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閑話③門番兵士は意外と強い

 俺はバイユ王国第二の街シュビエを守る門番、名前はアンジーだ。


 14歳の春、適正検査に合格した俺は正規軍訓練生として、意気揚々と厳しい新兵訓練に参加した。

 何しろ弱小国であるバイユは他国からの侵略を跳ね除ける為に、少数精鋭で戦い抜かねばならない。

 そのために群を抜いて過酷な訓練を施す事で有名で、実戦に近い訓練では毎年数名の新兵が大怪我や命を落とす事故でリタイアしていく程だ。


 だが、俺は耐え抜いた。いや、俺〝達〟は踏ん張り抜いた。共に訓練を耐え抜いた同期の仲間とはケンカもしたが、兄弟の様な絆が出来上がっていたんだ。

 今だに生き延びた同期の奴らとは連絡を取り合って、たまに酒を飲んでは当時の話で盛り上がっているよ。


 そして訓練最終日、過酷な訓練を乗り越えた者のみが授与される正規軍の証であるバッヂを、恐れ多くも〝言霊の〟ドルケス将軍から直々に戴いた時、溢れ出る涙で将軍の姿がハッキリ見られなかったのは皆に内緒だ。だが、後から見ると皆目を腫らしていたけどな。


 最初の適正検査で、生来多少の魔力を備えている事がわかっていた俺は、入隊式の後、王立古代魔法院シーメンスバイユに呼び出された。


 そこで待ち受けていた博士達に毛髪や血の採取、果ては肉を削られ、穴という穴を検査された挙句に出た結果――


 俺には〝認識魔法〟の能力があると判明した。


 正直俺はガッカリしたよ。火炎を操る火魔法使いや、空を飛ぶ風魔法使いに憧れていたのに、認識魔法って、何それ? って感じさ。

 外で待ち受ける同期達も俺の結果にキョトンとした後、同情する様に肩を叩いて「まあ、長い人生良い事もあるさ」なんて慰めやがった。

 慰める位なら、爆笑でもしてくれたらぶん殴ってスッキリできたのにな。


 ところがこの〝認識魔法〟思ったよりも悪くない、どころかハッキリ言って使える魔法だったんだ。


 少ない魔力を無駄にしない様に普段は遮断しているが、いざと言う時に意識を向けるだけで何と無くそこに何があるか分かってしまう。そして使い慣れる内に、少しづつその物が何であるか、物の本質まで認識、理解出来る様になってきた。

 そして極め付けが、肉体の動きと同期させる事によって、敵の攻撃の見極めが格段に上がること。これがなかったら今頃俺は戦場でおっ死んで、骨も残って無いだろうさ。


 そう、俺達はバイユ王国軍に編入されると直ぐに戦場に出た。その頃は丁度隣国が攻めて来て、国境線を侵されたバイユ軍は総力を挙げて領土を守ろうと小競り合いが頻発していたんだ。


 中でもゴスリ山紛争と呼ばれる戦いでは、双方に多大なる被害を出す結末となった。


 軍の斥候部隊に所属していた俺も、その時は流石に死ぬ覚悟をしたね。

 何せ矢は尽き、自前の剣は折れ、敵から奪った重すぎる剣を振り回しながら、必死に泥沼の近接戦闘を切り抜けてフッと周りを見渡すと、立ってる人間なんざ一握り、後は地面に転がってのたうち回るか、冷たくなって魂が天に召されちまった奴らばかり。

 そこに敵軍の前線が到着しやがった。


 山道を掻き分けて来る軍隊で山の向こうが真っ黒に染まるほどだったから、100人、いや200人は超えていた筈さ。


 心を折られた俺が感覚を無くしてボーッと突っ立っていた時だ、


「バイユ軍将軍ドルケスである!」


 敵も含めた全員がビクリと固まる程の大音声が戦場に響き渡ると、背筋をピンと伸ばした壮年の騎士が悠々と戦場に姿を現した。


 俺は度肝を抜かれて唯見守っていたんだが、トントンと肩を叩かれて後ろを振り向くと、立派な若武者が「大丈夫か?」と心配そうに馬上から見下ろして来た。

 俺は咄嗟に「大丈夫」と気の無い返事をしたがあれは不味かった。後から聞いた話によると、それが後の将軍、当時は第一軍団長のマルディ様だったんだ。

 あの時もう少し弁が立ったら、今頃は将軍の右腕として出世してたかもしれないな。


 兎に角、その後は一方的な戦いだった。ドルケス将軍の後ろに控える第一軍は総勢100騎、全てが山に強い地竜の血が混じった竜馬ドラグホースの乗り手達。


 その精鋭達はドルケス将軍の言霊によって引き上げられた戦闘能力を遺憾無く発揮し、逆に敵は言霊によって萎縮して普段の力の半分も出せなくなっていたんだから、赤子の手を捻る様なもんだ。気付いた頃には戦闘は終わり、敵は散り散りに逃げ去った後だった。


