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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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導かれし者

 眼前に広がるがらんどうの部屋を見るや、咄嗟に周囲を探知するファング。

 幼い頃から身に付けてきた護剣士の基礎能力〝聖なる波動〟が身に纏う魔力全体から放射され、一気に周囲の情報が脳裏に送られてくる。


 足元の根塊に反応ありーー間髪を置かずに短剣を突き刺すが、判断の素早さが災いした。剣に貯めた魔力が不足しており、分厚い根塊を貫き通せずにすんでの所で海魔に擦り抜けられてしまう。


 根塊の床に潜り込み足元をすり抜けた海魔は、その巨体からは想像も付かないスピードとスムーズな動きで儀式を行う巫女の元へと快走した。

 力強く鋭い顎と爪を駆使して、身に纏う黒煙に弱体化していく根塊を無理矢理押し通る、そのトンネル掘削の騒音がミストに近づいて行った。


 後ろを振り向くと、今まさに巫女の儀式が完成し、六精霊の壺と精霊の種が光を発し始めている。

 ミストは疼くまった格好のまま光に包まれていたが、精霊の種を中心として光が強まるとフワリと浮かび上がった。


 その間もブツブツと神聖魔法の詠唱を続けている巫女は、精霊の種を抱き完全にトリップ状態で空中に漂う。その周囲を正六角形を守ったまま宙に浮いた、輝く壺が衛星の様にゆっくりと廻る。


 無防備に見える巫女を護るべき護剣士は、飛ぶように駆けながらも聖なる波動を保ち海魔の正確な位置を把握し続ける、右手の銀剣に魔力をチャージしながら。


 失敗は許されない、だが儀式の邪魔をしてもいけない。海魔の狙いが浮島の核なのか、ミストなのか、判断の付かない今は動きの予測が難しく、確実に仕留める為に中々手が出せずにいた。



 ーーその少し前ーー



 海魔とファングの戦いを見守るイザは『僕はどうすればいい?』と助言を求めるが、スイに『やれる事ある?』とバッサリ切り捨てられる。


 前方からは人が戦っているとは思えない程の轟音が響いて来るが、困った事に闇の精霊や悪魔などに対抗する術が全く思いつかない。ギョランのサバイバル術でも〝悪魔に出会ったら何としても逃げろ〟としか言われなかった。


 だが同時に〝生き残りたかったらやれるだけの事をしろ〟と徹底的に教え込まれたイザは、手をこまねいているだけの現状に居心地の悪さを感じ始めている。


 隣には魔力切れで昏睡状態のセレミーを介抱するラヴィが、魔力補充効果もある最高級ポーションを服用させており、回復役としての出番も無い。


 そこで縋るようにドゥーを見ると、完成した霊薬を持ち、汗を拭きながら目を輝かせて見つめ返して来た。


「これ何?」


 先程から思っていた事を聞くと、


「闇精の供物です」


 喋れないドゥーに代わってワンジルが解説する。それによると闇精の好む薬草や鉱物をすり潰して魔力を込めて作る、闇の呪術を扱う時の常備薬らしい。


 ドゥーはイザの鉄パイプを指差しながら、しきりに〝やれ〟〝やれ〟とでも言うように霊薬を差し出す。


「これを?ーーまさか肉水と混ぜる?」


 そうそう! と元気良く首是して乳鉢を押し付けてくる。


『ギョランの所で修行した、アレやりなよ』


 スイが言うアレとは、ダグラスやサイプレス教授からの指示で鍛えた〝魔水〟と並ぶ肉水の発展系〝合水ごうすい〟の事だと直ぐにピンときた。


 〝合水〟とは、シニニ草を混ぜた肉水の様に、肉水に何かしらの効能を混合させる事に特化させた魔法である。

 だが、単に混ぜるだけでなく、肉水そのものに他の魔法や薬の効果を完全に取り込み一体化する事が求められ、指示書にはイザが習得すべき最重要課題とされていた。


 肉水に闇精の好物を混ぜ合わせる。皆まで言われなくとも、それが何を示しているのか理解したイザは、やる事の出来た嬉しさに張り切って合水魔法に集中した。


 普段の高濃度肉水にさらに魔力を費やし、鉄パイプの中によりキメの細かいイメージの肉水を生み出す。そのキメ細かな肉水に隙間を作るイメージを重ねていくとフルフルとゼリー状の薄桃色の液体が生まれた。


