズミーレも、半分オーガの血が混じった2mを超える巨漢のジョニーの前では、小さく見える。


 そのジョニーの足元では、使役魔獣である角出虎スパイクタイガーが寝そべっていた。体長4mを超える赤茶色の艶やかな毛並みを横たえながらも、しきりと威嚇の唸り声を上げ続ける。


 そんな普通の人間では耐えられないプレッシャーも堂々とした態度で黙殺するズミーレ。彼とて荒くれ者ばかりの遺跡ハンターの中で名の知れた猛者である。この位の修羅場は掃いて捨てるほど経験してきた。


 だが、相手が悪い。壊し屋ジョニーはバリバリの武闘派組織〝解体屋レッカーズ〟を率い、自らも大太刀を振るって先陣を切る正真正銘の戦士であり、〝力が正義〟と本気でのたまう程、強いものに対する心棒が強い。

 逆に言うと、魔法盗賊などといった、力も魔力も中途半端な奴は歯牙にも掛けなかった。


 そして両者に挟まれたテーブルの上に置かれた一枚の木冊。遺跡ハンター組合が正式に発行した遺跡発掘許可証には、その正当性を表す魔法印が押されていた。


 ドンッ と人差し指でテーブルを突くと、分厚く硬質な爪の先が木片を飛び散らせて埋まる。先程からジョニーは一言も発していないが、書面の内容から威圧している事は明白だった。


 書面曰く、


「この度の遺跡は規模が大きく、組合としては当初予定していた発掘隊では人数不足であると判断した。よってジョニー率いる調査隊を合流させるので、一致協力して発掘を進めたし」


 武闘派組織との競合は、つまり大人しく隅っこに縮こまり、おこぼれに預かれと言っているのと同じだった。


 無造作に木冊を束ね持つと、大きな眼でギョロリと睨み付けたジョニーは、椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。

 そしてご機嫌を取る角出虎を従えつつ、言う事は無いとばかりに基地を出ると、周囲にたむろする百人からなる解体屋達を呼び込んだ。


 多勢に無勢、為す術もなく基地を追いやられたズミーレ率いる〝ゴールドサージ〟の面々は、解体屋達に因縁を吹っかけられながらも無抵抗に場を明け渡す。

 前衛の戦士達は頭に血管を浮かべてキレる寸前だったが、ズミーレの「今は堪えろ」という命令に、怒りを無理やり抑え込んだ。


「ゴロツキ共が、あれじゃ山賊と変わりないぜ。で、お頭、どうなさるんで?」


 我が物顔で奇声を上げる解体屋達を横目に、サブリーダーのバラシがズミーレに小声で聞いてくる。


「偶然だが既に手はうってある、後は奴等が遺跡を荒らすスピードとの勝負だな」


 珍しく深刻な表情で脂汗をかくズミーレは、どっちに転んでも厄介な近未来を思って浮かぬ顔を拭った。


 それから一週間、あれよあれよと言う間に遺跡発掘の櫓を組んだ解体屋達は、ズミーレが見つけた隠し扉まで解体作業を進めていた。


 大型鈍竜が4匹、床に打ち込まれた鋼の楔に繋げられた鉄の鎖をギチギチと引っ張り、解体の要となる部分を魔導師達の操るアイアンゴーレムが2体、巨大な鉄塊槌を振るって攻め立てる。