 生き残った俺はというと、その時受けた負傷が思ったよりも酷くて、バイユ王都に送られる内に戦争が終結。その時も英雄ドルケス様の大活躍で敵が引いて行ったって訳よ。


 取り立てて目立った活躍の出来なかった俺はその後も斥候部隊に所属して何度も戦争を経験したんだが、ようやく周辺の脅威が無くなった頃に、認識魔法の腕を買われてシュビエ分隊の警備班に配属されたって訳さ。


 何せ門番には俺の能力がピッタリだろ、こう見えて犯罪者の検挙率は街の中でダントツ一位なんだぜ。

 敵国の間者なんかも俺に掛かればイチコロよ。


 さっきは将軍について出世うんぬん言ったが、俺は元々その日満足に飯が食えたらそれで良いわけよ。

 そういう意味では、今の生活は最高だな。黒神の呪いとか訳の分からん物のせいで、死の森のモンスターが活発化して最近は物騒になって来たが、このシュビエの街は他にない活気がある。


 先々月なども浮浪児が毛皮を売りに来たが、ガキでもこの街に来れば商売のチャンスが有ると分かってるんだ。

 俺達はその商売を邪魔しない様に、かつ住人の安全を守るのが仕事よ。


 正直無一文のガキには手を差し伸べたくなる、俺には弟が三人もいるからな。だけど、そんな事をしてみろ、調子に乗った奴らは街を食い物にしようと群がってくるに違いない。


 だから助けたい気持ちをグッと堪えて、喋りかけたそうな浮浪児を睨むように見送ってやったよ。だけど、あの子には頑張ってこの街で成功して欲しいもんだ。


 検問の合間にあの紛争で手に入れた、今となっては俺の愛剣である肉厚のブロードソードを撫でて過去を想う。良いだろ、兵士だって人間だ。


 ボンヤリと通行人の流れを見るとは無しに眺めていたら、隣の列に並ぶ一行から妙な気配を感じたんだ。


 こればかりは勘としか言いようが無いが、長いこと門番なんぞをやっていたら、自然とおかしな奴の見分け方が身に付くもんさ。


 更に俺には認識魔法がある。魔力を解放してそっちを向いた時、俺の心臓がドクン! と跳ねた。


 目の前に居るのは、かの前将軍〝言霊の〟ドルケス様だ! 思わず身を乗り出した俺は不躾ながらジーッと凝視したままドルケス様の元まで近付いて行った。


 すると周囲の付き人が三人、スッとドルケス様を守る陣形になってこちらを品定めして来たから、慌てて魔力を封じて、


「失礼いたしました!」と最敬礼した。


 なんせ憧れの雲の上の存在であるドルケス様に失礼があったら、兵士全員から袋叩きにあっちまう。


 イキナリの最敬礼に周囲の一般人がビックリする中、旅装に身を包んだドルケス様が手を上げて、


「良い良い、そう畏るな。最早ワシはただの旅人じゃ、よいな、唯の旅人じゃ」


 鋭い視線に射抜かれて、慌てて敬礼を解いた俺に、


「うむ、お主見たことの有る顔じゃのう、一瞬でワシを見抜いた眼力といい、面白い、名を名乗るが良い」


 なんと! かのドルケス様が俺の事を見たことがあるとおっしゃった。

 俺は泣きそうになるのを堪えて、


「わたくしはバイユ王国軍シュビエ分隊警護班班長アンジー・メイラーであります!」


 最敬礼しそうになるのを苦笑いのドルケス様に止められて、バッと手を後ろに組んだ。


「うむ、アンジー班長じゃな、わしは旅人としてこの街に来るのは初めてじゃ、何処か飯の美味い旅籠なぞ知っていたら教えて欲しい」


 名前を覚えて頂いた感激に震える舌をどうにか動かして、この街一番の料理宿をお教えした。

 謝意を述べて去るドルケス様一行を惚けた様に見送った俺は、次の週に更に驚く事になる。


「私、ドルケスは将軍職を辞した後、ヤムセス王のたっての希望により、ここシュビエの軍事顧問となった。よって今後は諸君達の上官として軍事教練に励みたいと思う。すでに老いさらばえた身ではあるが、粉骨砕身諸君達を導いていくので、今一度新兵になったつもりで付いてきてほしい」


 さすが〝言霊の〟ドルケス様、一言一言が胸に染み込む様だ。

 バイユ軍魂が打ち震えて熱い涙が止まらない。そう、決して厳しすぎる新兵訓練の再来を嘆いて泣いてる訳じゃないぞ――決して。


 その時、溢れ出る涙で将軍の姿がハッキリ見られなかったのは皆に内緒だ。だが、後から見ると皆目を腫らしていたけどな。

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