 そのまま乳鉢の霊薬に当てがうと、同化しながら作った隙間に魔力を移し取っていき、くすんだ灰色に変わっていく。


 イザの持つ有りったけの技術をつぎ込んで作った、闇精を魅了する肉水〝闇水〟を内包する鉄パイプを慎重に構えた時、ドーンッ!と轟音を上げて根塊の床が抜けた。


 慌てて様子を見ると黒煙の晴れた部屋に海魔の姿は無く、大きな穴とこちらに駆けて来るファングの姿が見える。

 同時に水分探知で床下に潜り込んでいるらしい海魔を発見した。


『どうやら狙いは巫女だね』


 何故か確信をもって断言するスイ。どちらにせよ不味いことになると判断したイザは素早くシェルターを出て、


「ファングさん! この水に海魔が寄って来ると思います!」


 大声で訴えながら闇水を射出した。


 30m程飛んで根塊の床にバシャリとぶち撒けられると、海魔の纏う闇精がグンッとそちらに引き寄せられる。海魔本体の意思に反して纏う黒煙が物凄い勢いでそちらに向かい、爪を立てて抵抗するも徐々に身体も引っ張られて行った。


 ファングにとっては嬉しい誤算、素早く闇水と巫女の間に位置取ると、臨界まで魔力の溜まり切った輝く銀剣を構える。


 物凄い騒音と共に、無理矢理引っ張られた海魔が闇水を求めて根塊の床を食い破り、その上体を現した瞬間。

 銀剣が振るわれると、極太の魔光が放たれ壁ごと海魔を焼き切った。


 上体を失った半身は勢いのまま少し這い上がると、そのまま動かなくなる。


 噴き出す真っ黒な体液に根塊が焼かれてジュージューと黒煙を上げる中、厳しく睨みを効かせたファングが銀剣に魔力をチャージしながら近づいて行く。


 切り口に溢れ出す体液が沸騰する様に泡立つ下体に聖なる波動を放射し続けると、あと数歩の所で銀剣を振るい魔力の飛沫を浴びせかけた。


 海魔の下体に穴が空き、中から無数の幼体が湧き出してくる。その姿は正しく小さな海魔そのものだった。

 そこに貯めていた魔光を解放すると、辺り一帯が光に照射され、幼体が蒸発する様に焼き消されていく。


 全ての幼体を焼ききった後、下体も消し去り一段楽ついたファングはイザに向き合うと、


「助太刀感謝します」


 と改まって深々とお辞儀をした。


 緩んだ空気にホッと一息ついたイザは、初めて実戦投入した合水の威力に満足してニッコリと笑顔を浮かべると「どういたしまして」とお辞儀を返し、隣に出てきたドゥーの肩を抱いて「彼のお陰です」と功績を讃える。


 改めてドゥーに向き直り「ありがとうございました」と深々とお辞儀をすると、それを受けたドゥーはかしこまってしまい、慌てて手を振って謙遜した。


 ママゴトの様な一同を白けた感覚で見守っていたスイが『核に動きがあるよ!』と警告を発した時、巫女の持つ精霊の種から一瞬周囲が真っ白に成る程の閃光が放たれた。





 浮島の核は黄魔石の魔力を分解、吸収すると、黄緑色の光に包まれる新たなる姿に変化していた。


 黄魔石の元となった聖獣〝黄龍〟の影響から長い胴を持つ龍の姿へと変貌を遂げた核。


 木精の放つ緑光と光精の放つ金光が合わさった他にはない存在となった〝黄緑龍〟とでも呼ぶべき者は魂の定着化を待つようにトグロを巻いて鎮座する。


『我ヲ弄ンダ深海族メ、先ズハ彼奴等ヲ滅ボシテクレル』


 とても光精神の眷属たる聖獣とは言い難い、物騒な考えに囚われている黄緑龍。しかし、木精の名前すらも奪われた恨みから、復讐に駆り立てられたとしても詮無い事だとも言えた。