 それを眺めるジョニーはまずまずの成果に満足すると、轟音に負けぬ大声で解体屋達に発破をかけて回った。


「おやおや、折角の古代資料を壊すとは感心しませんね〜」


 突然背後から聞こえた声に驚いて振り向くと、白衣を着たヒョロ高い老人が解体屋達の作業を見つめていた。


 場違いな侵入者に手近な部下をやってつまみ出す様に身振りで指示すると、また作業の様子を見て回る。


「貴方がここの責任者?」


 今度は耳元で聞こえた声に驚いて振り向くと、ニコニコと笑みを浮かべた先程の老人が手を後ろに組んで立っていた。

 チラリと後ろを見ると、つまみ出す様に命じた大男がうつ伏せに倒れている。


 血の気の多いジョニーは咄嗟に裏拳を放つ。成人の太ももよりも太い剛腕は老人を呆気なく吹き飛ばす筈だった。


 その右腕は老人の張った見えざる結界を叩くと、前腕の中程からスパッと切れて吹っ飛んでいった。


「オッホッホッホッ、割と柔らかいね〜、ホッホッホッ」


 何が楽しいのか、跪き腕から大量出血するジョニーを見下ろして笑が止まらない老人。


「ゴアアアーッ」


 狂おしい痛みを無視して、立ち上がり様左手で背負った大太刀を引き抜くと、力の限り振り下ろす。


「お〜よちよち、遊んでほちいのかい?」


 おどける老人の頭上に振り下ろされた大太刀は再び見えざる障壁に打ち当てられると「キンッ」という高音を放ちながら刃先が割れて周囲に飛び散った。


「なんだてめーは!」


 周囲の解体屋達はボスの怒号に振り向くと、信じられない痛手を受けたジョニーを見つけて駆け寄ってくる。

 その情景を見ながら、老人は懐を操作して見えざる伏魔を更に三体コッソリと解放すると、簡単な命令だけを与えて再び後ろ手をくんだ。


 命令はシンプルに、


『室内に居る私以外の生き物を殺せ』


 主人の命令を忠実に実行する見えざる魔物は血煙を上げて解体屋達をバラして行く。


 怒号飛び交う修羅場で片腕を失ったジョニーは、微笑む老人からジリジリと距離を取ると通路の角に身を隠した。


 震える手で腰に吊るした高級回復ポーションを取り出すと傷口に直接振りかける。薬剤の中に含まれた覚醒成分が神経を刺激して激痛が走る中、使役魔獣と思念を同期させた。


 だが、思念の繋がった魔獣は待機している地上の数体と隣の部屋に待機する角出虎スパイクタイガーのみ。後は全て何の応答も無かった。つまりは……全滅を意味している。


 部屋の中には大型鈍竜が4体も居たのに瞬殺されている。その事実に背筋のうすら寒くなったジョニーは隣の部屋に待機する角出虎スパイクタイガーを呼びつけると、貧血にフラつきながらもその背中にズリ上がり、一刻も早く修羅場から遠ざかった。


 主武器も手近な使役魔獣も失い、手元に有るのは角出虎と波刃の短剣のみ。だがこれは古代遺跡から出土した強力な魔具だった。

 傷口の固まり出した右手の肘で角出虎スパイクタイガーの耳裏に生えた飾り角をガッチリ抱え込むと、左手で何とか魔具たる短剣〝クリス・タリズマン〟を引き抜く。

 波刃に使用された隕鉄が弱ったジョニーの魔力を数段引き上げ、魔力で使役する魔獣を地上より呼び寄せる事が出来た。


 短剣の柄を咥えて腰に差したポーションを引き抜く、その薬効は一時的な魔獣のパワーアップ。

 角出虎スパイクタイガーにポーションを振りかけながら魔力を注ぎ込み、身体能力を上げていく。パワーアップした角出虎スパイクタイガーは筋力のみならず、最大の特徴である額の角に魔力を宿し出した。


 途中チラチラと後ろを振り向くが、暗い遺跡の中には何も見えない。

 だが、焦るジョニーの耳には見えざる何者かが数体、走って追いかけてくる足音がありありと聞き取れていた。


 姿の見えない者の足音というのは聞く者の心を蝕む。早く地上に! と焦る心に却って腕を滑らせ、振動に角を掴み損ねたジョニーはもんどり打って床に叩きつけられ転がった。


 うずくまるジョニーの元に駆け戻った角出虎スパイクタイガーが唸り声を上げて周囲を威嚇する。と、突然空に向かって突き出した角が見えざる魔獣を貫き、可視化した大型の武装豹が腹を破られて絶命した。


 元々の敏感さに加えて強化された五感が的確に見えざる敵の位置を捉えて、主人に襲いかかる者達を容易には近づかせない。


 その間に立ち上がったジョニーは落としたクリス・タリズマンを拾う間も無く、再び角出虎スパイクタイガーに乗ろうとしてギクリと固まる。


 そこには周囲の喧騒と隔絶されたかの様にニコニコと歩み寄る老人の姿があった。異様に張り出した額の下にランランと光を湛えた両眼から目を逸らす事も出来ないジョニーに、


「逃げちゃだめでちゅよ〜」


 と声が届いた時、ハッと気付くと老人の姿が視界から消えていた。次の瞬間、


「安心してください〜、楽に殺してあげましょうね〜」


 という言葉を最後まで聞く事無く絶命したジョニーの背後に立つ老人は、彼の命を吸った魔爪を白衣の下に隠すと、


「よちよちいい子だね〜、君も私について来るかい?」


 完全に萎縮して尻尾を丸めた角出虎スパイクタイガーに近づき、差し出された艶やかな腹をユックリと撫でた。





「異常金塊の採取に協力してくれてありがとう〜」


 謝意を述べる老人に、脂汗の止まらないズミーレは、


「いえいえ、サイプレス教授のお陰でこちらこそ貴重な体験をさせて頂きました。それで金塊以外の採取物は本当に要らないので?」


 と丁重に聞くが、首を振って辞退されてしまう。


「では今回の件は全て魔法装置の暴走という事で〜、話は付けておきますから、口裏合わせをよろしく〜」


 笑みを浮かべながら空中に浮かんだ魔法陣に飛び込んだサイプレス教授は次の瞬間にはバイユ王城に転移していた。


 歴戦の猛者たるゴールドサージの面々はその瞬間、本能的に萎縮した体を緩めた。

やっと出てきた頭の光るオヤジ。あらすじに書いたキャラクターも後少し、頑張ってまとめて行きたいと思います。

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