 核の外に蓋として残され、今や感覚翼と化した真っ赤な花弁に〝ヒリリ〟とした僅かな痛みを感じた瞬間、



「「ドンッ!」」



 閃光が黄緑龍を貫きーー気付いた時、見渡す限り真っ白な空間に浮かんでいた。


 長大な発光する身体に真っ赤な感覚翼を放射状に携え、四枚の多肉硬葉が腹を守る様にバツ印を作る黄緑龍、尻尾の先は木精の名残りとも言うべき根塊となっている。

 右手には魔力を使い果たした黄魔石が握られ、左手には新たに生み出された黄緑魔石が握られていた。


 ふと気付くと、誰もいなかった目の前の空間に見た事も無い少女が漂っている。


『何者ダ』と問い質そうとしたが、少女を中心に周遊する六精霊に邪魔をされて思念波すら発せられなかった。


『それを此方に』


 少女が屑魔石と化した右手の黄魔石に手を差し出して来る。

 無価値となった魔石をさして惜しくもないと少女の手に載せると、大き過ぎる魔石を抱え込む様に持ちながら息を吹き掛けた。


 フーッと吹く度に小さな光が魔石の中心に芽生え、拡がっていく。それを見つめ満足したのか、


『これを貴方に』


 と言うや左手に持った精霊の種を差し出してきた。手のひらを離れた精霊の種がフワリと浮いて黄緑龍の眉間に貼りつくと、魂が吸い込まれる様に種に集まっていく。


『ウオオオオッッ!』


 抗い様も無い巨大な力の奔流に自我を失った黄緑龍は、精霊の種から発する金光に包まれて行く。

 その過程で失われた木精としての記憶、欠片だった種としての役割、本当の名前、それら全てが完全に蘇って来た。


『アアアアアッッ!』


 尚も咆哮が止まらない黄緑龍、真の名を〝マグニヒカ〟は、今や全ての呪いが払拭され、魂が浄化されて行く感動の産声を上げ続けていた。


『我ガ名ハ〝マグニヒカ〟植物ノ王タル存在ニシテ大地ヲ統ベル者ナリ』


『汝の名は〝マグニヒカ〟光に与する聖獣にして神の使徒なり』


 凛と通る巫女の声がマグニヒカの無垢なる魂に刻み込まれていく。


『我ノ名ハ〝マグニヒカ〟光二与スル聖獣二シテ神ノ使徒ナリ』


 真っ白な空間から戻り、確固たる魂の定着を果たした〝聖獣マグニヒカ〟は長大な首を垂らして目の前の巫女に頭を垂れる。

 その頭に右手を置いた巫女は良々とでもするかの様に精霊の種が光る額を撫でさすった。


『やっぱりこうなったか』


 全てを見届けたスイは当然とでも言いたげな風にその光景を見ていた。

 そこに在るのは同族に対する憐れみでも、ましてや憧れでもなく、ただただ悠久の時を生きる木精達に共通した達観とも取れるドライな思考のみ。


 ただ繋がり続ける。魂が変質し、身体が別々に別れようとも根は一つという認識。それが〝大いなる一つ〟古の神体たる木精達の存在意義にして全てだった。

魔力消費比較→刃水1:強刃水2〜4:肉水5:高濃度肉水10:回復水20:合水30:魔水50:青の剣100


ポイントではなくあくまで比率。普通の水噴射はコンマ以下で、刃水が低いのは精霊ナイフの力のお陰。

逆に青の剣が一番高いのはイザとの相性が悪いためで、師匠のギョランは青の銛や青の盾をもっと手軽に使える。

鉄パイプが無いとコンマ以下の水噴射が1と化す(地味にチート級アイテムなのです)

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